星龍の大乱(後編)  作・島崎鉄馬

太正11年 帝都・東京 星組本部
対降魔部隊の後身として試験的に設けられた組織、星組。その隊長に任命されていたのは星野隆だった。
しかしこの時、主力兵器であるアイゼンクライトVの欠陥が発覚。星組の解散が決定しており、既に隊員の大半が祖国へ戻っていた。現在日本に残っているのはイタリア人のソレッタ=織姫とドイツ人のレニ=ミルヒシュトラーセの2人だけだった。
「隊長、闇討ちされたって?」
レニの質問に隆は一瞬答えるのをためらったが・・・
「ああ・・・完全な待ち伏せを食らった。」
「・・・・・。内通者がいるのかも・・・」
「・・・そうかもな。」
横で化粧しながら聞いていた織姫が口を開いた。
「考えすぎでーす。偶然に決まってまーす。」
「戦場では気楽な者から死んでいく。」
レニは思ったことをストレートで口に出すので相手を刺激することが多い。
「まったく・・・レニも相変わらずでーす。どうして日本のオトコの肩なんか持つですかー?」
織姫はまた化粧を始めた。
「隊長、気を付けて・・・内通者がいるとしたら、きっと隊長の近くにいるよ。」
「・・・・・」
レニの言葉に隆は一人の顔を思い浮かべた。
あの忍者を斬った後に倒れていた女性。名はさゆりと名乗っている。何者かが隆に放った密偵、あるいは刺客ということもあり得る。

それから1年・・・・
太正12年 春 福岡市 星野鉄鋼本社
星野鉄鋼は神崎財閥の関連企業で神崎忠義と星野和義の2人は大の仲良しだった。当然、2年前に創設された帝國華撃團にも関わっている。特に霊子甲冑などの開発に必要な特殊鉱石、シルスウス鋼を調達するのは彼らの仕事である。
この会社に最近注目を浴びている2人の社員がいる。
佐伯清志、黒田琴音の2人。2人は副社長である隆の片腕として活躍していた。次々と大型の契約をとり、とんとん拍子に出世していった。
「あの社長の気前の良さには感服するな。」
「ええ、あんなに譲歩して下さるとは思いませんでしたよ。」
2人はこの日も契約をまとめ、上機嫌で帰ってきた。
「よお、御両人。」
声の主は社長で隆の兄、星野淳治である。
「社長、お疲れ様です。」
「今日も契約をとったそうだね?まったく君たち2人には驚かされるよ。君たちの将来が楽しみだ。」
「ありがとうございます。」
どこか無愛想な感じの礼を言う。
「まったく、隆の奴は君らに任せっぱなしで何をやっているのかね?そうは思わんかね?」
「副社長には副社長のお考えがあるのでしょう、特に気にしてはおりません。失礼します。」
「うむ、ごきげんよう。あ、そうだ黒田君。今夜食事でもどうかね?」
「せっかくですが、遠慮させていただきます。」
笑顔で断る。
「そうか・・・残念だ。」
星野鉄鋼は大きく二つのグループがある。社長、淳治を推す過激派。副社長の隆を推す穏健派。衝突こそないものの緊張状態が続いている。

