2001年(平城12年) 9月11日
龍皇との戦いから1年と半年が経った。あれから東京は・・・・いや、日本は平和そのものだった。降魔も脇侍も出現せず、また目立った闇の動きもなかった。
内閣の構造改革がどうのとか、今年のプロ野球の優勝はどの球団かとか、あの芸能人が結婚したとか離婚したとか、世間の話題はそんなことばかり。東京華撃團の辛く苦しかった戦いなど、民衆にとっては既に遠い過去のように思われていた。
肝心の東京華撃團の彼女たちもまた、今では華撃團ではなく、歌劇団としての活動時間の方が長くなっていた。
その日も彼女たちは舞台稽古をしていた。
夕刻にはそれも終わり、みな楽屋で着替えて夕食をとっていると・・・・
「みんな、お疲れ様。」
「あぁっ!大鳥さん!お帰りなさいませ!」
両手にたくさんの荷物を抱えて戻ってきた隊長の大鳥龍雄を吉野明日香が出迎えた。
大鳥は3日前から九州・福岡に行っていた。福岡市は3年前に巨大降魔の襲撃を受け、多大な被害を受けた上に、2年前にも龍皇の配下が再び福岡市を襲撃するという事件も起きていた。市街地復興の状況を確かめるために大鳥は自ら出向いていたのだ。
「大鳥のお兄ちゃん、お土産はどれ?」
「ははは・・・・いきなりそれか。そこに抜かりはない。ちゃんと買ってきてあるよ。」
メイリンの関心は大鳥よりも大鳥の抱えている荷物の方に・・・もとい土産の方に行きっぱなしだ。そんなメイリンを副長格の橘弥生が制する。
「メイリン、隊長は疲れてらっしゃるんだから。それで、隊長。福岡の様子はどうでした?」
「ああ、だいぶ復興が進んでいる。この1年半は何事もなかったのが幸いだったようだ。あ、それはそうと・・・・・はい、弥生君。」
大鳥が1枚の色紙を出した。それを見るなり弥生は・・・・
「わあっ!!秋山選手のサイン!!」
「あの時のお礼に福岡ドームへ行ったら、ちょうど秋山さんに会えてね。お願いして一枚もらってきたんだ。」
「そうですか・・・・ありがとうございます。」
大人しい弥生も、好きなホークスと秋山幸二選手のこととなれば普通の女性と同じになる。
「・・・・・あれ、ゆり子君とキャサリンは?」
「ああ、実はニューヨークの大河さんの要請で、さつきさんと一緒に2日前に急にアメリカへ・・・・」
「へぇ・・・・キャサリンはともかく、何でゆり子君を?」
「新型霊子甲冑のことで、技師でもあるゆり子さんに一度見てもらいたいと・・・・」
日本時間で今日の夜、ニューヨーク華撃團が復活する。それに先立ち、新型の霊子甲冑を東京華撃團の技師である江戸川ゆり子に見てもらいたいと、大河新次郎から要請があった。当のゆり子も大喜びで行ったという。また元ハリウッド・スターであるキャサリン=ローズにはニューヨーク歌劇団の発足式に是非出席してもらいたいとも言ってきた。彼女がこれを拒むはずもなくこちらも大喜びで行った。藤枝さつきは二人の保護者ということになる。
「そうか、今夜だったね。ニューヨーク華撃團の発足式。俺も行きたかったな。個人的に見たかったんだよなぁ、マッハ4で飛ぶ高速戦闘機・・・・」
ニューヨーク華撃團の主力兵器は2種類ある。
一つは東京華撃團にも配備されている地上戦用霊子甲冑『新武』。もう一つはマッハ4で飛行することが出来る超高速戦闘機、F-19S『スター・イグナイテッド』。西海岸で事件が起こっても対応できるよう、アメリカ空軍をはじめ神崎重工、ロッキード、グラマンなどの各企業の協力を得て開発された最新鋭の機体だ。もちろん、変形して地上戦をこなすことも出来る機体だ。
「2001年9月11日・・・・・か。龍皇との戦いから1年半。・・・・・思ったより長く時間がかかったな。」
今、ニューヨークの町は華撃團同様、まだ夜明け前。歌劇団が復活するこの日はニューヨーク市民にとって忘れ得ぬ良き日になるだろうと、大鳥たちは思っていた。
そのニューヨークでは・・・・
まだ夜も明けぬ内からニューヨーク華撃團本部のリトル・リップ・シアターでは発足式の準備が進められている。隊長のレオ=ブレイズ、副長のシリウス=グラントも参加している。さらにキャサリンやゆり子、さつきも居る。そこへ総司令の大河新次郎がやってきた。
