第拾弐話「正義を示せ！」

　玉座の間に到達した大神たち花組は、不知火率いる再生軍団と対峙していた。アトラス、イオ、ジャガーの3人が蘇っていた。
「不知火！　ハーデスはどこだ！！」
　不知火は余裕の笑みを浮かべている。
「ふん、貴様らにハーデスの相手が務まると思っているのか？あいつと戦いたければ、まずは神風隊首領であるこの俺を倒せ！」
　前に出ようとする大神たちの前に鉄馬が立った。
「大神、行け。こいつらは俺に任せろ。」
「バカを言うな！いくら何でも一人で相手をするなんて無茶だ！！」
「心配なか。オイも残る。」
　清志も一歩前に出た。
「清志・・・・」
　大神の通信機に映った鉄馬の顔は実に優しい顔をしていた。
「大神。俺はお前を、実の弟のように思ってきた。・・行け、大神。」
「・・・・・。わかった。鉄馬、清志。絶対死ぬなよ！総員突撃！！」
　花組全機が一斉に敵陣へ突っ込んだ。
「ほお、いきなり突っ込んできたか。」
　攻撃態勢に入った不知火たちだが・・・
　ヒュルルルル・・・・・ドゴオオオオオオォォォッ！！
　ロケット弾が飛んできたために、後ろへ下がった。
　それに乗じて、大神たちは一気に玉座の間の奥へと進んでいく。
「待てぇっ！！」
　追い駆ける不知火達。しかし、瞬間的に飛行形態になった鉄馬機がその前に回り込んだ。
「お前らの相手は俺たちだ！！」
「くそ！　そこをどけぇっ！！」
「待て！」
　はやる不知火をアトラスが制した。
「この男はどうあっても俺たちを通さないつもりだ。下手をすれば、自爆しかねん。」
　一度サシで戦ったことのあるアトラスは鉄馬をよく知っている。
「さぁて、清志。こいつら何分持つかな？」
「さあ？ばってん、オイたちが駆けつけても、あいつらが先にハーデスを倒しとおかも知れんよ？」
「それもそうだな。よし、行くぞ！！」
　漆黒の神龍と迷彩色の神龍が突撃していった。

　一方、天海の相手をしていた巴里華撃團は、苦戦を強いられていた。
「くそぅ、何なんだこいつは！こっちがいくら攻撃してもケロッとしてやがる！！」
　加山は焦っていた。このまま戦っていれば、いつかやられてしまう。他の隊員たちにも焦りが見え始めていた。
「ハハハハハ・・・！！我は無敵だ！貴様ら如きに負けはせん！！」
　天海は勝利を確信している。
(落ち着け・・・・考えろ・・・考えろ！・・・・・・)
　加山はふと上を見た。
　ジュデッカは地下に埋まっているため、上は岩盤が剥き出しになっている。
(・・・一か八か・・・)
　加山は機関銃にありったけの弾を装填した。
『全機に通達！今から俺が天井を撃つ！それと同時にこの場から離脱しろ！』
「ええっ！？そんなことしたら、加山さんが！！」
「貴公、死ぬ気か！？」
「ボクも残るよ！！」
「アンタにばっかりいい格好させられねぇぜ！」
「私たちは、死ぬも生きるも一緒です！！」
　どう考えても、離脱しそうにない。
　加山は苦笑いしながら・・・
「・・・・ふっ・・・俺の仲間にはバカが多い・・・」
　銃を天井へ向けた。
「さらばだ、大神！」
　ドガガガガガガガガガガガ・・・・・・！！
　加山とエリカが大口径の機関銃を斉射。
　天井は崩れ落ち、巨大な岩が次々と落下し、完全に埋もれてしまった。

