大神一郎暗殺計画(前編)  作・島崎鉄馬

太正十二年 春 帝都・東京
銀座 大帝国劇場 支配人室
「俺を花組に入れる!?」
一人の男の大声が響いた。部屋の中には3人の人物が居る。一人は既に50を過ぎているだろう男性。劇場の支配人、米田一基。一人は着物を着た女性。副支配人の藤枝あやめ。そしてもう一人は全身黒い服を着ている若い男。海軍中佐、松平浩忠。
「まあそう怒るな。」
「これが怒らずにいられるか!帝撃に入ることを我慢してやったそのツケがこれか!?」
「だからこうして頼んでんだろうが!」
「話にならん!大体さくらと同じ部隊に入れるなど、あいつに会うことはもうご免だ!!」
若い男は出て行こうとするがあやめが止める。
「松平君、聞いて。実は、大神君を暗殺する計画を黒乃巣会が起こそうとしているらしいの。」
「大神を?・・・・あいつはそれを?」
「いや、知らん。お前は言えるか?自分が戦っている相手に暗殺されるかも知れないと。今のアイツにそんなことを考える余裕は無い。花組をまとめるのに試行錯誤しているからな。」
「しかし・・・・」
米田は名簿を浩忠に見せた。
「今回、花組に増援されるのはこの4人。お前と、月組隊長、加山雄一。同じく真田俊樹。雪組隊長、伊達真一だ。」
「・・・・わかりました。しかし事が終わり次第、俺は旧任務に復帰します。」
「いいだろう。」

