巴里水着コレクション   作・米田鷹雄

「大神さ〜ん。夏ですよ! 夏といえば海ですよ! だから、みんなでいかなきゃダメなんです!」

 それはエリカの一言ではじまった。

「あ、ボクも賛成! イチロー、いこーよ!」
「海……海水浴ですか。それもいいかもしれませんね……ぽっ」
「ならば、我がグリシーヌ家のプライベートビーチがあるぞ」
「ふん。くだらねぇな」

 コクリコ、花火、グリシーヌが示した賛意にケチをつけるのは、案の定、ロベリアだ。

「え〜。ロベリアさん、みんなでいきましょうよ。だって、海で遊んでいると、海坊主が出てきて柄杓で水をかけられちゃうから、みんなで倒さないと!」
「なんだよ。そりゃ」
「とにかくいかないと駄目なんです! みんなじゃないと駄目なんですよ!」

 相変わらずわけのわからないエリカの押しの強さだ。
 とはいえ、大神としてもここは全員でいっておきたいところである。レクリエーションだってチームワークを醸造する一環だし、普段から気心を知れておくことは、こうした少数精鋭部隊には必要なことだ。

「ふーん、俺は海でのロベリア見てみたいな。サフィールの姿もあれだけ魅力的なんだから……」
「なに考えてるんだか、このバカは」

 口調だけとってみれば呆れてみせているが、まんざらでもない様子だ。

「ま、お前がそこまで言うなら、つきあってやってもいいぜ」

 こうした部下操縦術は、さすがに経験の長さを見せるが、そこにある恋愛感情に気づかないのが、朴念仁の朴念仁たるゆえんか。

「折角だから、メルくんとシーくんも誘おうか。人数が多いほうが楽しいだろう」
「さすが大神さん! いい考えです!」

 エリカは脳天気にはしゃぐが、何人かは“ライバル”が増えることにかすかに表情を曇らせていたのであった。

 その日の楽屋。
 ステージも終わり、巴里花組とメル・シーは後始末に入っている。
 自然と話の中身は今度のバカンスへとうつっていく。

「グラン・マも話がわかるぜ。休みくれた上に、自分は留守番してくれるっていうんだからな! はっ、自分が邪魔者だってわかってるんだな」
「ロベリア、そんないい方をするものではないぞ。グラン・マは私達のためと、巴里の平和と両方を考えていてくれているのだ」
「はん。綺麗事いってるね。グラン・マなんて来ない方が気楽だっていってやれよ!」

 グリシーヌが嫌そうな顔をするが、シーが話に割り込んでくる。

「そーですよ! グラン・マもきっと気をきかせてくれたんですよぉ。だって、私たちと大神さんだけになれるじゃないですか!」
「ということは、大神さんに泳ぎを教えてもらったりするってことですね!」
「なんだ、エリカ泳げないんだ。折角、海にいってそれじゃイチローが可哀相だよ。ボクがイチローを遠泳に連れて行ってあげる!」
「私はそんなに泳げませんから、みなさんを見てます……」
「花火。泳ぐばかりが能ではないのだぞ。浜辺でゆっくりとするのも、立派なバカンスだ」
「そうですねー。大神さんと浜辺で語らうなんて素敵じゃないですか! ね、メル!」
「え、あの私は……」
「もー、素直じゃないんだから!」

 かしましいことこの上ない。
 が、コクリコの一言で場が凍りつく。

「でも、お休みは1日だけだし、イチローは一人だし、そんなにたくさんの事、できるのかな?」

 できるわけはない。

「うーん、日本の人はみんなニンジャだから、分身できますよ!」
「エリカ……いや、いい……」

 グリシーヌがさすがに呆れ果ててぐったりとしているが、ともかく大神は増えない。

「はん。ならば簡単だ。勝負すりゃぁいいんだよ。勝負に勝ったヤツが隊長と一日一緒にいられる。どうだい?」
「えー、勝負ってなんですかぁ? わたしたちにもできるようなことですか?」
「なーに、簡単だよシー。水着で出てって、あいつが一番気に入ったヤツが一人占めできるってな」
 そう言ってロベリアはしなをつくってみせた。
 踊り子・サフィールとしての衣装でわかるように彼女は自分の身体に自身がある。
「いかにも貴様の考えそうな下品なやり方だな」
「おや、グリシーヌ殿は、そんなに自信がないのかい?」
「下品だといっておるのだ! なあ、皆もそう思うであろう?」

