想いの理由 作・さとふ |
私は…
大神さんの真っ直ぐな目が好きです……
全ての存在を包み込むような眼差しが好きです……
大神さんが巴里華撃団の隊員の方達ばかりでなく、シャノワールにいる方々一人一人とよくお話しているのを見掛けます。
バーテンダーのジョルジュさんやフロントのドミニクさんはもちろんなんですが、シャノワールにいるバックダンサーの方やレビューを見にこられるお客様にもフランクに話し掛けています。
モントルマルの街の人ともよくお話をしているようでして、市場の方達は『あの日本人のあんちゃんはどうしてる?』って結構話題にしているのを聞いたことがあります。
そんな普通の時間を、いろいろな方と話して過ごしている大神さんの目は、とても優しい光を湛えています。
優しい瞳ですけど、パリジャンというよりは…やはり【サムライ】といった感じです。どこか強さを隠した瞳。
日本の方という先入観がそのように見せるのかもしれませんね。
ただ、その優しさは見せかけのものではありません。実際、私は大神さんの優しさに救われた事があります。
それは、まだ花火さんが華撃団に入る前の話です。
華撃団の人数が絶対的に少なすぎることから、モントルマルの街中を霊力探査機で捜索する事になった時の事です。
勿論、私も【霊力】を測定してもらいました。力があれば大神さんの力になれる。
そう思ったのですが、私の力は実際のところ、普通の人より若干強い程度でした。
最前線に立つ方々に対する同情とかそんなのではなく、心の底から力になりたいと思ってたので心底堪えました。
そんな落ち込んでいた私を、大神さんは優しく慰めてくれました…
『メルくんたちのおかげで俺達は闘えるんだ』
そう言ってくれた時は本当にうれしかったです。
でも、隊員の皆さんが羨ましいです。直接、大神さんの力になれる隊員の皆さんが。あの【別の顔】を見てしまってからは…。
◇
それは、私達、巴里華撃団が怪人カルマールに敗北した直後のことでした。
『今回の敗北は俺のせいだ…』
上手くチームワークがとれず、勝利することが出来なかった大神さんは、元来の責任感の強さから自分自身を責めていました。
そういう責任感の強いところに惹かれていたのも事実なんですが…。
そんな時、私はオーナーから仰せつかって、シャノワールに飾る花を買うために近所のコレットさんのお花屋さんへ出掛けようとしました。
シャノワールの廊下を外に向かって歩いていると、大神さんがシャノワールから出ていくのを目にしました。
その顔には明らかに気を使いすぎたのか、疲れの色が隠れていませんでした。そして、とても思いつめた表情をしていました。
少し(今思えばそれどころじゃないくらいに)不謹慎だとは思いましたが、普段の自分の性格からすると珍しく【後をつけよう】と思い、大神さんの後ろを気付かれないようにつけていきました。
軍属の方らしくピンと背筋を張って歩いているのですが、なんだか…こう…上手く言えないのですが【壊れそう】な感じが漂っていました。
男の人なので歩幅も大きく、ついていくのが精一杯でしたが、私も何かに衝かれたように大神さんを追って…
そして、立ち止まったところは…墓地の裏にあるちょっとした林でした。
シンと静まり返ったここは、あまり人通りも無く、墓地の裏手ということもあって少し不気味な感じがします。
大神さんは、というとそこにある木に寄りかかり【ふう】と息をついてました。
そして、なにかいるのか?と思ってしまうような視線を、木々の影から少し見える空に向けてました。
その目を見たときに、私は息を詰まらせてしまいました。
いつも私達に向ける強さを秘めた真摯な視線とはまったく違う、悲しさと弱さが入り混じった切ないものでした…。
どんなことを経験すればあんな目をするんだろう、と考えてしまいました。そして、その答えが判るのに時間は掛かりませんでした。
「アヤメサン」
それが大神さんの口にした言葉でした。
何を言っているのか最初はわからなかったのですが、すぐにその日の朝のことが思い浮かびました。
『これを見れば帝国華撃団のことがわかるわよ』
オーナーが差し出したその分厚いリポートに巴里華撃団の隊員さんたちが集まってきました。
大神さんがトーキョーでどんなことをやってきたのかみんなよく知らないためです。
その中に【アヤメ・フジエダ】の名前がありました。
『イッキ・ヨネダの副官として活躍するも、殉職』といった内容の事が綴ってあり、理由については一切触れてありませんでした。
「俺…今のままでいいんでしょうか…下手するとこの巴里が…。なのに俺、みんなを纏めきれなくて…俺自身に腹立ちます…」
私は愕然としました。日本から来た異邦人だから、とどこかで思っていました。そのことは完全に覆されました。