「司令官、お早うございます。」
「ああ、お早う。みんな頑張っているね。」
大河は古いアルバムを何冊か持ってきていた。
「なんですか?・・・・また随分と古そうなアルバムですね。」
「ああ、これか。これはね、旧・紐育華撃團の想い出だよ。」
「へえ、見せてくださいよ!」
みな、準備の手をしばし休め、少し早い朝食をとりながらアルバムを眺める。
そこには当時19歳の若き大河新次郎をはじめ、紐育華撃團のメンバーが写っている。
「これが・・・・個人的に凄く気に入ってる一枚だよ。」
その写真にはステージの上で陽気に歌っている女性が写っている。だが、マイクスタンドの代わりにモップを使い、バケツを踏み台にしている。しかもよく見れば従業員の服を着ている。
「・・・・司令、この人って確か・・・・」
「ん?・・・・・うん、若き日のジェミニだよ。まだ隊士に任命される前の頃に撮影したものだ。」
後に大河とパートナーを組み、結婚するジェミニ=サンライズを写している。この頃の彼女はいつの日かこのステージに立つことを夢見て、掃除の合間によくこんなことをしていたという。
「なんか、すっごく楽しそうですね。格好は変ですけど。」
「わあ・・・・これ、ラチェット=アルタイルさんですよね?」
キャサリンが指差した写真には紐育華撃團の初代隊長・ラチェット=アルタイルが写っている。もとは星組の隊長にしてブロードウェイの大スターでもあった彼女は、キャサリンにとって女優としても華撃團隊士としても憧れの存在であった。
ジェミニ=サンライズ、サジータ=ワインバーグ、リカリッタ=アリエス、ダイアナ=カプリス、九条 昴、そしてラチェット=アルタイル。みな大河と苦楽を共にした戦友であり、仲間であり、ある意味で家族であった。
「ジェミニたちも、きっと今日の発足式を祝い、そして君たちの未来を見守ってくれることだろう。」
その後、みな作業を再開した。やがて夜が明ける。忘れられない日になるであろう、9月11日の朝が来るのだ。
その一方、日本は夜になった。大鳥たちはサロンに設置されている大型テレビで福岡ダイエーホークス(現:福岡ソフトバンクホークス)の試合を観戦していた。歌劇団のメンバーはダイエーホークスが初優勝した試合を実際に福岡ドームで観戦したことがあり、それからもずっと応援し続けている。その甲斐もあってか(?)、翌2000年のシーズンもリーグ優勝を果たしている。
この日もホークスは投打の歯車がガッチリと噛み合って快勝した。
「よっし!今日も快勝っと!」
「やっぱり強いですね、ホークスは。」
「当然!ボクたちが応援してんだから!」
「そうね・・・・・でもやっぱり・・・・・秋山選手が居るから!なんてね。」
「ははは・・・・、そうかも知れないね。・・・・・さてと、他球場はどうなってるかな?」
・・・と、何気なく大鳥がチャンネルを回そうとしたその時、諜報部の浅井竜司が血相を変えてサロンに駆け込んできた。
「やあ、竜司。どうした、血相変えて?」
「残念だねぇ、たった今試合終わっちゃったよ?」
「今日もホークスが快勝しましたよ。」
「・・・・そんなことでわざわざ来るか!・・・・その様子じゃ、知らないみたいだな。」
そんなことを言われても、何の話かさっぱりわからない。
「・・・・何かあったのか?」
「・・・・衛星放送を見てみろ。」
「衛星放送?」
言われたとおりにチャンネルを回してみると・・・・
「なっ!?」
「ええっ!?」
「ウソぉ・・・・」
「これって・・・・・ニューヨークの!?」
写っているのは燃え盛る超高層ビル。
それもただのビルではない。ニューヨークの・・・・いやアメリカの象徴とも言うべき、世界貿易センタービル(World Trade Center Building)が大火災を起こしているのだ。
「竜司、これは?」
「見ての通り、ニューヨークからのライブ映像だ。世界貿易センタービルが『攻撃』を受けた。」
「『攻撃』だと?」
「今から十数分ほど前に、旅客機がビルのひとつに激突した。」
「・・・・・『事故』じゃないのか?」