その頃、東京では・・・
帝國華撃團は新型霊子甲冑、光武の配備により遂に本格的に動き出そうとしていた。
「これが、我々帝國華撃團の主力兵器、霊子甲冑、光武だ。」
米田が隆達に説明している。
この場にいたのは米田、隆、松平浩忠、真田俊樹の4名。
「素晴らしい・・・これなら間違いなく、降魔と戦える。」
隆達は感嘆の声を挙げている。
「これに乗るのは、神崎財閥の一人娘、神崎すみれ。ロシア革命の闘士、マリア=タチバナ。仏蘭西の大富豪の娘、イリス=シャトーブリアン。天才発明家の李紅蘭。琉球空手の達人、桐嶋カンナ。以上のメンバーだ。」
「そうですか、カンナちゃんも入ったのですか。」
「そうか、お前は桐嶋琢磨に空手を教わったのだったな。」
隆は沖縄で桐嶋琢磨に琉球空手を伝授されていた。無論、その娘のカンナとは顔見知りだ。
なにやらずっと考え込んでいた松平浩忠が口を開いた。
「・・・・。2人足りませんね?」
「なに?」
「今のメンバーで行くと、2機余ってしまいます。後2人メンバーがいるのでは?」
「・・・・・」
米田は言うのをためらったが、すぐに話し始めた。
「一人は、大神一郎。お前達も知っているだろう?」
「ええ、もちろん。」
大神一郎、海軍士官学校を首席で卒業したばかりの海軍少尉。浩忠の部下でもあった。
「後一人は?」
「・・・・さくらだ。」
その一言に浩忠の表情が変わった。
真宮寺さくら。浩忠の実の妹である。家庭の事情で浩忠が家出したため、家督を継ぐ者として育てられてきた。
「・・・・・あいつを・・・花組に・・・・」
米田は帽子を脱ぎ、浩忠に頭を下げた。
「すまねぇ、浩忠。だが、さくらの力はどうしても花組に欲しいんだ。許してくれ。」
「・・・・・それで、いつ現れるのですか?」
「今日だ。もう東京駅に着いている頃だと思う。」
その時、副指令の藤枝あやめがやってきた。
「司令、やはり内通者がいました!」
持ってきたのは一本のテープだった。
早速、作戦指令室で再生。
そこには2人の男の話し声が録音されていた。
『・・・・準備は完了している。帝國華撃團はいつでも活動可能だ。』
『そうか・・・その出鼻をくじいてやろう。・・・明日来る新人を血祭りに挙げてやる。』
音声はここで終わった。
「・・・これは?」
「昨日、偶然傍受した無線です。」
浩忠がまた考え込んでいる。
「昨日ってことは・・・明日、即ち今日来る新人は・・・」
「・・・さくらだ!」
浩忠は大急ぎで出て行った。
「・・・まったく、相変わらず心配性な奴だ。さくらはあいつが思っているほど弱くねぇってのに。」

早めに到着していたさくらは上野公園へ花見に来ていた。
「凄い・・・・すっごーいっ!!」
はじめて見る帝都の景色にさくらは感嘆の声を挙げた。
(お父様・・・さくらはやってまいりました、お父様の帝都へ。)
さくらの目には強い光が宿っている。意を決したかのような。
しばらく景色を眺めていたが・・・
ドゴオオオオオオォォォォォォォッ!!
「わああぁぁっ!?」
「何だ!?」
花見に訪れていた人々で賑わうそのど真ん中で異形の化け物が出現した。
「怪蒸気だぁっ!!」
誰かがそう叫んだ。この数日、帝都に現れる謎の人方蒸気のことである。
「・・・・・」
さくらはそれを見ても動じない。そして腰の刀をゆっくり抜く。
現れた怪蒸気は5体。既にさくらは取り囲まれている。
「狙いはあたしのようね。なら、手加減はしないわ!!」
1体の怪蒸気が巨大な斧を振り下ろさんとしたその時・・・
ザシュウゥッ!!
斬られたのは怪蒸気だった。さくらは一撃で怪蒸気を斬り捨てたのだ。
「はあああぁぁぁぁっ!!」
すかさず次の攻撃に移る。あっという間に2体の脇侍を斬った。
しかし、一瞬の隙が生じてしまた。残りの2体に後ろを取られてしまった。
ザンッ!!
しかし、2体とも一瞬の内に斬られてしまった。
さくらがゆっくりと振り向く。するとそこに一人の男が立っていた。浩忠だった。
「兄・・さん?」
浩忠の顔に兄、鉄馬の幻影を見た。
「・・・あなたが、真宮寺さくらさんですね?」
浩忠は優しい口調でさくらに話し掛けた。
「はい・・・あの、あなたは?」
「これは失礼。私は海軍中佐、松平浩忠です。帝國華撃團の月組の者です。」
「・・・松平・・・さん?・・・」
「・・・・どうかされましたか?」
「い、いえ、あなたが知人によく似ていたもので・・・」
一瞬ドキッという表情になったがすぐに元に戻った。
「そうですか、まあ世の中には似ている人が大勢居ますからね。」
「うふふ、そうですね。」
「では、私はこれで失礼します。」
「え?あの、あたしまだどこへ行けばいいのか聞いてませんけど?」
「私は迎えに来たわけではありません。迎えは別に上野駅に行っているはずです。」
「あっ!?しまった!!し、失礼します!!」
大慌てで山を下りて行った。
(まったく・・・せっかちでドン臭いのは相変わらずか。だが、確実に成長している。司令が欲しがるのも無理は無いか。)

