2001年(平城12年) 9月11日
アメリカ、ニューヨークにおいて、新生華撃團が発足するはずだったこの日。同時多発テロが起こり、ニューヨーク華撃團は隊士を5人失った。テロ実行部隊は判明したが、その裏で糸を引いた者が居た。アジアを中心に暗躍しているブラック・デビルズ・フォースだ。
テロ実行部隊は米軍が、BDFは東京・ニューヨーク華撃團が攻撃することになった。
しかし、合流したニューヨーク華撃團の生き残り、隊長のレオ=ブレイズは己の力を誇示したいがために、命令を無視して暴走。巨大降魔を撃破したものの、謹慎を命じられた。
9月17日、東京・銀座、旧・大帝国劇場。
巨大降魔を倒した大鳥たちはレオ、シリウスという新たな仲間を加えて帰還した。だがレオは謹慎中なので、シリウスのみ、隊士たちに紹介された。
「ニューヨーク華撃團・星組副長・シリウス=グラントです。生まれも育ちもニューヨーク。年は18、血液型はA、好きな食べ物はホットドッグ、嫌いなのはナットー(納豆)です。」
ひたすらしゃべり続けるシリウスに、隊士たちは圧倒され、ポカンとしている。
「・・・・・ん?・・・・・どうしました、みなさん?すっかり黙っちゃって。」
「い・・・・いや・・・・・よくしゃべるなぁと。任務中と性格が全然違うね。」
「そりゃ、任務中はしゃべれないですよ。真面目な時は黙って、その分しゃべれる時は思い切りしゃべる。これ、私のポリシーです。」
「そ・・・・そうですか。」
一通り自己紹介も終わり、次にレオについて、大河から説明があった。
「知っている人も居るが本当はあと一人来日している。星組隊長で名はレオ=ブレイズというんだが、沖縄でちょっとヘマを。それで今は謹慎中だ。」
そのころ、レオは何をするでもなく、ただベッドに横たわって考え事をしていた。
(フン・・・・いずれ俺が必要になるさ。俺はニューヨーク華撃團の隊長だ。・・・・・俺の力は・・・・・あんなジャップよりも・・・・・)
自分の謹慎はすぐに解かれる。自分は必要な存在・・・・特別な存在なのだと、レオは思い込むようになっていた。そして、自分の能力はあらゆる点で大鳥に勝っていると信じていた。
沖縄での戦闘で損傷した大鳥機だが、機体のダメージは予想より大きかった。装甲はもちろん、エンジンにまでダメージが行っていた。メガ・バスター発射によるツケが思わぬところに出た。
「部品の交換と装甲の修理はすぐに終わるよって。せやけど・・・・問題はエンジンなんや・・・・」
「ダメか?」
「せやな、完全にイっとるしな。」
「直らないのか?」
「霊子水晶を完全に新しいものに替えるか、それこそ新品のエンジンを取り付けるか・・・・・いずれにしても、エライ時間かかるで。」
しかし、戦いは始まったばかり。初戦で隊長機が使えなくなったのでは今後の戦闘が圧倒的に不利になる。
「仕方ない、間に合わなかったら双武を使うか。」
「せやな。その方が早いしな。・・・・ほな、そん時に備えて双武の整備もやっときまひょ。」
「苦労をかけるな、ゆり子君には。」
「ええんや。ウチの特技っちゅうたらこれくらいや。持てる特技は最大限に活かして大鳥はんやみんなを助ける、そう決めたんや。」
かくして早くも切り札の双武を使う状況になってしまった。龍皇との最終決戦の折、損傷したが既に修理は完了し、調整が済めば出撃できる状態になっていた。
一方、世界貿易センタービル崩壊時に錯乱状態に陥ったキャサリンは一基に呼び出されていた。
「もういいのか、キャサリン?」
「ええ。あの時はさすがにショックだったけど、もう決めたの。あそこで亡くなったニューヨーク華撃團の仲間たち、罪もない人々のためにも、私は私のできることをやるって。」
「そうか・・・・・強くなったな、君は。それでこそ、東京華撃團のキャサリン=ローズだ。」
もはやキャサリンの心には一点の曇りもなかった。自分のすべきこと、できることをやる。彼女はニューヨークから戻ってくる時、心に固く誓っていたのだ。
その日、劇場にニューヨークから通信が入った。
行方不明だった隊士が瓦礫の中から救出されたというのだ。すぐに大河にも知らされた。
「本当か、それは?」
『はい、ニューヨークから通信が入っています。すぐに作戦指令室においで下さい。』
作戦指令室に行くとニューヨーク華撃團の通信士・レイ=スピカからのテレビ電話が入っていた。
「レイか。で、どんな状態なんだ?」
『はい、ベガさんは今朝、9時に瓦礫の中から救出されました。スターのコックピットは潰れていましたが、その隙間に合わせるようにして眠っていたそうです。すぐに病院に搬送され手当てを受け、意識も回復しています。私が確認しました。』
「そうか・・・・・」
『ただ不思議なのは、飲まず食わず、瓦礫の下で6日間も生きていられるのか・・・・・ということです。』
「まあ、現に生きて居たんだ。ゆっくり休ませて、その上で日本へ来るように。」
『あの、それが・・・・・ピンピンしてて、明日行くと言って聞かないんです。』
「・・・・・そうか・・・・・わかった。空軍に話をつけておく。スターの予備機を積んでくるように。」
そしてその言葉どおり翌日の朝、米軍の輸送機が日本に向けて飛び立つ。
隊士が奇跡的な生還を果たしたという報せはレオの下にも届いた。
「そうか・・・・ベガが生きていたか。」
「ええ、さっき支配人から聞いたの。」
するとレオはあのテロ以来、初めて笑顔を見せ、そして泣き出した。
「そうか・・・・そうか・・・・生きてた・・・・ベガが生きていたのか・・・・・」
「・・・・・」
シリウスはこのことを大河に報告。そして・・・・
「そうか・・・・・泣いていたか。」
「ええ・・・・でも笑ってました。」
「・・・・・一基君、彼を出そう。」
「謹慎を解くのですか?・・・・・しかし、彼は・・・・・」
「いや、彼にもチャンスを与えなくては。この東京華撃團の仲間たちと接すれば、彼も変わっていくことでしょう。」
大河はそう言ったが、一基と和馬はまだレオに不信感を抱いていた。かつて『性格に問題』のあったキャサリンの性格を変えさせた大鳥だが、男性であるレオの性格を変えることはそれ以上に難しいと思っていた。
謹慎を解かれたレオはサロンで隊士たちと顔をあわせた。
「ニューヨーク華撃團隊長・レオ=ブレイズだ。コールサインは“ジャスティス”。よろしく。」
初対面の隊士もいるので軽く自己紹介をした。既に面識のある明日香、ゆり子、キャサリンの3人は普通に接していたが、大鳥だけがレオを無言のまま睨みつけていた。
その後、大鳥は一基に呼び出された。話はもちろん、レオのことだった。
「お前、レオをどう思う?」
「・・・・・度胸があって、技術も力も十分にある。・・・・戦士としては申し分の無い逸材だと思います。」
