大神一郎暗殺計画(後編)  作・島崎鉄馬

太正十二年 晩夏
大神一郎は帝都に仇なす秘密結社、黒乃巣会によって拉致された。花組隊長として、部下や上司に厚い信頼を置かれていた彼の欠落は花組隊員に大きな精神的ダメージを与えた。

その日、米田は作戦指令室に全員を集めて大神のことを話した。
「・・・・・・」
誰一人として口を開かない。
大神が敵に捕まった以上、無事な姿で戻ってくることはあり得ない。最悪の場合、殺されてしまうことも考えられる。
「・・申し訳ない!・・・俺たちが至らなかったばかりに・・・」
加山が土下座して隊員たちに謝る。
「よせ、加山。お前一人のせいじゃない。俺たち4人の責任だ。」
浩忠の言葉にマリアが反論する。
「あなたがただけの責任ではありません。私たちにも責任はあります!」
「・・・・普通ならそうだろうが、今回はそうじゃない。」
「・・・どういう意味ですか?」
「・・・・・・」
浩忠は話す前に米田の顔を見た。米田は小さくうなづいた。
「・・・・俺たちが花組に転属してきた本当の理由は、大神一郎暗殺計画の阻止にあった。」
「えっ!?」
隊員たちはどよめいた。彼らは今日のことを知っていたということなのだから。
「どういうことですの?あなた方は、少尉が狙われていることをご存知でしたの?」
「その通りだ、すみれ。」
「では、知っていたにもかかわらず、あなた方はなぜ、少尉を守れなかったのですか!?」
「こちらがあれほど無力だとは思わなかったからだ。ましてや神龍が全滅するなど・・・」
ビィーーーッ!ビィーーーッ!
通信が入った。
「外部より入電。拡大スピーカーに切り替えます。」
椿は通信をスピーカーにつないだ。
『帝撃へ。大神一郎は我々が捕らえた。彼は現在、裁判を受けている。判決は言うまでもあるまい、死刑だ。執行は明日となる。遺体はそちらに届けてやろう。ククク・・・・』
天海の声だった。
「くそっ!」
加山が上着を着て出て行こうとするが・・・
「加山、何処へ行く?やたらに動いて大神を救えるのか?」
米田の言葉に加山は・・・
「・・・・くそぉぉっ!!」
ドガアアァァッ!
壁を思い切り殴り、ふて腐れたように座った。
「逆探知できたか?」
「ダメです。通信が短すぎます。」
「・・・・仕方ない。花組隊員はこれより別命あるまで待機せよ。」
「了解。」
隊員たちは自室へ戻っていった。
浩忠だけは残って霊子レーダーをじっと見ている。
「浩忠、お前も休め。疲れたろう。」
「・・・・俺は別に疲れてはいません。大神を守れなかったのは自分の落ち度ゆえです。休んでる場合じゃありません。」
「成る程・・・誰かに似ている。」
「・・・・・」
カタッ・・・
入口付近で物音がした。2人とも振り向くと加山がいた。
「加山か・・・物音を立てるようじゃ、諜報活動はできんぞ?」
「で?・・何しに来たんだ?」
加山は恐る恐る口を開いた。
「中佐・・・教えて下さい。中佐は・・・中佐の正体は一体、何なんですか?」
「・・・・・」
浩忠は黙っている。米田もうつむいている。
「・・・・そうだな、お前なら話しても差し支えあるまい。俺の本当の名は真宮寺鉄馬。さくらの・・・兄だ。」

