サクラ大戦 血塗られた戦い(第3話) 作・ボケorツッコミ |
第3話 「親友の条件」
謎の怪人と大神達が遭遇してから一ヶ月くらいたったある日の事、大神はいつものようにカフェで軽い朝食をすませていた。
「もう春も終わりか・・・・・・といってもなんか散っていく桜でも見ないと春が終わったって感じがしないな」
そういうと大神はコーヒーを置いた。
(そういえばさくら君元気かな帝劇のみんなも元気にやってるだろうか・・・・・。帝劇をはなれてからもう三ヶ月か・・・・・・・)
残ったコーヒーを飲み干して大神は立ちあがった
「さて、そろそろ行くか!!」
☆ ☆
☆
大神がシャノワールに入ると地下の作戦司令室に向かった。
「おそいぞ隊長、すでに始めている」
「すまないグリシーヌ。朝食がながびいてしまって・・・・・・」
「まったくしょうがないね〜、メルもう一回説明してやんな」
「ウィ、オーナー大神さんこれをみてください」
正面スクリーンに巴里の地図が映し出された、ところどころが赤く点滅している。
「最初の戦闘以来これまで計12回の戦闘が行われました」
「でも怪人が現れたのは最初の一回きりですぅ〜」
これまで大神達は度々現れるダース達をことごとく粉砕していた、すでにダースとの戦いは慣れてしまったといっていい。
「まだ動きはなにも見せないか・・・・・・・」
映し出された地図を見ながら大神がつぶやく。
「敵もさるものだよこのまま持久戦にもっていかれたらこっちはいくらももたないか
らね」
「まったくもったいぶらずに出てくりゃぶっ潰してやるのにな」
ロベリアが舌打ちをした。
「でも僕達、あのヴァンプって奴に勝てるのかな・・・・・・・・・?」
声をもらしたのはコクリコだったその場にいた全員の視線がコクリコに集まるそこに
はいつもの明るいコクリコの姿はなかった。
「大丈夫ですよコクリコさん、私達はあれから大分強くなったはずですから」
「そのとおりだ、現にあれからのダースとの戦いは我々が勝利しているなにも心配す
る事はない」
「そうです、正義の使者である私たちを神が見捨てるはずがありません。神はおっしゃいました。“信ずる者は救われる”と・・・・・だから大丈夫です」
エリカ達が力づよく豪語する。
「そうだよね、大丈夫なんだよね」
コクリコの顔にも笑顔が戻るだがそれは一瞬の事だった。
「さて、それはどうかね・・・・・」
声がしたほうにはロベリアがいた。
「前回、手も足もでなかった奴にそう簡単に勝てるとは思えないけどねぇ〜・・・・」
戻りかけていたコクリコの表情がまた不安で曇る。
「ロベリア・・・貴様!!」
「事実は事実だ。今度あいつと戦ってぜったい勝てるっていう保証はどこにもない。まっ、あたしはみすみすやられるつもりはないけどね」
場の空気が一層重くなった。だがそんな空気も一人の男の言葉であっさりと消え去るのだった。その男とはもちろん大神だ。
「大丈夫だ。みんな・・・俺達は負けない!!」
みんなが一斉に大神を見つめる、大神もそれに応えるように力強い口調で続ける。
「俺達はいままでだって数多く強敵と戦い打ち破ってきた。それは、みんなの協力と巴里を守りたいという強い心があったからだ。今回だってみんなの力を合わせ、気持ちを一つにすれば絶対に負けない。巴里は俺達、巴里華撃団が守るんだ!!」
大神の瞳には強い自信とあふれんばかり闘志が宿っていた
「大神さん・・・・・・・・・・・」
「隊長・・・・・・・・・・・・・・」
「イチロー・・・・・・・・・・・」
「大神さん・・・・・・・・・・・・・・ぽっ」
「まったくその自信はどっから出てくるんだろ〜ね〜。バカだからか」
大神の言葉はエリカ達の不安を取り除くには十分な物だった。
「それじゃそろそろお開きにしようかね、今夜もステージがあるんだからみんな遅れるんじゃないよ」
「「「「「はい!(へいへい)」」」」」」
5人の返事が返ってくる、大神も安堵の表情を浮かべた
☆ ☆
☆
5人が出ていった後、大神はグラン・マと少し話した後、遅れて作戦司令室を出た。
(ああ言ってみたものの俺達は本当にあのヴァンプや吸血一族に勝てるんだろうか?)
