第7話「愛と戦いの天覧舞台」(その4)
公演の中日。
その日の帝劇はいつもにはない緊張感に包まれていた。
劇場としての帝劇を支えている風組の面々は、日の出とほぼ同時に起きだし、劇場内を入念に点検している。米田中将は、これも早朝からやってきた銀座警察署の幹部と打合せに余念がない。
「おはよう。よく眠れたかい、みんな?」
朝食のため、食堂に集まってきた花組一同に大神は声をかけた。
「んーなんか、駄目やったな」
実際のところ、紅蘭の返事を聞くまでもなかった。食堂に集合した時間は、大神も含めていつもより1時間は早い。それだけ、緊張して、眠りが浅かったということだろう。
「とにかく、一世一代の晴れ舞台だからな」
そう、今日は今上天皇陛下と皇太子殿下が来場されての天覧劇の日なのである。
幸いにして「ロミヲトジュリエット」は、日を追って評判が高まるような具合で、大神にも黄色い声援が飛ぶほどだ。
「陛下のご来場は本日9時30分。観劇後、我々とご歓談下さる予定だ」
「よし、気合いれてこうぜ,みんな!」
「おーっ!」
カンナの激に皆が応じた。
しかし、これが帝撃・花組の一番長い日になるとは誰も予想していなかった。
☆
「陛下。太正帝が、宮城を出ました」
「そうか」
「帝國劇場に到着次第、行動を開始しましょうか?」
「いや。かねての手筈通りでよい。どうせ、最後なのだから、その前に少しくらいは楽しませてやらんとな」
壮麗な、しかし、暗い宮殿の中で、陛下と呼ばれた男は微笑んだ。
その表情は、理知的で、気品がありカリスマすら感じさせる。
ただ、それは陰のカリスマとでもいうべきものであったが。
☆
「陛下がお付きになられました!」
太正帝と皇太子が馬車から降りる。
帝劇正面玄関ホールには、米田支配人以下、警備担当以外の全従業員が列をつくり、頭を垂れる。先のシャートーブリアン夫妻の時以上の出迎えだ。
「米田支配人」
太正帝は、一番手前にいた、米田に声をかけた。
「本日は楽しまさせてもらいます」
「畏まりましてございます」
太正帝は病弱であった。
とくに太正十年以降は、日常の職務にも支障をきたすようになり、皇太子を摂政にたて、天皇代行としている。
当然、葉山御用邸を除けば、宮城より外に出ることもほとんどない。
だから、最近、体調がいいとはいえ、こうして帝劇に出向くなど異例中の異例。新聞が、なにか裏にあるのではないかと騒ぐ始末だ。
もっとも、本来の目的が帝國華撃團へのねぎらいなのだから、裏があるのはその通りだ。
「さあ、陛下。こちらへ」
二階の貴賓席に太正帝がつかれる。
シャトーブリアン夫妻の時には、傍らに大神がついて説明したが、今回は出演者なので、米田が説明係だ。
「米田。最後に会ったのはいつだったかな」
「はっ。確かシベリア出兵の折だったと」
「そうか。もうそんなになるかな」
そんな話をしていると、やがて開演を知らせるブザーが鳴った。
幕が開き、舞台には、大神(=ロミヲ)とマリア(=マキューシオ)が登場する。
そして、花組の面々は、いつも通りの精一杯の演技を繰り広げた。
その評価は、カーテンコールが万雷の拍手に包まれたという事実を記すだけで充分だろう。なにせ、その拍手の中には、皇太子殿下と太正帝の御手も含まれていたのだから。
☆
「大変、面白く拝見させていただきました」
太正帝の言葉に花組一同は深く頭を下げた。
「それにしても、みなさん、戦闘服だと随分と雰囲気がかわるものですね」
公演終了後、今度は地下指令室で『帝國華撃團』と太正帝の会食がはじまっていた。
「舞台であんなに美しく舞っていたのに、あのように困難な戦いに勝利するとは素晴らしいことです」
「それも、全ては、彼女たちをはじめとする帝撃隊員全ての頑張りのおかげです」
すかさず大神が言う。
考えてみれば、正規の軍人でもある大神や米田は昇進などの見返りがあるが、他の隊員にはそれがない。そして、秘密部隊であるがゆえ、名誉すら与えられることはない。
「そうか。ありがとう、みなさん」
太正帝は、ゆっくり、一人一人と握手を交わす。
その後を追うように皇太子殿下もお声をおかけになる。
「大神くん。なかなか、大変だったでしょう」
「いえ、私は大したことはしておりません」
「さすがは、隊長だ。部下思いだね。そうでなくては、この部隊は統率できませんね」
大神は若き皇太子殿下の聡明な洞察力に舌を巻いた。
花組の普段の様子が伝わっているわけではないから、殿下はわずかの間に、統率の困難さを見抜いたことになる。
(帝國の将来も明るいぞ!)