明冶34年 12月11日
真宮寺家で一人の赤ん坊が産声を上げた。赤ん坊の名は真宮寺鉄馬と名づけられた。(同じ名前の人物が分家である広瀬真宮寺家にいるが、それは真宮寺一馬の弟。)
しかしこの赤ん坊、実は母親の真宮寺若菜が突然身ごもって生まれたのだ。いわゆる処女懐胎である。にも関わらず、この子の顔には父、一馬の面影が覗える。神からの授かりものと解釈して大切に育てられた。
5歳の時に八甲田山に住む北辰一刀流の剣客、伊達義明のもとへ預けられ、修行を積んだ。その類稀なるセンスで腕を磨き、父一馬ですら使いこなせなかった技をも会得した。
早いうちから軍に入隊。そこでもトントン拍子に出世、最年少陸軍少尉となった。
太正6年末、米田一基の呼びかけで結成された陸軍対降魔部隊に見習いとして配属された。
そんなある日、鉄馬は父一馬と大喧嘩をした。
「よいか、鉄馬。私に万一のことがあれば、母さんやさくらたちを頼む。」
「何ですか、だしぬけに・・・縁起でもない。」
「この戦いで、私は命を落とすやも知れん。そうなれば、お前しか破邪の力を使えるものがいなくなるのだ。私が死ねば、今度はお前がさくらに破邪の力の使い方を教えろ。」
「・・・・・・」
「我が家は破邪の血統を継ぐ、裏御三家の末裔。お前も自らの命を絶たなければならない日がやってくるだろう。」
「そんな・・・・なぜ、なぜ俺たちだけが命を絶たなければならないのですか!?俺はそんなことのために生まれてきたんじゃない!!」
「鉄馬・・・お前にもいずれわかる日が来る。」
「わかりたくもない!そんな敗北の意味など!」
鉄馬は顔を真っ赤にして怒っている。
「敗北ではない。私たちが死に、悪を封じることによって多くの人々の命が救われるのだ。」
「違う!自分の命を落として勝つことなどあり得ない!そんな勝利に、何の意味がある!」
「鉄馬!これは我が真宮寺の家に生まれし者の宿命なのだ!!」
一馬が珍しく怒り出した。
「宿命など関係ない!!俺の人生は、俺が決める!!失礼します!!」
バタンッ!!
鉄馬はドアを強く閉めて出て行った。
一馬は机の上にある写真を見た。
さくらと鉄馬が遊んでいる姿が写っている。
「鉄馬・・・お前にもいつか必ずわかる・・・必ず・・・・」

そして、太正7年1月・・・・
ビイィーーーッ!ビイィーーーッ!
帝都中に警報が鳴り響いた。
ドゴオオオオォォォォォォォッ!!
地中から異形の生物が姿を現した。
漆黒の胴、鋭い牙、堅い皮膚、長い尻尾、そして巨大な翼。降魔と呼ばれる魔物である。
対降魔部隊は直ちに出動した。
しかし、数百匹の降魔を相手にたった5人で戦うには限界がある。隊の一人である山崎真之介少佐がかねてより霊子甲冑、光武の製造を提案していたが却下されたため、苦戦する破目になった。皮肉にも、降魔の手によって山崎の考えの正当性が立証されたのだ。
「くそったれ!!」
米田はその言葉を繰り返し吐き続けている。
既に体力も疲労も限界に近い。なのに降魔は一行に減らない。
「キリがありません!」
唯一の女性隊員である藤枝あやめは山崎と共に行動している。
「しかし、やるしか・・・霊子甲冑さえあれば、こんな雑魚どもに・・・・」
山崎の怒りは頂点に達している。
一馬は鉄馬と行動しているが、鉄馬は玉砕覚悟で敵陣に突撃していくため、一馬が援護する形になってしまっている。
「鉄馬!少しは退け!!」
「退いた所で何になりますか!?こいつらを倒すには突撃あるのみ!!」
「私が言いたいのはそういうことじゃない!深追いは命取りになる!今お前を失うわけにはいかんのだ!!」
ザシュウウウゥゥゥッ!!
2人は喧嘩しながら次々と降魔を倒していく。
と、そのとき・・・
ガアアアアアアァァァァァァァァァッ!!!!
一匹の降魔の咆哮が響き渡った。
するとそれに反応したかのように数百もの降魔が一斉に一箇所に集まり、そして融合して一匹の巨大降魔に変態した。
「な・・・バカな!!」
「あんな巨大な降魔を・・・」
鉄馬とあやめは怯んでいるが米田が喝を入れる。
「怯むな!今こそ俺たちの霊力を最大に高めろ!!」
一馬、米田、あやめ、山崎の4人は刀剣を重ね合わせた。
「神形霊鳥、無形光神!!二剣二刀!!」
4人の霊力が一つの光弾となった。
グオオオオォォォォォォォォッ!!
降魔もそれに気付き、口から霊力波を発射した。
ドゴオオオオオオオオオォォォォォォォォォッ!!
吹き飛ばされたのは米田達だった。二剣二刀の儀は失敗に終わった。