　大神たちは遂にハーデスと対峙した。
「ハーデス！」
　ハーデスはゆっくりと立ち上がった。
「とうとうここまで来たか。帝國華撃團の諸君。」
「帝都東京に仇なす者、覚悟！！」
　花組は戦闘態勢に入った。しかし、ハーデスはまだ構えようとしない。
「どうした？構えろよ。そのままやられるつもりかい？」
　依然構えず。余裕の笑みすら浮かべている。
「フフフ・・・お前達の攻撃は余に通用せぬ。さあ、攻めて来い！」
「・・・・・」
　大神は攻撃をためらっている。
(何だ？・・・何があるというのだ？俺たちの攻撃が通用しないということは、時雨のように防御壁があるということか？)
「隊長、アタイが行くぜ！！」
「わたくしが行きますわ！！」
　すみれとカンナが待ちきれずに突撃した。
「やめろ、すみれくん！カンナ！！」
　大神の制止などまったく聞こうとしない。
「神崎風塵流・朱雀の舞！！」
「桐嶋流奥義・乱撃・四方攻想君！！」
　2人が同時に必殺技を繰り出した。
　しかし、技はハーデスに当たることなくすり抜けた。
「何！？」
　しかもいつの間にかハーデスに後ろを取られている。
「すみれ！カンナ！！下がって！！」
　マリアと紅蘭がハーデスに狙いをつけた。
「ダイアモンド・ダスト！！」
「行けぇ！チビロボ・改！！」
　しかし、やはり全く当たらない。
「どないなってんねん！？」
　その様子を大神はじっと見ていた。
「高速移動だ・・・・ハーデスは俺たちの目に映らない速さで移動しているんだ。だから、俺たちの攻撃が奴に通用しないのか。」
「ほお、さすが大神一郎。よく気付いた。だが、どうやって余を倒すつもりかな？」
　確かに、動きを捉えることが出来なければハーデスを倒すことは出来ない。
「くそ・・・・どうすればいい・・・・」
「今度は余の番だ。これを受けてみろ！！」
　ハーデスは両手を天にかざした。空気中の霊子が集まり、一つの光弾になった。
「見るがいい。全てを破壊するこの力を！！」
　光弾が大神たちに向って突っ込んでくる。
　ドゴオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォッ！！

　その頃、鉄馬と清志はそれぞれアトラスとジャガーを倒していた。
　しかし、2人ともかなり損傷していた。
「さて・・・残るは貴様ら2人・・・覚悟しろ・・・」
　既に鉄馬は肩で息をしている。
「その体でまだ俺たちと戦うつもりか？無駄なことを。」
「無駄かどうか・・・やってみんと、どげんかわからんかろうが！」
　清志も銃弾が底をつきかけていた。
「どの道、貴様らは死ぬ運命。ならば俺たちの手で貴様らの最期を飾ってやろうじゃないか。行くぞ！！」
　鉄馬は不知火と、清志はイオと対決した。
「さあ、どうした鉄馬？お前の力はこの程度か！」
「ぐ・・・・黙れ！」
(くそ・・・右腕が思うように動かねぇっ！)
　改造人間であるとはいえ、右腕は生身の人間。当然疲労が溜まっている。
「ここまでだな、死ね！！」
　バシュウウウウウゥゥゥゥゥゥッ！！
　鉄馬は不知火の気合に吹き飛ばされ、気絶した。
　清志は素早いイオに照準を合わせられずにいた。
「くそ！チョロチョロと！！」
「ハハハ・・・！！くらえ！！」
　清志に接近しては一撃与えて間合いの外に出る。ヒットアンドアウェイ戦法を取ってくる。
「く・・・・」
(狙えない・・・・ロケット砲が使えれば・・・・)
　清志の機体に装備されているロケット砲は上を向いており、一度上昇してから目標に向っていくタイプだ。
　しかし、ここは天井が低く、発射できない。
(どうする？・・・・・落ち着け、考えるんだ清志！！)
「・・・・・よし！！」
　意を決したかのように、イオに突進する。
「ほお、突っ込んできたか。」
　イオも清志に突進していく。
「今だ！！」
　突如、清志の機体が視界から消えた。
「なっ！？」
　イオはとっさに立ち止まった。
「もらった。」
　清志の声は足下から聞こえた。
「何！？」
　下をみたイオの目に映ったのは、前に倒れて背中のロケット砲で既に照準を合わせた清志機だった。
「俺と会った敵は、必ず死ぬ！」
　バシュウウウウウウウゥゥゥゥッ！！
　ロケット弾を一斉発射。
「しまった！！」
　ドゴオオオオオオォォォォォォォッ！！
　イオは避けきれず、大爆発した。
「むっ！？」
　不知火が思わず爆発のあった方を見た。
　それを待っていたかのように鉄馬は目を開け、刀を不知火に突き出す。
「何っ！？」
　隙を突かれた不知火は避けきれずに鉄馬の刀で串刺しにされた。
「俺の強さを知らなかったようだな？　貴様の負けだ！」
　刀を引き抜くと、不知火は息絶えた。
「ちっ、こんな奴を倒すのにこんなに手間取っちまうとは・・・」
「すぐに本隊を追わんと。ハーデスの首、取り損なうぜよ。」
　2人は玉座の間へ走り出した。

