第二部「誠の旗」(其の弐)

 京に残った近藤達はまず、浪士隊の当初の目的・・・将軍の護衛と京の治安維持を完遂せんとしたが、近藤達は一介の浪士。活動するには強力な後ろ盾が必要であった。
 そこで目を付けたのが会津藩主、松平肥後守容保であった。
 幕府の命により、会津藩は京を守るために京都守護職という新役所に任命され、黒谷に本陣を構えていた。
 ここで、芹沢の力が役に立った。彼の兄は、水戸藩の公用方。会津藩の公用方にも知り合いはおり、彼から会津藩に口添えしてもらうことにした。
 そして近藤一派には仙台藩家老の竜馬がいる。竜馬はすぐに国許へ戻り、藩主や会津に残っている筆頭家老・西郷頼母に頼みに行っていた。
 近藤や芹沢も連日、黒谷の本陣に足を運んでいた。
 藩主、松平容保は公用方を集め、会議を開いていた。

「しかし、得体の知れん浪士を雇うのはいかがなものかと・・・」

 外島機兵衛は余り乗り気ではない。それに対し、野村左兵衛はかなり乗り気である。

「これが公然たる戦ならいざ知らず、攘夷派浪士を討つにはやはり浪士を以って当たったほうが、何かと都合がいい。」

 最も若い神保修理は常に冷静に事を見る。

「一番恐ろしいのは暴走されることです。付け上がって好き放題されると、始末に困ります。」
「わかっておる。当分の間、某が出動を命じない限り、勝手な真似はさせん。」
「それがよろしいでしょう。しばらくは大人しくしてもらった方がよいでしょう。」
「しかし・・・・殿はいかかがお考えですか?」

 一同の視線が容保に注がれる。

「・・・・くれぐれも会津の名を汚さぬよう・・・あくまで武士として誇りを持つよう、固く申し付けよ。」
「ははっ!」

 これにより、近藤たちは正式に会津藩御預の武士になった。

 そして、隊の名前も決まった。

 松平肥後守御預 新撰組
 
 屯所は八木屋敷。そして隊士の募集も始まった。
 京都だけでなく、大坂の道場にも声をかけ、志願者を募った。
 そして、以下の者達が採用された。

 江戸試衛館以来の同志、明石脱藩浪人で一刀流の達人、斎藤一。
 大垣藩出身の巨漢で永倉新八の旧友、島田 魁。
 剣の腕は立たないが、商人の息子である、河合耆三郎。
 大坂出身で柔術の達人、松原忠司。
 そして、大坂鍼医師の子で、神心明智流免許皆伝の腕を持つ、山崎 丞。

 そして、隊士も増えた所で各役職が決まった。

「何、『局長』?」
「そうです。」

 隊長格の役職名を局長、補佐を副長とし、その下の幹部を副長助勤とした。

「そうか、局長か・・・わしは、新撰組というから組頭とでも名乗ろうかと思っておったのだがな・・・・」
「局長は、芹沢先生と、近藤さんになってもらいます。」
「・・・?」

 これに新見が待ったをかけた。

「土方君。隊長格の人物が二人も居たのでは、隊士達にも都合が悪いんじゃないのかね?将たる者は一人。昔からそう決まっているではないか。」
「新見先生の言葉とも思えませんな。勘違いされては困ります。新撰組の最高責任者は、あくまで会津中将様です。」
「・・・・・」

 そこで、芹沢が意見を出した。

「土方君、局長が二人居て構わないのなら、何も二人にこだわることも無い。この新見君はわしと共に行動を共にしてきた。新見君にも局長になってもらう。」
「結構です。現在、法度書を作っております。出来上がり次第、お目にかかりたいと思います。」
「法度書?ああ、勝手に作りたまえ。要するに雑務だ。雑務一般は、副長である君に任せよう。ははは・・・・」

 近藤や土方には、まだこの粗暴で無礼な芹沢鴨を生かしておく必要があった。
 新撰組は事実、芹沢と竜馬の力で出来上がったことになる。その芹沢を斬ってしまっては、新撰組はすぐに解散させられることだろう。
 すぐさま、屯所内に触れが出され、人事の発表がなされた。

新撰組            
局長 芹 沢 鴨    同  新 見 錦   同  近 藤 勇    
副長
土 方 歳 三  同  山 南 敬 助
       
総長
真宮寺 竜 馬 
           
 
             
助勤
永 倉 新 八   原 田 左之助    藤 堂 平 助   井 上 源三郎
  平 間 重 助   平 山 五 郎   野 口 健 司   斎 藤 一
  松 原 忠 司   佐 伯 亦三郎         
               
勘定方 
河 合 耆三郎
           
監察方
 
山 崎 丞    島 田 魁   大 石 鍬次郎    尾 形 俊太郎
伍長
佐々木愛次郎    殿 内 義 雄   楠 小十郎   荒木田左馬助


 これは屯所内に張り出され、その前には大勢の隊士たちが集まっている。
 その中に左之助と永倉がいた。

「へえ、かなり本格的なモンだね。」
「俺たちは助勤か・・・何をするのかな?」
 
 そして、二人の目線がある男のところで止まった。

「河合さんは勘定方か・・・これはすぐにわかる。」

 二人は同じ方向へ歩き出していた。
 勘定方に任命された河合耆三郎は御用部屋に一人いた。

「・・・・・河合さん・・・」

 左之助が弱い声を出しながら顔を出した。

「ああ、原田様ですか。何ぞ、御用ですか?」
「いやぁ、その、用と言う用じゃ無いんだが・・・その、小遣いが足りなくてね。何とか、都合できないかと・・・」
「はあ、しかし、ご覧のように私の所には何もまだ参っておりませんので・・・何でしたら、私がお立て替え致しましょうか?」
「いやいやいや!そんなことするこたぁねぇ。じゃあ・・・」

 足早に去っていった。
 廊下には永倉が居た。

「どうだった?」
「はあ・・・ダメだ・・・」
「そうか・・・・」

 振り返ると、藤堂も来ていた。

「平助さん、ダメだってさ。」
「そうでしたか・・・」

3人は小さくなって部屋に戻っていった。

其の参へつづく……


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