万策尽きた一馬は陸軍の倉庫から伝説の祭器、魔神器を持ち出した。
「鉄馬、これを・・・」
霊剣荒鷹を手渡した。
「・・・父上?・・・まさか!!」
「・・・さらばだ!!」
一馬は降魔に向って走り出した。
「父上ぇぇぇっ!!だから・・・だから俺はあなたが嫌いなんだ!!」
一馬は既に煙の向こうに消えていた。そして・・・
「闇より出でし者よ、闇へ還れ!!」
凄まじい光と爆風が巻き起こった。巨大降魔は光に飲み込まれていった。
真宮寺一馬は魔神器を使用したため、その数ヵ月後に命を落とした。そして、真宮寺鉄馬、山崎真之介の2人は降魔戦争終結直後に失踪した。

「そして俺は、東京の松平家に身を寄せ、名を松平浩忠に改めた。その事を知っているのは、俺と米田司令、藤枝副司令。真田と伊達だけだった。」
「じゃあ、さくら隊員もそのことを知らないのですか。」
「・・・・そうだ。加山、お前だから話したんだ。いいな?今の話、絶対に他言無用だぞ。」
「はい、わかりました。失礼します。」
加山は出て行った。
「・・・・浩忠、すまんがあいつらの様子を見てきてくれないか。あいつら、努めて明るく振舞ってはいるが、内心そうはいかないだろう。」
「はい。では行ってきます。」

光武の格納庫に行くと紅蘭が光武の整備をしていた。
「やっぱりここか。」
「ん?浩忠はんかいな。何か用ですか?」
「いや、用という用ではないんだが・・・」
「わかってます。みんなの様子を見て回ってんのやろ?」
浩忠はキョトンとした表情になった。
「何で、わかった?」
「顔に書いてあるで。ホンマにわかりやすい人やなぁ。」
「そうか・・・お前は元気だな。」
「この子らの相手しとったら、自然と元気が出てくるんや。」
「・・・・大神の光武も直しているのか・・・」
紅蘭の顔から笑顔が消えた。
「大神はんはこれくらいのことじゃ死なへん。きっとここに、無事な姿で帰ってくる。そう思うんや。」
「そうか・・・」
「ウチのことは、ええからね。他のみんなの様子も見たってや。」
「ああ、そうする。」
「あ、せや。浩忠はん達の神龍やけどな、ちょっと今夜中に修理は無理やわぁ。」
「わかった、じゃあな。」

射撃場にはマリアがいた。
一体銃を何発撃ったのか。床には空薬莢が散乱している。
部屋の隅にマリアは座り込んでいた。
「・・・・撃ちまくったな、マリア。」
「中佐・・・」
「何を考えていた?的にちっとも当たっていないぞ。」
「・・・・・。隊長のことを考えていました。不思議ですね。こんな気持ちのときは的がうんと遠くにあるように見えるんですよ。何発撃っても全く当たらないんです。」
「そうか・・・」
浩忠は射撃場の銃を執った。
「わかるぜ。俺にも同じことがあった。親父が死んでから数日、ひたすら藁を斬った。だが、いくら斬ろうとしても刃が通らない。」
「・・・・それから、どうしたんですか?」
「・・・斬るのをやめた。」
「えっ?」
「そんな時ってな、何やってもダメなんだ。だから何もしないで休む。そうすると、ある日突然また斬れるようになった。まあ、要は気の持ち方だと、俺は思うぜ。」
ガアァァァンッ!!
銃を一発撃った。的のど真ん中に命中した。
「な?」
「そうですね。落ち込んでどうなるわけでもありませんからね。ありがとうございます、中佐。気が晴れました。」
「よし、じゃあ、俺は行く。」

食堂に行くとカンナがいた。
「よく食うな。」
「ん?・・・中佐か。食ってくかい?」
「遠慮しとくよ。お前はいつも元気だな?」
「・・・・カラ元気だよ。」
一瞬暗い空気が流れた。
「・・・・まあ、あたいは心配無用だよ。」
「ふっ、そのようだな。」
「なんか・・励ましてもらうのは苦手だしな。かえって元気なくしそうな気がするからな。」
「じゃあ、俺は行く。しっかり食っとけ、いつ出番が来てもいいようにな。」
「あいよ!」
浩忠はその場を去った。
(こういうときは、あいつの存在が有り難いな。)