「傍受した無線によると、その旅客機はハイジャックされていたそうだ。」
それだけではない。同時に10機の旅客機が飛行中に次々とハイジャックされそのうちの何機かは今もなお都心に向かって飛行中だという情報さえ入っている。
「みんな、すぐに作戦指令室に・・・・」
そう言いかけたその時、弥生が大鳥を制した。
「待ってください、隊長!これは・・・・」
弥生が画面を指差す。そこには黒い点が見える。何かしらの飛行物体が写っているのだろうか。
「・・・・・報道ヘリか?」
「・・・・・にしては、何か変ですね。」
「違う・・・・あれは・・・・旅客機だ!」
「まさか!?」
「急旋回した。衝突するぞ!!」
「イヤだ・・・・・死んじゃう・・・・・また人がたくさん死んじゃうよぉ・・・・・」
そして数秒後、その旅客機が今度はもう一方のビルに激突。こちらも爆発を起こし、炎上した。
「・・・・・・」
しばし全員が沈黙した。
みな目の前の映像に衝撃を受け、ただただ呆然とそれを見つめていた。
一方、司令の大神一基と副司令の真宮寺和馬もまた作戦指令室のモニターでこの映像を見ていた。二人も言葉を失い、悲痛な面持ちで映像を見つめている。
「・・・・・大神司令!!」
ほどなくして大鳥たちが血相を変えて駆け込んできた。
「・・・・・状況は認識しているか?」
「一応は・・・・・しかし、自分には信じられません。こんなバカなことが・・・・・」
「だが、現実だ。加えてもう一つ、向こうにいるさつき君から入った情報だが、たった今、ペンタゴンもやられたそうだ。」
ペンタゴン・・・つまりアメリカ国防総省の別名でその名は建物の形が五角形であることに由来する。ニューヨーク華撃團本部にいるさつきからペンタゴンにも航空機が激突したとの報告が入った。さらにハイジャックされた1機がアリゾナの荒野に墜落したことも。
「さつきさんや大河さんたちは無事なんですか?」
「ああ。キャサリンやゆり子も無事だ。先ほど、大統領から救助活動支援のために出動せよとの命令を受けたそうだ。二人も、新武の予備機に乗って出動する。」
状況は刻一刻と悪化していく。消防隊や軍の装備では炎上する世界貿易センタービルにいる市民を救出することはかなわない。だが、ニューヨーク華撃團の霊子甲冑ならば、ホバリング(空中停止)して数名ずつではあるが救出することができる。
最初の攻撃から数十分後に、発足式も済んでいないニューヨーク華撃團に出動命令が出た。
現地に居合わせたキャサリンとゆり子は予備機で発進し、救助活動を支援する。準備はまもなく最終段階に入るという。
『スクランブル(緊急発進)!スクランブル!スター、新武、発進準備!』
実戦を経験しているキャサリンとゆり子はいち早く新武を起動させ、発進位置についた。
『新武、キャサリン機。発進スタンバイ。全システム、オールグリーン。カタパルト圧力正常。進路クリアー、ライトニング発進、どうぞ!』
「キャサリン=ローズ、『ライトニング』。GO!!」
「江戸川ゆり子、『リカバリー』。行くでぇっ!!」
続いて発進するのは副長のシリウス=グラントと隊長のレオ=ブレイズ。二人ともスター・イグナイテッドのパイロットだ。
「シリウス=グラント、『ガルーダ』。行きます!」
「レオ=ブレイズ、『ジャスティス』。行くぜ!」
さらに続く隊士が数名。
ジェットアシストやホバリングを駆使して、火災が起きている階より上に居る人々を助け出す。下の階に居る人たちは階段を使って自力で下りていく。
救助活動は少しずつではあるが順調に進みつつあった。しかし事態が最悪の方向に向かっているのを彼らは知らない。
ビシイィッ!!
シリウスがそんな音を聞いた。そして壁を見ると大きな亀裂が走っている。それは見る見るうちに広がっていく。
「これは・・・・・いけない!みんな離れて!!」
「何っ!?」
「ビルが崩れる!急いで離れてぇっ!!」
だが、既に遅かった。
ゴオオオオオオオオオオオォォォォォッ!!
耳を劈くような轟音と共にビルが真下に崩れ落ちていく。
「退避!総員退避しろぉっ!!」
ドドドオオオオオオオオオオオオォォォォォォッ!!