大神ですらその不安を拭い去る事はできなかった。いやヴァンプと直接斬り結んだ大神だからこそ感じる不安も大きかった。たしかにあれ以来、ダース群との戦いはことごとく勝利をおさめている。だがそれはダース群との戦いに慣れただけであって大神達、花組がたいして強くなった訳ではない。ダースの動きや攻撃パターンが戦闘を続けるにつれ慣れていき倒すコツをつかんだに過ぎない。いままでの怪人とは比べ物にならない力を持つ吸血一族に100%勝てるという自信は大神でも持つ事ができなかった。
(だが今は弱音をはいてる時じゃない、俺がしっかりしなければ・・・・・・・)
ブシュッ
エレベータのドアが開き大神は1階に下りた。
(気分転換に散歩でもしてみようかな・・・・・・・)
ポーチにさしかかった時、後から大神を呼ぶ声がした。
「大神さぁ〜ん!」
「んっ・・・」
振り向くと、いつのまに上がってきたのかシーが手を振っていた。
「大神さん。ちょっと売店によっていきません?」
「うんいいよ、とくに急いでないし」
大神はシーに連れられ売店に向かった。
「大神さんブロマイドを買っていきませんか?」
売店につくなりシーがさいそくする。
(ブロマイドかそういや最近全然買っていなかったなぁ〜)
「実はですねぇ〜、特別製のブロマイドがあるんです大神さんになら特別に差し上げてもいいですよ」
「へぇ〜、どんなブロマイドなんだい?」
「それはですねぇ〜・・・・・・」
シーがゴソゴソと後ろからブロマイドを二枚とりだす。
「ジヤ〜ン。これですぅ〜〜〜」
そこにはシーとメルがかわいく写ったブロマイドがあった、前と違うところはシーとメルが別々に写っている事だった。
「シー君とメル君のブロマイドじゃないか。また作ったのかい!?」
驚いた顔をする大神にシーが満足そうに言う。
「そうですよ〜、また二人で撮るのもよかったんですけどぉ〜、どうしても自分のブロマイドが作りたくて、おもいきって作っちゃいました!」
「へぇ〜、すごいな。メル君も賛成したのかい?」
かわいくポーズをとっているシーのブロマイドとはちがって、メルのブロマイドには少しぎこちなさがみえた。
「メルったら恥ずかしがっちゃってなかなかいいのが撮れなかったんですよぉ〜。こんなの全然平気なのに」
それを聞いて大神が苦笑する。
「で、大神さんどっちをお買い上げになります?」
「えっ・・・・・・!?」
突然の言葉に大神の息が詰まる。
「ブロマイドは一枚しか買えないのがきまりですぅ〜どっちにしますか?」
シーの問いかけに大神は頭を悩ませた。
( う〜んシー君かメル君かこんな選択を迫られたのはあのダンスホールの時以来か。あの時はメル君を選んだあと、なんだかんだでシー君ともグラン・マとも踊ったけど今回はそういう訳にはいかないしな・・・・・・・)
「大神さん早く決めてください」
シーがさらにおいうちをかける。
(目の前にいるんだし、ここはシー君を選んだ方が・・いや、しかし、う〜ん )
大神の優柔不断さが爆発している。
「大神さん!!」
困り果て、まるで金縛りにあったようにかたまってしまった大神が目を開けた。
「あっ・・・・」
(しまった目が合ってしまったここで目線をそらすのはさすがにまずい・・・・・)
シーの目は自分のを買ってくれと言わんばかりだった。大神はまさにヘビににらまれ
たカエル状態だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一時の沈黙そして・・・。
「・・・・・・・それじゃシー君のを・・・・・」
「はぁい、ありがとうございますぅ〜〜」
満面の笑みで喜ぶシー。
(負けた・・・・・ごめんメル君・・・・・)
肩を落とす大神の耳に、さらなる衝撃の言葉が飛び込んできた。
「そういえば来週メルの誕生日ですね、大神さんはもうプレゼント決めたんですか?」
「!・・・・・・・ええぇっっっっっ〜〜〜〜〜」
思わず声を上げる大神。
「大神さん知らなかったんですか、前に教えた気がするんですけどぉ〜」
(そういえば去年そんな話を聞いたような気が・・・・・・・・)
大神は脳裏からぼやけた記憶を引っ張り出す。
「あっ大神さんもしかして忘れてました? だめですよ女の子の誕生日忘れるなんて。今からでも遅くありませんから用意したほうがいいですよぉ〜」
「そうだね。ありがとう、シー君。危ないところだったよ」
大神はシーからブロマイドを受け取ると足早く売店からでた。
「まいったな・・・・・・」
ため息をつく大神。
(去年は祝っただけでプレゼントはなにもあげてないしな・・・そういえばネクタ
イピンをもらった事もあったな・・・)
歩みを止める大神。すでにシャノワールを出でレストランあたりまで歩いて来ていた。
「いったいなにをあげればいいんだろう・・・・・・・」
プレゼントなどほとんどした事のない大神は頭を悩ますばかりだった。
(そうだこういう時にはだいたいあいつがでてくるはず )
大神はあたりを見回した。しかし探してる人物は現れなかった。
(加山・・・・いつも突然あらわれるクセに、こういう時には現れないんだからなぁ〜 )
あてがはずれたように思えた大神であったが思わぬ収穫があった。
「おっ、あれはグリシーヌじゃないか?」
見るとレストランにグリシーヌが珍しく一人で食事していた。
(ちょっと聞いてみるか・・・・)
大神はレストランに入りグリシーヌの座っているテーブルに向かった。
「グリシーヌちょっといいかな?」
「んっ隊長かちょうど食事を終えたところだ少しなら構わぬが」
「ありがとうじゃまさせてもらうよ」
大神は席に座るとウェイターにコーヒーを頼んだ。
「で、私になんかようなのか?」
「ああ、それなんだが、来週メル君の誕生日だと言う事は知っているだろう?」
「もちろんだ。同じ花組である仲間なのだからな。知らぬはずがなかろう」
「ああそうだよな・・・・と。ころでプレゼントなんかもう決まったかい?」
少し苦い顔して大神が言う。
「ああ私なりにいろいろと考えているが・・・・・・ん? もしかして貴公まだ決めてないのではないだろうな」
「ギクッ!!」
グリシーヌには曖昧なごまかしはきかない事を大神は悟った。