浩忠は帰りがてらに客席から舞台を見た。
花組の女優達が『愛ゆえに』の稽古をしている。
「・・・・・」
浩忠が見ているのは一人の女性。
やや青みを帯びた長い髪の毛を結び、やや幼さを残した顔立ちの女性。年の頃は10代後半。
花組の女優、真宮寺さくらである。この公演では主演となっている。
「・・・・・」
「・・・あれが、そうか?」
いつの間にか、隣に海軍中佐、真田俊樹が立っていた。
「お前はいい・・・守るべき者がいて・・・」
「・・・・・。まだ苦労が絶えん。失敗の連続。アイツもつらいだろうに・・・・。」
バッッターーーーンッッ!!
さくらは思い切り転んでしまった。
「な?」
「ふっ、違ぇねぇ。」
2人は舞台へ下りて行った。
「さくらさん!あなたって人は!!」
自称帝劇のトップスターの神崎すみれは何かとさくらに突っかかって来る。
「すみません!」
「まったく、よくもまあコロコロと転べますこと!これだから田舎物は!!」
花組のリーダーであるマリア=タチバナが浩忠達に気付いた。
「どなたですか?」
「え?」
さくら達も客席を向いた。
「よお、さくら。」
「あ!松平さん!!」
「さくらの知り合い?」
「帝國華撃團、月組の松平浩忠中佐です。あたしが仙台から上京した時にお会いしたことがあります。」
「そうですか、失礼しました。花組副長のマリア=タチバナです。」
「わたくしは帝劇のトップスター、神崎すみれですわ。御見知りおきを・・・」
「月組から花組に転属となった松平浩忠と、こっちは真田俊樹中佐だ。よろしく。」
挨拶をしている浩忠の足に、花組最年少隊員、アイリスがしがみついてきた。
「えへっ、アイリスだよ。この子はクマのジャンポール。仲良くしてね。」
「あ、ああ・・・よろしく。」
ジャンポールとはアイリスの持つ縫いぐるみで、特にお気に入りの熊の縫いぐるみであるジャンポールとは常に行動をともにしている。
「ところで、他の隊員は?」
「李紅蘭は現在、花やしきに出向中です。桐嶋カンナは沖縄にいますが、夏までには全員揃います。」
「そうか・・・・」
すみれが真田の持っている槍に目を付けた。
「あら、あなた槍をお持ちで?」
「ああ。」
「わたくしの薙刀と勝負してみませんこと?」
「ああ、いいとも。受けて立つぜ。」
「仕方ないわね。今日はこれまでにしましょう。」
花組は解散した。
「あの、松平さん。ちょっと・・・」
「何だよ?」
「いいから、こっちへ・・・」
腕を引っ張り、中庭へ連れてこられた。
「な、何だよ?」
さくらは袖を襷で結び、剣を執った。
「勝負して下さい。」
「何?」
「あたしと、勝負して下さい。」
「・・・・・」
さくらの表情は真剣そのものだ。
「・・・・わかった。」
浩忠は二刀を抜き、十字に構えた。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
ザザッ!
2人は一斉に突進した。
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「はあああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ガキイイイイイイイイッ!!
中庭の中央で斬り結び、鍔競りになった。
キイィィンッ!
浩忠は大きく後方に跳んだ。
「・・・・松平さん、本気でやってください。」
「何?」
「あたしは本気で行きます。本気でかかってきてください。」
「・・・・・わかった。」
浩忠は刀を一本捨て、両手持ちに切り替えた。
「行くぞ!!」
「はいっ!!」
ビュゴオオオオオオオオォォォォォォッ!!
2人とも超人的な速さで突進していく。
キインッ!カキイイイイイッ!!
2人とも攻撃をするがなかなか決まらない。
「破邪剣征・桜花放神!!」
パアアアアアアァァァァァァァッ!!
凄まじい桜色の光が生じ、エネルギー体として浩忠に向って来る。
「調子に乗るな!天空破邪・真空火龍剣!!」
ゴオオオオオオォォォォォォォッ!!
刀が空を斬るとそこから凄まじい炎が生じた。
パシュウウウウウウウウンッッ!!
「えっ!?」
二つの技はぶつかり合って消滅した。
「今の技って・・・」
(しまった・・・ついムキになって・・・・)
さくらは表情を整え・・・
「ふふっ、さすが兄さんね。」
「ふっ、まあね。・・・・あっ!?」
その瞬間、浩忠の表情が凍りついた。
(やっぱり、松平さんて・・・・)
(やばい・・・絶対にやばい・・・・)
「松平さん、答えてもらいましょうか。あなたは本当の名前は真宮寺鉄馬じゃないんですか?」
「な、何を・・・」
「太刀筋、しゃべり方、そしてその声!そのほとんど兄鉄馬のものと似ています!」
「そ・・・そんなことは・・・・」
「大体、前々からおかしいと思っていたんです。大方、あたしを強くさせるためだとか言って、髪形と名前を変えたんでしょう!?」
(す、凄ぇ・・・大体あってる。)
「さあ、答えてください!さあ!」
(やばい・・・絶対にやばい・・・)
と、その時・・・
「おぉい!さくらぁ!電話だぞ!!」
支配人室前の窓から米田が呼んだ。
「はい、今行きます!」
(ふう・・・助かった・・・・)
ギュッ!
「なっ!?イデデデデデデ・・・・」
さくらが浩忠の耳を引っ張っていく。
「逃げ出さないように、念のためについて来てもらいます。」
さくらに連行され、支配人室に逆戻りした。
「おう、来たか。・・・って、何で浩忠まで連れてくるんだ?」
「剣の稽古の途中だったので、ついて来てもらいました。」
「ふぅ〜〜〜ん。」
米田は浩忠の顔を覗き込んでいる。
(・・・・だから、花組に入れるなと言ったんだ!!)
しかし米田は笑っている。
(・・・・こいつら、グルか?)
さくらは電話に出た。
「はい、お電話代わりました。真宮寺さくらです。」
『いよぅ、さくらぁ。久しぶりだな。』
「えぇっ!?」
その声にさくらは驚いた。声は兄、鉄馬のものだった。
『何だ何だ何だ、俺の声を忘れたのか?しょうのない奴だなぁ。俺だよ、鉄馬だよ。』
(嘘・・・・だって兄さんは・・・・)
『どうしたんだよ、さくら?』
「い、いいえ。何でもありません。あたし、何か勘違いしちゃって・・・・でも、兄さん?何かしゃべり方が随分やわらかくなってますね?」
『あ、当たり前だろ?東京に長く住んでいるんだから。』
浩忠への疑いが晴れ、ようやく解放された。
(真田・・・これは貸しにしとくぜ。)