その直後、レオたちの頭上に無数の瓦礫が降り注ぎ、制御不能に陥った彼らは倒壊に巻き込まれた。
そして南塔がついに全壊し、濛々と砂塵が舞い上がる。下ではその砂煙から逃げようと人々がパニックを起こしながら逃げ惑っている。救助した人々を避難所まで運び終えて現場に戻ろうとしていたキャサリンとゆり子は・・・・
「・・・・・こんなの・・・・・ウソ・・・・・ウソよぉぉぉっ!!」
「キャサリンはんっ!?どないしたん!?」
「NOォォォォォォォッ!」
あまりに衝撃的な出来事に、キャサリンが錯乱状態に陥っている。祖国・アメリカを誰よりも誇っていた彼女にとってその象徴の一つであるものが目の前で崩れ去ったのだから、変にならない方が不思議なのだが・・・・
瓦礫の山と化した世界貿易センタービルでは、レスキュー隊による生存者の捜索が行われていた。そして瓦礫の中から2機のスターが自力で脱出してきた。
「・・・・シリウス・・・・・ガルーダ、無事か?」
「え、ええ・・・・私は無事です。」
「他のみんなは?・・・・・こちら『ジャスティス』。各機応答せよ。」
しかし、応答はない。レーダーには目の前にいるガルーダと、避難所にいるリカバリーとライトニング以外は写っていない。
「・・・・・まさか・・・・・」
瓦礫の中に埋もれているのか、周りを少し探してみると・・・・
「はっ!?」
そこには無残な姿になってしまった仲間の機体があった。
機体はグシャグシャに変形し、コックピットも完全に潰れてしまっている。
「・・・・・レグルス・・・・・カリスト・・・・・イオ!!」
機体の被害状況を見てもわかるが、サーチしてみても、生体反応はない。
「うあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
レオもまた、キャサリン同様に錯乱状態に陥った。初陣で仲間を失ったのでは、おかしくもなろう。
やがて、事は終わった。
世界貿易センタービルは南塔、北塔ともに全壊。崩壊の衝撃で付近にあるビルにも被害が出ており、ついには崩壊してしまったビルもある。ペンタゴンも一部崩壊し、現在軍も混乱の極みを見せている。大統領の命令で最高警戒態勢を意味する『コンディション・デルタ』が発令された。人的被害はいまだに把握できていないが、邦人にも犠牲者が出ているという。
そしてリップシアターに帰還したニューヨーク華撃團にも犠牲者が出た。
隊長・副長を含めて7人いた隊士のうち3人が死亡。2人が行方不明(1人は翌日に死亡確認)になっている。錯乱状態になったレオとキャサリンは医務室に運ばれ、治療を受けていた。
ゆり子が機体の整備を終えて戻ってくると、二人は医務室でぐっすり眠っていた。
「さつきはん、二人とも・・・・落ち着いたんですか?」
「・・・・・精神安定剤と睡眠薬を投与してやっと落ち着いたわ。しばらくはこのまま眠り続けるでしょう。」
「せやけど起きたら・・・・・また厳しい現実が待っとるんやな。」
作戦指令室にはシリウスと大河新次郎がいる。
しかし、二人とも呆然とモニターに映し出されているニュースを見ているだけで、何も言わない。
そこに、通信が入ってきた。大統領専用機エアフォースワンからだ。
「司令、大統領からです。」
「・・・・・大河です。」
『大河司令、報告は受けたよ。ニューヨーク華撃團の隊士にも犠牲者が出たそうだな。』
「はい・・・・・このような事態になってしまい・・・・申し訳ありません。」
『今回の同時多発テロ、首謀者はアルカイダのウサマ=ビン=ラディンということが判明した。』
「やはりアルカイダ・・・・ですか。」
テロが起こって間もなく、アフガニスタンを中心に暗躍している武装勢力アルカイダが犯行声明を出した。
『だが、敵はアルカイダだけではない。彼らのように表立って宣言してはいないが、事実上この攻撃をけしかけた輩がいるのだ。』
「・・・・と申されますと?」
『Black Devil’s Force・・・・君も聞いたことはあるはずだ。』
「ええ・・・・確かアジア地区や日本で暗躍している組織ですね。彼らがこのテロを?」
『そうだ。私は先ほど、全軍にアルカイダ攻撃を命じた。ブラック・デビルズ・フォース(以下BDF)は君らに叩いてもらう。我が合衆国の栄光を汚す者は何人であれ許さん。ただちに報復攻撃を命じる。』
