星龍の大乱(前編)  作・島崎鉄馬

太正8年 福岡市
福岡城址を一人の少年が歩いている。ボロボロの服を着て、銃を一丁携えている。天守台の脇に座り込み、それから動かなくなった。まるで何かを待っているかのように・・・
彼の名は、佐伯清志。元は武家の子供である。父親は日露戦争の軍神として知られている。
「・・・・・」
数分後、一人の男が歩いてくるのが見えた。白い道着を着て、刀を一本、携えている。
「来たな!」
清志は立ち上がり、銃に弾を込めた。
「・・・・俺に用があるそうだな?」
「そうだ、星野隆!お前の命は、俺がもらう!!」
星野隆。福岡市に本社を置く、星野鉄鋼の次男。しかし、剣術、空手、柔道など、いずれの武道にも精通しており、その名は全国に知れ渡っている。
「俺を、お前がか?」
「お前を倒せば、俺の名が有名になり、生活できるようになる!」
「お前の名は?」
「俺の名は佐伯清志。」
「佐伯清志、お前はそんなに死に急ぎたいのか?よした方がいい。俺を倒せば、確かに有名になるだろう。だが、それと同時に、お前は全国の武道家に狙われることになる。そうなればお前は生きていけないはずだ。」
「そ・・・そんなことは後で考える!」
ジュウーーーーッ!!
後ろの茂みの陰から煙が出ている。見てみるとそこに黒い道着を着た剣客がいた。
「はは・・修行小屋で自炊してたのを思い出すなぁ。どうだ、お前も食わねぇか?」
「・・・ちょうどいい。」
「お?・・・その顔は俺を知っているって顔だな?」
「当然だ、松平浩忠!お前も倒せばもっと有名になれる!!」
松平浩忠。昨年、突然現れた凄腕の剣客で、二刀流の使い手。
「だがその前に腹が減っては戦は出来んぞ?ほら、食うか?」
かしわ飯を目の前に出した。
「(ゴクッ)・・・お前らを倒したら、もっと美味い物をたらふく食ってやる!」
「そうか、じゃあ約束しろ。お前が隆に負けたら、この不味そうな飯を食うってな。」
「いいとも。さあ、星野隆、抜け!!」
隆は町を見ている。
「どうしてもやるのか?」
「当たり前だ。こっちを向け!後ろからは撃ちたくない!!」
「・・・・・」
隆は振り向き、刀を抜いた。
「勝負だ!!」
互いに睨み合う。
「・・・・・」
隆のほうは実に落ち着いている。徐々に間合いを詰めていく。
「・・・・くっ!」
ガアァァァァンッ!!
清志が発砲。しかし、隆は弾を刀ではじき、清志に突進してくる。
「なっ!?」
ガキイイィィィィッ!!
銃を叩き落され、清志は丸腰になった。
「ま・・・負けた・・・・」
隆は刀を納めた。
「さあ、約束だ。食え。」
浩忠が清志にかしわ飯を差し出す。
「・・・・・くそぉっ!!」
やけ食いし始めた。
「どうだ、美味いか?」
「まあまあだね。」
「言うじゃねえか、こいつめ。」
隆は銃を拾い上げ、菊の紋章が付いているのを見た。
「お前の父親は、軍人か?」
「うん、佐伯っていって、結構有名だったらしいんだ。」
「佐伯・・・どっかで聞いたような・・・おい浩忠、お前知らないか?」
浩忠は帝國海軍の中佐である。
「ああ・・・知ってる。日露戦争の旅順要塞の爆破に失敗した腕利きの工作員だったと聞いている。」
「失敗じゃないやい!裏切りにあったんだい!」
「裏切り?」
清は懐から1枚の写真を出した。そこには軍服を着た男が5人居る。
「左から2番目が親父さ。で、右端に居る奴、名前はたしか小寺雄二って言ってた。そいつが要塞爆破の時に裏切ったんだ。仲間4人を殺して、自分はどこかへ行っちまいやがった。」
浩忠は写真を返した。
「・・・・・で、こいつを見つけたらどうする?」
「殺すに決まってるだろ!」
「やめとけ、小寺雄二はあらゆる戦術に秀でていて今は犯罪マフィアに属しているという話だ。お前の勝てる相手じゃない。俺たちでも勝てるかどうか・・・」
「それでも、俺は・・・・」
「・・・・・なあ、清志。この際どうだ?ウチに来て修行するってのは?」
「えっ!?俺を星野家に?」
「小寺雄二を倒すにはかなりの修行を積まないとダメだ。俺は射撃以外の戦術は得意だ。俺が教えてやる。行く当てがあるならいいが。強制はしない。」
「・・・・」
しばらく考え込んでいたが・・・
「やる!俺、絶対強くなる!!」
「そうか。しかしかなり厳しいぞ?」
「覚悟してる!」
「よし、決まりだ!浩忠、いいか?」
「俺に聞くな。だがお前も相当の物好きだな。」
「ははは・・・そうかも知れんな。だが、こいつは特別な子だ。」