そう大神が安堵した時だ。
「なんだ!?」
突然の轟音と振動が、帝劇を揺るがした。
「マリア! 陛下をお守りしろ! 紅蘭! 蒸気演算機で何が起きているか確認してくれ!」
大神がすぐさま命令を下した。
さしもの米田も、全く言うことがない。
突発事項に関する瞬間の判断力では、大神が米田を上回ったということである。
米田が大神の成長を内心では喜びながらも、紅蘭の操る蒸気演算機へと目を向けた。
大型画面には、今しも原因が映し出されようとしていた。
「馬鹿な!」
それを見た米田は彼らしからぬ叫び声をあげた。
その画面に映し出された場所は皇居。
そして、そこにいたのは、新たなる“魔”であった。
「そんな! もう黄泉平泉坂は閉じた筈なのに!」
さくらの叫びは皆の思いを代弁している。
だが、原因の追求は後回しだ。とにかく今は、現実に対処しなくてはならない。
「帝國華撃團、出撃!]
「了解!」
一同は、地下格納庫へと走ろうとする。
だが、そこで太正帝が口を開いた。
「みなさん。御所などどうなっても構いません。ただ、帝都の臣民を護って下さい」
花組の面々には、それが心からの言葉であることがわかる。
偉大なる帝に、改めて敬礼を行なう。
「陛下。ご安心下さい。帝都は、この帝國華撃團が護ります!」
☆
皇居では、帝國陸軍近衛師団が“魔”と戦っていた。
もちろん、全くといっていいほどダメージを与えられていないが、それでも引き下がるわけにはいかなかったのだ。
「撃てぇ!」
一〇五mm砲が一体の“魔”に直撃する。
だが、通常弾では、全く効果がない。
「うわぁぁぁ!」
逆に“魔”の一撃で、兵員が薙ぎ払われてしまう。
絶望的なまでの戦いだ。
それでも、彼らは戦うことを止めよとしない。
「健気なるかな日本歩兵。彼らは敵の最も堅き陣を上っていく」
と評したのは、日露戦争における立見尚文将軍であるが、この時も兵士達の士気は崩壊しなかった。
だが、それは逆に損害が増えるということも意味している。
兵士たちは次々と倒れ、連隊長クラスの人間ですら倒れていく。
このままでは、ほどなくして全滅したであろう。
だが、それを許すわけにはいかない。
「破邪剣征・百花繚乱!」
今しも襲い掛かろうとしていた“魔”が、霊力の炎に焼かれ、崩れ落ちる。
「帝國華撃團、参上!」
虹の色染め上げて、躍り出る戦士たち。
たちまちのうちに“魔”は駆逐されていく。
これなら、楽勝だ。
「しかし、一体、どこから……」
「ふふふ。不思議かね?」
大神の呟きに応えたのは、聞き覚えのない声だった。
「誰だ!?」
「慌てるな。今、姿を拝ませてやる」
急に一部の空気が歪んだかと思うと、空間を裏返すようにして、そのものは常世へとあらわれた。
「我が名は月読命。『扶桑』を統べるものなり」
月読命といえば、イザナギの三貴子の一柱の筈だ(あとの二柱はアマテラスとスサノオ)。
ヒルコとは違い、高位に奉られている神だ。
「馬鹿な。高天原の神が、なぜ、皇居を襲う!」
「我が愛すべき扶桑の臣民のためだ」
「なに?」
「そう、我々には生活圏が必要なのだよ。それなくしては生き残れないのだ!」
ツクヨミは両手を大きく広げた。
その途端、神武は大きな圧力を受けて二三歩後ずさる。
「なんていう霊力ですの!」
すみれの言葉は悲鳴に近い。
あのヒルコをも上回っているのは、間違いようもない。
どうやら、三貴子のツクヨミであることには間違いがないようだ。
これでは、苦戦を免れまい。
「みんな、ありったけの力をぶつけるんだ!」
「了解!」
練り上げていた霊力を一斉にぶつけはじめる。
「パールク・ヴィチノイ!」
