第七話「逆撃」(その13)

<<第一次南洋群島海戦>>

聯合艦隊司令長官:小沢治三郎大将(在横須賀鎮守府)
攻略艦隊(司令官:大神一郎中将)
 第三艦隊(大神一郎中将直率)
  機動部隊本隊(大神一郎中将直率)
   第一航空戦隊(大神一郎中将直率)
    空母『翔鶴』『瑞鶴』
   第二航空戦隊(山口多聞少将)
    空母『飛龍』
    軽空母『瑞鳳』
   第八戦隊
    重巡『熊野』『鈴谷』
   第四駆逐隊
    駆逐艦二
   第一六駆逐隊
    駆逐艦四
   防空駆逐隊
    駆逐艦二

  前進部隊(松田千秋少将)
   第一戦隊
    戦艦『大和』『武蔵』
   第七戦隊
    重巡『利根』『筑摩』
   第一〇戦隊
    軽巡『長良』
    駆逐艦四

 第二艦隊(司令官:近藤信竹中将)
  第二戦隊
   戦艦『長門』『陸奥』
  第二航空戦隊(角田覚治中将)
   空母『隼鷹』
  第四戦隊
   重巡『高雄』『愛宕』
  第五戦隊
   重巡『妙高』『摩耶』
  第二水雷戦隊
   旗艦
    軽巡『五十鈴』
    駆逐艦八


太平洋艦隊司令長官:ニミッツ大将(在ハワイ)
南太平洋方面軍司令官:ハルゼー大将(在ヌーメア)
 第一六任務部隊(トマス・C・キンケード少将)
  第一群
   空母『エセックス』
   戦艦『ノースカロライナ』
   重巡『ポートランド』
   軽巡『サンファン』
   駆逐艦八
  第二群
   空母『ヨークタウン』
   重巡『ノーザンプトン』『ペンサコラ』
   軽巡『サン・ディエゴ』『ジュノー』
   駆逐艦六

 第一八任務部隊(ジョージ・D・マレイ少将)
   軽空母『レンジャー』『インディペンデンス』
   護衛空母『ボーグ』『カード』『コバヒー』
『ナッソー』『オルタハマ』
   重巡『サンフランシスコ』
   軽巡『ヘレナ』
   駆逐艦六

「見張はどうなっている!」

 加山の怒号が響いたのは、一月一九日〇〇五〇のことだった。
 機動部隊の旗艦である空母『瑞鶴』の右舷三〇〇米に二本の水柱があがったのだ。
 この当時、米海軍の索敵機は空母艦載機をもってあてられ、索敵時にも爆装して出撃している。そして、離脱際に投弾するのが通例となっている。
 といっても、本来の対艦攻撃のように肉薄するようなことはなく、高高度から爆弾を投下するので、命中することは滅多になかった。
 それでも、敵機を見落としていたのでは、大惨事に繋がりかねない。加山の怒りも当然といえよう。

「発見されてしまったな」

 一方で、統率する大神は落ち着いていた。
 既に前日より互いの索敵網により互いの艦隊の存在は掴んでいる。
 元々、大神の任務は上陸部隊の援護もあったが、主たる作戦目的は、援護のために出撃してくる敵機動部隊を捕捉・撃破することであった。
 敵艦隊発見に一方を聞いた聯合艦隊司令部は「速やかに米艦隊を捕捉して決戦の機会を捉えよ」と督戦の電文もきている。

「あまり張り詰めすぎるともたんぞ、加山。今日は決戦だからな」

 大神機動部隊はマーシャル沖を遊弋して米艦隊出現を待っていたことで、そろそろ燃料の心配をせなばらなくなってきている。だから、一刻も早く決戦を行いたいという空気が機動部隊首脳部にはあった。しかし、大神は、その願望から発言したわけではない。戦場の空気を、そう読んでいたのだ。

「いずれにしても、敵の攻撃圏内だな、進路を西に向けろ」

 大神は一旦、艦隊を退避させる。

「それと索敵だな」

 加山がすかさず後をうけるという阿吽の呼吸は、さすがというべきか。
 この時、大神が指揮する艦隊は概ね三艦隊に分かれていた。
 上陸部隊支援を主任務とさせた近藤信竹海軍中将率いる空母『隼鷹』、戦艦『長門』『陸奥』を中心とする第二艦隊。
 大神が率いる空母『瑞鶴』『翔鶴』『飛龍』、軽空母『瑞鳳』を中心とする機動部隊本隊。
 そして、その艦隊に含まれていながら、戦艦『大和』『武蔵』を中心とする水上部隊からなる艦隊を先進部隊として配置していた。
 この先進部隊は、じりじりと増加する空母への被害を最小限にするために大神、加山、源田らが考え出したものである。本隊に先行して艦隊を配置することで、索敵を有利にするとともに、被害吸収部隊としての役割を担わすというものなのだ。
 こうした囮艦隊を編成すること、そして、そこに『大和』『武蔵』をあてることについては、海軍部内でも異論はある。

