第四話「奪回」(その8)

「あれ、米田のおじさん!」

 琢也は意外な人物をみつけて、思わず声をあげた。

「馬鹿野郎。中尉と呼べ」

 返ってきた返事はこれだ。
 いかにも米田らしい。
 もっとも、ベッドに寝そべっている状態では迫力がない。
 その場所は仮包帯所――前線の簡易野戦病院である。

「失礼しました、中尉殿。で、こんなところで何を?」
「何をっておめぇ、怪我の治療以外に何があるんだ」

 脚を撃ち抜かれた米田だったが、その後も消毒に包帯だけという応急処置をしただけで戦い続けていた。負傷しているとは微塵も感じさせない動きであった。
 本人は「後は焼酎でもぶっかけてりゃ治る」と豪語したが、夜が訪れ、戦闘が一段落したことから、上官からの強い命令と、何より前線には焼酎もないことから、後方に下がって治療を受けていたのである。
 とはいえ、弾は貫通して抜け、骨にも当たっていない。止血も応急処置がうまくいっていたから結局は消毒と包帯をし直しただけだ。これくらいは戦場では「軽症」である。

「それよりも、お前こそ何しにきたんだ? 怪我してるようにも見えんぞ」
「ええ。ちょっと上官の見舞いです」

 甲虎部隊でも2人が仮包帯送りとなっていた。
 篠崎新次郎中尉は甲虎の左脚足首関節部にブローニングの収束弾を喰らって、機体が転倒。その衝撃で左半身を痛打、左腕部には裂傷を負った。ただ、比較的軽症で、前線復帰が可能である。
 しかし、もう一人、山崎幸一少尉は、砲弾によって機体背部の蒸気管が破裂。その高温高圧の蒸気が操縦席内に吹き込み、重度の火傷を負ってしまった。幸い命には別状ないが、入院加療が必要であり、後送されることとなっている。一方で機体は蒸気管さえ交換すればまだ稼動可能なため、機体は破壊されたが本人は無事な琢也が、それに乗り込むことになった。
 そこで、琢也は篠崎のところに「機体のクセ」を聞きにきたのだ。この時期の甲虎は実質的には量産試作段階にあり、手作りに近い状態であるため、一機ごとに特性のバラツキが大きく、それを修正しながら機体を操ることを要求されていたからである。

「しかし、米田のおじ……いえ、中尉殿がここにおられるとは思いませんでしたよ」
「なにいってやがる。おめえこそ、まだ士官学校だったんじゃねぇのか?」

 琢也達の『花組二世』世代においては、米田といえば、この鷹将である。米田一基からみれば末の甥だが、子供にめぐまれなかった一基は彼を自分の子供のようにしてかわいがっていた。一基亡き後も大神がこの鷹将を何かにつけて面倒をみていたので、花組二世達にとってみると、まるで従兄弟のようにして育ったのである。
 もっとも、おじさん呼ばわりされるほど実年齢は離れていないが、見た目の恰幅のよさとからくる印象のためだろう。

「実は士官学校から甲虎隊に引き抜かれたんですよ」
「ほう。そりゃてーしたもんだ。やっぱ血筋だな」

 米田の言葉に、琢也はやりにくそうに首を捻った。

「やっぱりそうですかな」
「そりゃそうだろーよ。カンナの姐さんは女だてらに琉球空手・桐島流後継者として霊子甲冑を操った偉丈夫だぜ。おめぇの血が人型蒸気を呼んだのさ」
「はぁ……」