「実はそうなんだ・・・・・それでなにをあげればいいか参考になればと思ったんだが」
「フッ・・・貴公らしいな。だが隊長、そもそもプレゼントとは人それぞれ違うものなのだ。ここで私がなにか助言したとて、それは私の考えだ。貴公の考えじゃない」
グリシーヌの澄んだ瞳が大神をまっすぐとみつめる。
「・・・そうか・・そうだよな。ありがとうグリシーヌ、俺、もうちょっと考えてみるよ」
「わかればよい。私はもう行くが、貴公はゆっくり考えてみるとよいであろう。私は花火と待ち合わせがあるのでな」
グリシーヌは席を立つとレストランから出ていった。
(やはり自分で決めなきゃ駄目だよな・・・・・・そうだ、市場にいけばなにか見つかるかもしれない)
大神はレストランからでると向かいの市場に向かった。この市場には果物や野菜といった食べ物のほか、日用雑貨や骨董品などありとあらゆるものが売られている。
しばらくグルグルと市場を回っていると、どこからか大神を呼ぶ元気な声が聞こえた。
「イチローーーー」
振り返ると大きな荷物を抱えたコクリコがいた。
「どうしたのイチローシャノワールのおつかい?」
コクリコが大神の顔を覗き込む。
「いや、ちょっと探し物があってね」
「市場で探し物だったらボクにまかせてよ。どこでも案内してあげるよ」
「いいよコクリコ。動物たちの餌を買いに来たんだろう。俺は自分で捜してみるから」
大神が苦笑する。しかし、そういう言葉はコクリコのような純粋でやさしい人間には逆効果だ。
「もうだいたい終わったから大丈夫。それに、こんなに広い市場を一つ一つ見てたら日が暮れちゃうよ。やっぱりボクが案内したほうがいいよ」
「う〜ん・・・それじゃあ頼んじゃおうかな」
「うんっ、まかせてよ。ところでイチロー、なにを探してるの」
大神はちょっとためらったが、せっかく案内しようとはりきっているコクリコに嘘はつきたくなかった。
「実は来週のメル君の誕生日に、なにかプレゼントを渡そうと思うんだけど、なにがいいか思いつかなくてね」
「ええっ、イチローまだ決めてなかったの?」
「ああ、ここにはいろいろあるから、なにかないかと思ってね」
「ふ〜ん・・・わかったボクについてきて!」
コクリコに手をひかれ、大神は再び市場を歩きはじめた。
「コクリコ、荷物重くないかい。俺が持とうか?」
「ううんっ。これくらいへっちゃらだよ」
「でも、俺が頼んで案内してもらってるんだし、コクリコ一人だけ荷物を持たせるわけにはいかないよ」
「えっ、でもこれはボクの友達のご飯だし、やっぱりいいよ」
「じゃあ、半分持つよ。それでいいだろ」
大神がやさしく微笑む。それを見て、コクリコが少し顔を赤らめながらうなずく。
「う・・うんっ・・・」
その後、二人は服やアクセサリーなどを売っている店を見て回ったが、これといっていいものがないのと、メルの好みがわからないのとで、なかなか決める事ができなかった。
「ごめんイチロー・・・・。ボクそろそろいかないとみんなお腹すかせちゃうから・・・・・」
「そうだね、コクリコ。じゃあ、サーカスまで送るよ」
「うんっ!」
大神とコクリコは市場を出てサーカスに向かった。
「それじゃあ、コクリコ。またシャノワールでね」
「うん・・・・・あっ、ねえ、イチロー。ちょっと聞いてもいい」
「うんっ。なんだいコクリコ?」
「イチロー、ボクの誕生日覚えてる?」
「えっ!!」
予想だにしないコクリコの言葉に、大神は冷や汗が流れるのを感じた。
「ええ〜と・・・・・う〜ん・・・・・・」
全く思い出せない大神は、必死に記憶の中から「コクリコの誕生日」というキーワードを探す。しかし、いくら考えてもなにも浮かんでこなかった。
「ごめん、コクリコ俺は・・・・・・・・・」
大神がそこまで言いかけた時だった。
「あっ!!!」
コクリコが大きな声で叫んだ。
「そういえばボクイチローに誕生日教えていないや」
顔を赤くしたコクリコが照れながら言う。
「コクリコ〜〜〜〜〜」
大神は全身の力が抜ける。それと共に不安が安心感に変わっていくのがわかった。
「ごめんイチローボクの誕生日はね10月10日なんだよ」
「10月10日かよし覚えたぞ絶対忘れない」
大神はしっかりと刻み込んだ。
「ねえ、イチロー。ボクの誕生日が来たらボクにもプレゼントくれる?」
「もちろんだよ、コクリコ。絶対あげるさ。ただ、そんなにいい物はあげられないかもしれないけど・・・」
「そんなことないよイチロー、ボクはイチローが選んでくれる物だったらなんだって
嬉しいよきっとメルも同じだと思う」
「コクリコ・・・・・・」
「だから、そんなに悩まないで、イチローがあげたいと思うものをあげればいいんじゃないかな。ボクはそう思うよ」
コクリコの言葉に大神は胸をうたれた。
「ありがとうコクリコ。俺がんばってみるよ」
「うんっ。じゃあ、ボクはもういくね。ばいばい、イチロー」
元気にかけていくコクリコに手を振り、大神はその場を後にした。
☆ ☆
☆
しばらくたって歩き疲れた大神はシャノワールのポーチに戻っていた。あの後もいろいろ歩きまわりグリシーヌやコクリコの言葉を胸にあちこち見て回ったが、結局きまらず戻ってきてしまった。
(まいった。まさか、プレゼント探しがこれほどまでに難しいなんて思わなかったなぁ〜)
「あっ大神さん、帰ってきてたんですか」
みると目の前にシーが立っていた。
「いいプレゼントはみつかりましたかぁ〜」
大神は無言で首を横に振る。
「そうですか・・・・・・・・う〜ん・・・」
シーはしばらく考えこむようなそぶりをみせた後パンと手をたたいた。
「大神さんあたしにいいアイディアがありますよぉ〜」
「いい考え・・・・・・・・?」
それまで下を向いていた大神の首がもちあがる。
「大神さんケーキを作るきはありませんか?」
「えっ、ケーキ?」
思わず聞き返す大神。
「そうですよ〜。あたしと一緒にケーキを作るんです。そうすれば誕生日ケーキってことでいいプレゼントになると思いません?」
それだっ! と大神は思った。ここまで追いつめられた大神にとっておそらくそれしか道はないと感じたのだろう。
「俺にできるかな・・・・・・?」
「はぁい、もちろんだいじょうぶです。なんたってパティシエのあたしが教えてあげるんですから」