「しかし、大統領。ご存知の通り、今は我がニューヨーク華撃團は戦力に乏しく、大規模攻撃は不可能です。」
『わかっている。標的はアジア地区だ。日本の東京華撃團に応援を頼む。既に、小泉首相には話を通してある。』
ニューヨーク華撃團はレオとキャサリンの回復を待って日本へ出撃することとなった。既に米空軍のC-5輸送機がスタンバイし、霊子甲冑の搬入も行われ、いつでも出られる態勢を整えていた。
一夜明けた東京では・・・・
朝一番で一基のもとに内閣総理大臣・小泉純一郎から直通電話がかかってきた。
「・・・・・大神です。」
『私だ。・・・・昨日の同時多発テロのことだ。実は昨夜、アメリカのブッシュ大統領と電話で話してね。テロの実行犯はアルカイダだが、その裏にBDFが居るということがわかった。』
「・・・・やっかいな相手ですね。」
『ああ。大統領はこれを機に、一気にアルカイダとBDFの両方を殲滅するつもりだ。アルカイダは米軍が討つが、BDFはニューヨーク華撃團と君たち東京華撃團で討ってもらうことになった。』
「しかし総理。ご存知の通り彼らはビルの崩壊に巻き込まれてその戦力の大半を失いました。それだけの戦力で果たしてあのBDFを討つことができるでしょうか?」
『あの神龍軍団を倒した君らならやってくれると信じている。いや、是非やってもらわねばならん。』
だがBDFの戦力は侮りがたい。
戦車や機関銃、ミサイルといった通常兵器の他に脇侍、降魔、ヤフキエル隊といった旧式ではあるが霊力をもってせねば倒せない兵器を多数揃えている。一国家並み・・・・いやそれ以上の戦力を有していると言ってもいい。
「わかりました。何にせよ、BDFは討っておかねばならない敵です。ニューヨーク華撃團との合流を待って作戦を開始します。」
『ああ。・・・・大神司令、よい戦果を期待している。では・・・・・』
「・・・・・」
電話を切った一基は、怒りの表情で窓の外を見る。
(何が「よい戦果を」だ。奴らを討つには戦力が不足だというのに・・・・・政治家や軍の上層部というのはいつの時代も、表面的でいい加減な数合わせしかしないものだな。)
「あの、支配人?」
「何だ!」
不機嫌極まりない状況で明日香に声をかけられ、つい大声で応えてしまった。明日香も思わず顔を引っ込める。
「す、すいませんでした!」
「え?・・・・あ、おい!ちょっと待て明日香!スマン!俺が悪かった!」
「へ?・・・・あの、お怒りなんじゃ・・・・」
「いや・・・・その・・・・ちょっとムカついていただけでな。・・・・で、何だ?」
「あ、あの・・・・真木教授がお戻りになったので・・・・」
「そうか、こちらへ通してくれ。」
すると、既に明日香の後方に真木教授が来ていた。
「もう来てますよ、大神さん。いけませんね、ムカついているからといってその不満を周りにぶちまけているようでは。」
「いや・・・・その・・・・ま、どうぞお入り下さい。」
「勝手の知れた所です。言われなくても入りますよ。」
ある任務を帯びて海外へ行っていた真木は日焼けしていて、多少疲れ気味だ。しかし、それでも彼にはここに来なければならない用事があったのだ。その任務とは、世界各地に出現した奇妙な生物の調査だ。そしてその正体は・・・・
「・・・・・やはり・・・・降魔が。」
「ええ・・・・・私はラバウルやトラックなどの島々を回りましたが、各地で降魔による被害が出ています。また助手や各国の学者たちの協力で得られた情報によると、サイパン、グアム、アッツ、ウラジオストク・・・・・挙げればキリがないほど、太平洋沿岸のみならず、遠くインド洋でも・・・・・」
「・・・・厄介なことになりそうだな。」
「ところで、今後華撃團はどう動くのですか?」
「降魔らしき怪物が沖縄に出現したという報告を受けてな。首都を空けるわけにはいかんから、少数精鋭、大鳥、明日香、それに清志に行ってもらうことにした。私も現地に飛んで指揮をとる。」
ほどなくして華撃團の大型輸送機「スカイ・ホエール」で大鳥龍雄、吉野明日香、黒田清志、大神一基、そして草薙あおいの5人が沖縄へ飛んだ。
そして現地でアメリカから飛んできたレオ、シリウスそして大河の3人と合流した。
「お久しぶりです、大河さん。」