「・・・・・お前にしては珍しく歯切れの悪い言い方だな?」
「華撃團の隊士、隊長としてでは・・・・・それだけでは不十分だと思います。」
「ほぉ、何が足りない?」
「・・・・・思いやり・・・・あるいはチームワーク・・・・ですね。・・・・あの男は沖縄での戦闘で、仲間を援護せず、さらに己のことだけを考えて戦っているように見えました。華撃團の一員として戦っていくのなら、今の性格を改めねばなりません。」
沖縄でのレオは僚機であるシリウスの援護をせず、また、自分の力を立証するために戦い、そして暴走した。仲間との連携が取れない隊士は、華撃團には必要ない。大鳥はそう考えていた。
翌日、アメリカから1機の輸送機が到着した。
奇跡の生還を果たしたニューヨーク華撃團の隊士・ベガ=ブラウンと通信士・レイ=スピカの二人とスターの予備機を乗せていた。劇場に到着した二人は大河とレオに出迎えられた。
「よく生きていたな、ベガ。元気そうでよかった。」
「はい、師匠。ご心配をおかけしました。さっそく働かせていただきます。」
「ははは・・・・まあそう慌てるな。まずは日本の環境に慣れてくれ。それから隊士にも引き合わせねばならない。もう、集まってもらっている。」
東京華撃團の隊士たちがサロンに集合していた。ベガはピシッと敬礼して挨拶した。
「ニューヨーク華撃團隊士・ベガ=ブラウンです。コールサインは“ファルコン”。よろしく。」
「東京華撃團隊長の大鳥龍雄です。コールサインは“セイバー”。よろしく。みんな、順に挨拶を。」
一通り挨拶をした後、大鳥と明日香が劇場と華撃團施設を案内した。
「次は華撃團の施設です。施設は全て地下にあります。」
チャキ・・・・・チャキ・・・・・
ベガが歩くたびに金属音が聞こえてくる。腰に帯びた刀の鍔が鳴っているのだ。
「ベガさんはどこで剣術を?」
「師匠・・・・大河司令に習ったの。二刀流を使えるわ。」
「へえ、大河さんの・・・・・じゃあ相当腕は立つんですね。」
「ふふっ、またまた・・・・・聞いてるわよ。大鳥龍雄、吉野明日香・・・・どちらも日本国内じゃ名の知れた凄腕の剣客だって。羨ましいわ。剣術の本場・日本で名が知れ渡っているなんて。」
「そんな・・・・・私なんて、まだまだ・・・・・」
明日香は相変わらず謙遜している。それを見ると大鳥がクスッと笑う。
「明日香くんは変わらないね。褒められると謙遜するところが。」
「いいじゃないですか。調子に乗って浮かれているよりは。」
「ふふっ、確かに。」
そのやりとりを見て、ベガがクスクス笑い出した。
「あの、何か?」
「フフフ・・・・いえね。あなたたち、結構いいコンビなんじゃないかなって。」
「え?」
「隠してもダメよ。明日香さん、あなた大鳥隊長のこと好きでしょ?」
「えっ!?」
図星。
初対面の人間にいきなり言われたのでは、明日香も反応に困っている。一方大鳥も顔を赤くしながらあさっての方向を向いている。
「フフフ・・・・やっぱり。」
「・・・・・もう!何言ってるんですか!さ、行きますよ!」
と、明日香は顔を真っ赤にしながら階段を下りていく。
大鳥も無言のままそれに続く。そしてベガはまたクスクス笑いながらついて行った。
ビィーッ!ビィーッ!
劇場に敵襲を報せる緊急警報が鳴り響いた。
当然のことながら、この3人が作戦指令室に一番乗りした。
「東京湾から降魔が出現。新宿方面に向かっている。ここを破壊されると首都機能が完全に麻痺する。ただちに迎撃せよ!」
接近する降魔を迎撃する任務なので劇場から直接発進し、迎撃に向かう。新武全機にジェットパックを装備。その間、スター・イグナイテッド及び、ドラゴン・ナイツの新龍各機が先行して発進する。
『スター・イグナイテッド、レオ機。発進スタンバイ。全システム、オンラインを確認。カタパルト圧力、グリーンゾーン。進路クリアー。ジャスティス発進、どうぞ!』
「レオ=ブレイズ、ジャスティス、行くぜ!」
「シリウス=グラント、ガルーダ、行きます!」
「ベガ=ブラウン、ファルコン、出るよ!!」
『ドラゴン・ナイツ、1番機発進スタンバイ。カタパルトエンゲージ、全システムオールグリーン。進路クリアー、ホーネット発進、どうぞ!!』
「黒田清志、ホーネット、発進!!」
それに遅れること10分。ジェットパックを装備した双武、新武の主力部隊が発進する。
『新武、橘機、発進スタンバイ。システム正常。ジェットアシスト、圧力上昇。カタパルトエンゲージ、バリアー展開。スワン発進、どうぞ!!』
「橘 弥生、スワン。行くわよ!!」
「江戸川ゆり子、リカバリー、行くでぇっ!!」
「メイリン。フェニックス、行くよぉっ!!」
「(今はただ・・・・・私のすべき事を・・・・・)キャサリン=ローズ、ライトニング、GO!!」
そして最後に発進するのは大鳥と明日香の乗る双武だ。
『続いて双武、発進スタンバイ。全システムオンラインを確認。カタパルトエンゲージ。ジェットアシスト、圧力上昇。進路クリアー。セイバー発進、どうぞ!!』
「大鳥龍雄・・・・」
「吉野明日香・・・・」
「セイバー、発進する!!」
新武、双武隊は編隊を組まず、発進した順に現地へ向かって飛んでいく。
一方、先行したレオたちは・・・・・
「来たぞ、10時方向にお客さんだ。・・・・・ガルーダ、ファルコン、突撃して一気に蹴散らすぞ。」
『後続の新武隊を待たないの?』
「待つ必要は無い。降魔ごとき、いくら群れようと俺たちの敵ではない。」
『私も、ジャスティスに賛成だね。ガルーダ、アンタ臆病風に吹かれたの?』
「(・・・・ベガ?)・・・・・そうじゃないけど・・・・・何か変じゃない?あの降魔の群れ、私たちに気づいているはずなのに、新宿を目指して一直線に飛んでいる。」
『フン。それほど大事な何かがあるんなら、尚更さっさと叩く必要がある。おしゃべりはここまで、ショータイムだ!』
と言って、レオとベガが全速力で突撃していく。シリウスは疑問を抱きつつもそれに続く。一方、それより僅か後方に位置しているドラゴン・ナイツは・・・・
「(たった3機で突撃した?・・・・・レオのヤツ・・・・・)ホーネットより全機に告ぐ。長距離攻撃は中止だ。ミサイルをサイドワインダーに切り替えろ。・・・・・若さゆえの過ちというヤツか・・・・・バカが・・・・・」
スター隊突撃の報せは大鳥たちにも届いていた。
「スター隊が突撃?あいつ全然懲りてないと見える。」
そのスター隊は都心上空で空中戦を展開。
たった3機で30匹近い降魔の群れに挑んだが、3機とも見事な機動を見せ、降魔を次々と撃墜していく。そしてついにはドラゴンナイツの到着を待たずに降魔は全滅してしまった。
「フン。軽いものだ。この程度の敵に大騒ぎするとは。東京華撃團も大したことないな。」
ピーッ!ピーッ!