 琢也にしては珍しく歯切れの悪い返事だ。
 この年代だ。自分の評価や行く末を親のことうんぬんで言ってほしくないという気持ちがある。

「もっとも、血筋ってーなら、俺は生粋の歩兵の血ってことになるがな」

 一基は晩年に帝撃総司令を勤めるまでは、抜刀隊から対降魔部隊に至るまで一貫して歩兵だった。

「さて、そろそろいくか」

 米田は仮設寝台から身体を起こすと、将校用のロングブーツを履き始めた。

「え、いいんですか?」

 既に処置は終わり、巻かれている包帯が、応急処置のために破かれた軍袴の切れ目から見えている。だが、その包帯にも血が滲んでいた。いかにもな痛々しさだ。

「馬鹿野郎。こう見えても部下持ちだぞ。放っておけるわけねーだろう」

 上衣にも袖を通した米田が、今度は弾帯を装着しようとした、その時だ。
 沖の方から轟音が響いた。

「敵襲!?」

 琢也は思わず怯む。
 そして、数秒後、更なる大轟音が、今度は前線の方から轟いた。

「馬鹿野郎。こいつは海軍さんの支援にちげぇねぇ」

 ここからでははっきりとは見えないが、確かに敵陣地に砲弾が打ち込まれているようだ。

「お前らと違って、俺らの本領はこの時間帯よ」

 日本歩兵の夜襲といえば、日露戦争の時代からお家芸だ。
 一方、夜間では受像機で映像を感知するのに必要な光量が確保できない甲虎は夜間戦闘は難しい。

「こうしちゃいらんねぇぜ!」

 米田は琢也をおきざりに、前線へと走っていた。

「現有勢力では橋頭堡を崩すことは不可能でしょう」

 参謀長のスティーブ・シャノン大佐の言葉に第25師団長デイビッド・ハンプトン中将はただ頷いた。
 このマリアナを守備している部隊の中核は第25師団であり、彼が実質的なマリアナ方面の防衛隊長ということになる。

「日本軍の反攻がこれほど早いとは……」

 米軍は侵攻時に五日間に渡る砲爆撃を行い、日本軍が構築していた陣地のほとんどを破壊してしまった。そして、占領後も、米軍全体が攻勢優先のスケジュールで動く中で、本格的な陣地構築を行っていなかったのである。それが日本軍の進撃を容易にした一因だ。

「こうなれば、戦線を縮小して増援を待とう」
「それしかありますまいな」

 ハンプトンの決断にシャノンも同意した。
 日本軍が上陸しきたのは、サイパン島南部西側のチャランカノア周辺である。ここから島南部東側のラウラウ湾までは直線距離で5km程だ。日本軍は島の南北に米守備隊を分断しながら、島南端部のアスリート飛行場を占拠するつもりだろう。

「南部は放棄し、島北部に向かって戦線を縮小しよう」
「アスリート飛行場は放棄ということですか」
「ああ。飛行機はテニアンに移動させよう」
「わかりました。すぐに連絡させます」

 幸いというべきか、サイパン島はジャングルだ。陣地ではなくとも、かなり時間は稼げる。ただ、米兵は“文明”に慣れすぎているため、ジャングルでの耐乏戦でどれだけ粘れるかには疑問が残るところだ。
 とはいえ、他に手があるわけではない。

「できるだけ戦力を温存することを優先する。遅滞戦術でいくんだ」

 何とか態勢を整えるべく各部隊に矢継ぎ早に指示をだす。
 が、その時、沖の方から轟音が響いた。
 そして、数秒後、更なる大轟音が、今度は前線の方から轟き、地面が揺れる。

「なんだこれは?」

 それこそ、今回、日本軍が用意していた“秘密兵器”が投入された瞬間だった。



「三川提督から連絡がありました」

 旗艦・空母「隼鷹」の艦橋で寝ずの指揮をとる大神の元にその連絡が届いたのは0220(午前2時20分)のことだった。

「内容は?」
「はい。艦砲射撃による地上支援を開始したとのことです」

 伝令の言葉に、これまた寝ずに大神のサポートを続けている加山も軽く頷いた。

「予定通りですな、閣下」
「ああ」

 支援艦隊を率いる三川中将は、その艦隊の中から戦艦「大和」「長門」「陸奥」の三艦を直率し、米軍に対する夜間艦砲射撃を開始したのである。

「アレは予定どおりの効果をあげているかな?」
「さあ。わからんな。だが、あの三大戦艦の砲撃をくらっちゃ、いずれにしても無事ではすまんさ」
「そうだな」

 それでも、大神は固い表情を崩さない。

「そんなに心配なら、向こうに乗ればよかったじゃないか。大和にものりたかったんじゃないか?」

 ようやく、大神は表情を崩した、というより苦笑してみせた。

「まあ、俺だって海軍に入った頃はな。東郷元帥に憧れて入ったんだから。鉄砲屋(砲術士官)として世界最大最強戦艦の砲撃を、敵艦相手じゃないとしたって指揮してみたいってのはあるさ」
「それが今や機動部隊の長官殿だ」
「ははは。どこで、道が変わっちまったかね」
「そりゃ決まってるさ。秘密部隊の隊長になった時からさ」
「違いない。美少女に囲まれて鼻の下を伸ばしている間に、同期連中は男やもめの海の上だったんだからな。その報いだよ」