 と周囲を見ると……

「大神さんだったらぁ、どんなのが好きなんだろぅっ!」
「シーったら、はしゃぎすぎよ」
「でも、メルも考えてるんでしょ」
「え、わたしはその……そうね……」
「メルさんとシーさんなら強敵ですね! でも、エリカも負けません!」
「ボクだって頑張るもん。ねー、花火、日本ではどんなのを着るのかな?」
「そうですね。巴里とかわらないみたいですよ。私も何か考えませんと……ぽっ」

 他の連中は盛り上げっていた。

「まー、そういうことだ。もっとも、参加しねぇってーなら相手が減ってありがてぇけどな」
「ま、待て。参加しないといっているわけではないぞ! いや、皆の意見を聞いてみたかっただけだ!」

 こうして巴里花組+2名による水着勝負が決定されたのである。

「……というわけなんですよ!」
「はぁ……」

 海についた途端に“勝負”のことを聞かされた大神は、勢い込みすぎたエリカの説明のせいもあって、何だかよく理解できなかった。

「ま、難しいこっちゃねぇ。隊長が、誰を一番気に入るかだ」

 ロベリアが誘うような妖艶な笑みを浮かべた。
 実際の勝負の前から、ポイントを稼ごうとしているのだ。さすがは勝負に長けた女である。

「余計な前置きは不要だ。すぐにはじめよう!」

 それに気付いたグリシーヌがこれ以上は許さぬと強引に場をしきる。

「それじゃあ、ボクからいくよ!」

 そんなやり取りに全く気付くこともなく、まず、手をあげたのはコクリコだ。

「えい!」

 どこからともなく取り出したステッキを一振りすると、普段着があっというまに水着に早変りする。

「が、学校水着ぃ!?」

 どこから手に入れたのかわからないが、それは学校(スクール)水着というやつだ。

「へっへーん。日本ではみんなこれ着てるんでしょう!」

 なにか情報が間違っている気がする。
 しかし……

(コクリコだと、なんか艶かしいなぁ)

 やはり、少女でも日本人とは体つきが違う。それに黄色人種とは異なる肌の色も、余計に艶かしさを醸し出している。

(まずいな)

 ロベリアは大神が予想外に反応していることに気付いていた。安全牌だと思ってトップを許したのだが。
 こうなったら早く二番目を出して印象を消してしまったほうがいい。

「おう、時間ねーんだ、次だ次!」
「もう、ロベリアはせっかちだなぁ」

 コクリコは不満そうだが、時間がないのも事実なので、それ以上は逆らわなかった。

「じゃあ、二番目は私です!」

 シーだ。

「私はこんなのでーすっ!」

 水着を隠していたローブを脱ぐ。
 ピンクのワンピースだ。

(シーくんって、あれでも着やせしてたんだな)

 胸の間が編み上げのように紐になっているが、その紐は肌に沿うのではなく宙に浮いていて、巨乳ぶりが強調されている。その谷間にどうしても大神の目がいってしまう。

「これ、後もすごいんですよっ!」

 そういって振りかえると、背中の部分も編み上げで大きく着れこんでおり、お尻の割れ目が少し顔を出しているではないか。

「ぶっ!」

 さすがに大神も驚く。が、嬉しい驚きだ。

(シーくんはお尻もボリュームがあるんだなぁ。抱きしめたら気持ちよさそうだな……っていかん! 何を考えているんだ俺は! 仮にも帝国海軍軍人たるもの、婦女子に劣情をいだくなどーっ!!)

 と、内心で葛藤している割には、大神の表情は緩みっぱなしである。
 さすがに少し頬を染めて恥らっているシーの姿がまた男心をくすぐるのだ。

「ちょ、ちょっとシー。すごすぎない?」

 見ているメルの方が慌てている。

「でもぉ。私、勝負ごとって燃えちゃうのよねぇ。これくらいしないと、スタイルばっちりの花組の皆さんに負けちゃいますもん! それに大神さんだったら見られてもいいかなー、なんてね」
「え、シーくん、それって……」
「えへへ。さあ、次はメルの番ですぅ」