その頃、帝劇では・・・
「そうか、よしわかった。」
米田は通信を切った。
「さくらは無事だそうだ。」
「よかった・・・それで、浩忠君は・・・」
「そのまま月組に戻るとよ。さて、話を続けよう。問題はこの声の主だ。一人は黒乃巣会側のだれかであるが、こいつは特定のしようがない。もう一人の内通者だが・・・・」
隆が席を立った。
「どうした、隆?」
「福岡に戻ります。その内通者の声に、少し覚えがあります。」
「何だと!?」
「そいつは、俺が始末します。余計な手出しは無用です。では・・・」
「お、おい、隆・・・」
真田は追おうとするがすぐにやめた。
「・・・・あいつ・・・・」

数日後 福岡市 星野鉄鋼本社
隆のオフィスは清志と琴音が預かっていた。
「・・よし、これで終わりっと。そっちはどうだ?」
「私も終わりました。」
ガチャッ
隆が入ってきた。
「隆様!お帰りなさいませ!!」
「どうかなさったのですか?戻ってこられるのは来月のはずでは・・・」
「予定が変わった。話がある。」
隆の目は真剣そのものだ。
「前に俺が闇討ちされたことから、内通者がいることがわかり、帝國華撃團が独自に調査を始めた。その結果、ある人物が浮かび上がった。」
「・・・誰なんですか?」
「・・・・・」
隆は間を置いて話し出した。
「俺の兄、星野淳治だ。」
2人に緊張が走る。
「・・・本当ですか?」
「・・・まず間違いない。声を聞いた。」
「・・・・・社長が・・・」
隆は一息つき、話を続ける。
「俺は兄を斬らなくてはならない。お前達にも手伝って欲しいが。時間は今夜の11時だ。」
「・・・・無理ですよ、隆様。」
清志が反論した。
「社長の自宅には何重にも警戒網が敷かれているんですよ。それを破るなんて・・・・」
「わたしも、清志さんの意見に賛成です。これはいくらなんでも無理ですよ。」
2人に反対され、隆は沈む。
当然といえば当然だ。過激派の淳治を狙う輩はいくらでもいる。それゆえ、自宅や身辺の警備は厳重だ。
「・・・・強制はしない。俺は一人でも行く。兄を斬らねば、日本に未来はない。」
そう言って隆は出て行った。
「・・・・・」
2人ともその場を動かず、じっと考え込んでいた。

その日の夜 午後10時50分
星野淳治宅前
「・・・・・・」
隆が白装束を着て立っている。
「・・・・無理か・・・そうかも知れんが、俺はやる。」
その時、背後に人の気配を感じた。振り向くとそこにいたのは清志だった。
「・・・清志・・・・」
全身に銃砲を装備している。
「・・・・よく考えたら、隆様あっての俺ですからね。どこまでも付いて行きますよ。」
「・・・・清志、ありがとう・・・そう言えば、琴音は一緒じゃなかったのか?」
「ええ、あいつは戦いが嫌いですから・・・」
「そうか・・・・」
隆は時計に目をやった。既に11時を回っている。
「時間だ。行くぞ・・・・」
「はい。」
2人は正門に向う。
正門は頑丈な鋼鉄製の門だ。
「さて、破りますか。」
清志がバズーカ砲を構えた。
「・・・放て!!」
バシュウウゥゥゥゥ・・・ドゴオオオオオオオオォォォォォォォッ!!
門は木っ端微塵に砕け散った。
「行くぞ!!」
2人とも突入した。
「何者だ!?」
警備兵が立ちはだかる。
「敵に・・・決まってるだろ!!」
ザシュウウゥッ!!
次々と兵士を斬っていく。
「俺はこっちに行きます!」
二手に別れて淳治を捜す。