「イリス・エトワール!」
「いけ、聖獣ロボ!」
「神崎風塵流・鳳凰の舞!」
「あたいの全てをここに! 四方攻相君!」
「破邪剣征・百花繚乱!」
「狼虎滅却・無双天威!」
矢継ぎ早に繰り出された技は全てツクヨミに命中した。
しかし、全くこたえた風がない。
「ヒルコもこの程度の連中にやられたとは情けない。折角力を貸してやったというのに」
「なんですって? それでは、あなたがヒルコを操っていたというんですの?」
「その通りだよ、神崎すみれくん」
「なぜ、私の名を!」
驚愕するすみれに対し、あくまでツクヨミは冷静だ。
「敵を知らずしてどうして勝利できようか。私は扶桑の全臣民の命を預かっているのだ。当然のことよ!」
こいつは、今までの敵とは違う。
大神は、そう感じていた。
ツクヨミには、単なる復讐や怨念といったものではなく、確固たる信念と理論を感じる。
もちろん、だからといって見逃すことはできない。
「いくぞ! みんな!」
再び陣形を整え直し、ツクヨミと対峙しようとする。
だが、圧倒的に優位と思われたツクヨミは、広げていた両手をおろした。戦闘をする気がないようだ。
「我が目的の達成は失敗したようだな。これだけ時間をかけてしまっていてはな……」
「どういう意味だ?」
「文字どおりだ。それでもわからないなら、アマテラスの子孫に聞くがよい」
そしてツクヨミは、背を向けた。
「待て! 逃げるのか!」
大神が追いかけようとする。
だが、ツクヨミは呆れたように首を横に振った。
「冗談ではないよ。君たちを逃がさないのが私だ。ただ、私が相手をしないというだけだ」
「その通り!」
ツクヨミの言葉にこたえた、突然の背後からの声に、花組は全員が振り返った。
そこには、先程まではいなかった鎧武者が立っている。
「そんな、いつの間に!?」
霊力感知能力の高いすみれすら、気づくことができなかった。
「では、後はわたくしめが」
「よし。無理はするな」
「はっ」
ツクヨミをうやうやしく見送った、異形の者は、改めて帝國華撃團と対峙した。
「我は、扶桑國が鎮護の任につくもの。太武臣・大禍津日神(おおまがつひのかみ)なり。我が帝の命により、お命、頂戴する!」
「なにを!」
ツクヨミと同じような強い霊力を感じながらも、大神は怯まずに指揮をとる。
そして、花組の面々も大神を信頼し、戦闘態勢をとる。
「いくぞ!」
大神の号令一下、一斉に攻撃が開始される。
そして、そのトリを飾るとばかりに、さくらと大神が霊力をぶつけ合う。
「瞳に写る輝く星は」
「みんなの明日を導く光」
「今、その光を大いなる力に変えて」
「破邪剣征・桜花乱舞!」
完璧なまでの連続攻撃だ。
だが……
「なるほど。これでは、我が帝はおろか、私にすら効かぬな」
大禍は、まるで埃でも払うかのような仕種をしただけだ。
ある程度は予想していたといえ、やはり、大神には焦りの色がある。
「今度はこちらの番だ」
大禍が剣を抜いた。
無骨な直刀だが、そこに宿る霊力は肉眼でも見えるほどだ。
「いくぞ!」
動きに速さはないが、重量感がある。直撃をうけてはひとたまりもないだろう。
幸い、神武は小回りが聞く。
それを生かして、よけた、と思って次の瞬間。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
霊圧だけで、大神機は吹き飛ばされた。
「なんて、威力だ!」
なおも攻撃を続ける大禍の前に花組は逃げるより手がない。
「このぉ! 調子にのるな!」
それでも、カンナが反撃しようとする。
「やめろ! 無理だ!」