コックピットの警報が鳴った。ロックオンを報せる警報だ。
「ロックオンされた!?」
背後からミサイルが飛んでくる。間一髪でこれを避けたが、それを撃ったのは・・・・
「ファルコン!?」
「ちぃっ!」
今度は機銃でレオを攻撃してくる。急上昇でこれを回避すると、逆に後に回りこんだ。
「どういうつもりだ!気でも狂ったか!!」
「私は正気だ!お前を落とすのが私の任務!!」
それでもベガは何とかレオを落とそうと激しい機動を繰り返す。
「やめなさい!仲間同士で何で戦わなきゃいけないの!!」
「うるさい!あんたは引っ込んでなさい!!」
「ベガ・・・・・貴様ぁっ!!」
一方、ようやく到着したドラゴン・ナイツと大鳥たちは・・・・・
「あの・・・・・どうします?」
「このまま上空で待機だ。」
大鳥の命令に弥生が反対する。
『隊長!それでは二人が!』
「とは言え、こうも状況がわからないのでは動きようがないだろ?討つべき相手を間違えるわけにはいかん。」
『ですが・・・・・』
「・・・・・ジャスティス、どういうことなのか説明しろ。」
しかしレオは大鳥の問いを無視。ベガ機をロックオンしようと激しい機動を繰り返している。
「ちっ・・・・・ガルーダ、聞こえていたら説明してくれ。」
『は、はい。降魔の群れを全滅させた後に、いきなりファルコンがジャスティスに向けてミサイルを発射して・・・・・』
「・・・・・」
やがてレオがベガ機をロックオンし、ミサイルを発射。これがベガ機の尾翼の一部を破損。制御不能に陥ったベガ機は不時着した。レオもまたそれを追って着陸する。
ベガは機体を降りて逃げようとする。しかしレオは逃がすまいと、威嚇射撃をして足を止めた。
「ベガ、逃がさんぞ。」
「フン、アンタに私が撃てるの?」
「撃つさ、お前が敵なら。」
だがそう言うレオは泣いている。仲間と信じていた者に裏切られた悔しさのあまり・・・・
「信じていたんだぞ!お前を仲間だと!!」
「アンタも一度、私と同じ状況に置かれてみるといいわ!私があの時・・・・・ビルの崩壊に巻き込まれたあの時、私がどうなったか、アンタ知ってるの!!」
ビルの崩壊に巻き込まれ、瓦礫の中に完全に埋まってしまったベガ機。エンジンは故障し、通信など無論出来ず、声も届かない。彼女は発狂した。しかしどうにもならなかった。酸素も徐々に薄れ、死がすぐそこまで迫った時、声が聞こえたという。『我が下僕となり、ニューヨーク華撃團の生き残りと大河新次郎を始末するのなら、助けてやろう。』と。
「私を助けたのは消防隊でも軍隊でも、アンタたちでもない!マスターよ・・・・・我が偉大なるマスターよ!」
「それでお前は悪魔に魂を売って、仲間を殺そうというのか!!」
「どんなに叫んでも、誰にも声が届かず、光も差さない闇の中に閉じ込められてみなさい!どんな人間でも、助かるためなら悪魔の味方にもなるわ!」
「違う!それは違うぞ、ベガ!」
「何が違う!なぜ違う!アンタだって司令たちに見放された存在のクセに!」
「!!」
その瞬間、レオの心が揺らいだ。
それを察知した双武が猛然と急降下してきた。
「ジャスティス、ヤツの言う事を聞くな!ヤツはもうベガ=ブラウンではない!!」
「・・・・・」
「下がれ、ジャスティス。お前が撃てないのなら、俺が・・・・・」
しかし次の瞬間、レオ機はベガに背を向け、双武に銃口を向ける。
「・・・・・ジャスティス・・・・・何の真似だ?」
「・・・・・俺の・・・・・俺の仲間だ・・・・・ベガは俺の仲間・・・・・それを撃たせはしない!!」
「・・・・・ジャスティス、お前のしていることは裏切り以外の何物でもない。・・・・これが最後の警告だ。そこをどかないのならお前も裏切り者と見なし、俺がお前を撃つ!!」
「構わん!俺は俺の仲間を守る!それがニューヨーク華撃團隊長である、俺の義務だ!!」
「バカが。」
やがて双武とスターが戦いをはじめた。この間にベガは逃走。
弥生やシリウスたちも降りてきたが、大鳥たちの戦いに割って入ることも出来ず、ただ見守っているだけだ。
「レオ!大鳥隊長!」
勇気を出して割り込もうとするシリウスだったが、清志の新龍がそれを制した。
「何で止めるんです!」
「黙って見てろ。あいつを信じてな。」
その間もレオと大鳥は激しくぶつかり合う。同時にそれぞれの本音もぶつけ合っている。
「やらせはせん!ベガをやらせはせんぞぉっ!」
「今の彼女は敵だ!現にお前を撃ったのだろう!それが敵でなくて何だというのだ!!」
「仲間だ!あいつは・・・・俺の仲間だ!」
「お前の仲間は・・・・・平気で隊長であるお前を撃つのか!!」
「ぬぅっ!!」
わかってはいる。レオとて、ベガの行為が裏切りだとわかってはいる。しかし信じたくないのだ。その事実を認めたくないのだ。テロで多くの仲間を亡くした彼は、これ以上仲間を失いたくなかったのだ。
「お前に・・・・・俺の何がわかるぅっ!!」
ドガアアアアァァァァァァッ!!