シーは大神が帝都にかえってすぐパティシエ試験に合格し毎日忙しい日々を送っていた。
「じゃあ、お願いしようかな」
「はぁい、わかりました。じゃあ誕生パーティーの日の朝から始めましょう」
助かった。
大神は心の底からそう思った。しかし、そう思っているのは大神だけじゃなかった。
「ああ、よかったですぅ〜。これでなんとか大丈夫そうですねぇ〜」
「えっ?」
大神の頭の上に?が浮かぶ。
「じつはぁ〜、誕生日ケーキはいつもあたしが作ってるんですけど、パティシエの仕事が忙しくて困ったんですよぉ〜。でも大神さんが手伝ってくれるんなら、うまくいけそうですぅ〜」
シーは本当に喜んでいるようだ。
「うんうん、大神さんも助かってあたしも助かる。たしかこういうのを日本語でイッセキニチョウって言うんですよねぇ〜」
「ああ、そうだね・・・・」
少し引っかかるとこがあるが、これでプレゼントの心配は消え、大神は安心した。
☆ ☆
☆
そして日々はすぎあっという間に6月1日の朝がきた。
大神はいつもより少し早く起きた。そしてかるく朝食を済ませシャノワールに向かった。
厨房にはすでにシーが仕込みにかかっていた。
「あっ、大神さん。おそぉ〜い。もう始めてますよ」
「ゴメンゴメン。これでもいつもより早く起きたんだけど、シー君は朝早いんだね」
「はいっ。パティシエの仕事をはじめてから毎日忙しくて・・でもいつもメルに起こしてもらってるんですけどね」
シーとメルはシャノワールから少し離れたアパートに一緒に住んでいるルームメイトでもある。一応付け加えておくが大神のアパートとは別の場所だ。
「じゃあメル君はもうきてるの?」
「はい、秘書室にいるはずです。メルには一人でケーキを作るっていってありますから、大神さんみつからないでくださいよ」
「ああ・・・わかった気をつけるよ・・・」
「それじゃ大神さん。さっそくはじめましょうか!」
そういうとシーは大神になにかを手渡す。
「・・・・・シー君これは・・・」
「もちろんエプロンですよ。料理するときにエプロンつけるのは当たり前じゃないですか」
「いやそれはそうかもしれないけど・・・・・・・・・・」
大神はしぶしぶエプロンを着ける。今ほど鏡は見たくないと思ったことはないだろう。
「あはっ大神さんよく似合ったますよぉ〜」
シーは嬉しそうだ。
(もしかして俺あそばれてるのかな〜・・・・・)
そんなこんなで大神とシーのケーキ作りがはじまった。
「それじゃあまずそこのメモどおりに材料を計ってください間違えちゃだめです
よぉ〜」
「これだな・・・よし・・・」
大神は材料を計りにのせ、足したり減らしてりしながら順調にすすめていく。
「よしっ・・・シー君おわったよ。次はなにをすればいいんだい?」
「あっ、大神さんもうおわったんですか。なかなか早いですね。じゃあ、次は計った材料をボールに入れて泡立ててください。力を入れすぎるとこぼれちゃいますから気をつけてくださいね」
「わかったよシー君・・・これをいれて・・・・」
大神は材料をボールの中に入れ手早くかき混ぜた。
( む・・・けっこう手首が疲れるなそれに力加減も難しい・・・・)
もしこれがゲームだったらおそらくアナログLIPSとかになるだろう、だがここは
さすが大神と言うべきか微妙な力加減でこなしていく。
(なんかマリアとボルシチを作ったのを思い出すなぁ〜)
全てが順調かと思われたその時だった。
「シー!、ちょっとシー!・・・・・・」
壁のむこうからシーを呼ぶ声が聞こえる。
「やばい・・・メル君だ!!」
顔を見合わす二人。
「シー君呼んでるみたいだよいったほうが・・・・・」
「ごめんなさい大神さん今手がはなせないんですよぉ〜」
「ええぇっ〜!!」
「シー!、ちょっときこえてるのシー!」
声がだんだん近づいてくる。このままこの光景を見られるのはまずい。
「大神さん、ちょっとでていって、うまくごまかしてくださいよぉ〜。このままじゃばれちゃいます」
「そっそんな・・・・・・」
大神に選択の余地はなかった。声はすぐそこまで来ていたからだ。
「くっやるしかないか・・・・」
「あっ。ちょっと待ってくださぁい、大神さん」
シーが叫んだ時には、すでに大神は部屋を出た後だった。
「だいじょぶかな・・・・・・・・」
大神が厨房からでて、つきあたりを曲がるとすぐにメルが現れた。
「やっ、やあ、メル君。シー君だったら今手が離せないそうだよ」
大
神がぎこちない笑顔で話しかける。
「! おっ大神さん。どうしたんですか、こんな朝早くから。しかもそのかっこは・・・・・?」
「えっ・・・・・・・」
大神は慌てて自分の姿を確かめた。なんと大神はエプロンをつけたままだったのだ。
「大神さんなんでエプロンなんか着てるんですか?」
( やっやばい・・・・・)
大神は自分の顔から血の気がひくのを感じた。
「いっいやこれはだね・・・・・・・・・・」
「?」
( だっだめだ、ばれる)
だめかと思われたその時、大神の後ろから救いの手がさしのべられた。
「あっ、メル。どうしたの大声で呼んだりしてぇ〜」
大神の後ろからひょっこりとシーが顔を出す。
「どうしたじゃないわよ、シー。この前の報告書っ、ミスがあったわよ」
「ええぇ〜ほんとにぃ〜〜」
「ほんとよ。後でグラン・マに叱られるわよ、きっと」
「あ〜あ。そうだメル見てよ、これかわいいでしょ!」
シーが大神を指差していう。
「これって、大神さんにエプロン着せたのは、やっぱりシーだったのね」
「だって、大神さんったら、つまみ食いしようとするんだもん。ちょっとおしおきよ」
「ええっ大神さんつまみ食いしようとしたんですか?」
「えっいやははは・・・・・・・・・」
大神はただ苦笑するしかできなかった。
「でも大神さんエプロンにあってますよねぇ〜。まえにブルーメール家のメイド服を着てたときも、なかなか似合ったけどエプロンはもっと似合ってますよぉ〜」
「・・・・・・・・・・・・」
もはや声さえでない大神。
「ねっメル、メルもそう思うでしょ」
「えっ、あたしはそんな、でも・・・・・・・・・」
顔を赤らめるメル。
「あっいけない。ケーキ作りの途中だった。大神さんもエプロン返しに来てくださいね」
「ああっ、うん。わかったよ」