同時刻 帝都・東京
1機の飛行船が帝都上空を飛んでいる。街並みは大半が破壊されていて市街地の復興が始まっている。
飛行船の船室に2人の男がいる。1人は賢人機関の花小路頼恒伯爵。そしてもう1人は帝国陸軍中将、米田一基。
「ようやく、帝都も復興の兆しが見えてきた。」
花小路は窓から帝都を見下ろしている。
「昨年までの忌まわしい出来事が嘘のようですな。」
米田は資料に目を通している。1冊読み終え、次の資料に目をやると、米田は驚いた。
「・・・これは!?」
資料には『零號計画発案書』と記されている。
「驚くのも無理は無い。だが内容は確かなものだ。」
「やはり・・・しかし、俺は・・・」
「君の言いたいことはわかる。だがね、米田君。あれですべてが終わったわけではない。」
「・・・・・」
米田は煙草に火を点け、一服した。
「わかりましたよ。とにかく、もう1度計画を練り直そう。何と言っても零號計画は実現させなきゃならんのだから。」
零號計画・・・それはまったく新しい構想で、陸海軍のいずれにも属さない特殊部隊、即ち帝國華撃團の結成である。己の霊力と蒸気エンジンの力で動く鋼鉄の鎧、霊子甲冑をまとい、悪と戦う戦闘部隊である。

その間、米田の部下である藤枝あやめ少佐は福岡へと赴き、星野家を訪ねた。
「やあ、お久しぶりです少佐。」
「本当に久しぶりね、隆君。」
2人は以前にも米田を通じて何度か会っている。
「あなたに頼みがあるの。今、帝都ではある特殊部隊の結成が準備されていて、今、私たちは高い霊力を持った人材を捜しているの。」
「それで、俺にどうしろと?」
「黒田誠二に、取り次いでもらいたいの。」
「黒田誠二を入れるのですか?」
「まさか・・・入れたいのはその娘。黒田琴音の方よ。」
「じょ、女性を戦わせるつもりですか!?」
「ああ・・・賢人機関の調査ファイルによると、強い霊力を持つのは、男性よりもむしろ女性の方が多いわ。」
「しかし・・・だからといって、女性を戦わせるなんて・・・ましてや琴音ちゃんはまだ子供ですよ?」
「リストの中で最も年齢が低いのは、仏蘭西の娘。まだ6歳よ。」
「しかし・・・だからといって・・・」
「とにかく、こんなことを頼めるのはあなたぐらいなの。お願い、協力して。」
あやめは深深と頭を下げた。
「わかりました。あやめさんにそこまで頼まれちゃぁ。」
「ありがとう、隆君!」

2人は早速黒田家を訪れた。
黒田家は代々武家の名門でかなり格式の高い家である。
2人は早速本題に入り、琴音の入隊を要請した。
無論、答えはNO。結局2時間近く粘ったが黒田政治は首を縦に振らなかった。
「はあ・・・やっぱり無駄でしたか。」
「・・・でも、あの子の力は是非とも欲しいわ。即戦力として申し分ないわ。」
「しかし少佐。あの子は根っからの喧嘩嫌いですよ。あの子に戦いを強制するのはどうかと・・・・」
「・・・・今は・・・そういうことにこだわってる場合じゃないの。事態は急を要するわ。」
「まだ粘りますか?」
「いいえ、私はいまから中国へ発ちます。」
「そうですか。じゃあ、お気をつけて。」
「ええ、今日はありがとう。」
2人は家の前で別れた。

太正10年 大晦日
星野家に居候した清志は毎日鍛錬を重ねていた。
朝起きてすぐランニングで始まる。朝食後にウェイトトレーニング。そして剣の素振り。昼食後は水泳、射撃。夕食後は軽いトレーニングとマッサージ。これを毎日繰り返す。
ある日、浩忠が星野家を訪れた。
「よく来たな。」
「ちょっと果し合いをしに熊本に行った帰りだ。」
「そうか。相変わらずだな、お前は。」
「相変わらずって言えば、お前もまだあいつを飼っているのか?」
「清志か。あいつは凄い奴だ。どんどん力を付けてきている。将来が楽しみだ。」
「まったくお前は、飼育するのが得意だな。」
隆は根っからの自然愛好家で、捨て犬や捨て猫を見つけては拾ってきて飼っている。
「ところで、お前も帝國華撃團に入るそうだな。」
「ああ。米田中将に土下座されてな。断れなくなっちまったんだ。」
「大丈夫なのか?さくらさんと一緒になるんだろ?」
「それは心配ない。さくらとはまったく違う部署でな、隠密行動部隊に配属されることになった。」
松平浩忠の正体は帝国陸軍隊降魔部隊に所属していた真宮寺一馬大佐の息子、真宮寺鉄馬である。しかし真宮寺家から家出したため現在は松平浩忠と名を改めている。
彼にはさくらという妹が居る。米田はさくらを帝國華撃團に入れることを決め、後数年の内に入隊する予定となっていた。
「お前も大変だな。色々と・・・」
「まあな。」
2人は茶をすすった。