 照れ隠しなのか、メルへと順番をすすめてしまう。
 しかし、メルは恥ずかしがってなかなかローブを脱ごうとしない。

「もう! メルったら。えい!」

 業を煮やしたシーが後からローブをはぎとった。

「きゃっ!」

 可愛い悲鳴をあげるが、ある意味、期待外れの姿があった。
 地味な濃紺のワンピース水着の上に大き目のTシャツをきているのだ。腰でしぼったりもしていないから、水着は僅かに裾から除いているにすぎない。

「もー、メルったら、そんなの着てたら意味ないじゃない!」

 シーが呆れて見せるが、大神の視線は釘付けだった。

「ま、まあ、いいんじゃないのかな、そのままでも。メルくんに強制するのはよくないよ」

 一見、メルを気遣っているようだが……

(うーん、あのちょっとだけ見えるというのも、なかなか、いいなぁ)

 大神はチラリズムにやられていたのだ。
 最低である。

「大神さん、あんまり見ないで下さい。恥ずかしいです……」
「あ、えーと、うん……ごめん。あんまり可愛かったもんだから」
「えっ……」

 ボーイッシュでお姉さん的雰囲気のメルは“格好いい”とか“綺麗”とか言われることはあっても、“可愛い”といわれることはなかった。その言葉に思わず、それまでとは違う恋する女性の恥じらいを見せている。
 もちろん、それに気付かぬ他の女性陣ではない。

「よし、次いこうぜ、次!」

 ロベリアの言葉に他の全員も頷く。

「ほら、次は花火だろう。早いとこ頼むぜ」
「え、ええ。それでは……」

 おずおず、といった感じで花火が立ちあがる。

「大神さんのお目汚しにならなければよろしいですが……ぽっ」

 ローブの下からあらわれた花火の水着は紫色のワンピースにロングのパセオを巻いている。やはり、おとなしく清楚な感じだ。

「他の方々のように綺麗ではありませんので……」

 大和撫子にあこがれる花火らしい、つつましやかさだ。
 しかし、どうも違和感がある。

「花火くん、水着のサイズ、小さくない?」
「え、ええ。ちょっと……」

 大神が見てわかるくらいだから、かなり小さめなのだろう。
 実は、花火は水着を選ぶという行為がどうにも恥ずかしくて、ろくにサイズ合わせもせずに購入してしまったのだ。

「でも、よく似合ってるよ、花火くん」
「えっ、ありがとうございます……ぽっ」

 赤らめた頬を両手で挟み、かぶりをふる。
 と、その拍子かパセオの結び目がほどけた。

「あっ……」

 “生足”を恥らった花火は、あわてて大神に背を向けるように身をよじる。
 それは、大神にとっては、とてつもない衝撃をもたらすことになった。
 なぜならば、身体に捻りがくわわったことにより、キツメだった水着がずり上がり、花火のお尻はTバック状態になったのだ。しかも、それが大神にモロに向けられたとあっては、健全たる男子たるもの、反応せずにはおれまい。

「きゃーっ!」

 自分がどうなってるか気づいた花火はあわててパレオを拾い上げ、身体を隠す。

「お、大神さん……見ました?」
「い、いや、その、ほんのちょっとだけ……」
「ああ、恥ずかしい……そんなはしたない姿を殿方にお見せするなんて……。花火はもう大神さんについていくしか……ぽっ」
「い、いいっ!?」

 だが、例によって、この言葉を周囲が黙っていない。

「花火。早くむこうで着替えてきたほうがよいぞ」

 グリシーヌが花火にこういうのは、もちろん、本人としては親友としての親切心だ。だが、そこに幾許かの嫉妬心がまじっていることは、まだ、自覚していないだろう。
 もっとも、花火の方もそれには気づかず、グリシーヌの言葉に従っていく。
 そして次はグリシーヌの順番だ。

「次は私だ。こころするがいい」

 まるで決闘でもしかねない勢いのグリシーヌだが、態度もそうである。
 ローブをまるでマントのようになびかせながら脱ぎ捨てると、堂々と白いビキニに包まれた、その肢体をさらす(注・この世界ではビキニ核実験はしてないのだから、ビキニという表現はおかしいのではないかという突っ込みは却下します)。
 ある意味、オーソドックスではあるが、さすがのプロポーション。いつものように胸を張って経っているので、余計にバストが強調される。

(といっても、あまり堂々と立たれるとなぁ)