「あっ、もう。シー、後でちゃんと直しておくのよ!」
「うんっ。わかった」
シーは大神の手をひいて厨房に戻った。メルも秘書室に戻っていく。
「助かったよ、シー君。あのままじゃ、ばれるところだった」
「もう。大神さんは嘘をつくのが下手なんだからぁ〜。さっ、つづきやりますよ」
それから大神はシーの言われるとおりに次々と作業をこなしていった。時間はすでに昼近くになっていた。
「さあ。後は焼いてクリームでデコレーションをして完成ですよ。大神さん、料理得意なんですね。あたしびっくりしちゃいました!」
「そうかな。きっと先生がいいからだよ」
「え〜、そうですかぁ〜。そんなこと言われたら、照れちゃいますよぉ〜」
シーが頬を赤くする。しかし、次の瞬間その表情は凍り付く。
ビーーーーー、ビーーーーー、ビーーーーー・・・・・・・・
シャノワール内に響く無情な電子音・・・・それはまぎれもなく『警報』だった。
「そんな・・・・・今日なんて・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「シー君・・・・・いこう・・・・・・」
「大神さん・・・・そうですよね、あたしたち巴里華撃団ですもんね」
大神はうなずくと厨房から出てダストシュートに滑り込んだ。
☆ ☆
☆
しばらくして。
携帯キネマトロンにより作戦司令室には巴里華撃団全員が集合していた。みな浮かない顔をしてちらちらとメルの方に目をやっている。メルも気にしてるのか複雑な顔をしている。
「そろったね・・・メル状況の説明を・・・・」
「・・・・あっはい・・・・」
「メル・・・・・・・・・・・・」
明らかにいつもと様子が違うメルに対し、一番心配してるのはシーだろう。
「妖力が感知されたのは巴里郊外の工場跡地です」
「工場跡地・・・・・・・・?」
「はいっ。数年前に工業都市として開発があったんですけど、地形の悪さから開発を中止。以後そのまま廃虚になっているみたいですぅ」
「現場にはすでにダースが何体か確認されています。怪人らしき存在は今の所確認されていません」
「ちっ、なんだよ。また雑魚が相手か」
「それに、そんな廃虚で一体なにをしているのでしょう・・・」
「もしかして秘密基地でも作るんじゃないですか」
「エリカ、それは多分違うと思うよ」
「なんにせよ、私たちのすることは一つだ。隊長出撃命令を!」
いきごむグリシーヌだったが、そこに思いもよらぬ言葉がとびこんだ。
「それがだめなんですぅ〜」
「何っ!・・・・・・」
「メル君どういうことなんだい・・・・・?」
「先にも説明したとおり現地は開発中止になっています。ですからそこまでエクレールでゆく道をどうしても確保できないんで。、一番近い射出口からでも光武で大分移動しなければなりません。そうなれば時間が大幅にかかるばかりか周囲に被害をもたらす危険性もあります」
「そんな・・・・・・・」
「ボクたち出撃できないの?」
「エクレールが使えないとなると・・・・・・まさかグラン・マ、あれを使うんですか?」
「あれ」と聞いてその場にいた全員が反応する。
「そうさ、それしか方法がないしね。ただ、リボルバーカノンを使うにしては少し現場が近すぎるらしいんだ。今ムッシュ迫水に計算してもらっているところさ」
グラン・マが言い終えるのとほぼ同時に画面に迫水大使の顔が映る。しかし、そこはいつもいる日本大使館ではなくリボルバーカノンがある凱旋門支部の作戦司令室だった。
「どうだい、ムッシュ迫水。いけそうかい?」
「ええ、グラン・マ。出力を最小に抑えれば、うまく目標位置に送り届ける事ができそうです」
「聞いての通りだい。ムッシュ命令をだしな」
「はい・・・・・・」
大神は後ろに振りかえった。
「これよりエクレールで搭乗凱旋門支部に向かい、リボルバーカノンにて現場に向かう・・」
大神はチラッとシーとメルの方に目をやると一言付け加えた。
「帰ってきたらメル君の誕生日パーティーだ。みんながんばろう!!」
「そんな、大神さん・・・・・・・・」
大神の言葉に顔を赤くするメルと、一気に活気づく花組5人とシー。
「はいっ。エリカ、がんばります!」
「ふんっ。奴らめ。今日という日に現れたのを後悔させてやる」
「ボクもがんばるよ。絶対パーティーやろうね」
「はいっ、私も精一杯がんばります」
「しかたないね〜。まっ、うまい酒が飲めれば、あたしは構わないよ」
「みなさん。ありがとうございます・・・・」
「あっ、メルぅ。泣かないでよ〜、も〜」
「巴里華撃団出撃!!」
「「「「「了解」」」」」
☆ ☆
☆
「エクレール発進準備完了・・・発車まであと15秒・・」
大神達が乗る光武を収納したエクレールは、リボルバーカノン起動のためグラン・マ以下、シーやメル、ジャンたちメカニック班を乗せ凱旋門支部に進路をとる。
「サン」
「ニー」
「「イチ」」
「発進!!」
けたたましい金属音と衝撃とともにエクレールは驚異的な加速で走り抜ける。
☆ ☆
☆
巴里の名所の一つでもある凱旋門。その地下には巴里華撃団の最終兵器ともいえる光武長距離射出兵器 「リボルバーカノン」がある。
パリシィの怪人達との最終決戦オーク巨樹に攻め込むために初めて使用されたこのリボルバーカノンは、決戦終了後も改造改良が加えられ、目視でしか撃つことができなかった照準システムは座標や天候などをうちこむことにより確実に送り届けることができるようになり、試作品しかなかった射出カプセルも量産化が進められていた。
それというのも巴里華撃団には翔鯨丸やミカサといった飛行型の装備がなく、今回のようなエクレールではいけない場所にはリボルバーカノンの実用化は必要不可欠と考えられ、もはや最終兵器ではなくエクレールに変わる光武運搬システムとして存在しているのだ。
「オラァ、グズグズするな! 射出カプセルの最終点検は終わったのか!!?」
「完了しました!!」
「よーーし上げるぞ退避しろ!!!」
ウーーーーーーーーーーーー・・・・・・・
凱旋門から警報音がながされる。
地下にあった作戦司令室が最上階まで持ち上がる。
「甲板上の市民の避難完了しましたぁ」
「各部の最終点検終了。これより起動プロセスに移行します」
「リボルバーカノンセットアップ!」
