白兵戦



 八日未明になって、ロシア軍は、後備近衛歩兵旅団が消えたのに気づいた。
 だが、彼らは楽観していた。
 戦線の整理という効果はあるかもしれないが、急ごしらえの陣地である。単体としてみるならば、防御力は低下している。
 この部隊こそ、日本軍の弱点ではないか。
 ロシア軍はそれを察していた。
 そして、ここを抜き、日本軍後方に回り込んで、その右翼を壊滅させることが、最初の作戦目標である。

「旅団長! 第二連隊から報告。本渓湖方面に敵影多数!」
「ご苦労!」

 伝令に一言、ねぎらいの言葉をかけると、その方面を見やった。
 まだ、ここからでは視認できなかったが、露骨なまでの気配を感じる。

「一馬、わかるか?」
「はい」

 それは、恐るべき数だ。
 実際この時に、展開していたロシア軍は、シベリア第三軍団とレンネンカンプ支隊という一万人以上の大部隊である。
 それに直接対峙している近衛後備第二連隊第一大隊は定数でも一六〇〇名にすぎない。軍事常識として、攻撃側は防衛側の三倍の戦力を必要とするとされているが、それを軽々と超えている。
 であるから、直後にもたらされた報告は、至極当然の判断であったといえよう。

「第二連隊長から、第一大隊の後退許可を求めています!」

 だが、米田はそれを認めなかった。
 いや、そればかりか、一個歩兵大隊と二門の砲を残し、全ての部隊を応援として急派することとしたのである。
 もちろん、米田の直率だ。

「大丈夫なんですか?」

 一馬は心配気だ。

「大丈夫も糞もねぇ」

 さすがに難しい表情で米田は答える。

「戦線に凹凸をつくらない事が、今回の作戦の鍵だと言ったろう。我々が後退したが最後、戦線は崩壊する。やるしかねぇんだよ」
「………我々が犠牲を払ってもですか」
「そうだ。例え、俺達だけが一〇の損害をうけたとしても、日本軍全体で一〇〇の損害を敵に与えたならば、それは日本軍の勝利であり、俺達の勝利だ。例え、自分自身が死んだとしてもな」

 リスクが発生しても、それを上回るメリットがあったなら、その行為を選択したことは成功であったと言われる。軍事行動でも、一般の社会生活においても、それは共通のことだ。ただ、戦争においては、リスクとは人命が損なわれることであるというだけの話なのである。

「自分が死んでも……ですか?」
「そうだ。自分の生命よりも大事にしているものを――それが主義思想だろうと、国そのものだろうと、恋人だろうと、俺は構わねぇが――守ることができたことになるからだ」
 一馬は自分の胸に手をあてた。
 日本を、人々を降魔から救うことが、真宮寺家の嫡流としての、生をうける前から決まっている彼の使命である。それが、彼の唯一為すべきことであり、他のことは、本義ではないと考えていた。
 だが、もし、この戦争に負けたならどうすなるだろうか。
 内地に残した彼の妻、そしてやがて生まれであるであろう子らに未来はなくなる。
 なんとなれば、日本はロシアの属国化を余儀なくされるだろうし、その場合の扱いは、フィンランドの現状を見れば、容易に想像がつくからだ。

(そうか、そういうことか)

 ここまで考えて、一馬は、初めて自分の人生の意味を理解する。
 今まで、自分の使命を、ただ漠然と「世のため人のため」の当然のことだと思っていた。 だが、違うのだ。
 米田の言ったように、愛するなにかを守るための戦いなのだ。
 それは、降魔相手であろうと、この戦争であろうと変わらないのである。