「まだそこまでせずともいいだろう」

 軍事参議官・豊田副武海軍中将などはそう洩らしたともいう。
 だが、勝利しても勝利しても一向に衰えない米の物量に晒されている大神には戦艦を捨てでも空母を護るというのは当然の戦術だった。そして、その戦艦中、最高の防御力をもつ艦を投入するのも、戦術上の合理的な判断というものであった。
 ともあれ、こうして機動部隊の前方一〇〇海里を進む前衛部隊にも索敵命令が出される。重巡『利根』『筑摩』から合計七機、そして機動部隊本隊の空母『瑞鶴』『翔鶴』『飛龍』から合計一五機の索敵機が発進。
 大神、加山は特に警戒を要する東南東の方角に向かい二段索敵を命じた。

「敵大部隊見ユ、空母一他一五」

 翔鶴の二式艦偵により待望の一報がもたらされたのは、〇四五〇のことである。

「よし。頼むぞ、ブーツ」
「よーけうったたいてきますよ」

 大神の前で敬礼をすると、村田は踵を返して乗機に向かって走り出す。

「帽振レー!」

 大神も飛行甲板際に立ち、制帽を振って見送る。
 この時出撃したのは一航戦、二航戦の合計で九七式艦攻三八機、九九艦爆二一機、零戦二四機の合計八三機からなる第一次攻撃隊であり、総指揮官は村田であった。

「なんや?」

 その第一次攻撃隊の護衛として出撃した川島紅雄であったが、ほぼ同高度の前方に何かを感じた。幸い、母から視力が遺伝しなかった(紅蘭にいわせると、紅雄が勉強をさぼっているから、らしいが)眼をこらす。

「……敵機か!」

 この時、日米はほぼ同時に攻撃隊を出撃させていた。
 その攻撃隊同士が空中で出会ってしまったのである。

「……」

 操縦桿を握る紅雄の手に汗が浮かぶ。
 どうやら、編隊の中でも気付いているのは数人のようだ。
 迎撃任務であれば、発見した自分が先等を切って襲撃するところだが、今は護衛任務である。安易に編隊を崩すわけ出にもいかない。それに、無電封止を破るのにもまだ早い。ただ、もし、襲い掛かられた時に備えて、全神経を集中する。

「たまらんぞ、これ……」

 ようやく安全と思える距離まで離れたと、紅雄が思わず洩らした時。
 またも、米攻撃隊を視認してしまった。
 実は、先ほどの編隊はヨークタウンからの攻撃隊であり、この編隊はエセックスからの攻撃隊である。
 米軍は空母を単艦ごとに艦隊を形成し、攻撃隊も集合次第向かうという形である為、こうして五月雨式の攻撃隊となっているのだ。

「ちっ……」

 今度は先ほどより距離が近い。
 互いに視認しあったのだろう、微妙な機の挙動が、編隊に伝わる緊張感を伝える。
 F4Fワイルドキャット八機、SBDドーントレス三機、TBFアベンジャー八機の合計一九機だと確認できた。

「……」

 お互いに手を出さずすれ違った──と思えた次の瞬間。

「あっ!」

 紅雄は声をあげてしまった。
 『瑞鳳』戦闘機隊を率いる日高盛康海軍大尉は麾下の零戦九機とともに反転し、エセックス攻撃隊に襲い掛かったのだ。これは村田の命ではなく、日高の独断であった。
 残る攻撃隊はその空戦を捨て置く形で進撃を進めたため、紅雄がその顛末を知ったのは海戦後のことになるが、日高隊は六機を撃墜し、二機を撃破。エセックス攻撃隊にその任務を断念させることに成功している。しかし、日高隊も四機を失い、また、一機が大破。機銃弾を撃ちつくして帰投を余儀なくされた。

 この時の日高の決断は、現在においても評価が分かれている。
 護衛の戦闘機隊は約四割の機数を失った上での攻撃を余儀なくされており、敵艦隊上空において損害を大きくした。しかし、一方で大神艦隊への襲撃機を減らした、空母への被害を少なくしたのも事実であろう。
 どちらがこの海戦において有利であったのかは、結論が出ていない。
 しかし、一つ、確実にいえることは、日高隊が随伴していたら、村田の運命が変わる可能性もあったということであろう。

つづく


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