　その頃、大神たちは先ほどのハーデスの攻撃を受け、ほとんどの機が大破寸前の状態だった。
「くくく・・・・他愛の無い。お前達の力など所詮この程度なのだ。」
　ハーデスは己の勝利を確信している。
「お・・・お前の・・・好きにはさせんぞ！！」
　大神が立ち上がって、刀を構えた。
「ん？」
　ハーデスは大神の霊力を感じ取り、不思議そうな顔をした。
（この男・・・何だ、この霊力は？　この男のものではない。何か神々しい霊力がこの男の中から感じられる。）
「隙有りぃっ！！」
　ここぞとばかりに大神は刀を突き出した。
「むぅっ！？」
　避けきれずにハーデスの右腕に刀が突き刺さった。
　大神は残る一本の刀を構え、反撃に備えた。
「どうした、ハーデス？　何をボーッとしている？」
　大神の声が聞こえていないのか、ハーデスはピクリともしない。
「・・・・・」
「大神さん、どうします？」
　さくらや花組の隊員たちが起き上がり、身構えている。
（今なら、やれるかも！）
「突撃！！」
　大神の命令であらゆる方向から花組の攻撃が繰り出された。
「・・・・・」
　しかし、ハーデスは避けようともしない。
「ハーデス、覚悟ぉぉっ！！」
　攻撃が命中するその直前、ハーデスがカッと目を開いた。
　パアアアアアアアアァァァァァァァァァッ！！
　ハーデスの体が激しく光ったかと思うと、次の瞬間には凄まじい波動が花組を襲った。
「うわあああぁぁぁっ！！」
　全員が壁に叩きつけられたが、神龍の頑丈さのお陰で怪我は無かった。
「まだ・・・生きているか・・・」
　ハーデスは大神の神龍をじっと見ている。そして怪しげな笑みを浮かべた。
「フッ、そうか・・・貴様らの命を繋いでいたのはその神龍の耐久力によるものか。ならば、その頼みの神龍を粉微塵にしてやろう！！」
　ハーデスは右手を天にかざし、再び光弾を作った。
「くらえ！！」
　10個に分裂したその光弾は各隊員の神龍の真上に移動した。
　ハーデスが手を振り下ろすと光弾は一斉に各神龍に落下。
「わっ！？何や、何や！？」
「じ、神龍の機能が・・・停止する！？」
　全ての機能が完全に停止、さらに・・・
「装甲が・・・消える！？」
「ど、どうなってるですかー！？」
　全ての神龍の姿が消滅、隊員たちは消えることなくそこにいた。
「こ、こんなバカな！？」
　誰もが呆然と立ち尽くしている。
「フフフ・・・これで、お前達を守るものは何も無い。大人しく死ぬがいい。」
　ハーデスは再び大光弾を作り始めた。
「くっ！　どうする・・・どうする・・・」
　生身の体では大光弾から逃げ切ることは出来ない。
　大神が考えている間に、ハーデスは攻撃態勢に入ってしまった。
「死ね、帝國華撃團！！」
　しかし次の瞬間、ハーデスの体を黒い神龍が上下に真っ二つに斬り裂いた。
「ぐわぁっ！？　な・・なにが・・・」
　さらにロケット弾がハーデスの上半身に命中。しかし、大光弾はまだ浮遊している。
すかさず先ほどハーデスを斬り裂いた神龍がそれを真上に蹴り上げた。
『伏せろぉっ！！』
　拡声器で指示された。
　指示どおり隊員たちはその場に伏せた。
　ドゴオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォッ！！
　大光弾は天窓から地上に出たところで爆発した。