「米田旅団長!」

 一馬の声は、今までにない調子のものだった。

「ほう。いい表情じゃねぇか。これから死地にいこうってーのに、てーした度胸だ」

 当然だろう。
 日露戦争従軍以来、ずっと抱えてきた悩みを解決できたのだ。
 二つの戦いのうち、どちらを優先すべきかということに。

「じゃ、期待させてもらうぜ、一馬よ」

 雑用係の自分に何を期待するのかとも思うが、それを問い直す前に最前線に到着してしまった。
 米田は手早く布陣をすますと、自ら敵情を睨んだ。

「いいか、十分に引き付けるんだ」

 米田は、ロシア軍の先頭部隊が射程内に十分に入り込むまで、発砲を禁じた。遠距離から発砲しても、自らの兵力の配置と戦力を暴露するだけだ。砲撃開始許可を求める進言をことごとく退け、時を待つ。

「旅団長!」

 焦れた一馬が叫んだその時、双眼鏡を除いたままの米田は、あげていた腕を力強く前方へと振り下ろした。

「砲撃開始!」

 合図を確認した指揮官達の号令が響き渡るが、すぐに砲声でかき消された。米田は砲撃可能な全ての砲に、一切に火蓋を切らせたのだ。加えて、塹壕に身を潜めていた歩兵達も射撃を開始する。
 この攻撃に、さすがにロシアの前進は鈍った。

「よし。その調子だ! どんどん撃て!」

 瞬間的に強大な制圧力をぶつけられ、ロシア軍の突進力が失われつつある。実際、壊乱して、逃走しようとする部隊が肉眼で確認できるほどだ。
 だが、米田は、それが一時的なものに過ぎないことをしっていた。奇襲効果の心理的混乱から立ち直れば、彼らの進撃を砲撃で押しとどめることは不可能だろう。
 案の定、こちらの砲兵の位置を掴んだロシア砲兵が砲撃を開始してきた。

「砲兵を下げさせろ!」

 本気になったロシアの火力には、とてもたちうちできない。
 損害を減らすために、砲兵を移動させながらの射撃に切り替える。
 だが、この当時の野戦砲では、そう簡単に移動もできなければ、次の射撃準備を整えられるわけでもない。
 見る間に日本軍の火力は低下し、ロシア優勢となる。

(敵が攻めてきてくれてよかったぜ)

 陣地に待ち構えていて砲撃されていたら、それこそひとたまりもなかっただろう。
 とはいっても、今、現在浴びせられている砲撃の被害が減るわけではなかった。昨日、後退してきたばかりの旅団には、十分な陣地を構築する暇もなかったのだから。

「いいか、ぜってーに退くんじゃねーぞ。後備だと思ってなめくさってやがる、露助どもに一泡ふかせてやるんだ!」

 叱咤しながら、米田は仁王立ちして敵を睨み付けている。
 その鬼気迫る表情に感化されたわけでもあるまいが、旅団の老兵達も現役兵に劣らない、いやそれ以上の奮闘をみていた。
 しかし、例え、一人が三人分の戦力となったとしても、まだロシアの1/3の兵力にしかならないのである。

「第3小隊を右翼に投入しろ」

 僅かに残した予備隊を必死でやりくりし、戦線の綻びを防いでいた米田であったが、遂に最期の部隊も投入してしまった。

「旅団長。これからどうするんですか?」
「どうもこうもねぇ」

 心配気な一馬の問いを、米田はばっさりと切り捨てる。

「後退はない。このまま持ちこたえるしかねぇんだ」
「しかし……」

 なおも言葉を続けようとした一馬を遮るようにして、米田は徳利を仰いだ。
 この場面においてもなお、彼は酒をやめようとしない。
 だが、相変わらずよわないどころか、卓越した戦術眼を見せる。

「あそこは、やべぇな」

 米田は、ある個所を指した。
 一馬もそこを見るが、むしろ、他の場所よりも勇戦しているように見える。

「旅団長。どうしてあそこが?」
「よく見てみろ。ありゃ、ただのやけくそだ」

 言われてみると、統制のとれた行動というよりも、それぞれがバラバラにやっているように見える。

「もうすぐ崩れるぞ」

 その言葉通り、日本兵の動きが急に鈍くなった。
 現代風に解釈するならば、アドレナリンの分泌によるハイ状態と、それが切れたことによるモラル崩壊という現象である。
 このままでは、ロシア軍に突破されてしまう。