「うむ・・・・・紹介しよう、大鳥君。ニューヨーク華撃團隊長、レオ=ブレイズと、シリウス=グラントだ。BDF撃滅作戦の間、この二人を君の指揮下に入れる。」
「司令!俺たちにジャップの手下になれというのですか!?」
「そうだ。この大鳥君は・・・・・知ってるだろ?神龍軍団を倒し、世界を救った英雄だ。今回の作戦を指揮するにふさわしい。」
かくてレオとシリウスの二人はしぶしぶ大鳥の指揮下に入った。
その日の夕刻、沖縄に駐留する米空軍のレーダーサイトが接近する正体不明の飛行物体を探知。偵察機の報告で降魔と判明。大鳥たちに出撃命令が下った。
「降魔の数は18。数の上ではこちらが不利だ。よって二人一組のペアで行動する。明日香君は俺と、レオはシリウスと組め。清志は上空から援護。それから空自のF-15が8機支援に来るが、これはあまり戦力としてあてに出来ない。俺たちだけで全てを仕留めるつもりで行く。・・・・・大神司令、大河司令、よろしいですか?」
「ああ、それでいい。」
「うむ・・・・みな気を付けて。一人も欠けるなよ。」
大鳥以下、全員霊子甲冑に搭乗。
スカイ・ホエールは空中射出の準備に入った。
『スター・イグナイテッド、レオ機。発進スタンバイ。カタパルト、エンゲージ。全システムオンラインを確認。進路クリアー、ジャスティス発進、どうぞ!』
「レオ=ブレイズ、ジャスティス、行くぜ!!」
「シリウス=グラント、ガルーダ、行きます!!」
続いて大鳥と明日香の新武が降下準備に入る。
『新武、大鳥機。降下用意。高度800m。風速、問題なし。全システム、オールグリーン。セイバー発進、どうぞ!』
「大鳥龍雄、セイバー、発進する!!」
「吉野明日香、イーグル、行きます!!」
最後に出たのは清志の新龍だ。
『新龍、黒田機。カタパルト接続確認。進路クリアー、ホーネット発進、どうぞ!』
「黒田清志、ホーネット、発進!」
スターと同じく、飛行可能な霊子甲冑である新龍は上空に留まり、スカイ・ホエールの護衛と地上部隊を支援する任務につく。降魔は全て着地していてスターも着陸して戦闘態勢に入る。
「こちらセイバー。イーグル、俺に付いて来い。それからジャスティス、ガルーダ。油断するなよ、数の上では向こうが有利だ。」
『言われなくてもわかってる。そっちこそ、初戦で撃墜されるなよ!』
いちいち反抗的な物言いをするレオだが、大鳥は決して怒らない。戦闘中は・・・
「いざっ!」
「尋常に・・・・」
「勝負ッ!!」
大鳥と明日香が戦闘を開始。そしてレオとシリウスも・・・・
「ガルーダ、抜かるなよ。」
「了解よ、ジャスティス。」
「さて・・・・ショー・タイムだ。」
空と地上で激しい戦いが始まった。大鳥と明日香は既に実戦を経験していることもあって、次々と降魔を撃破していく。一方、レオとシリウスは初の実戦であるにも関わらず、確実に降魔をしとめていく。だがレオの戦い方はチームとしてではなく個人としてのもので、仲間機の援護を考えない戦法だった。
降魔の数がかなり減ってきた頃、上空のスカイ・ホエールから通信が入った。
『セイバー、ジャスティス。正体不明の飛行物体が南より高速で接近。F-15が迎撃したが全て撃墜された。大型降魔かも知れん。注意しろ。』
「了解、全機着陸し、集合せよ。スカイ・ホエールは高度を上げて退避してください。」
上空で戦っていたスターと新龍が着陸。みな多少のダメージは負っているが、その後の戦闘に支障はない。
「来るぞ!」
一基の予想通り飛来したのは大型降魔だった。
全長20mクラス。かつて福岡市を破壊し、東京華撃團の初陣で撃破したもの・・・・そして三宅島沖で撃破したものと同じサイズだ。
「・・・・・みんな、聞け。俺とイーグルでヤツの注意を引く。ホーネット、ジャスティス、ガルーダは間合いの外から砲撃を加えろ。」
「ホーネット、了解だ。」
「ガルーダ、了解しました。」
「・・・・・ジャスティス、聞こえたか?」
「フン・・・・・あの程度の敵に小細工を弄する必要はない。俺が仕留めてやる!!」
レオ機がいきなり突撃し、降魔に攻撃を開始した。
当然、降魔は反撃を開始。大鳥の思惑と大きく異なった形で戦闘が始まった。
(ジャップの命令になんか従えるか!こいつを・・・・・こいつを仕留めりゃいいんだろ!!)
