第一部「江戸の喧嘩」(其の肆)


 万延元年 冬
 江戸城 桜田門外
 雪の降る中を行列が城に向って進んでいる。
 中央には大層な駕籠がある。
 その様子を陰からじっと見る人影があった。

「・・・・・」

 水戸脱藩浪士 大神一彦
 刀に手をかけ、仲間に指示を出す。

「行くぞ!!」

 大神の合図と共に一斉に四方から斬りかかってくる。
 行列の武士たちも応戦するが不意打ちの上、刀に袋をかけていたために成す術も無く斬られていく。

「大老!!覚悟ぉっ!!」

 大神は駕籠の中へ刀を突き刺した。
 手応えを感じると早々に引き上げていった。
 駕籠の中にいたのは大老・井伊直弼。
 後に「桜田門外の変」とよばれる事件がこれである。

 襲ったのは、薩摩藩士一人を含む水戸倒幕派浪士たち。20名にも満たぬ浪士たちが幕府の重役を殺害するなど、数年前までは考えられなかったことだった。



 そして、文久三年、長州。
 井伊大老暗殺の下手人、大神一彦は諸国を遍歴。今はこの長州にいた。
 この日、大神の姿は萩城近くの訓練場にあった。
 既に大勢の男たちが集まっている。彼らはここで入隊試験を受けるのだ。

 長州藩士、高杉晋作が考案した全く新しい部隊。
 問うは実力と志のみ。武士に限らず、農民や商人でも入隊できる部隊。

 その名は 『奇兵隊』

「次の者。」

 順番が大神に回ってきた。
 試験の課題は用意された太目の丸太を斬ること。
 もちろん全部斬れる者などそうはいない。3分の1程度斬れれば上等というもの。

 大神は間合いを詰め、ゆっくりと二刀を抜いた。
「・・・・・」
 目を閉じ、気を集中させる。

 そしてカッと目を開き・・・
「狼虎滅却・・・」

 ザンッ!!

 丸太はまず真っ二つになった。そしてさらに・・・・

「天地一矢!!」

 十文字斬りが炸裂。丸太は4つに分かれてしまった。
 その場にいた誰もが言葉を失った。

「・・・・おい、俺は不合格か?」

 大神の問いに、受付の武士は・・・・・

「と、とんでもない。合格だ。」
「ふん。」

 刀を納め、兵舎へと歩いて行った。


其の伍へつづく……


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