レオの一撃がまともに入った。双武の頑丈な装甲がゆがむ。
「ぐぅっ!」
操縦席の大鳥にも少なからずダメージがあった。
「ちぃっ・・・・・明日香君、最大出力に。」
「えっ!?・・・・・わ、わかりました。」
「レオ・・・・・覚悟しろ。・・・・・イグニッション!!」
ドオオオオオオオオオォォォォォッ!!
双武が轟音と共に突進した。大鳥と明日香の霊力が最高値に達したことで、双武の排気管から光が溢れる。
「は、速いっ!?」
「この・・・・バカ野郎っ!!」
ズバアアァァァァァッ!!
双武の二刀がスターの装甲を切り裂いた。機体は大破し、レオの体はシートごと外に射出された。
「レオ!!」
シリウスが機体を降りてレオのもとに駆け寄る。強い衝撃を受けて、レオは気絶している。
「・・・・レオ・・・・よかった・・・・生きてる。」
『全機に告ぐ、任務は終了だ。これより帰還する。・・・・ガルーダ、彼は君が収容しろ。』
「は、はい!」
レオはシリウスが収容し銀座へ戻る。大鳥たちも飛び立つ。
「明日香君・・・・・悪いが、操縦を頼む。」
「はい?・・・・・わかりました。」
「スマン・・・・少し、疲れた。」
操縦を明日香に渡し、大鳥は目を閉じて考える。
(レオ=ブレイズ・・・・・確かに強い・・・・・あの力、敵に回したくないものだな。・・・・・ベガ・・・・・君が悪いとは言わない。君のような状況に陥ったら、生き残るためならどんなことでもするかも知れない・・・・・しかしね、悪に魂を売り渡して生きているということが、どういうことか。君にはそれが・・・・・わかっているかい?)
一方、戦闘の様子をモニターしていた大河新次郎もまた、椅子に座り、目を閉じている。
「・・・・・」
『大河新次郎・・・・・何を悩む?』
するとどこからか声が聞こえてきた。しかしそれは大河自信の中から聞こえる。
(信長?・・・・・起きたんだ。)
それは織田信長の声。旧・紐育華撃團最初の敵だったが、当時19歳の隊長・大河新次郎との直接対決の末、大河の中で眠りに付いた。
『お前の弟子が、悪の道に走ったのだな?ならば、師匠のお前が出来ることは一つしかあるまい?』
(・・・・・だが、今の私は既に90歳を越えた老体。ベガと戦って勝てるはずもない。)
『必要なら・・・・・余が手を貸そう。』
(あなたが?)
『お前が師としての務めを全うしたいのならば、余が手を貸す。お前には、大きな借りがあるゆえ・・・・』
(・・・・・ありがとう、信長。その時はあなたを呼ぶよ。)
『わかった、その時を待つ。』
そして大河は大きく深呼吸した後、しばしの眠りについた。
一方、ブラック・デビルズ・フォースの本拠地に戻ったベガは・・・・・
「・・・・スラッシュ、ただいま戻りました。」
スラッシュと名乗ったベガは祭壇の前にひざまずく。すると祭壇の向こうから声が聞こえてきた。
『スラッシュ・・・・・私の命令を遂行できなかったようだな?』
「は、申し訳ありません。あの大鳥龍雄が邪魔に入りまして。」
『ふむ。大鳥龍雄か。あの男は中々やる。』
そこへ幹部らしき男性がやってきた。しかし彼の姿はほぼバケモノと化していた。ゴツゴツした堅い皮膚で毛は無い。不気味な黄色 の瞳、獣のように鋭く伸びた爪。
「恐れながら・・・・・次の任務、どうかこのカラミティに。」
『よかろう、カラミティ。まずは華撃團の地上部隊、タイガーナイツを殲滅せよ。』
「御意。」
『・・・・・スラッシュよ。お前に更なる力を授けよう。そして今度こそレオ=ブレイズとシリウス=グラントを倒すのだ。』
「イエス、マスター。」
幹部の前にすら、首領は姿を現さない。
ブラック・デビルズ・フォースはこれまでも日本をはじめ、中国、韓国、フィリピン、ベトナムやタイといったアジア諸国で暗躍してきた組織だ。しかし、その全容は未だにわかっていない。各国の最新鋭兵器で、彼らが所有していないものは無いと言われるほどの軍備。降魔や脇侍といった戦力も多数保有。いったいどのようにしてそれだけの軍備を整えたのか。それもわかっていない。
劇場に帰還した後も意識を失ったままのレオはすぐに医務室に運ばれた。
大鳥の攻撃によるダメージもあるが、ベガに裏切られたことによる精神的ダメージの方が遥かに大きかったのだろう。
半日たって、ようやくレオは目を覚ました。
(どうやら・・・・生きてるようだな。・・・・しぶといね、俺も。)
横を見ると、シリウスが居眠りしている。疲れて熟睡しているのか、寝息がはっきり聞こえる。
「・・・・やっとお目覚めか?」
夏布団を持った大鳥が入ってきて、寝ているシリウスに布団をかけてやった。
「気分はどうだ?」
「・・・・・もちろん、最低だ。」
「・・・・だろうな。ま、今は休め。戦いはまだ終わっていない。」
「・・・・・大鳥、一つ訊いていいか?」
「おぅ、何でも訊け。それにもう訊いてるだろ?」
「なぜ、俺を殺さない?」
その質問に、大鳥はプッと笑った。
「殺して欲しいのか、お前?」
「俺は・・・・お前を殺すつもりだった。・・・・・本気でお前を殺そうと思ったんだぞ?」
「知ってるよ。」
「なら、なぜ・・・・・」
すると、大鳥から笑顔が消えた。
「殺すつもりだったさ。俺もお前を。・・・・・そのぐらいの覚悟がなければ、戦場には出られないだろう?」
「そうじゃなくて、なぜ俺を殺さなかったと聞いてるんだ。お前の腕ならあの時、俺を確実に殺せたはずだ。お前、俺のこと嫌いじゃなかったのか?」
「それは違うな・・・・今でも嫌いだ。」
「(面と向かってそこまではっきり言うか?)なら、なぜ?」
「・・・・・そうやってお前を討たせるのが、奴らの狙いだったのかも知れないからな。そんな手には乗りたくなかった。」
「・・・・・」
「それに・・・・・例え嫌いな奴でも、俺に仲間は殺せない。」
「!?」
大鳥の顔は真剣そのものだ。レオは思った。この男の今の言葉に嘘偽りはない、と。
「結局は俺の甘さゆえだ・・・・・少ししゃべり過ぎたな。今は寝てろ。直に忙しくなる。」
そう言うと、大鳥は出て行った。レオは再び、眠っているシリウスを見た。
(仲間・・・・か・・・・)