その日の夜 日本橋地下
一人の男が水鏡の中から星を見ている。
「今夜も星が動く・・・不吉な・・・・破邪の血を引く真宮寺鉄馬のせいか・・・・。」
部屋全体が真っ暗なので顔は全く見えない。
その時、彼の背後に影が現れた。
「・・・天海様、ただいま戻りましてございます。」
「遅かったではないか。」
「天海様の予想通り、真宮寺鉄馬が花組に入隊いたしました。」
カッ!!ドゴオオオオォォォォォッ!!
「馬鹿者めっ!!」
天海は雷を落とした。
「真宮寺鉄馬の入隊を阻止するのがその方の役目であろう?何をしに行ったのだ?」
「お、お言葉ではございますが、奴の入隊は、大神一郎暗殺計画による一時的なもの。正式に入隊したわけではありません。それに奴は破邪の力を使うことは決して出来ませぬ。」
「確かだろうな?」
「絶対に、でございます。ましてや、真宮寺さくらなどは己の力にすら気付いておりませぬ。全ては、天海様の思惑通りに運んでおります。」
「そうか・・・・フフフ・・・・」

翌日 浩忠たちは正式に着任した。
「月組隊長、加山雄一、同じく、松平浩忠、真田俊樹、雪組隊長、伊達真一。右の者は対降魔迎撃部隊、花組への着任を命ずる!」
4人一斉に敬礼した。
「了解!本日ただいまをもって、花組に着任いたします!」
「諸君の働きに期待する。以上!!」
解散し、支配人室を出た。
「しかし、一斉に4人も花組に入れるとは。大げさじゃないか?」
「だがな、伊達。今大神を欠いては花組の戦力は大きく下がる。やっと見つけた花組の隊長だ。そう簡単に殺されてはかなわん。」
「もっとも、あのバカがそう簡単にくたばるとは思えんがな。」
「バカはないでしょう、真田中佐。大神は自分と士官学校で一緒でしたがあいつは凄い奴ですよ。」
「そうじゃなくて、生真面目すぎるって意味だ。」
「確かに、あいつは真面目すぎるな。女だらけの部署にいるのに腑抜けもしない。色気なし、剣一筋だな。」

「はっくしょんっ!!・・・・ん?」
大神は事務局で伝票整理をさせられている。
「やだ、大神さんきたない・・・」
「こら、由里。大神さんに失礼でしょう?はい、どうぞ。」
鼻紙を差し出した。
「ああ、ありがとう。かすみくん。」

2時間後 大神はようやく伝票整理から解放された。
隊員たちの様子を見ようと舞台に行くが、誰もいなかった。
「あれ?もう、終わったのかな?」
「さくら達ならもう終わって戻って行ったぜ?」
「え?」
客席の最前列席に浩忠が座っていた。
「中佐!?」
「久しいな、大神。士官学校以来か」
浩忠は大神の元上司で、士官学校では教官として候補生を鍛え上げていた。
「ど、どうしてこちらに?」
「今日を以って、花組に配属された。お前の部下としてだ。」
「じ、自分の部下でありますか!?」
「勘違いするな、大神。部下とはいっても俺に命令はするな。俺は俺のやり方で行く、誰にも指示はさせない。肝に銘じておけ。言いたい事はそれだけだ。じゃあな。」
客席入口から出て行った。
(やれやれ・・・・また苦労の種が増えそうだ。せっかく花組もまとまりかけてきたのに・・・・・)