その頃淳治は寝室にいた。爆発の音を聞いて飛び起きた。
「何事だ!?」
側近の長嶺卓が駆けつけた。
「反乱です!!」
「誰が?」
「隆様です!!」
「隆だと!?血迷ったか!全員叩き起こして奴を殺せ!お前も行け!!」
「はっ!!」
淳治は床の間の刀を執った。
「おのれ、隆め。血迷ったか!!」
しかしその時、背後に人の気配を感じた。
「誰だ!?」
後ろにいたのは二つの刃のある槍を持った少女、琴音だった。
「貴様も、奴に味方するのか?」
「・・・・答えてください。・・・社長は、本当に黒乃巣会という組織とつながっていらっしゃるのですか?」
「ふふふ・・・だとしたら、どうする?」
「・・・・残念ですが、あなたを・・・・」
それ以上は言わない。
「くくく・・殺せるかな?くせ者だ、出会え!!」
しかし誰もこない。
「呼んでも来ませんよ。裏口からここに来るまでに居た警備兵の方々には気の毒ですが・・・・」
「殺したのか?くくく・・・・貴様もこれで立派な犯罪者だな?」
「はい・・・・覚悟はしていました。これが、私の隆様への恩返しです!」
槍を構える。淳治も刀を抜く。
「さあ、来い。貴様から斬り刻んでやる。」

その頃、清志は・・・
ガァーーン!ガァーーン!
銃を撃って次々と警備兵を倒していく。
「ほお、なかなかやるな。小僧。」
警備隊長、島田和樹が現れた。
「小僧とは失礼な。」
島田は棍棒を手に取った。
「行くぞ!」
猛然と突進してくる島田に清志は銃を向ける。
ガァーーン!
「小癪な!!」
キィィィン!!
棍棒で銃弾を叩き落した。
「何っ!?」
バキイイィィィィィィィッ!!
「ぐわぁぁっ!?」
鈍い音が響き渡る。清志は左腕を折られてしまった。
「ははは・・・・!勝負ありだな。」
「待て!!」
隆が駆けつけた。
「清志、こいつは俺がやる。退け!」
「隆様、せっかくですが、こいつは俺が倒します。」
「バカ言うな!その腕でどうやって戦うんだ!?」
「まだ・・・右腕があります。腕一本あれば、こんな奴は・・・」
立ち上がって島田の方を向く。
「ふん。小僧、俺を倒すだと?バカバカしい。」
「へっ、俺を小僧って呼んだ奴はみんな死んでったぜ。」
「ほお、じゃあ俺が初めて生き残るわけだ。」
右手を天にかざした。
「さあ、それはどうかな?」
「ほざけ!!」
棍棒を振りかぶり、突進してくる。
「今だ!破っ!!」
右手を地面に付け、一喝した。
バシュウウゥゥゥゥッ!!
「なんだ!?」
何と庭にあった大小の石が浮き上がり、島田に向って突っ込んでいく。
「うわぁぁぁっ!!」
全弾命中。島田は倒れこんだ。
「だから言ったろ?みんな死んでったって。」
後ろにいた隆は呆けている。
(今のは・・・間違いなく戦術念動波・・・こいつにも、霊力があったのか。)
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」
島田は再び立ち上がった。
「小僧!!殺してやる!!」
そこで島田はカンフーの構えを披露した。
「はっ!どうだ!中国人から直接ならった技だ!!」
「はあ・・・・」
ため息をつき・・・
ガァーーン!!
銃を撃ち、島田の眉間に命中させた。島田は即死し、倒れた。
「関係ないね。」
しかし、次の瞬間、清志はフラッとし、倒れた。
「おい、どうした清志!!」
「なんか、血が一杯出ちゃったから・・・」
「まったく、だから俺がやるって言ったんだ。」
その時、隆は背後に人の気配を感じた。
「・・・誰だ?」
そこには長嶺がいた。
「長嶺か、貴様も兄の仲間か!」
「副社長、あなたに恨みは無いが、これは社長の命令。ここであなたを消す!」
「ふっ、そう簡単にいくかな?」
「参ります!!」
二刀を抜き、猛然と突進してくる。
隆も刀を抜き払い、突進する。
キイイィィィィン!!
凄まじい速さで斬り結ぶがなかなか技が決まらない。
「さすが、副社長。最強と謳われるだけのことはありますな。」
隆は刀を逆手に持ち、腰を低く構えた。
「御託並べてないでかかって来い。星野真剣流の真髄、しかと味あわせてやる。」
星野真剣流。それは星野家に代々伝わる門外不出の剣術。それゆえ、その太刀筋を知る者はまったく居ない。
「星野真剣流・・・・果たしていかなるものか・・・・いざ!!」
突進してくる長嶺に対し、まったく動かない隆。
「・・・・」
長嶺が刀を振りかぶったその瞬間、隆が長嶺の懐に飛び込んだ。
「なにっ!?」
「星野真剣流、星龍剣!!」
長嶺の腹を切り裂いた。
「ぐわぁぁっ!!」
そのまま長嶺は倒れ、息絶えた。
「星野真剣流は攻撃の剣術にあらず、守りの剣術なり。門外不出だからこそ、できる芸当だ。」