レオは自分の実力を誇示するために、大鳥の命令を無視し独断専行で突撃したのだ。上空から戦況を見つめるスカイ・ホエールの一基と大河は・・・・・
「・・・・・あまり言いたくはないですが・・・・・また『性格に問題アリ』ですね。」
「テロの前までは、ああいう男ではなかったのだが。・・・・・彼は恐らく私たちに自分の実力を誇示したいのでしょう。」
「若さゆえの過ちか・・・・・認めたくないでしょうな、彼は。・・・・・あおい、高度を下げろ。援護射撃を行う。」
「了解!降下します!」
高度を下げ、スカイ・ホエールの15cm砲が降魔に照準を合わせる。
「主砲、てぇっ!」
降魔に2発の砲弾が命中。突然の砲撃に降魔に隙が生じた。
「今だ!狼虎滅却・快刀乱麻!!」
大鳥の必殺技が命中したが、降魔の致命傷にはならなかった。
「チィッ!」
大技を出した直後の隙を突かれ、降魔の一撃をモロに喰らってしまった。
「大・・・・じゃなくて・・・・セイバー!大丈夫ですか!?」
「ああ・・・・大丈夫だ。・・・・スカイ・ホエール!メガ・バスターを射出してくれ!」
『バカを言うな!メガ・バスターは双武専用の装備だ。新武ではエネルギーが足りず、発射しても効果はないぞ!』
メガ・バスター。大型霊子甲冑・双武専用装備の一つで、凝縮された強力な霊力を発射する、いわば霊子砲である。
「ええ、1機なら効果はありません。ですが、2機なら・・・・」
『2機を直結して不足分のエネルギーを補うというのか・・・・・しかし・・・・・』
「他に手はありません!射出を!!」
『わかった。すぐに射出する。』
投下されたメガ・バスターを受け取り、そして砲と大鳥機、明日香機の霊子力エンジンを接続。エネルギーを充填させる。その間、清志とシリウスが時間稼ぎを行う。レオは相変わらず、降魔を倒すつもりで戦っている。
「霊子力エネルギー、充填!メガ・バスター、発射準備完了です!」
「イグニッション!!全機、降魔から離れろ!!ファイアーッ!!」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォッ!!
まばゆい光が降魔を飲み込む。しかしその発射の衝撃もまた凄まじく、降魔消滅と同時に大鳥の新武も大破した。
「新武、大鳥機システムダウンしました。」
「やはり、新武でのメガバスター発射は無理があったようですね。」
「うむ・・・・・しかし、降魔はすべて撃破。人的被害はゼロ。大勝利だよ。」
「はい・・・・よし、あおい。ただちに全機回収。帰投する。」
「待ってください、新たな霊力反応です!」
突然、大鳥たちのすぐ側に霊力反応が現れた。そしてその直後・・・
『フハハハハ・・・・・!見事だな、東京華撃團!この戦いは君たちの勝利だ!』
声はするが、姿はまったく見えない。
「何者だ!姿を見せろ!!」
『そう焦らずとも、いずれお目にかかることになるだろう。勝負はまだ1回の表に過ぎないのだ。今回は君たちの実力を計るのが目的だった。そしてその目的はほぼ達成された。次の戦闘はこうはいかんぞ。』
「何だと!!」
『我がブラック・デビルズ・フォースは神龍軍団とは違うのだよ。そのことをよく覚えておきたまえ。』
そして声はしなくなり、霊力反応も消えた。
声の主は恐らく、ブラック・デビルズ・フォースの幹部、または首領と思われる。彼の言うようにこの戦闘が大鳥たちの実力を見るためのものだったのなら、この戦いの勝者は、大鳥たちではなく彼らなのかも知れない。
バキイィッ!
スカイ・ホエールに帰還した後、大鳥がレオを殴り飛ばした。
「なぜ作戦通りに行動しないっ!貴様の勝手な行動のお陰で、使わなくていいものまで使い、要らぬ損害まで出たんだぞ!」
「フン・・・・・別に俺は間違った行動をしたとは思ってないぜ?」
「何だと!?」
「アンタの作戦は降魔の注意を引き付けた後に長距離からの砲撃だったんだろ?俺が奴の注意を引き、アンタがメガ・バスターとか言うヤツで仕留めた。作戦通り、結果オーライってヤツだろ?」
バキイイィィッ!