それから4ヵ月後・・・・・
黒乃巣会の動きは活発化しているものの、花組は死天王の蒼き刹那、白銀の羅刹を撃破するなど、かなりの戦果を挙げていた。また、大神を暗殺するというような動きはほとんど見られなかった。
そんなある日、米田は賢人機関に呼び出された。
「どういうつもりかね、米田君?花組に4人もの増援を入れっ放しとは。」
「どういうつもりと言われましても、以前報告した通り、大神隊長を暗殺する黒乃巣会の計画に備えてであります。」
「しかしその計画は未だ実行されていないではないか。」
「彼らに与えた試作の霊子甲冑の費用もバカにならないのだぞ?」
「お言葉ではありますが、彼らがいたからこそ、死天王の2人を撃破出来たのです。」
「そう、確かに素晴らしい戦果を挙げている。ですがね、米田君。既に戦力の要を失っている相手にこれほどの警戒が必要かどうか・・・・」
横で黙っていた花小路頼恒伯爵が口を開いた。
「我々が相手にしているのは衰えを知らぬ闇の者たちだ。侮るのは危険だ。」
「伯爵、それはわかっているつもりだ。だがね、たかが敵の工作員が話したことに、いささか振り回され過ぎではないかね?」
「・・・・・・」
「大体、月組だか何だか知らないが、彼らの情報収集力もたかが知れている。隊長の加山を戻したほうがいいんじゃないかね?」
米田は立ち上がった。
「変更はありません、今のままで行きます。」
そしてそのまま立ち去った。

米田はそのまま帝劇に戻ってきた。
「お呼びですか、司令。」
加山が支配人室に呼び出された。
「おう、座んな。話がある。・・・・・実は今日、賢人機関に呼び出された。」
「・・・・・」
「お前だけでも、月組に戻せとさ。」
「・・・・・」
「連中は今の状況しか見ようとしない。花組が輝かしい戦果を挙げているから無理も無ぇがな。」
「・・・司令、自分は・・・・」
「人事に変更は無い。ただし、月組の指揮も執ってくれ。今のままじゃ、十分な情報が集められない。」
「了解しました。」
「よし、もう行っていいぞ。」
「はい、失礼します。」

加山はテラスから銀座を眺めていた。
「・・・・・・」
「なにヘコんでんだ?お前らしくも無い。」
後ろに浩忠がいた。
「中佐・・・別にヘコんでなんか・・・」
「上から、文句言われたってな?」
「はい・・・・」
「・・・お前が気にすることじゃない。お前は事実を報告しただけだ。誰もお前を責める奴はいねぇよ。それに、あんな計画は本当は起こらない方がいい。」
「それは、わかってます。ですが・・・・」
「なあ、加山。俺たちの仕事は真実を導き出し、それを上に報告することだ。お前は真実を報告した。それで十分じゃないか。」
「・・・・中佐。」
「さあて、寝るかな。じゃあな。」
浩忠は中へ戻っていった。
「中佐・・・ありがとうございます。」

その頃・・・日本橋地下では・・・
天海が死天王を集めて怒鳴っている。
「刹那に続いて、羅刹までも・・・死天王もふがいない!!」
「も、申し訳ありません!!」
「・・・・・・」
ペコペコ頭を下げる紅のミロクだが、黒き叉丹は目を閉じて何も言わない。
「残る封印はあと2つ、六破星降魔陣の完成も近いというのに、何たる醜態じゃ!!」
「お待ちください、天海様。」
叉丹達の背後から声がした。
「どうやら、私の出撃する時が来たようですな。」
2人の男と1人の女が現れた。
「修羅か・・・その方、何か名案でも?」
「はい・・・ここで再度、大神一郎暗殺計画を実行に移しては?」
「今一度、計画を実行せよと申すのか?されど、それほどの戦力は無いぞ?」
「お任せを・・・僅かな戦力で、大神一郎をこの場に連れてきてご覧に入れましょう。」
「・・・・後ろの2人は、何者じゃ?」
「はっ。この者らは私の良き協力者、伊達義明と黒木弥生にござりまする。」
「ふっ、そんな簡単に、大神一郎が殺せるものか・・・」
叉丹が笑いながら口を開いた。
「叉丹様。この金色の修羅、刹那様や羅刹様とは違います。」
「やってみるがいい、修羅。お前に我の親衛隊を与えよう。出陣に際しての我のはなむけじゃ。」
「・・・感謝いたします。」
3人とも軽く一礼して去って行った。
それを叉丹は黙って見送った。
(ふん、帝國華撃團を侮れば、命を落とすことになる。ま、お手並みを拝見させてもらうとするか・・・・どの道、俺には関係の無いことだ。)