「よし。こい、一馬!」

 米田は急に動き出した。

「旅団長、何を!?」
「俺が直接指揮をとる!」

 米田はそのまま、前線へと走り出した。

「米田少将! 危険です!」

 慌てて一馬は止めに入るが、そんなことを聞くわけもない。
 仕方なく、一馬も随伴して走っていく。
 もちろん、最前線中の最前線にいこうというのだから、二人には容赦なく銃弾が襲い掛かる。ほとんどが流れ弾とはいえ、耳元をかすめていく、空気を引き裂くような音は、あまり心地のいいものではない。

「おい、てめーら! ひるむな!」

 塹壕――というよりも、急ごしらえの土盛の後方に転がりこんだ米田は怒声に近い大声をあげた。
 それに気づいて周囲の何人かは士気を復活させ、統制のとれた動きを取り戻す。だが、戦いの喧騒の中では、声のとどくところなど、たかが知れている。このままでは局面を打開するには至るまい。
 もちろん、そんなことなど、米田はとうにわかっている。

「ふんばれ! ここが勝負どころだ!」

 指揮刀をぬいた米田は、その白刃をきらめかせ、戦場に立った。
 途端、銃火が集中する。

「旅団長!」

 一馬が慌てるが、米田は全くおかまいなしだ。
 もちろん、彼とて恐怖を感じているが、もはや、それより手がないのである。

「撃て! 露助どもを生かして通すな!」

 指揮刀を突き出し、攻撃を下令する米田の姿に、兵達は喚声をあげる。
 旅団長が自ら身体を晒しているのに、自分達が先にくじけてなるものか。
 たちまちに部隊は立ち直り、戦線をもう少しは支えていられそうだ。

「わかるか一馬。これが、指揮官というものだ!」

 米田は、予備兵力という物理的な増援が不可能だったために、自らが先頭に立つことで、精神的な増援を投入したのである。
 指揮官先頭という言葉は、決して、指揮官の体面や面子のためにある言葉ではない。戦力を向上させる指揮の方法として存在するのだ。
 まして、この場合、全ての戦力が最前線に投入され、それぞれが引くこともできんばければ、攻勢をとるこは不可能という状況なのだから、後方に米田が残っていてもできるこはほとんどない。
 米田の判断は、至極妥当であるといえよう。
 もっとも、それを行うには、多大な勇気が必要であり、効果がをあげるには、部下から信頼を受けていなくてはならないわけだが。

「旅団長! 第二大隊第二中隊長戦死!」

 しかし、劣勢は覆うべくもなく、損害がかさんでいく。
 やがて、恐れていた事態がおきた。

「第三大隊、敵砲撃により司令部壊滅です。大隊長を含む司令部員も生死不明!」
「先任士官は誰か?」
「すでに第一中隊長が指揮を引き継いでおります」
「よろしい。そのまま戦い続けろ」

 伝令を帰しておいて、米田は旅団司令部小隊長を呼び寄せた。

「旅団司令部小隊から、二個班を割いて第三大隊の増援に向かわせろ。指揮は真宮寺少尉がとれ」

 この命令に驚いたのは、当の一馬である。

「旅団長! 私にはとても……」

 慌てて反駁する一馬だったが、米田はそれを許さない。

「真宮寺少尉! 命令を復唱せよ!」
「は、はい。真宮寺少尉は、これより、旅団司令部小隊から二個班を率いて、第三大隊の増援へ向います」

 こうして一馬は無理矢理に指揮官として戦場にたつこととなった。

「旅団長殿。真宮寺少尉で大丈夫ですか?」

 一馬が兵を率いて離れた後、旅団司令部小隊長が心配気に話す。

「なに。ヤツならやってくれるさ。それよりも、二個班を引きぬいちまったんだ。目の前の戦いが苦しいぞ」
「はい。ですが、負けません」
「その意気だ。頼むぞ」

 こうして見ると悠長なやり取りにも思えるが、実際は銃弾唸る中での会話である。戦争という異常な状況下である事を考慮しても、彼らはなお、驚嘆すべき勇気の持ち主であった。
 だが、だからといって戦況が変わるわけではない。