「了解! 全ハッチオープン、リボルバーカノンセットアップ」
「全機関正常に稼動、光武各機は射出カプセルに搭乗してください」
凱旋門がもちあがり地下からリボルバーカノンのシリンダーが顔を出す。
さらにシャンゼリゼ通りが開き銃口部分もででくる。
「銃口部分ドッキング完了、射出カプセル装填」
「固定確認・・・・リボルバーカノンセットアップ完了しました」
「照準セット開始!!」
「座標、R23、Y12射出角度算定」
「進入角度補正・・・誤差修正・・座標位置ロック」
「全システムオールグリーン」
「最終安全装置解除・・・・」
「「リボルバーカノン発射準備完了!!」」
「リボルバーカノン・・・・発射!!!」
グラン・マが手元のトリガーを引く。
シリンダーが回転し大神達の光武が入ったカプセルが次々と射出されていく。
( ・・・・・・・どうかみなさんが無事帰ってきますように・・・・・)
メルは遠くに消える大神達をみながらそう願った。
大神達が乗っている射出カプセルも従来よりも大きく改善されていた。取り付けられた霊心エネルギーを利用したロケットブースターの力で開発当時は欧州全域がギリギリだったが、地球の裏側までも飛ばすことが可能になった。これは翔鯨丸やミカサをも超える驚異のシステムだが決定的な弱点がある。言わなくても分かると思うがリボルバーカノンは打ち出すだけの装置であって戻ってくることができない。つまり地球の裏側までいっても帰ってくるのに膨大な時間がかってしまうのだ。だがそれを差し引いても瞬時に敵地に部隊を送れるのは大きな魅力であり、究極の運搬装置といえよう。
まあ、そういうことで大した距離ではなかったので大神達は発射してから1分足らずで目的地に到着した。
カプセルの側面についてる補助ブースターで機体を安定させパラソルを開く。急激に減速したカプセルは地上すれすれで爆破分裂し、光武はうまく着地できるというシステムだ。これは着地などの衝撃でカプセルに閉じ込められるという過去の失敗を反省して取り付けられた物だ。
「「「「「「巴里華撃団参上」」」」」」
着地した6体の光武がポーズを決める。すると、いままでうろついていたダースが群がってくる。
「くそっやっぱりザコが相手かよ」
「みんな油断するな。『風』作戦でいく。連携攻撃をわすれるな」
「「「「「了解」」」」」
光武が散開する。
「はあぁぁぁぁ〜〜〜〜」
グリシーヌ機の斧がダースの首を切り落とす。するとダースはうめき声とともに影となってきえていく。これは戦っていく中で発見したダースの弱点でヴァンパイアの弱点と酷似している。大神やロベリアも同じようにこの一撃を狙い、それができないコクリコ、エリカ、花火は連携攻撃で回復不可能までダメージを与えるというのが必勝の手だった。
「うおぉぉぉぉ〜〜〜〜〜・・」
「くたばりな!」
ザシュッ
大神とロベリアは次々とダースの数を減らしていく。
「こっちこっち!」
「どっちどっち?」
ボンッ
ダダダダダダダダダ・・・・・
コクリコとエリカの協力攻撃。
「花火!」
「わかったわ」
さらにグリシーヌと花火の協力攻撃、ダースの数はみるみる減っていった。
(おかしい本当に今回もこれで終わりなのか?)
大神の胸に言い知れぬ不安がよぎる。
( なにか変だ・・・こんなとこまで来て、これで終わりのはずがない)
その時だった。スピーカーからノイズに混じりかすれがすれ声が聞こえてきた。
「・・ザー・・・・お・・大神さん・・・・・・・・応答願います・・大神さん・・・・・ザー・・・・」
「その声はメル君か!どうしたんだメル君!!」
「・・ザー・・・・・凱旋門に・・・ザー・・・怪人が・・・・・・ザー・・・・」
「なんだって!!」
スピーカから聞こえてきた事実それはまさに悪夢だった。
( 凱旋門支部に怪人が・・・くそっこっちは陽動だったのか!)
「どうするのイチロー・・・・・・」
「決まっている。今すぐ戻るのだ!!」
「バカ言え。いくら近いっていってもここから凱旋門支部まで少なくても20kmはあるんだ。間に合うはずがねぇ〜」
「しかし、このままでは凱旋門支部にいらっしゃるみなさんが・・・・・・・」
その時だった急に日の光が消えたと思うと闇の中からダースが出現した。しかも、最初にいた時より多いようだ。
「くそっ、こんな時に・・・・・・」
「大神さん・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・よしっ!」
大神は太刀を納めると着陸した時に切り離したバックパックを取り付ける。
「隊長・・・・・どうするつもりだ!」
「俺が凱旋門支部に行く。みんなはここを頼む」
「無茶だよイチロー、一人で行くなんて絶対だめだよ!」
「しかし、この中で一番速く凱旋門支部にたどり着けるのは俺の機体だ。俺が行くしかない。エリカ君、ここの指揮は副隊長である君に任せる・・・後を・・頼む・・・」
「・・・・・・・・大神さんあたしも行きます!」
「えっ!・・・・」
「あたしも光武だって飛べます、一緒に行けるはずです!」
エリカ機の特徴である羽は、霊力の力である程度の浮力を生み長時間の滑空ができるようになっている。しかし、それはあくまでも滑空であり、なんの動力源のないエリカ機には飛行することは不可能なことだった。
「無理だ!エリカ君の機体性能では・・・・・・・・・・そうかその手がある!!」
数分後・・・・・・・
大神とエリカは巴里の空を飛んでいた。厳密に言うと翼を広げたエリカ機にブーストを点火した大神機がぶら下がっているような状態だった。
エリカ機の浮力と大神機の推進力でなんとか飛んでいる。簡単に言えばエンジン付きグライダーのような物だ。だがこれは驚異的な二人の霊力があってこその離れ業だった。本当ならとっくにオーバーヒートして火がふいてもおかしくないブーストを大神が霊力で必死にコントロールし、2体分の重量をエリカの霊力がこれまた必死に支えている。
どんどん削られる二人の体力と気力。でも、二人は諦めない。全ては先に待つ仲間を救うために・・・・・
☆ ☆
☆
それよりさらに数十分前。大神が発射されてから間もない時。