翌日 大帝国劇場
ちょうどこの日は花組公演「シンデレラ」の千秋楽で、多くの帝劇ファンが訪れていた。この公演は主演にさくらを抜擢。初日にさくらが楽屋に篭城するというハプニングがあったものの、すみれの助けなどもあって何とか、滞りなく千秋楽を迎えた。
客席は超満員。座席はもちろん、立ち見の客までいた。その立ち見客の最後尾に、浩忠の姿があった。
「・・・・・・」
舞台の上ではさくらが迫真の演技を披露している。「愛ゆえに」で一度主役を経験しているとは言え、誰もが知っているこの「シンデレラ」で主役をやるということで、さくらには戦闘以上のプレッシャーがかかっていた。
しかし、さくらは一度のミスもなく、遂に公演を最後までやり通したのだった。
(・・・・さくら・・・見事だ。・・・お前がこんなに立派になっていたとはな・・・)
浩忠は最後まで見ずに客席を出た。
誰もいなくなったロビーは静まり返っていた。見当たる人影は売店にいる高村 椿と受付でモギリをやっていた大神の姿だけである。
「よお、御両人。」
「あ!松平さん!!」
「大体、大きな声だな、お前は。」
「はい!元気がないとこの仕事は勤まりませんから!」
「そうだろうな。それに比べて・・・」
大神は受付で居眠りしている。
「うふふっ。大神さん、ここ最近働き詰でしたから・・・」
「花組の隊長ともあろう者が、モギリとはな・・・」
「いいんじゃないんですか?大神さんも結構楽しそうにやっていらっしゃるみたいですよ?」
「そうか・・・まあ、何にしても嫌いなことをやりつづけるのは体に毒だ。好きなことをずっと続けられるのなら、それが一番いいと思うぜ。」
その時、ロビーにあやめがやってきた。
「あ、浩忠君。大神君も、ここにいたのね。」
「何かありましたか?」
「緊急事態よ。浅草に敵が現れたの。」
その一言で大神が目を覚ました。
「本当ですか、あやめさん。」
「ええ、さっき月組から報告があったわ。急いで作戦指令室に来てちょうだい。」
「わかりました。」

作戦司令室。帝撃の心臓部とも言えるこの部屋は帝撃の地下。ちょうど客席と舞台の真下にある。
「帝國華撃團花組、大神以下松平、真田、加山、伊達。揃いました!」
「ご苦労、これより状況を説明する。」
米田は陸軍の軍服に身を包み、普段の支配人の表情から一転して司令官の顔になっている。
「数分前、月組が浅草で黒乃巣会のものと思われる脇侍を数体確認した。規模は少数なので、大神と増援部隊の5人だけで十分戦えると思う。しかし油断はするな。花組は公演が終わり次第、臨戦態勢に移行させる。」
「了解、これより出撃します!」
「健闘を祈る!!」
全員一斉に敬礼した。