心の底から、この巴里を守りたいという気持ちが伝わってきて、私が今まで大神さんに対して感じていたことを恥ずかしく思いました。
「もう…誰も悲しませたくありません。辛い思いをする人を作りたくありません…」
え……
「俺の目の前で死ぬ人は…もう…見たくないです…」
大神さんの目は、本当に辛そうでした。何があったかは飽くまでも憶測にすぎませんが、わかった気がしました。
そして、それがこの異国の地で闘っている大神さんの【強さ】の素なのだ、ということも。
いや…【強さ】というよりは、何か背負っているプレッシャーに潰れてしまいそうな【儚さ】を感じました。
◇
『チームワーク…ですか?それって、パリの人には不向きなんじゃないんですか?』
それは、大神さんが敗戦の責任を感じている時にシーの言った言葉でした。
『そうですね…パリはチームワークよりも個人を尊重しますから…』
私もそう思って大神さんにそう言ったのですが…
◇
ここに居る大神さんの目を見て、そして呟きを耳にして…なんて無神経なことを口にしたんだろうって後悔しました。
そして、大神さんがこの巴里にいらっしゃる前に、図書館で日本人について調べた時に本に書いてあったことを思い出しました。
【サムライ】は死ぬことに意義がある…ということを。
そして、きっと大切な存在を守ろうとする時は、自身の命など省みることなく闘いに身を投じるだろう、ということも。
けれども巴里華撃団の皆さんを、シャノワールの皆さんを、そして巴里市民を守るために自分の命を天秤にかける…
それは、間違っていること。
そんなことを思ってたときでした。
“しっかりしなさい……大神くん”
そんな声が私の耳に響いてきました。
その場には誰も…私と大神さんしかいないはずなのに…にわかに信じられないことでしたが、その後に…
“彼のこと…よろしくね…馬鹿な事を考えさせないように…ね?”
私の脳裏に直接響いてくる声でした。そして、大神さんを見ると…私自身の目に、にわかに信じられない光景が…
その背中には、大きな翼が…純白の大きな翼が…全ての存在をを包み込むような大きな翼が見えました。
「え…」
私は信じられない光景を確認するために、自身の目をこすってもう一度大神さんを見ました。
そこには神々しい光に包まれているわけでもなく、大きな翼が生えている訳でもない、普通の一人の男性がいました。
いつもの大神さんがそこにはいました。
ただ、目は違っていました。切なく壊れそうな目ではなく、強い意思と信念と優しさを持ったいつもの真摯な目でした。
いや…もっと強い意思を持った、そんな目でした。そして…
「すみませんでした。つまらない考えに囚われていました。ありがとうございます…」
大神さんはやはり、木々の陰から見える空に向かってつぶやいてました。
私にもわかる気がしました。大神さんの背をやさしく押している存在が。そして、ちょっと羨ましくも思いました。
この時、私はオーナーから仰せつかった用事を忘れかけていて、危うく手ぶらでシャノワールに戻ってしまうところでした。
慌ててお花を引き取りに言った時、花屋のコレットさんに『随分遅かったですね…ひょっとして、逢引ですか?』と微笑みながら言われた時は、流石にドキリとしてしまいました。
別に逢引と言うわけではないのですが、後をつけたというちょっとした背徳感がドキリとさせたのかもしれません。
更に、『何やってたの?あんたにしちゃ、珍しいじゃない。寄り道なんて』ってオーナーから言われてしまいました。
◇
この事があってから、わたしの大神さんを見る目は変わりました。
そう…他のシャノワールにいる巴里華撃団の皆さんと同様に、少しばかり切ない気持ちに…。
この気持ちを伝えることが出来るか、わかりませんですけど…。まずは、しっかりとサポートしますよ、大神さん。
そして、競争率は高いですけど…いつか、きっと……
PS
この後に、トーキョーから帝国華撃団のみなさんがおいでになったのですが…
「メル…あんた、もうちょっと積極的にならないと手遅れになってもしらないよ。ムッシュもやるもんだねぇ…」
オーナー…知ってたんですか…ひょっとして…。
あ・と・が・き
このお話は【サクラ大戦3】の第7話【光は東方より】から、メル・シーコンビとの最初の会話から引っ張ってみたものです。
強引にあやめさんまで出しちゃいました。
このひとが好きというわけでもないのですが、書いてるうちに『うん、出そう』ってな感じで衝動的に付け加えました。
【読むのに疲れない、ライトな文】を目指して書いてみたのですが、いかがでしょう?
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