サロンに行くとすみれが紅茶を飲んでいた。しかし、考え事をしていたのか、茶はすっかり冷めてしまっている。
「茶が冷めてるぞ、すみれ。」
「え?あ、あら、中佐・・・いつからそこにいらして?」
「今し方だが、気付かなかったのか?」
「い・・・いえ、そのようなことは・・・」
すみれは動揺を隠せないでいる。
「大神のことが、気になるのか?」
「ば、バカなことをおっしゃらないで下さいな!どうしてわたくしが心配など!」
「よし、それでいい。」
浩忠の答えにすみれは「えっ」という表情になった。
「お前のいい所はその気の強さだ。そう大神が言っていた。」
浩忠はそう言って去って行った。
すみれは冷めきった紅茶を一気に飲み干した。
(少尉・・・・わたくしは・・・・)

テラスに行くとアイリスとさくらがいた。
(アイリス・・・さくら・・・)
「ほら、アイリス。泣いてないで、元気出して、ね?」
アイリスは泣くのを我慢しているが後から後から涙が溢れてきている。
「だって・・・だって・・・」
浩忠はドアの陰に隠れて見ている。
「・・・・。あなたの笑顔はね、大神さんを元気にする一番の薬なんだから、いつも笑顔でいなきゃ。そしたら大神さんはすぐに帰ってくるわ。」
「・・・・・ホント?」
「ホントよ。だからもう泣かないのよ。ね?」
「うん・・・もう泣かない・・・」
「さあ、もう遅いから、今日はもうお休み。」
笑顔を作り、戻っていく。
「うん。ありがとう、さくら。」
アイリスは浩忠の前で立ち止まった。
「・・・・・」
「・・・・・」
2人の仲は悪い。最初に会った時は口を利いたがそれ以後、浩忠がアイリスを子供扱いしてしまったことがきっかけで、今ではまったく口を利かない。
「・・・・・」
アイリスは何も言わずに走り去っていった。
「・・・・・」
浩忠はそれを黙って見送る。
「誰かそこにいるんですか?」
さくらが浩忠に気付いた。
「・・松平さん。」
「さくら・・・・一つ聞いときたかった。どうしていつも笑っていられるんだ?」
「・・・・・。松平さんや大神さん、花組のみんながいつも側にいてくれるからだと思います。多分、昔のままのあたしだったら、泣いていたと思います。父や兄がいなくなった日のように・・・」
「・・・・・」
「でも、あたし・・・決めたんです。もう泣かないって・・・兄に一人前の人間と認めてもらうまで・・・泣かずに、強く生きるって・・・決めたのに・・・・・・」
「・・・・さくら?」
さくらの目には涙が溢れている。
「もう・・・泣かないって、決めたのに・・・涙なんか・・・流しちゃ・・・いけないのに!・・・」
さくらは涙を拭うがどんどん涙が溢れてくる。
「・・・さくら。」
浩忠はさくらを強く抱き締めた。
「いいんだ、さくら。人にはどうしても泣きたくなる時がある。泣くことは良心の証明だ。やたら泣くのはよくないが。・・・だが・・・お前はもう一人前の人間だ。俺が許す・・・・今は・・・・泣いていい・・・」
「う・・・うぅ・・・わあああああぁぁぁぁぁっ!!」
さくらはまるで子供のように泣いた。


同じ頃、日本橋地下 黒乃巣会本部
「・・・・黒乃巣会最高幹部たちの判決を伝える。被告人は起立せよ。」
天海、叉丹らが壇上にいる。その視線の先には鎖に繋がれた大神の姿があった。
「帝國華撃團花組隊長、大神一郎に死刑を宣告する。執行は明日。上野公園で行う。何か申し立てはないか?」
「・・・・。一つだけ言わせてもらう。こんなことを神が許すと思うなよ。俺を処刑しても、やがては俺の遺志を継いだ者達が立ち上がり、貴様らを・・・八つ裂きにするだろう!」
大神はそういって出て行った。

翌朝 さくらの部屋
一晩中泣きつづけたさくらは泣きつかれてベッドで眠っている。その横にはずっと付いていた浩忠が仮眠していた。
「・・・・・。ん・・・朝か・・・」
さくらの寝顔を見た。
涼しい顔をして眠っている。
(さくら・・・俺は1日たりとてお前を忘れたことはない。お前は俺の大切な宝物なのだからな。お前の大切な大神は必ず俺が連れ戻す。死なせるわけにはいかない!)
ドアを閉め、出て行った。