大神の言葉を無視して、カンナは渾身の正拳を放った。
しかし、案の定、これはかわされ、反撃をうけてしまう。
「!!」
瞬時にしてカンナ機の左下腕部は失われた。
いや、左下腕部を犠牲にして、何とか逃げたというのが正しいだろう。
「畜生。少しかすっただけみたいな感触だったのに!」
花組一の防御力をもつカンナ機にしてこの有様だ。
恐るべき攻撃力である。
(この大禍一人だけでもヒルコより強い!)
と、大神は、ここで気づいた。
「待てよ。先程から、ツクヨミ達の放出しているのは“霊力”だ。“妖力”ではない!」
つまり、彼らは“魔”でも“魔神”でもない。
「なぜだ。なぜ、帝都を襲うんだ! 大禍!」
「聞いただろう。我が扶桑國を護るためだ。滅び行く扶桑國の臣民が生き延びるためには、新たな生活圏を、常世に獲得しなくてはならんのだ!」
「滅び行くだと!?」
「そうだ。だから、お前等が帝都を護るために戦うように、我らは扶桑國を護るために戦うのだ!」
そういうことか。
大神は納得した。
今まで戦ってきた相手は、多かれ少なかれ、自分たちが『魔』であり『異』であることを自覚していた。それは、『霊力』と『妖力』の戦いであり、すなわち、『正義』と『悪』の戦いであった。
しかし、今度は違う。ツクヨミ達は自分たちの行動に一点の曇りも感じていない。つまり、『霊力』と『霊力』、『正義』と『正義』の戦いなのだ。
もちろん、だからといって、戦いをやめるわけにはいかない。
「みんな! 霊力をあわせるんだ!」
「了解!」
虹色の霊力が、一つに合わさっていく。
「真・正義降臨!」
霊力が奔流となって大禍へ襲い掛かる。
しかし、彼はそれを避けるどころか、剣を構えた。
「瞑謳流・餓雄骸牙!」
叫ぶや振り下ろした剣は、花組最大最強の技を霧散させた。
「さすがに、まともに喰らうわけにもいかないからな」
落ち着き払っている大禍に対し、花組一同は呆然としている。
「そんな……全く効いていないなんて!」
さくらが振り絞るようにして、ようやく声を出した。
「これ以上、どーしたらえーんや……」
「私達の攻撃は、もう何をしても駄目ですわ……」
紅蘭や、すみれからでさえも弱音が漏れる。
「あきらめるな! 必ず勝機はある!」
叱咤する大神も、糸口を見出せない。
大禍の攻撃は、いよいよ激しさを増し、避けるのが精一杯だ。
「どうした、これで終わりか!」
どの神武も次第に傷ついてくる。
精神的な疲労も重なり、次第に動きが鈍くなる。何度か隊員の窮地を救った大神の霊子防御も、もうこれ以上は無理だ。
「しもた!」
紅蘭機が地面に足をとられた。
前のめりなるような形で、倒れてしまう。
「まず一人!」
すかさず、大禍が剣を振り下ろす。
「紅蘭!」
大神が叫ぶが、誰も間に合わない。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
紅蘭の悲鳴が響き、それが彼女の生涯最後の声になると思われた刹那。
振り下ろされた剣は空しく地面を叩いた。二つの黒い影が疾風のようにあらわれ、紅蘭を救い出したのだ。
「なに?」
理解不能なことに、珍しく訝しげな声をあげた大禍は、次には驚愕の声をあげざるをえなかった。
「パンツァーシュツルム!」
「なんだと!」
大禍が紅蘭機に気を取られた一瞬の隙に、彼の鎧の隙間に刃をつきたて、必殺技を繰り出した機体があるのだ。
「くそ!」
振り払おうとしたところを、すかさず避けたその機体が着地する。
そして、その機体の回りに先程、紅蘭を救った二機を含めて、六機の機体が集合した。
「帝國華撃團・雪組、見参!」