「やれやれ。敵さんも、飽きずによく攻めてくるぜ」

 朝から始まった戦闘は、日が傾きかけても全く終わる気配を見せなかった。

「あきらめるな。俺達が苦しい時は、向こうも苦しいんだ!」

 米田は、相変らず最前線で士気を鼓舞している。
 そして、枯れそうな喉に湿り気を与えるかのように、支那酒をあおっていた。
 不思議なもので、そんな彼の姿を見ると、どんなに疲れた兵隊達でも立ち直って戦闘に復帰して行くのだ。これがカリスマというものなのだろう。
 だが、米田自身を鼓舞してくれる人間はいない。自身もとっくに限界を超えているのに、それを微塵も感じさせないのは、単に指揮官としての矜持だけではあるまい。彼の人間としての姿勢――ありていにいえば、江戸っ子の見栄っ張り気質が大きく作用しているのは間違いないだろう。
 そしてもう一つ。

「必ず増援がくる」

 それを信じているのである。
 この作戦の要が『一部隊も包囲されないこと』である以上、高級司令部は、そのための唯一の施策である増援投入を行わなくてはならないのだから。
 もっとも、増援が到着しなかったのなら、この戦いは負け戦となるから、この旅団は殲滅され、米田も生きてはおれない。
 その意味では、増援を前提として考える他にないということにはなる。

「うわぁ!」

 米田の隣にいた兵が銃弾に倒れた。即死だ。

「畜生。可愛いじゃねぇか。俺の兵隊どもは!」

 泣いているのか怒っているのか。それとも悲しんでいるか。なんともいえない声で叫んだ米田は、転がった兵の銃をとった。

「まだだ! 日本軍をなめるなよ!」

 それでも、射撃戦をやっているところは、まだマシだ。
 多くの場所で白兵戦に突入しており、血で血を洗う凄惨な『殴り合い』が発生している。そして、一馬もそんな戦いに巻き込まれていた。

「ハッ!」

 一馬は叫びながら銃の台尻で敵兵を打ち倒した。敵味方が入り乱れた完全な乱戦である。まだ、機関銃が機関砲とよばれており歩兵の主力は連射のきかないボルトアクションライフルであったから、白兵戦は射撃戦に劣らぬ重要な位置を占めていた。

「少尉殿、危ない!」

 声とともに背後でロシア兵が倒された。一馬が率いる第二班の班長である檜山軍曹が銃剣で刺したのである。

「すまない軍曹」
「いいですよ。それよりも気をつけて下さいよ」

 やはり、経験の浅さが露呈している。

(なぜ、こんな私を指揮官などに!)

 だが、今はそんなことを言っている暇はない。少しでも気を抜けば次に頭を割られるのは自分になってしまう。

「うぉぉぉぉ!」

 また一人を打ち倒した。
 もう、どのくらいこうして格闘しているのか。
 敵は倒して倒しても目の前にあらわれる。時間の間隔などとうになくなってしまっていた。

「少尉。頑張って下さいよ。もうすぐ、一区切りつく筈ですからね」

 軍曹の言葉を理解できなかった一馬だが、しゃくりあげた彼の顎にしたがって空をみて、初めて気づいた。
 すでに日がおちようとしているのだ。
 通信手段すら発達していないこの時代、大規模で統制だった夜戦をしかけることは不可能といわれていた。だから、今の攻撃をしのぎきれば、ロシア軍の攻撃はひとまずおさまるはずなのだ。

(こんなことも気づかないとは!)