数時間後 上野公園
人影はまったく見当たらない。その中に大神や叉丹達の姿が突然現れた。
「・・・・・。2つ頼みがある。」
「・・・言ってみろ。」
「相棒に別れを言いたい。」
「ふん、よかろう。」
帝劇に電話をかけた。
かすみが電話に出た。
「はい、大帝国劇場です。・・・はい、いらっしゃいます。どちら様ですか?はい・・・わかりました。少々お待ちください。」
浩忠は支配人室で米田と話をしていた。
「浩忠さん、お電話です。」
「俺に?・・誰から?」
「山崎と言えば、おわかりになるとか・・・」
「山崎?・・・まさか!?」
拡声器を通して電話に出た。
『フフフ・・・鉄馬。大神一郎がお前に別れを言いたいそうだ。』
「何だと!?」
『・・・浩忠、運命って皮肉だよな。俺にとってはじまりの場所で処刑されるなんてよ。後のことはよろしく頼むぞ。』
プーーッ、プーーッ
切れてしまった。
「ダメだ!これじゃ、どこにいるのかわからん!!」
「・・・・・」
浩忠が何か考え込んでいる。
「俺にとってはじまりの場所?・・・・・。司令、大神は上野公園です。」
「よし、全員緊急出動だ!!」
「了解!!」

浩忠、真田、伊達の3人は車に乗って出動。加山はバイクに乗って行く。花組の隊員たちは轟雷号に乗り込んでいく。
「乗ったか?」
「ああ、いいぜ。」
「よし、行くぞ!!」
ブオオオオォォォォォォォォン!ブロロロロロ・・・・
物凄いスピードで発車した。
ブロロロロロ・・・・
その後方から黒い車が発車した。
ミラーに車が映る。
「あらららら?お早いお着きで。」
通信機を執った。
「加山、追っ手がかかった。黒の蒸気自動車だ。」
『了解。』
真田は槍を組み立てている。
「さぁて、おもしろくなってきやがった。」
「飛ばすぞ!!」
ダッシュをかけて突き放していく。
追っ手も何とか食らい付いてきている。
「ほう、やるな。」
「テツ、前を見ろ。」
前の交差点から加山の乗ったバイクが曲がってきた。
「お、来たな。暴走族め。」
キイイイイィィィィィッ!!
右に寄せ、追っ手の正面に加山が出た。
「行くぞ!!」
ガアァァァァン!!ガアァァァァン!!
手放し運転しながらショットガンを撃つ。
キイイイィィィィィィッ!!ドガアアアアアァァァァァッ!!
車は横転し、爆発した。

その頃、大神は・・・
「もう一つの頼みは何だ?」
「一服吸いたい。」
「いいだろう、味わってすえ。」
「ああ、そうさせてもらうよ。」
(中佐・・・みんな・・・早く着てくれ)

花組は光武を轟雷号に積み終え、ようやく発進しようとしていた。
『光武運搬車、連結完了。轟雷号、射出口へ。』
ゴゴゴゴゴ・・・・
線路が一気に上へ傾く。とてつもない重量の列車を乗せて。
『射出用意良し。轟雷号、発車!!』
バシュッ!
轟雷号を支えていたクランプが外された。
ゴオオオオオオオォォォォォォォォッ!!
凄まじい速度で急降下。一気に加速がつき、上野へ向っていった。