帝撃にもう一つだけ存在する実戦部隊、雪組がかけつけたのだ。
「全員、花組の機体を回復させろ!」
漆黒の雪組専用霊子甲冑・真龍改に搭乗した雪組隊長ハインリヒ・フォン・マイヤーが揮下の六機の真龍改に素早く指示を下す。
「マイヤー隊長! どうしてここに!?」
「米田中将からの命令で、貴様らの増援だ」
とはいうものの、局地戦用霊子甲冑・真龍改は、神武より小型で、機動力こそ優秀だが、装甲も武装も弱い。
文字どおり『増援』にしかならず、戦闘の主力は神武である。
「徹底した一撃離脱だ。攻撃よりも回避を中心にしろ」
マイヤーの指示通り雪組は、動き回りながらの攻撃で、大禍を惑わせる。
その間に、花組は態勢を立て直した。
しかし、再度の攻勢も、大禍に大きなダメージを与えるには至らない。
「なんて防御力だ!」
大神も驚きを通り越して、呆れる。
大禍が効いているようなそぶりを見せるのは、攻撃が鎧の隙間などにあたった時だけだ。
それでも、機動力を利して、大禍の攻撃を避け続けているのは、さすが帝撃といえるだろう。
「よく頑張っているな。だが、終わりにしてやろう!」
大禍の霊力が急速に増大していく。
「まずい! 緊急回避!」
大神が慌てて命令を下す。
「遅い! 我が技を受けよ! 大真驚陣!」
大禍の必殺技が発動した。
地面自体が持ち上がるような感じがしたかと思うと、帝撃各機の足元から霊力の奔流が襲ってきた。
神武も真龍改も高く跳ね上げられ、次の瞬間、自由落下へと追い込まれる。
そして、待っているのは、ささくれだった地面だった。
「うわぁぁぁ!」
「きゃぁぁぁ!」
何人もの悲鳴が交錯した。
「みんな、大丈夫か?」
「雪組各員。被害を報告せよ!」
対照的な指揮方法をとる二人の隊長だが、言っていることは同じだ。
そして、返ってきた答も同じだった。
各機とも損傷が激しく、著しく戦闘力が落ちているという答えだ。特に下から突き上げられたため、機動力を奪われた機体が多い。
『大神、大丈夫か?』
そこに、米田からの通信が入ってきた。
「あまり大丈夫じゃありませんよ」
『んなこたぁわかってる。それよりも、やつの防御力の源はあの鎧だ』
「鎧?」
『そうだ。成分は未知のもんだが、物理力も霊子力も高効率で防ぐ代物だ。鎧をさけて攻撃するしかねぇ』
「しかし、どうやって……」
そこに、マイヤーが通信に割り込んできた。
「わかった。パンツァーシュツルム方式だな」
パンツァー・シュツルムとは、マイヤーの必殺技であり、刀身を敵の身体へと差し、相手の体内へ霊力を放出するという技である。
「なるほど、そういうことか」
大神も合点がいったようだ。
「みんな、あと一度だけ、霊力を俺に貸してくれ!」
「隊長。しかし、あの敵には我々の攻撃はききません」
「マリア。大丈夫だ。策はある」
「わかりました、隊長」
「大神さん。信じてます」
「中尉。頼みましたわ」
「お兄ちゃん。アイリス、これが最後の霊力だよ……」
「大神はん。気張っていきや!」
「いけ! 隊長!」
虹色の霊力が集合し、大神機の頭上に純白の霊力塊をつくる。
大神機は、小刀を捨て、大刀のみを上刃にして構えた。
「いくぞ!」
同時に、雪組の霊力を集めたマイヤーも動きはじめる。
「パンツァー・フォー(霊子甲冑、前進)!」
もはや、花組も雪組も機体は傷つき、霊力を放出し、満足に動けはしない。
これが最後の、渾身の一撃となる。
二機の霊子甲冑が、大禍目がげて一直線に加速していく。
(問題は、たどりつくまでもつかということだ)
相手は人形などではない。実際、大禍は迎撃の態勢をとろうとしている。
(南無三!)