 風情がないというか、色気がないというか。

「グリシーヌ。ちょっと座ってみて」
「こうか?」

 砂浜に横座りになる。

「そのまま上体はうつ伏せ気味に倒して……そう、それで顔だけこっち向いて……髪の毛を右手でかきあげてみて」
「こ、これでよいのか?」

 なんだかんだでグリシーヌに“セクシーポーズ”をとらせてしまう。

「うん。グリシーヌの美しさが引き立つな」
「せ、世辞はよせ」

 といいながらも、顔を赤らめ、どこか嬉しそうな表情だ。
 大神にしてみれば(多少、欲望に走ってるとはいえ)、女性の気を引くために言葉を紡げるような器用さは持ち合わせていないから、全てが本心からの言葉である。
 それがゆえに周囲の女性からしてみれば、たまらない言葉となるのだが、例によって問題は本人がそれを自覚していないということだろう。

「いつまでもやってるんじゃないよ!」

 突然、グリシーヌに水がぶっかけられた。

「何をする! 返答次第じゃただではおかぬぞ、ロベリア!」
「返答だぁ? 世間知らずのお嬢様に世の中ってものを教えてやろうと思ってな。隊長と一緒に泳ぐつもりんだったろうが、白い水着ってのはなぁ……」

 いわれて、はじめて自分の水着をグリシーヌは見た。

「……透けるんだよ」
「きゃぁーっ!」

 ロベリアが全てを言いおわらないうちにグリシーヌは悲鳴をあげた。

「た、隊長! みるでないぞ!」
「あ、ああ、うん、はい」

 が、しっかりと脳裏に焼き付けてしまったのは秘密である。
 ともあれ、この騒動でなし崩しでグリシーヌに順番は終わってしまった。
 なかなか思うとおりに各人が終えられないのは、お互いの牽制のゆえだろう。もてる男はつらいところだが、それに想いをよせる女達はもっとつらいところだ。

「じゃあ、エリカがいきまーす!」

 いつもの脳天気ぶりで、勢いよく立ちあがったエリカが水着を隠していたローブを脱ぐと……

「ね、猫耳ですか、エリカさん」

 思わず敬語になる大神。
 エリカは全身をピッタリと覆うボディースーツのような水着に、ご丁寧に尻尾と猫耳に鈴付きの首輪までしている。

「どうですか大神さん!」

 言いながらエリカはダンスを踊り、左右への“猫の手ポーズ”に続き、お尻を高く突き上げながら左右にふってみせる。劇場ではともかく、こんなところでやられると扇情的だ。エリカがそれをわかってやっているとも思えないが、大神の気を引くために考えた成果ではあろう。

「エリカ、そんなのずるいよ。水着じゃなくて舞台衣装じゃないか!」

 コクリコが異議を唱える。

「えー。これは舞台衣装じゃないですよー。似てますけど、つくってもらったんですよー。その証拠に水に入っても大丈夫なんですよ!」

 エリカは海にむかって走り出す。
 そして、足首が水につかったあたりで、思い切りこけた。
 無論、エリカは浅い“海底”の砂に突っ込んだのだ。

「いったーい!」

 エリカは、そこに内股に座り込むと、猫手で顔についた砂をぬぐう。頭から海水に漬かったエリカの猫耳は半分折れ、、尻尾もしなだれながら、全身、濡れそぼっている。

「ふぇ〜ぇ」

 顔と身体を激しく震わせて水を払おうとするエリカ。
 それはまるで猫になったかのようなしぐさである。

(い、いいかも)

 それに対する大神の反応はほとんど病気である。
 猫スタイルのエリカにすっかり魅了されていた。

(う〜ん、かわいい! ケモケモしている娘を、こう抱きしめて、かいぐりかいぐりするってのもいいかもしれない……)

 ずっとみんなの水着姿を見せ付けられて、大神もだいぶ壊れているようだ。

(ちっ。隊長も変な趣味に走ってくれるぜ)

 それに舌打ちしているのはロベリアである。
 自分が一番最後になるようにしたのも、心理学的にその方が印象深くなると計算してのことだったが、エリカの、おそらくは本人はあまり深く意識していないであろう強烈な攻撃により、その目論見が粉砕されようとしている。
 こうなれば、一発逆転を狙うしかない。