大神はとうとう煙草を吸い終えてしまった。
「時間だ。縄をほどけ。」
縄を解かれた。
「町に向って歩け。」
「・・・・・」
大神はゆっくり歩き出した。
修羅が銃を構えて狙う。
と、そのとき・・・
ブロロロロ・・・・
車のエンジンの音が聞こえた。
「来た!」
大神は走り出した。
「逃がさん!!」
まさに修羅が引き金を引こうとしたそのとき・・・
ガアアァァァァン!!・・・・キィィィン!
一発の銃声とともに修羅の銃が弾き飛ばされた。
「なっ!?誰だ!!」
ブロロロロロロロロロ・・・・・
車とバイクが近づいてくる。
「居たぞ!大神、走れ!!」
修羅は真っ赤になって怒った。
「おのれ、松平浩忠め!!かかれぇっ!!」
地中から脇侍が現れた。
「行くぞ!!」
車から真田と伊達が飛び降り、着地するまでに一体ずつ倒した。
キイイイイイィィィィィッ!!
車を止め、大神と合流した。
「大丈夫か、大神!」
「はい、ありがとうございます、中佐!」
「礼には及ばん!これが俺たちの任務だからな。」
大神に銃と弾を渡した。
「行くぞ、ここからは自分の身は自分で守れ。」
「はい!」
2人とも突撃した。
ガアアァァァァン!!
加山の銃撃は的確に敵を倒していく。
「やあああぁぁぁぁっ!!」
ザンッ!!
伊達も次々と脇侍を斬っていく。
「そりゃああぁぁぁっ!!」
ズンッ!!
真田の槍は鋭く、いとも簡単に脇侍を貫く。
「うおおおおおぉぉぉぉっ!!」
ザシュウゥッ!!
浩忠の二刀が脇侍の両腕を斬った。
ガアァァァン!!ガアァァァン!!
大神の銃撃で止めを刺す。
「これで最後です!」
「よし、観念しろ!修羅!!」
しかし、修羅は余裕ぶっている。
「ククク・・・貴様ら、今度ばかりは助からんぞ。出でよ!!」
地面から金色の脇侍、親衛隊が現れた。
「くそ!またこいつらか!!」
既に取り囲まれてしまった。
「さあ、どうする?霊子甲冑も無しにこの親衛隊6機とどう戦う?かかれ!!」
ドゴオオオオオオオオォォォォォォォォッ!!
何と親衛隊が全機爆発した。
「何っ!?」
煙の中から桜、紫、黒、緑、黄、赤色の霊子甲冑が現れた。
「帝國華撃團、花組、見参!!」
「間に合ったか・・・」
さくらが拡声器で話し掛けてきた。
『大丈夫ですか!?みなさん!!』
「さくらくん、こっちは全員無事だ!!」
『少尉、やはりこのわたくしと少尉が居なければ、花組は機能いたしませんわ。』
『おいおい、また勝手な事言ってんじゃねぇ!』
すみれとカンナはこういう時でも喧嘩する。
「2人とも、今は喧嘩してる場合じゃない!敵の撃滅に集中するんだ!!」
『大神はんの光武もちゃんと持ってきてるよって、早よ合流してや!!』
『この場は私たちが引き受けます!』
「紅蘭、マリア・・・ありがとう!」
『お兄ちゃん!アイリスも、戦うよ!!お兄ちゃんを守るために!!』
「アイリス・・・・よし!わかった!!」
浩忠は黙って大神の様子を見ていた。
(さすがだな、大神。花組がまとまった理由がわかったぜ。花組の隊長は、お前にしか務まらねぇ。)
ゴゴゴゴゴゴ・・・・・
突然、地震が起こった。
「な、何だ!?」
「あ、あれは何だ!?」
カンナが指した方向では修羅が金色の光を放っている。
「許さん!!貴様ら絶対に許さん!!」
光が一つの球体になり、天高く上がったかと思うと一気に花組目掛けて急降下してきた。
「いかん!みんな避けろ!!」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォッ!!!!
「うわああぁぁぁぁぁっ!!」
「きゃああぁぁぁぁぁっ!!」
凄まじい爆風が巻き起こり、光武や大神達は吹き飛ばされた。
風がおさまり、修羅が高らかに笑った。
「ハハハ・・・・・!!見たか!これが俺の力だ!!」
「くそ・・・・まだまだ・・・・」
大神が立ち上がり、銃を構える。
「ほう、生身でよく立ち上がれたな。」
「お・・俺たちは負けない!絶対に負けない!!例えここで命尽きようと、それで多くの人々の命が助かるなら!!」
「!!」
浩忠ははっとなった。父、一馬の言葉と同じ内容の言葉を大神が叫んだのだ。
「・・・大神・・・」
立ち上がろうとするが、左足と右腕が負傷していて思うように立てない。
ガアアァァン!ガアアァァン!
大神が銃を撃つが修羅はそれを避け、巨大な鋼球を大神に投げつけてきた。
「死ね、大神ぃぃっ!!」
もうだめか・・・大神は目を閉じた。
ガキイイイイイィィィィィィィッ!!
鈍い音が響き渡った。しかし、大神には何のダメージも襲ってこなかった。
(何だ?・・・俺は死んだのか?)
目を開けてみると目の前には桜色の光武の姿があった。
「さくらくん!?」
さくらは既に重傷を負っていながら大神をかばうために鋼球を受けたのだ。
ガシャアァァァン!!
桜の光武は後ろに倒れた。
「さくらくん!!」
大神は光武に駆け寄った。