 檜山軍曹は、小隊の中でも最古参の下士官だ。一馬より年齢もずっと上である。
 小隊長というものは、幕僚をもたない指揮官だから、こうした下士官が副小隊長格となるのが通例だ。場合によっては、事実上、指揮をとる場合もある。
 それでも、彼ら下士官は決して正式な小隊長にはなれない。階級という絶対に超えられない壁がある。
 それを非合理と言ってしまうのはたやすい。だが、殺し合いという非日常を日常とするための組織として最も効率的なものなのだ。

「少尉殿。さあ、号令をかけて下さい」

 一馬は経験豊かな檜山の言葉に素直に従う。

「頑張れ! 夜になれば、露助は引き返す! それまでの辛抱だ!」

 もっとも、逆に言えば、日がおちる前に勝負を決めようと、ロシア軍も必死に攻撃してきているということである。

「真宮寺少尉殿、左翼が!」

 寡兵で粘っていた左翼の日本軍部隊だったが、中心的な存在である曹長が倒されたことで、遂に均衡が破れてしまった。日本兵が急速に駆逐され、ロシア兵が陣地の一角を占拠しようとしている。
 このままでは、夜を迎えても、ロシア軍はその一角を橋頭堡として死守し、翌朝には、それを足がかりに更なる攻撃を加えてくるだろう。そうなっては、この米田旅團の戦線は突破され、ひいては日本軍全体の敗北につながる。

「少尉。あそこを奪回しましょう!」

 それをわかっているから、檜山も無理を承知で一馬に進言してきた。

「いや、現有兵力では無理だ」
「しかし!」

 反論しようとする檜山を制して、一馬は続ける。

「だが、方法はある。今から、しばらくの間、私に敵兵を近づけないでくれ。それができるならば、敵を一掃できる」

 檜山には、何のことやらわからない。
 だが、彼は、一馬の命令を実行することにした。
 先にも述べたように、彼ら下士官は決して正式な指揮官になれない。だからこそ、彼ら下士官達は、信頼できる士官というものを本能的に嗅ぎ分けることができる。そして、二度と得られないかも知れないその士官を失わぬため、最大限の努力を行うのだ。それが、彼らの生き残るために最も効果的な手段なのである。
 そうした自分の嗅覚を信ずるならば、真宮寺少尉という士官の命令は聞いておくべきだと檜山は判断したのだ。

「少尉殿をお守りしろ!」

 檜山に呼応して、何人かの兵が一馬を取り囲むようにして布陣する。
 彼が何をしようとしているのか、それを理解している者は味方も含めて一人もいなかったから、その“戦線”を突破してまで一馬を攻撃しようというロシア兵はない。それが、一馬には、ひいては日本軍には幸いだった。

「我が内なる力よ!」

 精神を集中させる一馬は、指揮刀を正眼に構える。
 指揮刀は、なりこそサーベル風だが、その刀身はまぎれもなく日本刀のものだ。
 そう、それこそ、真宮寺家先祖伝来の刀であり、現存が確認されている唯一の“降魔殺し”、霊剣・荒鷹である。
 一馬は、強力な霊力増幅器でもある荒鷹に、自分の練り上げた霊力を注ぎ込んでいるのだ。
 やがて、常人でも気圧されるほどの霊力を貯えた彼は、静かに剣を上段に構え直し、カッと目を見開いた。

「破邪剣征・神騎轟乱!」

 鋭く振り下ろした剣から、霊力が一気に放出され、白い奔流となる。まるで、戦場を駆ける白馬のようである。
 だが、これは傍から見ていた人間の感想にすぎない。実際に襲われた兵達には、それどころではなかった。直撃をうけたものは瞬時に消滅してし、そうでないものも大きなダメージを受けていたのだ。

「急げ! 失地を回復するんだ!」

 何がおきたか理解できずに動きを止めていたいたのは敵も味方も一緒だった。だが、この一馬の言葉で日本兵達は動き出す。今、重要なのは、敵軍が打撃をうけたことであり、その理屈ではないのだから

「押し出せぇ!」

 ロシア兵にとっては、自軍が大打撃をうけたという事実が問題であった。自ずと勢いと士気が違ってくる。そして、こうした事態は次々と隣接する部隊から隣接する部隊へと波及していくものだ。
 後退開始から数えはじめると、ほぼ丸一日。
 遂に、米田旅團はロシア軍の撃退に成功したのである。



続く


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