またしても大鳥がレオを殴る。今度は1発目よりも若干強めだ。
「減らず口を叩くな、若僧!そういう台詞は、一人前になってから言うんだな!!」
「チッ・・・・・そういうアンタこそ・・・・・一度や二度、世界を救ったからって大物ぶるんじゃねぇ!!だいたいな、ヘマで機体を大破させたくせに、無傷だった俺に偉そうな口を利くな!」
レオが殴り返そうとしたそのとき、一基が二人の間に割って入った。
「そこまでだ、二人とも。・・・・・レオ、大鳥の言うことは正しい。君のとった行動は明らかな命令違反。おまけに上官に対する態度もなっとらん。よって謹慎を命じる。別命あるまで外出は許さん。」
「・・・・・・フンッ・・・・・・」
するとレオはふて腐れたようにブリッジから去っていった。
「・・・・・大河さん。これもあまり言いたかないですが、なぜ彼のような男を隊長に?」
「さっきも言ったように、テロの前の彼はああではなかった。戦死した隊士たちはみな、彼を慕っていた。それはこのシリウスがよく知っている。あのテロで仲間を5人失い、大勢の市民が彼の目の前で死んだのだ。人格が変わっても、不思議はない。」
「・・・・・」
その後、大河は自分の部屋にシリウスを呼んだ。
「・・・・君はレオをどう思う?」
「何ですか、いきなり?」
「率直な意見を聞きたいんだ。レオのことを・・・・どう思っているんだ?」
「・・・・レオは焦ってます。みなさんに認められたい一心で暴走を。・・・・・決して悪意はないと思います。」
「そんなことはわかっている。」
キョトンとなるシリウスに、大河は微笑を浮かべ、改めて質問する。
「私が聞きたいのは、男としてのレオだ。君はレオを、一人の男として見た時、何を思う?」
「それは・・・・・その・・・・・」
シリウスは赤くなってうつむく。大河の質問に答えかねているようだ。
「・・・・・好きなんだな?」
・・・・カァーッ!
ストレートに言われて、シリウスはさらに赤くなった。
「・・・・いけませんか?」
「いいや・・・・・いい事だと思う。彼がまともなら、いいことだ。今の彼の中にあるのは、憎悪と焦燥だけだ。かつてのように優しさや正義感というものが感じられない。」
「・・・・・」
「そんな彼を以前の彼に戻すことが出来るのは、君の愛だけだ。」
「・・・・・司令・・・・・あの・・・・・そういうことは・・・・・」
「・・・・・いや・・・・・ただそのことを君の心に留めておいてほしかっただけだ。」
「・・・・・失礼します。」
かつて旧紐育華撃團・隊長見習として星組を一つにまとめた大河は、人を変えることが出来るのは愛だということを知っている。今はまだ、シリウスにはわからないかも知れない。ただ、覚えておいて欲しかったのだ。
(・・・・・ジェミニ・・・・・)
小さな手帳にはジェミニや旧星組隊士たちの写真が納められている。
「・・・・・今のレオに・・・・・言葉は届くかな?」
すると、どこからか声が聞こえてきた。
『そうだね・・・・・・言葉よりも、やっぱり行動で示すのがいいだろうね。新次郎だってそうでしょ?信長がわかってくれたのも、新次郎の言葉じゃなく、行動だったし・・・・・』
それはジェミニの声。無論、この世の者でないので常人には聞こえない声だ。
『お姉ちゃんを説得したのもそうだったし・・・・・言葉よりも、やっぱり行動で示さなくっちゃ。』
「・・・・・簡単に言うけどね、それって難しいことなんだよ?」
『でも、やらなきゃ。・・・・・今のままじゃ、レオ君は敵に勝てないよ?』
「・・・・・そうだね。少なくとも敵が本格的に動く前に、何とかしないと。」
そしてジェミニの声は消えた。
沖縄での任務を終えたスカイ・ホエールは東京へ帰っていった。新しい仲間と、新しい問題を抱えて・・・・
次 回 予 告 ただ戦えばいい・・・・・ 信じていた仲間にも裏切られ 次回、サクラ大戦F |
配 役 大鳥龍雄 山 口 勝 平 吉野明日香 桑 島 法 子 橘弥生 久 川 綾 江戸川ゆり子 笠 原 留 美 草薙あおい 山 崎 和佳奈 藤枝さつき 増 山 江威子 大神一基 池 田 秀 一 ジェミニ=サンライズ 小 林 沙 苗 シリウス=グラント 鶴 野 恭 子 ベガ=ブラウン 雪 乃 五 月 小泉純一郎 村 井 国 夫 謎の声 神 谷 明 大河新次郎 佐 原 健 二 真宮寺和馬 栗 塚 旭 レオ=ブレイズ 西 川 貴 教 |
メイリン 釘 宮 理 恵 キャサリン=ローズ 宮 村 優 子 大村 渚 池 澤 春 奈 真木五郎 相 沢 正 輝 黒田清志 小 林 清 志 大河新次郎(青年期) 菅 沼 久 義 レイ=スピカ 豊 口 めぐみ ブッシュ大統領 マコ=イワマツ |
片山みずき 川 澄 綾 子 浅井竜司 飛 田 展 男 |