光武の前面の装甲が完全に破壊され操縦席が剥き出しになっている。さくらはその中でグッタリしている
「さくらくん!!しっかりしろ、さくらくん!!」
さくらは意識が薄れている。呟くように大神に話し始めた。
「・・・お、大神・・さんを・・・死なせるわけには・・・いかないんです・・・大神さんは・・・あたしにとって・・・花組にとっても・・・大切な・・・人・・・」
さくらは気を失った。
「さくらくん!!さくらくん!!」
大神の呼びかけにさくらは答えない。
「死ぬなよ、さくらくん!!」
浩忠が隣に立った。
「・・・・・大神、さくらを安全な所へ。」
「中佐は、中佐はどうなさるんですか!?」
「俺は、奴と勝負する。」
「そんな無茶な!!」
浩忠は大神の顔を見た。涼しい表情をしている。
「頼む・・・さくらを・・・死なせないでくれ。」
大神はその顔に強い決意を感じた。
「わ・・わかりました。」
浩忠は修羅の前に立った。
「ククク・・・貴様そんなに死に急ぎたいか?」
「さあな。死ぬのはどっちかな?」
「ほざけ!!」
ゴオオオオオオオォォォォォォッ!!
修羅は再び力を集中させ始めた。
浩忠は目を閉じた。
(父上・・・今、あなたの考えが少しわかったような気がしました。しかし、破邪の教えを認めたわけじゃありません。それに・・・こんな雑魚相手に、破邪の力を使うわけにはいきません。今こそ見せます。あなたが使いこなせなかったこの技を!!)
二刀を十字に組んで霊力を集中させ始めた。
「なっ!?テツ・・・まさか・・・」
修羅は光弾を天高く放り投げた。
「死ねっ!!松平浩忠!!」
浩忠は動かない。
(さくらは光。漆黒の闇となった俺の心を照らした一条の光明・・・そのさくらを泣かせる奴は・・・この手で倒す!!)
『天空破邪・龍神攻防陣!!』
霊力が防御壁を作り、修羅の光弾を飲み込んだ。
「なにっ!?」
十字に組んでいた二刀を修羅に向けた。
『天空破邪・龍神爆殺破!!』
防御壁のエネルギーが一つになって修羅へ向っていく。
「ば・・バカな!?うわああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
凄まじい爆風が巻き起こり、まばゆい光とともに修羅は消えた。
退避していた大神は爆風が収まるとさくらを抱えて出て来た。
「修羅が・・・中佐がやったのか?」
浩忠は空の彼方を見つめている。
「中佐!」
大神の声に反応して浩忠は振り向いた。
「・・・・さくらはどうだ?」
「まだ気を失っています。」
「そうか・・・・じゃあ、俺は行く。」
「え?行くって、どちらへ?」
「月組に戻る。俺たちの任務は終了だ。」
「え?」
大神だけが浩忠達が配属されたわけを知らない。
「後で司令にでも聞いてみな。」
「中佐、また是非、この神崎すみれの部隊をご覧にいらしてくださいませ。」
「・・いつでも、お待ちしています。」
「今度来る時までに、神龍も改良しとくさかいな。」
「今度来たらよ、あたいと組み手やろうぜ!」
「ああ、また来るさ。・・・・。」
浩忠はアイリスと目が合った。
「アイリス・・・・子供扱いしてごめんな。今日、よくわかったよ。お前は、立派な女性だ。」
「・・・・・」
何も言わず、黙っている。
「じゃあな、アイリス。」
浩忠は車に乗ろうとする。
「・・・・・・・。松平のお兄ちゃん!!」
浩忠は思わず振り向いた。
「絶対、また来てね!!アイリス・・・待ってるから!!」
「・・・アイリス・・」
浩忠は笑って手を振り、車に乗った。
ブロロロロロロロ・・・・・・・
浩忠達は去って行った。
「・・・・・ん・・・大神さん・・・・」
さくらが意識を取り戻した。
「さくらくん!気がついたかい?」
「・・・・修羅は・・・・?」
「大丈夫。中佐が倒したよ。一撃でね。」
「一撃で・・・・」
さくらは何かを考え込んだ。
「それにしても、本当にまた来るのですかねぇ?中佐は。」
「さあな、あたいら中佐に迷惑かけすぎたからな。」
「大丈夫です、松平さんは、必ずまた戻ってきてくれます。」
「どうしてだい、さくらくん。」
「わかるんです。あの人は、帝劇を、あたしたち花組を、好きになってくれましたから。」
「あら?さくらさん、鞍替えいたしましたの?」
「キャハ!これでライバルが一人減ったね!」
「へ〜。さくらはんも、結構物好きやな?」
さくらは顔が真っ赤になった。
「え!?そ、そういうのじゃなくて!!」
「じゃあ、どういう意味だよ?」
「それは・・・その・・・・・」
さらに真っ赤になって小さくなった。心配そうに大神の顔を見ると大神は優しい笑みを浮かべていた。
「さあ、帝劇に帰ろう!」
「ちょいと待った!大神はん!!いつものアレ、やらんと!」
「そうね、やりましょう。」
「それじゃ、隊長!頼むぜ!!」
「よーし!じゃあ、行くぞ!!勝利のポーズ!!」
「決めっ!!」
花組の仲間たちは満面の笑みを浮かべていた。