シリウスはまだ眠っている。相当疲れているのだろう、隣で会話していたというのに、ピクリとも動かなかった。それからすぐにレオは再び眠りについた。
2階のサロンに上がった大鳥はレオの意識が戻ったことをキャサリンとゆり子に伝えた。
「レオはんも、色々大変やな。」
「そうね・・・・・テロで仲間を失い、今また仲間に裏切られ・・・・・レオの精神はズタズタでしょうね。」
「・・・・・あいつなら、もう大丈夫だと思う。」
「どうして?」
「・・・・・そんな気がするんだ。何となく・・・・・」
もうレオはわかってくれただろう、大鳥はそう思っていた。
「ところで、明日香君たちは?」
「浅井はんと一緒にタイガーナイツの本部に行ったで。強化訓練やて。」
「へぇ、明日香君は剣術、弥生は射撃、メイリンは格闘技。みんな一流の腕前だからね。」
「何よ、私たちが役立たずだとでも言いたいワケ?」
「別にそういう意味じゃ・・・・」
「フン!」
タイガーナイツは先の神龍軍団との最終決戦でも活躍した、東京華撃團所属の陸上部隊だ。大鳥たちのように霊子甲冑に乗って戦うわけではなく、剣や銃、時には拳で戦う。それゆえ、武術や射撃に秀でた者が多く、そのほとんどは一基や和馬によって自衛隊や警察などから引き抜かれてきた者たちだ。
そのタイガーナイツの本部はお台場にある。かつて神龍軍団の拠点があった場所だ。警察署に偽装されている。緊急車両も配備されているので、いざと言う時には何かと動きやすく、しかも違和感がない。
「もっと気を入れて!気組が第一!気で相手に負けたら、勝負にも負ける!気で相手を圧倒して!!」
剣道場に明日香の声が響く。
普段は優しく丁寧な言葉遣いの明日香だが、剣を握り、教える立場になると人格が変わる。
「的を追うのではなく、的の動きを読む。実際はあの的のように単調な動きはしないけど、基本を疎かにしていては実戦では何の役にも立たないわ。」
射撃場では動く的を標的に射撃訓練が行われている。もちろん指導するのは弥生だ。
「てぇぃっ!・・・・・もう終わり?じゃあ、次の人。」
道場では自分の身長の倍近い屈強の大人を相手に戦うメイリンがいた。
訓練も終わり、3人は竜司に付き添われ、署を出てバス停へ向かう。
「いやぁ、三人とも凄いよ。さすが、龍皇を倒した英雄たちだ。」
「そんな、私なんかまだまだ・・・・・」
「へへっ、明日香ってば褒められたら素直に喜びなよ!」
「・・・・メイリン、だからって浮かれすぎるのも良くないのよ?」
「はぁい。」
キィィィン・・・・・
ふと、明日香たちは立ち止まった。何かを感じるのだ。それも自分たちの来た方向から。
「弥生さん・・・・」
「ええ・・・・あなたも感じる?」
「はい・・・・」
「ボクも・・・・何か気持ち悪い・・・・」
「・・・・何かしら・・・・胸騒ぎがする・・・・戻りましょう、弥生さん。」
「ええ!」
大急ぎで署に戻ってみると、悪い予感は的中していた。入口で立番していた警官が斬殺されている。
「・・・・ひどい・・・・」
「・・・・明日香、メイリン、浅井隊長、気をつけて・・・・・敵はまだ中に・・・・・」
警戒しながら中に入ってみると、さらに惨い光景が広がっていた。
さっきまで一緒に居たタイガーナイツの隊士たちがことごとく殺されていたのだ。
「誰が・・・・こんな酷いことを・・・・」
上の階から物音が聞こえる。まだ誰かが戦っているということだろうか。駆け上がってみると、黒いマントを纏った男が一人の隊士を惨殺したところだった。
「ほぉ・・・・まだ生き残りが居たか。」
「・・・・・お前がやったのか・・・・・俺の部下たちを・・・・・」
「そうだ。もう少し楽しめると思っていたが、思ったより歯応えが無かったな。」
「・・・・明日香、弥生。手を出さないで。コイツは・・・・ボクがやる。」
「フハハハ・・・・・おもしろい冗談だな、小娘!この俺をお前が一人でやるだと?小娘は家に帰って、ママのミルクでも飲んで寝てろ!」
シャッ・・・・バキイィィィッ!!
次の瞬間、メイリンのパンチが男の顔面に炸裂した。小さい体ではあるが、メイリンのパンチは速く、そして重い。
「ぐおっ!?」
「・・・・・お前、後悔するよ。ボクを怒らせたことを。泣いて謝ったって、許してあげないからね。」
「こ・・・・この、小娘が!まぐれ当たりでいい気に・・・・ぐわっ!?」
今度は顔面に蹴りが命中。さらに腹に六連続パンチが決まった。
「大体戦う前にゴチャゴチャ言う奴ほど大したことないんだよね。」
「ぬ・・・・ぬぬぬ・・・・・怒らせたな!このカラミティを怒らせたな!!」
素顔を見せたカラミティだが、その顔は人間でなく、降魔と人間を合わせたような顔だった。
「その顔・・・・」
「そうだ!俺は降魔と融合し、新たな力を得た!ただの人間である貴様には負けん!」
「・・・・・残念だけど・・・・・降魔に負けるわけにはいかないんだ。」
かつてメイリンは降魔によって両親と二人の兄を殺された。それゆえ、降魔には強い憎悪と復讐心を抱いていた。それを危険と判断した大鳥の命懸けの説得に応じ、メイリンは復讐をやめた。
カラミティの武器は鋭い爪。一方、メイリンは足元に転がっていた鉄棒を執った。
「俺を怒らせたこと、後悔するがいい!シャアアッ!!」
「どんな攻撃も、当たらなければどうということはないんだよっ!!」
メイリンの動きは素早い。カラミティの攻撃を紙一重でかわし、反撃技を繰り出してくる。だがカラミティも降魔と融合しているため、堅い皮膚に守られ、なかなかダメージを与えられない。
その時、戦いを見守っていた弥生が叫ぶ。
「カラミティッ!!」
不意に大声で名を呼ばれ、思わずカラミティは弥生の方を見た。それと同時に弥生は構えていた銃を撃った。
「なっ!?・・・・ぐわああぁぁっ!!」
銃弾はカラミティの右目に命中した。
「ハイイイィィィィッ!!」
続いてメイリンが鉄棒で左目を潰した。完全に光を失ったカラミティに、もはや戦う術はなかった。
「・・・・・浅井隊長、彼を連行しましょう。彼からBDFの情報が色々聞き出せるはずです。」
「ああ。」
ドオオオオオォォォォォォッ!!