 加山も相好を崩す。

「その分、苦労はしたつもりだがね。少尉の分際で帝都を守る戦いの指揮をとったんだからさ」
「まあな」
「だが……」

 大神はここで表情を引き締めた。

「……ここで負けたら、その戦いの勝利も無駄になっちまうからな」

 大神は、サイパン島の方向を見た。もちろん、何も見えるはずもない。
 だが、大神の脳裏にはその光景が浮かぶような気がした。

「大丈夫。うまく進んでいる」

 自らに言い聞かせるよう大神は呟いた。
 彼の霊力が働いたわけでもないだろうが、事実、前線では“うまく”進んでいたのである。

「うまく進んでいる」

 戦艦『大和』の艦橋で大神と同じ台詞を三川軍一は呟いていたのだ。
 たかが三艦といえども、『大和』の四十六糎砲3連装3基・合計9門と『長門』『陸奥』の四〇糎砲連装4基・8門2艦の合計16門という強力なものである。
 そして、それに加えて今回は新兵器が投入されていたのだ。

「凄いな。この三式弾は」

 通常、戦艦が使用するのは徹甲弾と呼ばれる弾薬である。
 これは、敵艦の装甲を突き破り、その内側で爆発するために設計された弾薬だ。具体的にいえば、先端に鋭く強度の高い“装甲板”が取りつけられており、それで装甲を貫く。そして、相手に着弾してから艦内に弾薬が『潜る』までの時間が必要となるため、着弾して数秒後に爆発するように信管が調整されている。
 これを地上砲撃に使った場合、直撃個所には壊滅的な被害を与え、大抵の陣地は跡形も無くなる。だが、効果を与える範囲は限定される。
 これに対し、今回始めて実戦投入されたのが“三式弾”だ。
 元来は主砲を対空兵器とするために開発された弾薬で、時限信管により着弾の有無に関わらず爆発。内蔵された大量の破片を周囲に撒き散らす。その破片により敵航空機を撃破しようというものであった。しかし、聯合艦隊司令部は、この弾薬に対地支援弾としての効果を見出したのである。
 すなわち、時限信管を調整し、地面に着弾する直前に爆発させることで、空中からシャワーのように広範囲に破片をばら撒くことで面を制圧することができると考えたのだ。
 実際、三川艦隊の前で繰り広げられている光景は良そう通り、いや、想像以上のものだった。

「まるで火の海だな」

 炎が空を赤く照らす程の大火災を生じている。
 敵戦艦部隊との艦隊決戦を夢見て練磨を続けていた帝國海軍第一戦隊(大和・長門・陸奥)にとって、動かない島を砲撃することなぞ、据物切より容易なことだ。おまけに戦艦に対して有効な地上火器など存在しないし、夜間だから航空機を出撃させることも出来ない。もちろん、艦隊もいないのだから、まさに“無敵”状態だ。

「三川閣下。地上部隊より入電。予定通り攻撃を開始するとのことです」
「よし。わかった。砲撃中止!」

 このまま撃ち続けていては味方まで巻き添えにしてしまう。
 予定通り、サイパン島への砲撃は中止する。

「進路をテニアンに向けろ」

 三戦艦はまだ日本軍が上陸していないテニアン島の砲撃に向かった。
 ここには飛行場が3つ存在する。これをこのままにしては脅威になる。
 この後、三川艦隊はサイパンと同じようにテニアン、続いてグアムもを火の海にしてしまうのであった。

「米田中尉、大丈夫なんででありますか?」

 自分の小隊に駆け戻ってきた米田を見て部下達が驚いた様子で彼に問いかける。

「大丈夫に決まっとろうが。大体、これから攻撃だろう。黙ってられるか!」

 実際、彼の中隊は攻撃準備を整えている。
 米田も部下が次々と渡してくれる装備を次々に装着する。

「小隊長殿! 中隊司令部より伝令!」

 この当時、日本軍の小隊には無線機が配置されていなかった。
 これには幾つかの要因があるのだが、日本陸軍が主戦場として想定していた太平洋方面の高音多湿という機械とっての悪条件下で満足のいく耐久性を持った無線機を開発することに苦戦していたこと、そして無線機を中隊レベルまで配布するだけの予算がなかったことがその最大の理由である。
 従って前線での連絡は伝令によるところが大きかった。