大神達の武運を祈っていたメルは、なにかいやな感覚が襲われた。なにかに睨まれるような気配、そして自分の体ではないようなくらいの震えがメルを襲う。
「なに・・・・・・・これ・・・・・・・・」
霊子レーダーを見ると、この凱旋門支部周辺に異様なほどの妖気が表示されている。
「メッメル〜〜・・・・・・・・」
シーもなにかを感じているみたいだ。この二人は光武を動かすほどではないが、少しばかりの霊力を持っていた。それが今二人に叫びかけるここにいるのは危険だ・・・と。
「オーナー・・・・・・」
「強力な妖力がここに集まりつつあります、このままでは危険です!」
しかし、もう遅かった。次の瞬間、凱旋門の前に巨大な火柱が上がった。その中で一人の男が炎をまとうように現れた。
「これが・・・・敵の基地か。フンッ、もろそうだな・・・・・」
男が両手を振るうと、ところどころに爆炎が上がりあっという間に凱旋門を火の海にした。
「敵、怪人を確認これまでに見たことがない顔です!」
「設置してあったトーチカも全く効果ありませぇん!」
「グラン・マ!!」
「・・・・・しかたないね・・総員に緊急避難命令! シャノワールに退避するよ!!」
グラン・マが叫ぶ。
「了解! 緊急避難命令が発令されました。総員地下のエクレールに搭乗してくださぁい。繰り返しますぅ、緊急避難命令発令。総員は・・・・・・」
叫ぶシーの横でメルは大神達に応援を頼んでいた。
「聞こえますか大神さん! 応答してください大神さん! こちら凱旋門支部。怪人の攻撃を受けています! 聞こえますか大神さん! 大神さん!!」
怪人が放つ強力な妖気と高熱でノイズのかかった通信機に、メルは必死に呼びかける。
たとえ届かなくとも、たとえ来るのが間に合わないとわかっていても、今の自分にはそれくらいしかできないと感じているようだった。
「もうここも長くはもたないね。メル、シーあたし達も避難するよ!!」
グラン・マと迫水がエレベーターに乗り込む、つづいてシーが遅れて飛び乗る。
「メルっ早く!!」
シーの呼びかけでやっと諦めて席から立ったメルだったが、強力な爆発の衝撃で床に倒れてしまった。
「メルっっ!!」
思わずシーはエレベーターを出てメルに駆け寄る。
「ううっ・・・・」
メルは立ち上がろうとしたが右足に思うように力が入らない。どうやらひねってしまったみたいだ。
「うっうそ・・・・・・」
そこにシーが駆け寄ってくる。
「シー!! 来ちゃダメ!!!」
メルの叫びも聞かずシーはメルをおこした。
「メル、シー急ぎな!!」
グラン・マが叫んだ、ちょうどその時。エレベーターの緊急避難装置が発動し扉が閉まってしまった。そればかりか二人を置いてエレベーターは地下に下りていってしまった。
「そっそんな・・・・・・・・」
シーはエレベーターのボタンを連打してみたがもう戻ってはこないみたいだ。
「どうすればいいの・・・・・・・・・・」
絶望におちいり膝をつくシーにメルの声が届く。
「シー・・・・たしか奥に非常階段あったはずだわ・・・探してみて・・・・・」
シーが奥に進むと確かに非常階段があった。下の方までずっとつづいているようだ。
「それを下りてあなただけでも・・・・・・・・」
「! なに言ってるのメル! あたしがメルを置いていける訳ないじゃない!!」
「ダメよ! ここもいつまでもつかわからないわ。もたもたしてたらシー、あなたまで・・・・」
しかしシーはメルの言葉を無視しメルの手を肩に回しメルを起こした。
「シー!!」
「メル。あたしはメルを置いていくことなんてできない。絶対メルと一緒に助かるんだから」
「シー・・・・・・・」
シーに肩をかり、メルも一歩一歩階段を降りていく。遠くの方で爆音が聞こえる、この非常階段の壁はシルスウス鋼と特殊合金でできており一番丈夫にできていた。しかし、いつ危険にさらされるかわかったもんじゃない。
「シー・・やっぱり・・・・・・・」
「あきらめないよ!」
「えっ・・・・・?」
「あたしあきらめないよ。絶対、メルとみんなと生きて帰って、シャノワールでメルの誕生日パーティーをやるんだから・・・あたしと大神さんとで作ったケーキ、絶対おいしいって言わせてみせるんだから!!」
「シー・・・・・」
極限状態の中、人の生きようとする心は時に予想を超えた力を発揮する。俗に言う『火事場の馬鹿力』みたいなものだ。今のシーには生きて帰ってメルの誕生日パーティーをやることしか頭にない。しかし、それがシーに肉体的にも精神的にも力を与えているのだ。
☆ ☆
☆
その頃外では怪人が破壊を楽しんでいた。とそこに一筋の光が駆け抜ける。
「浪虎滅却ぅ〜・・・・・・無・双・天・威ーーーー!!」
無防備だった怪人に大神の一撃が決まる。
「はぁはぁはぁ・・・・やったか?」
地面に叩き付けられた怪人がむくりと起き上がる。
「ふはははは、おまえがヴァンプの言ってた大神とかいう男だな」
「そうだ! 貴様は何者だ!!」
大神が太刀を怪人に向ける。
「ふふ、いいだろう。教えてやる。私はヴァンパイア一族の末裔、魔血四騎臣の一人・・・炎をつかさどりし者・・・・・名をラージスという覚えておくがいい・・・もしここで生きてけれたらの話だがな・・・・・・」
そういうとラジースは、にやりと不気味な笑みを浮かべ、やはり腰についていた赤いサーベルを抜く。
「我が力よ、闇より生まれし荒ぶる炎よ、我が鎧となれ!!」
ラジースの体が炎に包まれたと思うと、その炎がまるで巻き付くように集まり魔操機兵のような形になる。
「これが我らが闇の鎧・・・魔導騎神だ」
「魔導騎神だと・・・・ものすごい高熱を放っている・・・迂闊に近づけない・・・」
「おやっ? 来ないならこっちから攻めさせていただきますよ!」
ラージスの魔導騎神が歩いてくる。
「そこまでです!!」
上空からエリカ機がマシンガンを連射しながら下りてくる。実は大神を落とした後、爆発による上昇気流に巻き込まれ上空をウロウロしていたのだった。
「てやああああぁぁぁぁ〜〜〜・・・・・・・・」
なおもマガジンを連射するエリカだが、その弾はラジースにダメージを与える事はなかった。なぜなら、ラジースの魔導騎神が放つ高熱に弾が溶けてしまっているのだ。
「ふぇぇぇ〜〜〜・・・全然ききませんよぉ〜」