しかしその時、突然雷鳴が轟き、稲妻がカラミティに落ちた。
「ぐあああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
そして間もなくカラミティは息絶えた。
恐らくはBDFがカラミティから情報が漏れるのを恐れ、彼を処分したのだろう。
「く・・・・せっかくの手掛かりを・・・・・」
「メイリンに負けたとはいえ・・・・・幹部をこうも簡単に・・・・・」
「任務に失敗し、戦闘能力を失った者に用は無い・・・・・そういうことだろう。」
「ひどい・・・・・」
タイガーナイツは隊長の浅井と外出していた極僅かの若手隊士を除いて全滅した。敵の幹部・カラミティを倒したとはいえ、その代償は余りにも大きい。
この報せはすぐに本部の一基や大鳥たちにも伝えられた。
「そうか、全滅に近い状態・・・か。」
「・・・・幹部とはいえ、たった一人の敵にここまでやられるとは・・・・」
「・・・・これで・・・・我々は戦力の3分の1以上を失ったことになる。上手く考えたものだ。」
「・・・・司令、自分は近く、敵の大規模攻勢があると思います。」
大鳥の考えはこうだ。
敵が東京華撃團の陸上戦力であるタイガー・ナイツを狙い、戦力を大幅に消耗させた今こそ、大規模攻勢の絶好の機会だ。敵はこれまでの戦いにおいては降魔数十匹と幹部一人しか失っておらず、その戦力は未だ衰えてはいない。もし、一斉攻撃でもかけられようものなら、東京華撃團だけでは防ぎようがない。
「確かに・・・・その通りだろう。恐らく敵は東京・大阪・名古屋・福岡などの大都市を中心に攻撃をしかけてくるはずだ。だが、手は打ってある。」
福岡には今、市街地復興支援の最中で自衛隊が駐留していて、迂闊に攻撃はできない。
神戸にはイージス艦隊が集結しつつある。大阪も可能性としては低い。
そして名古屋には浜松基地の航空隊を中心とした戦闘機隊や陸上部隊が集結している。自衛隊の戦力がどれほどあてになるかはわからないが、東京華撃團が駆けつけるまでの時間を稼ぐには十分な措置だった。
その頃、BDFの本拠地にある手術室ではベガの改造手術が行われていた。
より強い力を求めたベガはカラミティ同様、降魔との融合を望んだ。そして手術は成功。降魔と融合したベガの姿は醜いバケモノと化していた。
ベガが目を覚ますと、どこからか声が聞こえてきた。
『・・・・スラッシュ・・・・聞こえるか?』
「・・・・・はい・・・・マスター。」
『立て、お前は生まれ変わったのだ。』
立ち上がったベガは自分の手足を見た。手の爪は長く鋭く伸びていて、皮膚は堅く頑丈になっている。
『お前と融合したのは降魔の中でも最上級のものだ。これでお前は最強の降魔人となった。』
「・・・・・」
『祭壇の間へ来るがいい。次の任務を伝える。』
言われた通り祭壇の間へ行くと、他の幹部たちが集結していた。
『みな、揃って居るな?』
祭壇に向かって5人の幹部がひれ伏す。ではここで、BDFの幹部を紹介しておこう。
まずは”スラッシュ”ことベガ=ブラウン。元5大幹部の”カラミティ”が死亡したため、新たに幹部に加わった。
マッハ2の高速で飛行し、衝撃波を起こすことのできる”ウインダム”。
姿を消す能力を持ち、奇襲や暗殺を得意とする”レギオン”。
足が速く、鋭い爪と牙で強襲する戦法を得意とする”チェイサー”。
そして5大幹部の筆頭格で、あらゆる武術、特に剣技に優れる”デュエル”。
彼らはベガ同様、もともとは人間だったのだが、降魔との融合により、それぞれ特殊な力を授かっている。スラッシュ以外の幹部たちは海外で暗躍していたが、今回首領の招集により密かに日本に集まったのだ。
「は、首領。五人全て揃いました。」
『かねてよりの計画を実行に移すときが来た。』
「おお!遂に我らの出番が来たということですな?」
『そうだ。下準備は計画通りに運んだ。・・・・カラミティがドジを踏んだこと以外は、な。』
それを聞き、チェイサーがクスクスと笑う。
「仕方ありませんわ。彼はわたしたちの中じゃ一番弱いんですもの。」
『ふふふ・・・・・だが相手はあの東京華撃團だ。お前たちも心してかからねば、カラミティの二の舞になるぞ?・・・・そのカラミティに代わり、そこのスラッシュが、新たに幹部に加わる。もとニューヨーク華撃團の隊士だ。』
「ほぉ・・・・・では色々と情報を持っているということですな?」
『その通りだ。スラッシュのお陰で華撃團の戦力、部隊の配置、本部の構造などあらゆる情報が手に入った。よって計画の一部を変更し、デュエルとスラッシュの二人には華撃團本部を強襲してもらう。他の者は計画通りに。』
「御意・・・・」
そしてBDFが動き出す。今や完全にBDFの手先となったベガはチェイサーを伴って銀座の華撃團本部を攻撃する手筈を整える。
その日、東京の空はどんよりと曇っていた。
既に日は昇っているにも関わらず、夜明け前のように暗い。テラスから明日香が黒い空を見上げている。
「嫌な天気・・・・」
『明日香さん、気をつけて・・・・』
振り向くと、霊剣荒鷹を差した着物姿の少女がいた。龍皇との最終決戦の折、気絶した明日香が夢の中で出会った少女だ。
「あなたは・・・・どういうことです?」
『気の乱れが感じられます。何かが起きます。』
「いったい何が?」
『それが何かはわかりません。ですが、備えておいて下さい。』
「・・・・あなたは一体・・・・」
『あたしたちはいつでも・・・・あなたとともに・・・・』
と、その少女はスッと消えてしまった。荒鷹を差していることから、かつての持ち主だということはわかる。しかし、それが誰なのか、今の明日香には知る由もない。
緊急警報が鳴ったのはその時だった。
すぐにレオを含む全隊士が作戦指令室に集合した。
「レオ、もういいのか?」
「いつまでも寝てられないからな。」
「だが、どの道お前の機体は整備が済んでいない。だからまだ休んでいていい・・・・・では状況を説明する。」
100近い降魔の集団が横浜に出現。
東京とは目と鼻の距離にあるこの地を制圧されるわけにはいかない。よって、華撃團は直ちに出動する。ただし、陽動作戦の可能性も考えられるので何人かは残ることになる。
双武の整備が終わっていないため、大鳥は残ることになる。また、レオも機体が大破しているので残る。
「大鳥、部隊の指揮は誰に執らせる?」