浅草 浅草寺前
7月にここ浅草寺で白銀の羅刹が大暴れしたが、アイリスの力で撃退した。破壊した雷門も復旧し、元通りになっていた。
金色の修羅率いる小隊はここに陣を構え、花組を待ち受けていた。
「遅い・・・まだか・・・」
「そう焦るな、修羅殿。花組は必ず来る。」
「貴様の言う通りなら、奴らは少数で来るはずだが、万一全機出動してきたらどうする?」
「これはこれは・・・修羅殿の辞書にも恐れるという言葉があったのですな。」
「恐れてはおらん。ただ・・・・」
「来ました!!」
門の上で見張っていた黒木弥生が叫んだ。
遠くから花組の霊子甲冑5機が接近してくる。
「私の思惑通り、少数で来ましたな。」
「ふふふ・・・よし、これより大神一郎暗殺計画を実行する!!」
花組の主力兵器の霊子甲冑は光武だが、花組増援の4人は加山を除いて霊力が高すぎるために花組に配属されなかった者達で、光武には乗らず、試作霊子甲冑、神龍に乗り込んでいる。この神龍は有り余る乗り手の霊力を飛行することによって発散させるという、新しい甲冑なのである。一方の加山は霊力が低く、訓練によって何とか光武に乗れるようになったわけだが、まだ十分に乗りこなせるというわけではなかった。
「よし、全機散開!攻撃陣系甲の2番にて一斉突撃!!」
「了解!!」
大神を先頭にして両脇後方に2機ずつ配置、このV字型体系で突入する。戦国時代の「魚鱗の陣」に倣った陣形である。
「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
あっという間に敵の脇侍は全滅した。
「あらかた片付いたか。」
「おかしい、指揮者がいなかった。」
と、その時・・・浩忠が何かを感知した。
「待て、まだいるぞ。」
「ははは・・・!流石は松平浩忠!我らの存在にいち早く気付くとは・・・」
声はするが姿は見えない。
「どこにいる!?姿を現せ、黒乃巣会!!」
「くくく・・・見たければ見せてやろう。」
ドゴオオオオオオオオォォォォォォォォッ!!
爆発とともに金色の脇侍が出現。そして金色の修羅も現れた。
「貴様は、金色の修羅!!」
「加山雄一か。君には迷惑をかけたな。私の計画がなかなか実行されなかったのでな。」
「なにぃ?」
「くくく・・・お前達は袋のネズミだ。逃げられるかな?大神一郎!!」
既に親衛隊に周りを囲まれている。
「くそぅ・・・ハメやがったな。」
「本部に応援を呼べ、大神!!」
「了解!大神より本部!現在敵の思わぬ反抗に遭い、戦況が不利になりつつあり!至急、援護を願います!!」
『了解、ただちに花組を出動させます。何とか時間を稼いで!』
「了解!!」
浩忠達は大神をかばうように周りに散る。
「くくく・・・さあて、いつまで持つかな?かかれ!!」
脇侍が一斉に突撃した。
キィン!ドガアアァァッ!!
伊達の剣が脇侍に命中したが脇侍は一瞬怯んだだけで、掠り傷一つついていない。
「な、何だ!?」
ガアァァァン!!キイィィン!!
加山は大口径マグナムを発射したが装甲に阻まれ、はじかれてしまう。
「マグナムが効かない!!」
真田の槍も貫くことが出来ない。
「こいつら、一体・・・」
大神と浩忠も成す術もなく追い詰められていく。
「くそっ!万事休すか・・・」
「中佐、自分が囮になります。敵の注意を引き付けますからその隙に・・・・」
「バカを言うな!!奴らはお前を狙っている!!それこそ奴らの思う壺だ!!」
「しかし・・・」
「出るのは俺だ。お前らだけでも逃げろ!!」
バシュウゥゥゥゥゥ・・ドガアアアアァァァァァッ!!
浩忠は最大出力で脇侍に体当たりした。脇侍は後ろの脇侍と衝突して爆発した。しかし、浩忠機も損傷した。
「何をしている、早く行け!!」
「わ・・・わかりました、中佐、ご無事で!」
大神は戦場を離脱した。
(ご無事で・・・か。それはこっちの台詞だ。お前こそ無事に戻れよ・・・)
「成る程・・・美しい師弟愛というわけか?」
どこからか男の声がした。その声には聞き覚えがあった。元陸軍対降魔部隊、山崎真之介である。
「山崎少佐!?どこ・・どこに!?」
「テツ、あそこだ!!」
真田が本堂の屋根を指差した。屋根の上に一人の男が立っている。
「フッ、久しいな・・・松平浩忠・・・いや、真宮寺鉄馬!」
「・・・・」
「真宮寺?中佐が?」
加山だけは驚いているが、真田と伊達は平静だ。