　大神が目を開けてみると、そこにいたのは煙を噴いて完全に停止した神龍2機の姿だった。
「あれは・・・・」
　2機のうち、1機は漆黒、もう1機は迷彩色に塗装されている。
「清志、鉄馬！！」
　乗り手の名を呼んだ。
　2人はハッチを開けて元気な姿を見せた。
「よお。あの4人を倒すのにちょっと手間取ってな。」
「情けなかねぇ、結局オイたちに頼らないかんとね。」
　大神が2人の無事を喜んでいると他の花組の隊員たちも集まってきた。
「みんなも無事か？」
「はい、一時はどうなるかと思いましたけど。」
「まあ、今回はお2人に手柄を譲って差し上げますわ。」
「よく言うぜ。追い詰められて『もう終わりですわ！』って叫んだのはどこの誰だ？」
「キャハ、すみれカッコ悪いね。」
「すみれさんはいつもいつも態度デカすぎでーす！」
「織姫さんもあまり人の事は・・・その・・・」
「琴音はん、言いたいことははっきり言いや。」
　しかし、その歓喜の輪に加わらず、真剣な顔をしている者がいた。
　マリアとレニである。
「おかしいわね。ハーデスの霊力を感じるわ。」
「うん・・・ボクも感じる・・・」
　2人の言葉に、花組一同がシーンとなった。
　改めて神経を研ぎ澄ましてみると、確かにハーデスの気配を感じるのだ。
「確かに・・・どうしてだ？」
　周りを見渡す大神達。
　しかし見えるのはハーデスの下半身だけだった。
「まさか・・・・あれが・・・・」
　大神の心配は当たった。突然、その下半身が地面に溶け込んだのだ。
「なっ！？」
　ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・
　地面が激しく揺れる。
「きゃぁっ！？」
「みんな気を付けろ！！」
　立っているのも困難なほどの揺れだ。
　ビキイイイイイィィィッ！！
　玉座の間の中央の地面がひび割れ、中から何かが姿を現した。
「な・・・・何だ、あれは！？」
　誰もが絶句した。現れたのは身長40ｍはあろうかという、巨大な降魔。
『見たか、これが余の真の姿。貴様ら全員、地獄に落としてやるぞ！！』
「くそ・・・・行くぞ！！」
　隊員たちはそれぞれ散り、ハーデスを包囲する。
「今だ！！」
　一斉に突撃、そして・・・
「狼虎滅却・天翔狼牙！！」
「破邪剣征・桜花爛漫！！」
「神崎風塵流・朱雀の舞！！」
「ダイアモンドダスト！！」
「イリス・グランド・スライダー！！」
「聖獣ロボ・参型！！」
「桐嶋流空手・乱撃・四方攻相君！！」
「スパークレーザー！！」
「ゴールデン・ランサー！！」
「黒田晴嵐流・ニ刃嵐舞！！」
「烈天雷砲！！」
「破邪剣征・桜花放神！！」
　12人の必殺技が一斉にハーデスに繰り出された。
『愚か者め！！』
　必殺技はハーデスにあたることなく、全て跳ね返ってきた。
「うわあああぁぁぁぁっ！！」
　避けることもできずに全員もろに受け、大ダメージを被った。
『ククク・・・天に唾すればそれは己自身に帰ってくる。それと同じように、神である余に歯向かえばそれは全てお前達に戻ってくるのだ！』
　既に全員がグッタリしている。自分が放った必殺技をまともに食らえば当然のことだろう。
『帝國華撃團はすべて死んだ！世界は余の物だ！！』
　ハーデスが勝ち誇ったその時・・・
　ガラッ・・・・
　背後で物音がした。
　振り向くと、さくらが息を切らしながら立っている。
「は・・ハーデス・・・お前なんかに・・・あたしたちは・・・負けない！！」
　なおも霊剣荒鷹を構え、戦おうとする。
『フン・・・ちょうどいい・・・貴様にはちょっとした因縁があったな。今度は逃げられんぞ。』
　ハーデスが背中の羽をはばたかせてさくらに衝撃波を放った。
「きゃああぁっ！！」
　さくらはいとも簡単に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
　ビキイイイイィィィィィッ！！
　さくらの足元の地面と後ろの壁がひび割れたかと思うと中から触手が何本も飛び出してきて、さくらを壁に縛り付けた。
「くっ・・・・う、動けない・・・・」
　触手の数本が変形し、再びさくらの戦闘服に付いている霊力伝達孔の金具に接続した。
『ちょうど力が不足していたところだ。貴様の霊力をすべてもらう。』
「そ・・・そう何度も・・・同じ手には・・・」
　ハーデスが吸収しようとしてもなかなか吸収できない。
『ほお、生意気にこの余と張り合う気か？無駄なことを・・・』
　絡み付いている触手に少しずつ力が加わり、さくらを締め付けはじめた。
「ううっ！！」
　さくらが苦しんだ瞬間、大量の霊力がハーデスに吸収された。
『フハハハ・・・いいぞ！もっと！もっとだ！！』
「うう・・・・力が・・・・・」
　既にほとんどの霊力が抜かれてしまっていた。満タンになったのか、ハーデスはさくらをさっさと放した。
『また前の時のように自分から流されては困るんでね。止めを刺してやる。』
　さくらは霊剣荒鷹の所まで這っていき、剣を掴む。
「そうは・・いかない・・・あたしたちは・・・・必ず・・・お前を・・・・」
『倒すというのか？この余を？立ち上がることも出来ず、蛙のように這いつくばってしか動けないお前が？』
　立ち上がろうと力を入れるが力が入らず、倒れてしまう。
「くぅっ！！」
　剣を杖にしてフラフラしながらもようやく立ち上がった。
『ほお。意外にしぶといな。だが・・・・』
　再び羽をはばたかせた。
「わあっ！？」
　風でさくらは後ろに倒れた。
　ハーデスはさくらのそばに来て見下ろし、腕を振り上げた。
「や、やられる！」
『死ね！！』
　ハーデスが爪を振り下ろした。
　これまでかと、さくらは目を閉じた。
　ザシュウウウウウウゥゥゥゥゥッ！！
　周りに血が飛び散った。