その頃、琴音は・・・
ザシュッ!!
右肩を斬られ、琴音は倒れた。
「他愛の無い・・・大人しく我が妻になっておれば死なずに済んだものを・・・」
「誰が・・・あなたの妻なんかに!!」
槍を執り、まだ戦おうとする。
「ふん。その体でこれ以上何が出来る?」
淳治は刀を振りかぶり、琴音の槍を叩き落した。
「小娘め、切り刻んでやる。」
ザンッ!!
背中、肩、腕など斬りまくられるが、いずれも致命傷には至らない程度に傷つけている。
「一思いには殺さん。ゆっくりとあの世に送ってやる。」
「く・・・・む、無念・・・・・」
ドガァァァァッ!!
何者かが襖を蹴破った。現れたのは隆だった。
「隆様!!」
「隆!?貴様、長嶺たちはどうした!?」
「斬って捨てたました。兄上、何ゆえ・・・何ゆえ、黒乃巣会とつるんでおられる!!」
「なぜだと?くくく・・・相変わらず鈍い奴だな。決まっているだろう、金のためだ。この会社をもっともっと大きくするためには莫大な金がかかる。その資金を得るために一番都合のいいことは何だと思う?」
「・・・戦争・・・ですか。」
「そうだ。戦争が起これば当然兵器がいる。兵器を作るには鉄がいる。その鉄を俺たちが独占契約のもとで売買すれば神崎を追い抜き、世界一の企業体になれる!それが俺の望みだ!!」
隆は刀を抜く。
「どんな事情があろうと、悪とつるむことは許されないんです!!」
「ほお、名刀、翔龍か・・・・そいつはもともとこの俺の持つ天龍と対を成す刀。お前を倒して龍神の力を得て、俺が最強の剣客となるのも悪くない。」
「最強の名が欲しければ差し上げます!だが、龍の刀は二本もいらないんです!!」
「ほざけ、行くぞ!!」
2人とも星野真剣流の使い手。腕の程はほぼ互角。
互いに手の内を知った兄弟の争いが、今始まった。
「うおおおおおぉぉぉぉっ!!」
「でやああああぁぁぁぁっ!!」
繰り出す一撃は相手に悉く阻まれ、なかなか勝負がつかない。
実に長い間斬り合った。
どれくらいの時間が経ったであろう。
2人とその場に居合わせた琴音には実に長く感じられた。
「隆、やるじゃないか。お前がこんなに強かったとは知らなかったぞ。」
「兄上こそ、かなり腕を上げられたようですな。」
2人とも肩で息をしている。かなりの疲労が溜まっている。
「そろそろ、決めるぞ。」
「時間を費やしすぎましたな、奥義であなたを葬る!!」
隆は刀を逆手に持つ。
「星龍剣か。ならば、俺はこれだ。」
刺突の構えをとる。
「星刺剣・・・か。」
徐々に間合いを詰め、互いの距離が短くなっていく。
ある距離で2人は間合いを詰めるのをやめた。
(ここだ。ここが星龍剣の間合い。これ以上踏み込めば、確実に斬られる。)
しかし、隆は意外な行動に出た。なんと自ら突っ込んできたのだ。
「なにっ!?」
ザシュッ!!
腹を切り裂かれ、夥しい量の返り血が隆に降り注ぐ。
「隆・・・貴様・・・・」
淳治は倒れた。
そして、隆もまた倒れた。淳治がとっさに突き出した刀に右肩を斬られていたのだった。
「隆様!!」
琴音は隆を抱き起こし、屋敷を出ようとする。
誰かが火を放ったのだろう。屋敷が燃え始めた。
負傷した人間を連れると速度は上がらない。徐々に背後から火が迫ってくる。
「く・・・隆様を・・・死なせるわけには・・・・」
ガチャッ!
背後でした物音に反応してゆっくりと振り向くと血だらけの淳治がいた。
「殺してやる!殺してやるぞぉぉぉぉぉっっ!!」
淳治が刀を振りかぶったその瞬間・・・
ガァーーン!!
一発の銃声が響いた。そして淳治は倒れ、息絶えた。
煙の中に人影が見える。
「誰ですか!?」
煙の中から現れたのは清志だった。
「琴音、来てたのか。ここは危ない!脱出するぞ!!」
「はい!!」
崩れ落ちる屋敷を脱出。星野淳治率いる過激派は全滅した。