「エリカ。そろそろ私の番でいいか?」
「え、まだ……」
「いいだろう? もう時間がねーんだ!」
「あ、え、はい」

 強引に順番にもってくる。

「さあ、隊長。あたしの身体はどうだい?」

 ロベリアは緑のビキニだが、サイドは完全に紐。布の面積でいえば、全員で一番少ない。

「ロ、ロ、ロ、ロベリア。そ、それはちょと、すごくないか?」

 大神も動揺を隠せない。

「そうかい? これでもずいぶんと控えたつもりなんだけどね」

 色っぽく腰をくねらせてみせる。
 大人の色気に大神は釘付けだ。
 そして……

「あっ、いっやぁ〜ん」

 わざとらしい悲鳴をあげる。
 ブラの結び目がほどけ、ずりおちたのだ。
 一応、腕で隠すようなそぶりは見せるが、その実、大神に見えるように――大神に見せ付けるようにしている。

「ぶっ……!」

 大神が思わず前かがみになりかけた時、周囲からいっせいに突込みが入った。

「何と破廉恥な! 不正は許さぬ!」
「あ〜、わたしだってやらなかったですぅ〜」
「ロ、ロベリアさん。大神さんだって困っていると思います」
「ロベリア、そんなのずるいよ!」
「そういうやり方もあったんですね! エリカ、見習います!」
「エリカさん、それはおやめになったほうがいいと思います……ぽっ」

 ともあれ、大混乱だ。

「み、みんなおちついて、ね!」

 やっぱり気苦労するのは大神の役目ということか。
 大神の仲裁で何とか場は落ち着いた。
 が、それは更なる気苦労を早めただけだということを、次のエリカの台詞を聞くまで忘れていたのだ。

「じゃあ、みんなの中から、大神さんに選んでもらいましょう!」

 そうだった。
 単なる水着コレクションではない。
 これは、大神が誰を選ぶかというを決める勝負だったのだ。

「うーんと……」

 決めかねる大神を、7人が囲むようにして立つ。

「う、うーん……」

 次第に前のめりになりながら、大神に答えを迫ってくる。

(こ、これは誰を選んでも一騒動あるよな)

 当然である。

「あ、ちょっと俺も水着に着替えてくるよ」

 そそくさと場を離れ、時間を稼ぎにかかる。
 さすがに着替えにはついてこれないから、一人で考える時間がもてた。

(いっそ、このまま逃げるっていうのも……)

 が、あとで追求されては、もっと困難な状況に陥る。
 大神には戻ろるより他に残された選択肢はなかった。

(とほほ……)

 あきらめて戻っていく。
 ここはなんとかしてごまかして、うやむやにするしかない。

「みんな、お待たせ」

 水着に着替えて戻った大神の声に、全員が振り向いた。
 しかし、その表情は大神にもはっきりとわかるほど、みるみる変わっていく。

「大神さん、そ、それは一体……」
 呆然とするメル。
「うっわぁ〜、ムッシュ・サムライ!」
 驚愕して顔を覆いながらも興味深く視線をそそぐメル。
「イ、イチロー。ちょっと向こうにいってよ」
 顔をそむけるコクリコ。
「お、おいおい。そりゃぁ、いくらなんでも……」
 珍しく動揺するロベリア。
「大神さん! ちょっとそれは嫌がらせじゃないですか!」
 憤慨するエリカ。
「……隊長。そこになおれ!」
 どこからともなく取り出した戦斧を構えるグリシーヌ。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。一体、何が!!」

 大神には、まったく理由がわからなかった。
 だが、止めるものもなく、哀れ、グリシーヌを中心に袋叩きの憂き目に……

「ど、どうしてーっ!」

 しかし、傍から見れば一目瞭然。
 大神の“水着”は日本で愛用していたもの――帝國海軍の正式な下着でもあり水着でもある“褌”だったのだ。これで西欧は巴里の少女たちに近づいていくなど、今日の言葉でいうなら、セクハラ同然であることはいうまでもない。
 だが、一人だけは、そんな大神に見とれていた。

「素敵。あれが大和男(おのこ)なのですね……ぽっ」

 惜しむらくは性格的に彼女には周囲を止める力がなかったことであろうか。
 その日、陽がおちても砂浜には気絶して首まで埋められた大神の姿があったという。
 いと哀れ。


〜Das Ende〜





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