「当然、夜襲だな?」
「はい!」

 もちろん、伝令がくるまでもなく、この海軍の大支援を見ていれば攻撃をするのは当然に予想できる。小隊はとっくに準備を整えていた。
 もっとも、ほとんど昨日からずっと戦い続けているのではあるが。

「小隊長殿……」
「あ!? なんだ、聞こえないぞ!」

 すぐ隣から話し掛けてきた松田兵長の声が聞こえない。
 三戦艦の砲撃はそれほどの大音量となっているのだ。

「中隊長殿! 凄い砲撃ですね!」
「そうだな。海軍さんは桁違いだぁわ」

 戦艦『大和』の46cm砲は世界最大の実戦砲だ。
 それに対し、陸軍がこのサイパンに持ち込んだ砲のうちに最大のものは一木支隊直轄砲兵隊が保有する九一式一〇糎榴弾砲の10cmに過ぎない。
 陸軍の兵達が半ば感嘆しているのも無理からぬことだろう。

「そろそろ時間だな」

 あたりが急に静寂に包まれた。
 いや、戦艦からの砲撃が止んだために、大音量に慣れていた耳には音がないかのように思えただけだ。
 だが、それも僅かな間だけであった。
 大音量のラッパ音が劈くように響いたのである。
 突撃喇叭だ。

「突撃ぃ!!」

 今まで身を低くしていた日本兵達は一斉に立ち上がり、敵陣に向けて駆け出していく。
 米田もその先頭に立って、文字通りの突進だ。

「いけぇ!」

 もちろん、米軍も反撃してくる。

(だが、散発的だ)

 後退していた米軍は充分な陣地を築けていないだけでなく、海岸線と違ってジャングルで見とおしがない。なにより、視界が効かず効果的な射撃ができずにいるようだ。
 日本軍も突撃に直接参加せず後方から牽制射撃する重機を除いては射撃することなく、ひたすら米軍陣地目がげて走りこんでいく。

「突撃! 突撃ぃ!!」

 声も枯れんばかりに指揮刀をふるう。
 と、目の前が瞬間的に明るくなった。

「照明弾だ! 伏せろ!」

 強い光を発する弾を上空に打ち上げることで、戦場を広く照らすのが照明弾だ。
 マグネシウムを利用したその照明は、はっきりとした影を作るほど明るい。
 しかし、その有効時間は数秒だ。それを伏せることでやり過ごす。
 戦場が再び闇を取り戻すと、日本兵はすぐに立ちあがり、再び敵陣を目指す。

「敵は弱いぞ! 一気にいくぞ!」

 先ほどの照明の間に、思ったよりも敵の攻撃が強くならなかったことを感じ取っていた。
 米田も本格的な戦場は、このサイパンが初陣である。
 にもかかわらず、彼にはそう感じ取れ、実際、それは正しかった。
 彼にも米田一基ゆずりの戦場の匂いを感じ取れる能力があるようだ。

「うぉぉぉぉ!」

 米田ら先頭の兵達が米兵との白兵戦距離に入った。
 お互いに闇の中での戦闘だ。目の前にある人影目がげてとりあえず襲い掛かるといった様相だ。もちろん、そうした状態では同士討ちもしかねない。
 米田の目の前にも敵味方がわからない影が飛び出してきた。

「山!」
「川!」

 米田の大声に返事が返ってきた。
 合言葉だ。単純だが効果はある。
 味方だと確認した米田はすぐに目を周囲に走らせ、別の敵を求めて、戦場を駆けていく。

「進めぇ!」

 米田の思った通りであった。抵抗は薄い。
 日本兵も強襲上陸から引き続いての夜襲だ。ほとんど寝ていないのだから疲労は激しい。しかし、日本軍にとって初めての反撃であるこの戦いの意義を、全員がよく理解していた。無理に無理を重ねても士気は落ちるどころか、逆に上がってさえいるように思える。