「・・・・シリウス君、君に任せる。」
「わ、私ですか!?」
「君はニューヨーク華撃團の副長だ。それに君の機体は自由飛行も出来る。上空から的確な指示を出し、時には援護をすることも出来るはずだ。」
「でも・・・・・」
「大丈夫、お前ならできるさ。」
と、シリウスの肩を叩いたのはレオだ。
「レオ・・・・」
「お前ならできる。俺はそう信じている。だから、お前も自身を持て。」
「・・・・うん、わかった。・・・・シリウス=グラント、部隊の指揮を執ります!!」
「よし、東京華撃團、出撃だ!!」
隊士たちは地下2階の格納庫へ向かったが、明日香はすぐに行かず、大鳥のもとに来た。
「どうした、明日香君?」
「あの、大鳥さん・・・・・どうか、気をつけてください。」
「ん?」
「今日は朝から・・・・・嫌な予感がするんです。この感じは前にも・・・・・」
「・・・・・大丈夫だ、明日香君。俺のことより、君たちこそしっかりな。」
「はい。・・・・行ってきます!」
明日香は笑って出撃していった。
隊士たちを乗せたスカイ・ホエールが出撃したのを確認すると、レオは大事をとって自室に下がった。
「ふぅ・・・・・うまくやれよ、シリウス。」
そう呟き、目を閉じた。しばらく沈黙が続いた後・・・・・
コツ・・・・コツ・・・・コツ・・・・
廊下を歩く足音が聞こえてきた。それは段々大きくなる。この非常時に、劇場内をうろつく者などいない。レオは枕の下に隠してある拳銃を取り出し、撃鉄を起こした。
やがて足音はレオの部屋の前で止まった。そのまま沈黙が続く。
「(この野郎・・・・・根競べのつもりか?)・・・・・そこに居るのは誰だ?」
『・・・・・・』
「3つ数える。それまでに名乗らなければ発砲する。これは脅しではない!」
だが、3秒数えても名乗りを挙げない。
「・・・・・なめるな!」
ドア越しに3発発砲。しかし・・・・
「・・・・・(おかしい・・・・・確かに命中したはずだが・・・・・)」
すると、声が聞こえてきた。
『相変わらず射撃は下手ね。』
「なっ、ベガか!!」
『決着をつけてあげるわ。やる気なら舞台まで来なさい。』
ドアを開けるとそこにベガの姿は無かった。
「あいつめ・・・・上等だ、ケリをつけてやろうじゃねぇか!」
レオはサーベルを持って1階に下りていく。すると、影の中からデュエルが出てきた。
「どうやらうまくやったな、スラッシュ。貴様がレオ=ブレイズを倒せば、残る強敵は大鳥龍雄、ただひとり・・・・・」
『ほぉ・・・・・BDFの幹部に「強敵」と呼んでもらえるとは光栄だな。』
「・・・・・さすがだな・・・・・気配を消してこの私に近付くとは・・・・・」
デュエルの背後に大鳥が回りこんでいる。だがデュエルはまったく動じない。
「わが名はデュエル。五大幹部筆頭にして最高の剣士。わが使命は大鳥龍雄、貴様を消すことだ。」
「デュエル・・・・・『決闘』という意味だな。」
「そう・・・・・あくまでも正々堂々と戦う主義だ。いざ、勝負!!」
大鳥、デュエル、ともに抜刀。構えるが、お互いになかなか動こうとせず、にらみ合いが続く。
一方、舞台に向かったレオはベガと対峙。二人とも抜刀している。
「フフフ・・・・・私に勝てると思っているの?」
「見くびるな!俺とて司令から剣の指南は受けた。貴様の手の内も読めている!」
「そう・・・・・じゃあ、これはどうかしら?」
そのとき、ベガの体が黒い光を放ち、降魔へと変身していく。
「お前、その姿・・・・・」
「フフフ・・・・・どう?これがマスターから授かった新たなる力よ!降魔との融合で私の全ての力が上がったわ!」
「フン・・・・・これで・・・・俺の決意も固まったぜ。」
「決意?」
「そうだ。そんな姿になってくれたお陰で、俺も心置きなくお前を討てるというものさ!」
「フッ・・・・あはははは!ならば討ってごらんなさい!!」
レオとベガは舞台上で戦いを始めた。
共に大河から剣を学んだ者同士。太刀筋はほぼ同じで互いに手の内が読めている。いくら打ち合ってもなかなか決着がつかない。
「やるわね、レオ。だけど、この勝負は私の勝ちよ!!」
バチバチバチッ!!
ベガが右手をかざすと指先から電撃が放たれ、レオはそれをまともに浴びてしまった。
「ぐあああぁぁぁっ!?」
「ハハハ・・・・・!言ったはずよ、私のすべての力が上がったって。手数も前より増えたってことよ!」
全身が痺れたレオは舞台上から客席へ転がり落ち、そのまま気を失った。ベガが止めを刺そうとしたその時・・・・・
コツ・・・・コツ・・・・
舞台袖の方から足音が聞こえてくる。そちらを見ると舞台に上がってきたのは大河新次郎だった。
「・・・・師匠。」
「・・・・ベガ・・・・いや今はブラック・デビルズ・フォースの幹部、スラッシュ・・・・と呼ぶべきか。」
「これ以上あなたに邪魔されては厄介・・・・・ゆえに許されない、あなたの存在は!」
さきほどと同じ電撃を放つが、大河はそれを手のひらで止めたばかりか跳ね返してきた。
「なっ!?」
間一髪で避けたが、少し遅ければ直撃していたところだった。
「力を付けたな・・・・弟子だった頃より随分強くなった。だが、お前の力には邪なるものを感じるぞ。」
「マスターの加護を受けた私に勝てる者はいない。・・・・・たとえ昔の師匠である、あなたでも!」
再び電撃を繰り出すが大河には通じない。連続で放射するもどういうわけか全て手のひらで掻き消されてしまう。
「お前の力はその程度か?まだまだ修行が足りんな。」
「どうやら霊力では勝負が付きそうにありませんな。では・・・・・やはり剣で決着をつけるとしましょう。」
ベガが剣を構えると、大河は杖に仕込まれていた刀を抜く。
その頃、出撃したシリウスたちは降魔の群れを殲滅。
しかし、その直後に一匹の降魔が出現した。幹部の一人、チェイサーである。
「あれは・・・・・カラミティと同じ・・・・・」
「そう・・・・私は5大幹部の一人、チェイサー。しかしカラミティと同じだなんて思わないことね。彼は私たちの中では一番弱かったんだから。」
「・・・・・ガルーダより全機へ。敵は一人だけど、幹部です。油断しないで。包囲して一斉に攻撃します!!」
シリウスの指示により、全機散開。チェイサーはまったく動かず、あっという間に周りを囲んだ。
「ファイアーッ!!」
ドドドォォォォォッ!!