　しかし、さくらには何の傷みも襲ってこなかった。ただ、自分の体の上に何かが倒れてきただけだった。
　恐る恐る目を開けてみると体の上に鉄馬が血まみれになって倒れこんでいた。
「兄さん！！」
　何とかして起き上がり、鉄馬に声をかける。
「起て・・・・さくら・・・」
　既に虫の息だった。
「兄さん！！・・・・！？」
　次の瞬間、さくらは絶句した。
　鉄馬の背中には深い傷があり、血がドクドクと流れ出している。そして左半身、つまり機械にされた部分からは火花が散り、黒煙を噴いている。
「兄さん・・・・」
「起て・・・剣を執れ・・・さくら・・・」
　鉄馬の命は今まさに尽きようとしていた。
　さくらは鉄馬に泣きついた。
「兄さああぁぁぁぁん！！」
　大声で泣き続けた。
『悲しむことはない。貴様も兄ともに、あの世に行け。』
　ハーデスがさくら目掛けて爪を振り下ろそうとした。しかし・・・
　ザンッ！！
『何ぃっ！？』
　ハーデスの左腕が斬り落された。
　あまりの痛みに、ハーデスは倒れてもだえている。
　さくらは何が起こったのかわからず、呆けている。
「さくらくん！！」
　斬り落としたのは大神だった。
「大神さん！！」
　大神はさくらのそばに駆け寄った。
「さくらくん、今しかない！　やろう！！」
　大神の言わんとしていることはわかっていた。しかし、さくらには余力がなかった。
「く・・・・」
　立ち上がろうとするが、やはりすぐに倒れてしまう。
「さくらくん！　起て！　起つんだ！！」
「大神さん・・・あたしは・・・もう・・・・」
「弱音を吐くな！！」
　大神は大声でさくらに怒鳴る。
「君は妖魔城で俺に何て言った？！　死ぬことは簡単なこと。でも諦めないって！！　今君が諦めてどうするんだ！！　鉄馬の仇を討ちたくないのか！！　自分の力で起ち上がれ！！」
「・・・・・」
突然、さくらの中に力が蘇ってきた。
「これは・・・・」
　その時、さくらの心に誰かが語りかけてきた。
『さくらさん、お起ちなさい。行くのです。』
（すみれさん？）
『さくら。みんなあなたを信じているの。さあ、起って。』
『そーだよ、さくら。アイリスの力をあげるから。』
『ちょっとしかないけど、ウチの力もな。』
『アタイの強さも、アンタに預けるぜ！！』
『これは、さくらにしか出来ないことなんでーす。』
『隊長とさくら。2人の力が一つになれば・・・』
『ハーデスに、必ず勝てます。』
『さあ、起て！オイたちの力を、アンタに預けたんだ、起てるはずタイ！！』
　そして、最後に聞こえてきたのは・・・・
『行け、さくら・・・今こそ、お前の力を見せてやれ！！』
（兄さん・・・そして・・・みんな・・・・）
　さくらはゆっくりと立ち上がり、霊剣荒鷹を構えた。
「よし、やるぞ、さくらくん！」
「はいっ！！」