だが、大神の予想もしていない事態がおきた。
「破邪剣征・百花繚乱!」
もはや動けないと思われたさくら機が、必殺技を放ったのだ。
しかし、大禍は落ち着いている。
「どこを狙っているのだ?」
大禍は一歩も動かずにいると、さくらの霊力は、大禍の直前の地面をえぐり、濛々たる土煙をあげさせた。
だが、それだけだった。僅かの差で命中には至らなかったのだ。さすがの見切りと言うべきだろう。
「もはや、貴様らに力はない。武士の情だ。おとなしくしていれば、楽に死なせてやろう」
だが、さくらは、落胆した様子も無く、逆にわずかに微笑む。
「そうかしら?」
大禍が反駁する暇はなかった。
突然、彼の視界に大神機とマイヤー機が飛び込んできたのだ。
「狼虎滅却・徹甲抜突!」
「パンツァー・シュツルム・ウント・ドランク!」
すでに至近距離となっていた二機の攻撃を避けることはできなかった。
大禍の身体に二本の刃が突き刺さる。
「そうか、あの攻撃は、私の視界を奪うためのものだったか……」
「そうだ。何も言わなくても、お互いの欲していることがわかりあえる。それが、帝國華撃團だ!」
大神の叫びとともに、大禍の体内へ霊力が放出される。花組と雪組、合わせて一四人分の霊力だ。
「どうだぁぁ!」
急速に注ぎ込まれた霊力が反応し、爆発を起こす。
大禍の身体はそれに包まれて、見えなくなった。
「はぁはぁはぁ……」
霊力を注ぎ終わった大神は肩で息をしている。
「やったのか?」
爆発が収まったそこには、大禍の姿はない。
「いや、まだだ。残骸もないとはおかしい」
マイヤーの判断は正しかった。
「隊長、あれを!」
マリアの指し示した方向を振り向けば、そこには大禍が立っていた。
しかし、かなりのダメージを負っているようだ。
「さすがだな、帝國華撃團!」
声の調子も先程までとはうってかわって苦しそうだ。
だが、帝撃ももはや戦闘力を残しているかはあやしいところである。
それでも、各機は戦闘態勢を取り直し、大禍と対峙する。
「今日のところは、私の負けを認めよう。だが、次はそうはいかないぞ!」
そう言い残して、大禍は姿を消した。
「大神さん……」
「まだだ。計略かもしれない」
なおも警戒を続けていたが、ようやく戻ってこないと確信する。
その途端、神武も真龍改も倒れ込むようにして崩れ落ちた。
もはや、機体を支えることすらできないほど疲労していたのだ。
そして、機体自身も、大きく傷ついている。
防御力の弱い真龍改は、廃機処分寸前の有様であるし、神武も大破といって差し支えない。
(このままでは……次は、勝てない!)
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