「くらいなさい!!」
魔導騎神の手から溶岩のような炎の弾が放たれる。
「ぐわあぁぁ〜〜」
「きやあぁぁぁ〜〜」
大神とエリカが間一髪で直撃をまぬがれる。
「くっ・・・なんて熱量だ。霊気に守られているはずの光武の装甲が溶けかけている・・・エリカ君は大丈夫かい?・・・・・・エリカ君、しっかりするんだ、エリカ君!」
「大神さんすみません・・・・少し疲れちゃいました・・・・」
無理もない。半分は機械の力を借りていた大神にたいしてエリカは自分の霊力だけで長時間空中にいつづけたことになる、エリカでももはや限界に近づいていた
「くそっ・・・・・・・・」
大神は唇を噛み締めた。大神に使える必殺技はせいぜいあと一回しかもダメージを与えるにはあの高熱のフィールドを超えるパワーが必要だった。
「そろそろいいでしょう、これで終わりにしてあげます!!」
そういうとラジースは手を交差させた。すると周りで燃えていた炎が手に集まっていく。
「さあくらうがいい我がメギドの炎を・・・・グラウ・デス・エクスプロード!!」
今までにないくらいの炎の固まりが大神達を襲う。
「くっ・・・・・こうなれば一か八かだ!」
「狼虎滅却ぅ〜・・・・・・・天・狼・転・化ーーーーーーー・・・・・・・」
バシュゥーーーー
赤と青の光が拡散する。気がつくと大神は暖かい眩い光に包まれていた。
「これは・・・・・・・!エリカ君!!」
どうやらエリカがすんでのところで守ってくれたらしい。
「エリカ君・・・なんて無茶なことを・・・・・・」
「へへっ大神さん今回復してあげますね〜〜」
「数多なる奇跡の光よ・・・・届け心に・・・サクレ・デ・ルュミエール・・・・」
エリカの放つ光が大神の光武を回復させる。
「ふんっ、なかなかしぶといな・・・・だが次で終わりだ・・・・・・」
ラジースの魔導騎神が突っ込んでくる。
「うおぉぉぉ〜〜〜〜!!・・・・・」
「何っ・・・・!」
「狼虎滅却ぅ〜〜・・・・おうっ・・・・・・・・・紫・電・一・閃ーーー!!」
一瞬の出来事だった、大神の抜刀の一撃がラジースの炎を切り裂き腕を切り落とした。
「ぐああっ・・・・・・・おのれ〜・・・・・・・・・」
そのままラジースは魔導騎神ごと炎の中に消え、いままで周りで燃えていた炎もことごとく消え失せた。
「勝ったのか・・・・・・そうだエリカ君は?・・・・・・・・」
大神は光武から下りるとエリカ機のハッチを開けた。
「エリカ君! 大丈夫かい、エリカ君・・・・・・・・・」
「うう〜ん・・・・・・あっ大神さん大丈夫でしたか?」
「ああ・・・エリカ君のおかげで勝てたよ、ありがとうエリカ君」
「そんな〜私はただ・・・・・・・・」
「大神さぁ〜ん!・・・・・」
見ると凱旋門支部からシー達が歩いてきた。
「みんなだいじょうぶでしたか?」
「だいじょうぶじゃないよ。リボルバーカノンがこのありさまさ、こりゃあ使えるようになるまで時間かかるよ」
「そうですね・・・・・・んっ、メル君。もしかして足怪我してるんじゃないの?」
「ええ・・・・少しくじいてしまって・・・でもシーのおかげで助かりました。ありが
とうシー・・・」
「なに言ってるのよメルぅ。あたし達親友じゃない・・・・・あっ、それから大神さん帰ったらさっそく続きはじめますよ」
「ああっ・・・・もちろんわかってるさ」
「ねえ・・・それってもしかして・・・・・・」
「んっ、なぁにメル・・」
「いえ。なんでもないの・・・・」
( 一応隠してるみたいだし、ここはいわないほうがいいわね)
「ねえ大神さん。いつものやつやりましょうよ〜」
「そうだね。じゃあ、エリカ君。頼むよ・・・」
「了解ですエリカいっきま〜す!!」
「「「「「「勝利のポーズ決め!!」」」」」」
そのころ・・・・・・・
「ボク達きっと忘れられてるね・・・・・・・・」
「まあいいんじゃない、あたしはボーナスもらえりゃそれでいいんだけどさ」
「ああっ大神さん・・・・・・・・・・・・・・・・・ぽっ」
「一体いつになったら迎えが来るのだーーーーーー!!」
☆ ☆
☆
その夜・・・・・・・・・
「「「「「「メル誕生日おめでとう!!」」」」」」」
「おめでとうございます、メルさん。私のプレゼントは、ずばりこのプリンです。これはただのプリンじゃないんですよ。巴里で一番おいしいプリンなんです。どうぞ」
「ありがとうございます、エリカさん」
「まったくガキだね、おまえは、ほら上物のワインだ大事にのみな・・・・・」
「はいっ。ありがとうございますロベリアさん」
「ボクはこれっ。自分で作ったんだよ」
「まあかわいい猫のぬいぐるみね、どうもありがとうコクリコ」
「私は季節の花を押し花にしてみたのですが・・・メルさん本がお好きなようだったので、しおりにでもしてもらえればと・・・・・・・・・・・・ぽっ」
「ありがとうございます、花火さん。さっそく使わせてもらいますね」
「私からはこのブローチだ。中に写真が入るようになっている。今は何も入ってないから大事な写真でも入れておくとよいだろう」
「ありがとうございます、グリシーヌ様。大事にします・・・・」
「はぁ〜い、みなさんケーキができましたよ。なんと今回は大神さんが作ってくれたんですよぉ〜」
「ええっこれイチローが作ったの?」
「わぁおいしそう〜」
「メル君・・・・誕生日おめでとう。ささやかだけどケーキを作ってみたんだ」
「大神さん・・・・あの・・その・・ありがとうございますとってもうれしいです」
「そう言ってもらえると、こっちもうれしいよ。初めてだったんでうまくいかなかったかもしれないけど・・・・・・・」
「そんなことないですよ・・・大神さんすっごく上手でしたよ。助手にしたいくらいでしたよ」
「はいはいは〜い、エリカも大神さんと一緒におかし作りしたいです」
「だめですよ、エリカさん。いつも分量間違えるんですから・・・・・・・・・」
「「「「「「ははははははっ・・・・・・・・」」」」」
よう、ロベリア・カルリーニだ。近頃な〜んかおもしろくねぇ〜。 ダメだよ、ロベロア。悪さしちゃ・・・イチローにいいつけちゃうよ。 まったく、うるさいガキだねぇ〜〜 次回サクラ大戦 血塗られた戦い 「悪魔と天使と」
「ロベリアさんあたしのこと呼びました?」 |