　鉄馬は薄れていく意識の中、その様子を見守った。
（最後に頼れるのは、生きる意志と、愛の力だ・・・お前と大神は、最強の戦士・・・愛の戦士だ・・・・認めたくないが、大神。お前に、さくらのことは任せたぜ。）
　そして、鉄馬は静かに目を閉じた。

　大神とさくらは霊力を最大に高めた。
「天を駆け抜け、吼えよ狼！」
「地に根付き、咲き誇れ桜花！」
「今こそ、力を一つにして！！」
　起き上がって大光弾を作っているハーデスに狙いを定める。
『死ねぇぇぇぇっ！！』
　大光弾を放ってきた。
「破邪剣征・桜花麗舞！！」
　パアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッ！！
　凄まじい閃光が発せられた。桜花麗舞の光が大光弾を飲み込み、そしてハーデスをも飲み込んでいく。
『バカな・・・・・この・・・余が・・・・敗れる・・とは・・・・』
　天に向けて一条の光が差した。

　その光は外のミカサや畝傍からも確認できた。
「あれは！？」
「きれい・・・・」
　風組の3人が見とれている。
　米田は光を見て確信した。
（大神・・・さくら・・・やってくれたな。）

　光が消え、ハーデスは消滅した。
　救助に来たミカサに花組は乗り込んでいく。
「・・・・・」
　乗り口で大神は立ち止まり、振り返った。
　玉座の間の隅でさくらが鉄馬の体を抱き、泣いている。
「さくらくん、行こう。」
「・・・・はい・・・」
　さくらは鉄馬を抱き上げ、歩き出した。
「重くないかい？」
「大丈夫です。・・・一人で、持ちたいんです。」
「・・・・わかった。」
　ミカサは花組を収容して発進した。

　さくらは乗り込むなり鉄馬のキャビンのベッドに鉄馬の体を寝かせた。
「兄さん・・・・」
　さくらの目から涙が溢れ出る。
「ハーデスは倒しました・・・兄さんのお陰で・・・でも・・でも・・・！！」
　ゴオオオオオオオオオオオオ・・・・・・！！
　出動した部隊の回収が済んだのか、ミカサがエンジンを始動した。
　しかし、どうも様子が違う。よく耳を澄ましてみると最大戦速で航行している。
「え？・・・・何が・・・・」
　さくらは急いで艦橋に向った。

　艦橋に行ってみたが、特に慌ただしい様子はなかった。
「大神さん、何かあったんですか？」
「鉄馬を助けるんだ。」
「ええっ！？だって、兄さんは・・・」
　既に鉄馬は心臓が停止し、死亡が確認されていた。
「さくらくん、鉄馬の体が何でできてるか忘れてないかい？」
「左半身は機械で・・・・ああっ！！」
　そう・・・鉄馬の左半身は機械。修理すれば助かる可能性はある。
「でも、誰が修理を？」
「誰て、ウチと山崎はんしかおれへんやろ？　あと、レニも手伝うてくれるそうや。」
　後ろに紅蘭と山崎、レニがいた。
「俺は鉄馬の改造手術に立ち会ったからな。」
「ボクも、医学手術ならできる。副長は、必ず助ける。」
　さくらの顔に笑顔が戻っていく。
「兄さんが・・・・生き返る・・・・」
　嬉しさのあまり、さくらは大神に飛びついた。
「お・・おいおいさくらくん？」
「ちょっとさくらはん、ウチらの前でイチャイチャせんといてくれる？」
　ミカサは全速力で帝都へ向った。