浩忠達は・・・
「・・・・」
ボーッとしながら外を見る浩忠。それを見た真田は・・・
「・・・・。おめぇ、残ったって良いんだぜ?」
「フン、冗談言うな。あそこに俺が入る場所は無い。」
「ホントにそう思うか?」
伊達がニヤニヤ笑いながら話す。
「ホントはさくら隊員と一緒にいたいんじゃないんですか?」
「加山、テメェも言うようになったな。」
ブロロロロロロ・・・・・
車は帝都の街中を走り抜けていった。


日本橋地下 黒乃巣会本拠地
「たわけ!」
天海の声が響いた。
「大神一郎暗殺の失敗の責任は重いぞ!!」
伊達義明と黒木弥生が跪いている。
「恐れながら天海様。某には次の案がございます。」
「申してみよ。」
「真宮寺鉄馬を、天海様の意のままに操る手筈を整えました。」
「破邪の剣士を操るだと?如何様にして?」
「某が奴と戦い、捕らえます。そして、この黒木弥生が奴に改造手術を施します。」
横にいた弥生が続ける。
「脳手術を施せば、奴は天海様の思いのままに・・・」
「ほう・・・やってみるがいい。」
「はっ!有り難き幸せ。」


数日後、浩忠は「シンデレラ」の追加公演を見に、帝劇を訪れた。
「・・・・・・」
黙ってみている浩忠の横に真田が立つ。
「少しは成長したな。」
「・・・・・・」
「あいつは、いい奴だ。どんな時でも笑顔を絶やさない。」
「・・・さくらは昔からそうだ。どんな不幸も自分ひとりで背負い込み、周りに迷惑をかけることなく片付けようとする。おまけに他人のことを自分のことのように心配して泣き出しちまう。何も変わっちゃいない。昔のままだ。(そうだよな、弥生?)」
浩忠が開けたペンダントの中には黒木弥生の写真が納められていた。

太正十二年 晩夏 帝國華撃團の戦いは、続く・・・・


To be continued・・・


キャスト

松平浩忠(真宮寺鉄馬)
  堀   秀 行

真宮寺さくら
  横 山 智 佐

真田俊樹
  小 林 清 志

加山雄一
  子 安 武 人

伊達真一
  堀 川 りょう

神崎すみれ      マリア=タチバナ
  富 沢 美智恵     高 乃   麗
アイリス        李紅蘭
  西 原 久美子     渕 崎 ゆり子
桐嶋カンナ      藤井かすみ
  田 中 真 弓     岡 村 明 美
榊原由里      高村椿
  増 田 ゆ き     氷 上 恭 子

真宮寺一馬
  野 沢 那 智

藤枝あやめ
  折 笠   愛

山崎真之介(黒き叉丹)
  家 中   宏

降魔
  島 田   敏

南光坊天海      細川ミロク
  宝 亀 克 寿     引 田 有 美

伊達義明       黒木弥生
  池 田 秀 一     林 原 めぐみ


金色の修羅
  家 弓 家 正


米田一基
  池 田   勝


大神一郎
  陶 山 章 央



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