「休むな! まだまだだ!」

 米田も叱咤して戦いつづけて、何時間たっただろうか。

「攻撃中止! 態勢を立て直せ!」

 そんな命令が部隊の間を飛び交った。
 想像以上の前進に成功した日本軍だったが、その分、部隊は混乱・拡散してしまっている。一度、立て直して態勢を整えなおす必要があるのだ。
 米田も自分の小隊を把握しきれていなかった。なにせ、彼の隣にいる兵士も自分の部隊の兵士ではない程である。

「えーと、うちの小隊はどこだ?」

 彼自身が戦闘のみに集中して現在位置を把握していないような有様だった。
 まだまだ若いといえるだろう。
 それでも、周囲の兵に聞き込みやらしながら、何とか自分の小隊と合流する。

「小隊長殿、遅いですよ」

 小隊軍曹が苦笑しながら言う。
 さすがに軍隊経験の長い軍曹は米田がすっとんで行き過ぎて(小隊側から見れば)行方不明になった後も、できる限りの人数を掌握して指揮を続けていた。

「いや、すまんすまん」

 米田も苦笑する。
 だが、そんな雰囲気も一瞬だけのことだ。すぐに小隊の状況の確認と防御態勢の構築を行う。
 幸い、小隊の損害は軽微なものだ。もちろん、負傷者は多いが戦線を離脱する程ではないという意味においてだが。
 その報告に安心した米田はとりあえずの陣地の構築にとりかかる。

「どうやらこの辺りは海軍さんが支援してくれたところらしいな……」

 自らも作業をしながら米田は呟いた。
 木々の折れ方や地面の荒れ方は尋常ではなかったし、やたらに燻った匂いもする。

(やっぱ海軍さんの大砲はでけぇなぁ)

 そして、次第に空が明るくなり、まわりがはっきり見えてきた時、米田は更に驚きを深めた。

「こりゃぁ……すげぇな」

 米田のいるあたりは海軍が砲撃した地域の中では「端っこ」といえるところだ。しかし、それでも原型を留めている木々はないし、そこら中を掘り起こしたようになっている。今までのサイパンの光景とは一変してしまっていた。

(米兵の抵抗が薄いわけだな……)

 だが、海軍が重点的に砲撃した地域はもっと凄いことになっていた。
 三式弾が地上に露出していたあらゆるものを焼き尽くし、破壊していたのである。

「これは……」

 米田が驚愕したのと同じ頃。ハンプトン中将は呆然とアスリート飛行場に立ち尽くしていた。
 前夜、移動を考えていた航空隊もほとんどが撃破されてしまっている。滑走路も、もはや滑走路だったもの、と言わなくてはなるまい。
 それを修理しようにも、修理機材そのものも破壊されてしまった。
 彼自身の司令部も破壊されていたが、この飛行場も飛行場としては機能できない。

「閣下。急ぎましょう。JAPの空襲がくるかもしれません」

 シャノン参謀長がハンプトンをせかした。
 ハンプトンも頷いてその場をあとにする。

「制空権も失ってしまったな」

 ハンプトンの表情は暗い。

「グアムやテニアンも同じ状態でしょう。今後もJAPは戦艦で地上を撃ってくるでしょうから、飛行場の再建は絶望です」
「そうだな。あとは、待つしかないか」
「はい……」

 これ以後、マリアナ方面の米陸軍は積極的に活動することができなくなった。
 実際に対峙している陸上兵力よりも、昼は航空支援、夜は艦砲射撃により動きを封じられてしまったのである。
 逆に日本軍は米軍が増援を待つために、土地を譲る代わりに戦力を温存する遅滞戦術に切り替えたこともあり、予定以上の進撃を見せていた。

「あとは、敵艦隊だけだな」

 地上の戦況が順調に推移していることを確認した加山は、しかし、厳しい表情のまま言う。
 いくらこれまでが順調でも、これから生起するだろう海戦に敗北してしまえば、制海権を失ってしまい、上陸した陸軍部隊は孤立し、全滅してしまうだろう。

「わかっている」

 大神も珍しく苛立ったように答えた。
 初めて攻勢にたったため、敵艦隊の動向が全く不明なのに加えて、自軍の航空戦力も完全ではないのだ。

「索敵を強化する。艦偵以外も偵察につぎこむんだ」

コメント

タイトルとURLをコピーしました