それから6年後・・・照和3年 正月 高野山金剛峰寺
一人の男が禅を組んでいる。
真っ赤な髪の毛が目立つ。まるで血のように紅い。
その後ろでも一人の女性が禅を組んでいる。
本堂に清志と琴音が現れた。
「隆様・・・」
清志がそう呼んだ。
男は隆だった。5年前に淳治の返り血を頭から浴び、どういうわけかその返り血の色が髪の毛と頭皮にだけ染み込んで、何をしても色が抜けなくなった。
それを兄の怨念と受け取った隆は自ら刀を封じ、高野山に篭りきりだった。
「・・・隆さん、清志さんと琴音さんが来られましたよ。」
女性は5年前に隆が出会った女性、さゆりであった。彼女はその後、隆に好意を寄せるようになっていた。
「・・・・・・」
清志と琴音は静かに座った。
「隆様、そのままで聞いてください。俺と琴音は帝都に行きます。」
「・・・・」
隆は何も言わない。
「帝國華撃團への、入隊が正式に決まりました。花組にです。俺も琴音も、考えた末の結果です。」
「・・・・・」
琴音が泣き出しそうな声で話し始めた。
「もう2度とあえなくなるかも知れません。だから、お別れだけでもと思って・・・」
「・・・・・」
「隆様、今まで、ありがとうございました。向こうに行っても、隆様のことは忘れません。・・・・さようなら・・・・」
「・・・・・・」
清志達が席を立とうとしたその時・・・
「帰って来い。・・・・・生きて帰って来い。・・・さよならは言わない。」
隆は清志たちの方を見ることなく話した。
「・・・・はいっ!」
2人は笑顔で短く答え、出て行った。
「・・・・・あの2人・・・立派になりましたね。」
「・・・・・あいつらは死なないさ。必ず生きて戻ってくる。・・・それまでには、俺も重い腰を上げるだろうさ。」

照和3年 正月 東京駅
花組一同が駅の前で清志達を待っている。
「まだかなぁ。」
さくらが今や遅しと待っている。
「まったく、はしゃぎ過ぎじゃなくて、さくらさん?」
すみれのトゲのあるしゃべり方は相変わらずだ。
「いいじゃないの、2人一度に配属されるなんて今まで無かったことなんだから。」
「にしてもよ・・・ちょっと遅くねぇか?」
「もう来てもいい頃だと思うでーす。」
「計算だと、既に3分の遅れが出ている。」
騒ぐ花組を大神が静める。
「まあまあ、初めて東京に来る2人だから、出口がわからないんだよ、きっと。」
浩忠がクスッと笑った。
(あり得るな、清志の場合は。)
「あ!あの人かな?」
アイリスが指差した方向に一人の男と一人の女が現れた。
「ああ、間違いない。あの二人やで、写真のとおりや。」
「さあ、盛大に出迎えよう!!」
「おぉーーーっ!!」
花組は清志達の方へ走り出した。

To be continued・・・


キャスト

星野隆
  古 谷   徹

佐伯清志
  鈴 置 洋 孝

黒田琴音
  久 川   綾

神崎すみれ      マリア=タチバナ
  富 沢 美智恵     高 乃   麗
アイリス        李紅蘭
  西 原 久美子     渕 崎 ゆり子
桐嶋カンナ      ソレッタ=織姫
  田 中 真 弓     岡 本 麻 弥
レニ=ミルヒシュトラーセ
 伊 倉 一 恵


星野淳治
  磯 部   勉

長嶺卓        島田和樹
  山 寺 宏 一     郷 里 大 輔


松平浩忠       真田俊樹
  堀   秀 行     小 林 清 志


真宮寺さくら
  横 山 智 佐


米田一基
  池 田   勝

星野さゆり
  冨 永 みーな


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