凄まじい爆煙が上がる。しかし、その直後、煙の中から黒い物体が飛び出した。
「なっ!?」
「フフフ、遅いわよ!!」
ドガアアァッ!!
チェイサーは瞬く間に明日香機とゆり子機を攻撃。一撃で戦闘不能に追い込んだ。
「調子に・・・・・乗るなぁっ!!」
猛然と突っ込むメイリンだったが、攻撃はかわされ、返り討ちにあった。
「このぉっ!よくもナメたマネを!!」
「ダイヤモンド・ダストォッ!」
弥生とキャサリンの連続攻撃を難なくかわし、次々と倒す。
「フフフ・・・・・意外と、華撃團も甘いようね・・・・・残るは一人・・・・・」
残ったのはシリウス一人だけになった。
「(負けないッ・・・・・大鳥隊長と・・・・レオのためにも!!)」
「さぁ、どうするの?」
「(勝機は一つ・・・・・スピードで上回るしかない!)」
変形して一旦上空に退くと、猛然と急降下。
「私にスピード勝負を挑むの?」
チェイサーは地上を凄まじいスピードで移動。しかしシリウスもそれに喰らい付いて行く。
「今だ!スターライト・レボリューション!!」
シリウス機のスラスター全てが最大出力になり、スピードはチェイサーを上回った。
「なにぃっ!?」
「終わりにするよ、ガルーダ!!」
「ちぃっ、冗談じゃないっ!!」
全ての武器を発射。そのうちの何発かがチェイサーに命中した。
「くそぉ・・・・こんなはずでは・・・・・えぇいっ、撤退する!!」
チェイサーは煙の中に消えた。
シリウスには追撃する余力はなく、機体もオーバーヒート寸前なので着陸した。
「・・・・・ふぅ・・・・・少し・・・・・無茶をしたかな?」
エンジンの温度が危険域に入っている。
その後、スカイ・ホエールに全機回収され、東京に向かって飛んでいった。
一方、大鳥とデュエルもまた戦いを始めていた。
デュエルは幹部の筆頭を名乗るだけあって剣の腕前はかなりのものだった。しかし大鳥も全国で5本の指に入る実力の持ち主。やはり決着はつきそうにない。
「勝負は付きそうにないな、大鳥龍雄。」
「・・・・・」
「これ以上戦っても悪戯に時間を消耗するだけだろう。私はムダが嫌いな性分でね。今日のところは引き上げるが、いずれ決着を付けるとしよう。」
そう言うと、デュエルは影の中に溶け込んでいき、そして完全に消えた。
「・・・・・(デュエル・・・・・確かに強い。あのまま戦っていたら、良くて相討ち。下手をすれば殺されていただろう)・・・・ハッ、レオ!」
大鳥は急いで舞台の方へ向かう。
一方、大河とベガは熾烈な戦いは繰り広げている。大河は老体であるにも関わらず、ベガの攻撃をすべて避ける上に、反撃で確実にダメージを与えていく。
「何?・・・・・さっきの霊力といい、なぜこんな老いぼれに勝てない!」
『愚か者め!!』
「な、何・・・・今のは!?」
『貴様如きが大河新次郎に刃を向けるは・・・・・片腹痛いわ!』
「し・・・・師匠の中から・・・・別の魂を感じる・・・・恐ろしく強大で威厳に満ちたこの魂は・・・・・」
『たわけが!この第六天魔王の名において成敗してくれるわ!!』
大河との約束を果たすため、信長は目を覚まして大河を助けていた。
「言ってなかったな・・・・・私の中には織田信長が眠っているのだよ。」
「・・・・だ・・・・第六天魔王・織田信長・・・・・そうか・・・・・90歳を越えていながら、これほどの力を宿すのはそういうことだったのか・・・・・」
『スラッシュ、退け!間もなく大鳥龍雄がやってくる!』
デュエルの声がベガの脳裏に聞こえた。
「デュエル・・・・・くっ!!」
デュエルの指示に従い、ベガは黒い光を放ってその中に消えた。そして言葉どおり、大鳥が駆けつけてきた。
「大河さん!」
「おお、大鳥君。」
「大河さん、レオとベガは?」
「レオはそこで気絶している。ベガは・・・・・逃げた。スマン、力が及ばなかった。」
そう言って大河は去って行く。やがてレオも気付き、とりあえず劇場は人的被害を一切出さずに防衛に成功した。
やがて出撃したシリウスたちも帰ってきた。
機体のダメージは大きいが総動員で修理にかかっているので、2日後には作業が終わる。
「どうやら、手薄になった劇場を叩くのが目的だったようだな。」
支配人室で一基、和馬、さつきの3人が話している。
「和馬、大河さんはどうした?」
「ベガと戦ってひどく疲れたらしく、お休みになっている。」
「そうか・・・・・」
「なあ、一基。やはりタイガー・ナイツを失ったためにこちらの戦闘能力は大きく下がった。ここはやはり・・・・・」
一基はしばし考え込み、そしてさつきを見た。
「さつき君、『例の機体』・・・・・いつでも出られるな?」
「・・・・・はい。『例の機体』は既に整備を終えました。それと・・・・大鳥君とレオ君の機体の方はほぼ終わっていますが、最終調整にもう3日かかります。」
「うむ・・・・・和馬、さつき君。人間、行動しなかった後悔の方が深く残ると言う。だから我々は我々の出来ること、すべきことをしよう。後悔はしても、何もせずに後悔することだけはしないように。」
和馬とさつきが大きくうなずく。
そしてさつきの言葉どおり、花やしき工廠では機体の最終調整が慌しく行われていた。
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