その夜 帝都・東京 上野寛永寺
一人の男が蔵の中に忍び込んだ。蒼い着物を着て、髪は銀髪。目は冷たく細い。男の名は山崎真之介。
「・・・徳川の世が残せし遺産も、そろそろ目覚めの時・・・フフフ・・・・」
蔵の中には異形の巨大な人形が並んでいた。

太正11年 春
藤枝あやめは再び黒田政治のもとを訪れた。
今回も交渉はなかなか思うように行かない。
その庭先では・・・
「あ〜あ・・・外に出たいなぁ。・・・よーしっ!」
駆け出した女の子の名は黒田琴音。
まさに籠の中の鳥の如く育てられたような感じの少女で、大人しそうな雰囲気をかもし出している。
木の枝から塀を乗り越え、飛び降りた。
「やった!さあ、遊びに行こうっと。」
しかし、黒田家は相当の金持ち。当然、その財産を狙う輩は大勢居る。
ガバッ!!
「むぐぅっ!?」
突然背後から何者かに口を塞がれ、車に乗せられてしまった。
そこを偶然、ランニング中の清志が通りかかった。
「おい!そこで何してる!!」
「あ?ガキは引っ込んでろ!!」
「ガキだと?ふざけるなぁっ!!」
清志は誘拐犯に突っ込んでいく。
「ガキの分際で!!」
ドガアアァァァッ!!
殴られたのは誘拐犯だった。
清志は毎日のトレーニングを欠かさず行っていたため、格闘センスが格段に上がっていた。
「なっ?この野郎!!」
「はっ!!」
バキィィィッ!!
飛び蹴りが炸裂。一撃で倒れた。
「おっと、そこまでだ。」
誘拐犯のボスが銃を琴音に突きつけている。
「動くとこの可愛いお嬢さんに風穴が開くぜ。」
「構わないで、逃げてください!!」
「おめぇは黙ってろ!!」
ドカッ!
クビの後ろを叩かれ琴音は気絶した。
「さあて、どうする?」
「・・・ちっ。」
両手を上げた。
「よしよし、いい子だ。だが、部下2人をやった落とし前はつけさせてもらうぜ。」
ガアァァァン!!
清志の左足に命中。
「ぐああぁぁっ!!」
「いい気なものだ。英雄気取りでしゃしゃり出てこなければ死なずに済んだものを・・・」
ガアァァァン!!
今度は右肩に命中。
「一思いには殺さん。ゆっくりと地獄に送ってやる。」
「く・・・」
と、その時・・・
ザシュウゥゥッ!!
白刃が誘拐犯の体を斬り裂いた。
「大丈夫か!清志!!」
隆とあやめが駆けつけていた。
「あまり・・大丈夫じゃ・・・・」
バタッ
そのまま倒れこんだ。傷口からどんどん血が溢れている。
「すぐに医者へ!」

清志と琴音は近くの病院へ搬送された。
琴音のほうはすぐに意識が戻り、処置は特に施されなかったが、清志は意識不明の上、血が不足したため、手術は長引いた。しかし、かろうじて一命は取り留めた。
「どうですか?」
「大丈夫ですが、しばらく入院が必要です。では・・・」
琴音が心配そうに話し掛けてきた。
「あの・・・会えますか?」
「え?あ、ああ、大丈夫だけど・・・」
「あの・・・2人で話したいことがあるので。」
「ああ、いいよ。じゃあ。」
隆とあやめは出て行った。
「・・・・・」
琴音は清志をじーっと見る。
「ごめんなさい・・・・私が家を飛び出したばかりに・・・・あんなに出ちゃダメって言われてたのに・・・」
「・・・・・気にするな。・・・あんたのせいじゃない。俺が勝手にしゃしゃり出てこうなったんだ。自業自得さ。」
「・・・・・」

隆は一旦自宅へ戻ることにした。
その途中・・・
「星野鉄鋼、星野隆殿とお見受けした。」
「・・・・誰だ?」
闇の中から一人の忍者が現れた。
「・・・・死んでもらう・・・」
二刀を抜く。
「やれやれ・・・争いは好まないのだが、降りかかる火の粉は払わねばなるまい・・・」
隆も刀を抜く。
「行くぞ!!」
忍者は空高く舞い上がり、剣に斬りかかる。
「やああぁぁぁぁっ!!」
ザンッ!!
一刀両断。忍者は斬られ、周囲に鮮血が飛び散った。
「・・・・・」
バタンッ!
「誰だ!?」
女性が一人倒れている。
「・・・・失神したか・・・まあ、この血を見れば無理も無いか。」
隆は女性を抱きかかえ、自宅へ連れ帰った。


To be continued・・・


キャスト

星野隆
  古 谷   徹

佐伯清志
  鈴 置 洋 孝

黒田琴音
  久 川   綾

黒田政治       花小路頼恒
  羽佐間 道 夫     北 村 弘 一
誘拐犯
  千 葉 一 伸     三 木 眞一郎
  島 田   敏

藤枝あやめ
  折 笠   愛

忍者
  一 条 和 矢


米田一基
  池 田   勝


松平浩忠
  堀   秀 行


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