「どういうことですか、中佐?」
「黙ってろ。」
真田が加山を止めた。
「お前とは降魔戦争以来だから・・・もう5年も経つか・・・」
「少佐・・・あなたが・・・あなたが黒き叉丹だったのですか!?」
「驚くこともあるまい?うすうす感づいていたはずだ。」
「たしかに、怪しいとは思っていました。ですが信じたくはありませんでした。あなたが・・・どうして・・・光武を設計したあなたが・・・なぜ!?」
「フン、己の欲に縛られ、貪欲に生きることしか出来ぬクズどもなど、守るに値せぬ。お前達もわかっているはずだ。」
「違う!!人には互いに助け合って生きていくものもいる!俺たちは善人も悪人も、人である限り守り続ける!!」
「フン、笑止っ!!」
ドゴオオオオオオオオオオォォォォォッ!!
突然黒い稲妻が降り注ぎ、浩忠達の甲冑の機能が停止した。
「なっ!?動かない!?」
「どうなってる!?くそっ!!」
「ククク・・・所詮、貴様らの力などこの程度のものだ。私の相手にはならん。」
叉丹は宙を飛び、去ろうとする。
「少佐・・・俺たちに止めは刺さないのですか?」
「ククク・・・私の目的は貴様らを足止めすること・・・そして、作戦の目的は大神一郎の捕縛。どちらも、既に達成された!」
「何っ!?」
「お、大神が・・・」
「しまった!!」
叉丹は屋根の向こうへ消えていく。
「くそぉっ!!逃がすかぁぁっ!!」
バシュウウウウウウゥゥゥゥゥ・・・・
浩忠の機体が変形し、空を飛び、叉丹を追う。
しかし・・・・
ドガガガガガガガガガガガ・・・・・・!!
下から凄まじい対空砲火が撃ち上げられた。
「何だ!?」
本堂の裏から伊達義明と黒木弥生が対空砲を操っている。
ドムッ!ドゴオオオォォォォォ・・・!!
浩忠機は火を噴き、墜落する。
「くそっ!脱出する!!」
バシュウウウウゥゥゥッ!!
座席ごと飛び出し、脱出した。
ドガアアアアアァァァァァァッ!!
機体は地面に激突、炎上した。浩忠は何とか無事に着地。ケガは無かった。
「畜生!!畜生!畜生!畜生!畜生ぉぉぉぉっ!!」
ドガッ!ドガッ!ドガッ!
周りの木に拳をぶつけまくる。
「何でだ!?何でやること為すこと全て裏目に出る!?どうしてあそこで俺が飛ぶとわかった!?なぜ俺が大神を逃がすことがわかった!?」
ドガァァァッ!!
既に木の真中までめり込んでいる。浩忠の手は血まみれになっている。
「くそおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」
ドガアァァァッ!!ギギギギギ・・・・ドシャアアァァァッ!!
とうとう木が倒れてしまった。
「テツ!無事か!?」
真田達が駆けつけてきた。
「・・・・・」
「テツ・・・お前・・・」
浩忠の両手からは真っ赤な血が流れ落ちている。
「トシ・・・帝撃に戻るぞ。絶対に、絶対に大神を連れ戻す!!」
「ああ・・・わかった。」
4人はそのまま帝撃へ帰投した。
月組の事後調査で大神機は発見されたがやはり本人の姿はどこにも見当たらなかった。

はたして、大神の運命は?そして、真宮寺鉄馬とは?


To be continued・・・


キャスト

松平浩忠(真宮寺鉄馬)
  堀   秀 行

真宮寺さくら
  横 山 智 佐

真田俊樹
  小 林 清 志

加山雄一
  子 安 武 人

伊達真一
  堀 川 りょう

神崎すみれ      マリア=タチバナ
  富 沢 美智恵     高 乃   麗
アイリス         藤井かすみ
  西 原 久美子     岡 村 明 美
榊原由里       高村椿
  増 田 ゆ き     氷 上 恭 子


藤枝あやめ
  折 笠   愛

山崎真之介(黒き叉丹)
  家 中   宏


南光坊天海      細川ミロク
  宝 亀 克 寿     引 田 有 美

伊達義明       黒木弥生
  池 田 秀 一     林 原 めぐみ


金色の修羅
  家 弓 家 正

花小路頼恒
  北 村 弘 一

賢人機関
  千 葉 一 伸  三 木 眞一郎
  小 野 英 昭  江 川 央 生
  大 木 民 夫  池 水 通 洋


米田一基
  池 田   勝


大神一郎
  陶 山 章 央



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