　その頃、巴里花組の捜索にあたっていた戦艦畝傍は・・・・
「死んでしまったのだろうか・・・」
　山本の横にはあやめがいる。
「死ぬはずがありません・・・死ぬはずが・・・」
　その時、瓦礫の一部が崩れた。
「あれは・・・」
　あやめの顔に笑顔が戻った。
「加山くん！！」
　瓦礫の中から現れたのは加山達巴里花組だった。
　加山から通信が入ってきた。
『副指令、ご心配かけました。全員無事です。収容をお願いします。』
「わかったわ、加山君。」

　翌日　帝劇医務室
　鉄馬は病院に搬送するわけにはいかないので医務室で修理と手術が行われた。
　約14時間に及ぶ長い作業だった。
　部屋の前では隊員たちが待っていたがほとんどが眠ってしまった。
　ただし、さくらと一馬だけが眠らずに待っていた。
「・・・・さくら、お前も少し寝たほうがいい。」
　しかし、さくらは首を横に振る。
「気になって、とても眠れません。」
「・・・・心配しなくとも、鉄馬は死なん。」
「・・・・・」
　無論、さくらもそう信じている。しかし、だからと言って気にならなくなるものではない。
　ガチャッ
　扉が開き、山崎と紅蘭が出てきた。
「ふう・・・」
「山崎、鉄馬は？」
「兄さんは・・・兄さんは助かったんですか！？」
　山崎も紅蘭もそしてレニも疲れているが笑顔を見せた。
「意識が戻りました。もう大丈夫です。」
「大した生命力やで、手術中に目覚ました時はびっくりしたで。」
「話せるか？」
「ええ、大丈夫ですよ。」
　さくらは医務室に駆け込んでいった。
「大佐も、どうぞ。」
「いや・・・今はいい。」
　一馬は長椅子に横になり、安心したかのように目を閉じた。

　帝都に長きにわたって暗躍していた冥界黒騎士団、冥界神風隊。二つの組織は帝國華撃團によって滅ぼされた。
　帝都では桜の木のつぼみが膨らみ始めていた。

To be continued･･･

キャスト

大神一郎
　　陶 山　章 央

真宮寺さくら
　　横 山　智 佐

神崎すみれ　　　　　　　　マリア=タチバナ
　　富 沢 美智恵　　　　　　 高 乃　　 麗
李紅蘭　　　　　　　　　　　アイリス
　　渕 崎 ゆり子　　　　　　　西 原 久美子
桐嶋カンナ　　　　　　　　　ソレッタ=織姫
　　田 中　真 弓　　　　　　　岡 本　麻 弥
レニ＝ミルヒシュトラーセ　佐伯清志
　　伊 倉　一 恵　　　　　　　鈴 置　洋 孝
黒田琴音
　　久 川　　 綾

藤井かすみ　　　　　　　　榊原由里
　　岡 村　明 美　　　　　　　増 田　ゆ き
高村椿　　　　　　　　　　　野々村つぼみ
　　氷 上　恭 子　　　　　　　野 村　祐 香

加山雄一
　　子 安　武 人

グリシーヌ＝ブルーメール　ロベリア＝カルリーニ
　　島 津　冴 子　　　　　　　　井 上 喜久子
コクリコ　　　　　　　　　　　　北大路花火
　　小 桜 エツ子　　　　　　　　鷹 森　淑 乃

エリカ＝フォンティーヌ
　　日 高 のり子

ハーデス
　　難 波　圭 一

不知火　　　　　　　　イオ
　　中 尾　隆 聖　　　　　古 川 登志夫

山本五十六
　　納 谷　悟 朗

藤枝あやめ
藤枝かえで(二役)
　　折 笠　　 愛

米田一基
　　池 田　　 勝

真宮寺鉄馬
　　堀 　　秀 行