三日が過ぎた。
マリアの様子は変わることがなく、大神もその原因は掴めぬままだった。
しかし、その間にも着々と対ツクヨミ戦の準備は進められていた。
「どや。これが新しい神武でっせ!」
風組を中心とした超人的な努力により、僅かな時間の間に改装が完了していた。
これにより、今まで色ぐらいしか違わなかった神武の外観は、一台づつ大きく異なるものになっている。
「もうここまで、変わってもうたら、神武とは別もんや。神武改というべきやろな」
確かに紅蘭のいう通りだ。
結局、この『神武改』という呼称が、武装強化型神武の総称として定着することになる。
「まあ、武器の強力さは、Qはんの折り紙つきやからな。それよりも問題なのは、操縦の方や」
紅蘭が言うには、今回の改造で、ほとんどの神武の重心が高くなったり、前後左右にずれてしまったということである。
これは、神武に搭載されている蒸気演算機では補正しきれない。その分、操縦は難しくなる道理である。
「模擬操縦装置で、訓練をつんではきたが、いけるかどうかだな」
「大神はんの言う通りや。模擬はあくまで模擬。実機では、計算通りいかんところもある」
「とにかく、慣れるしかないな」
「そういうこっちゃ」
「よし。今から早速、訓練を……」
大神がそう言いかけた時、けたたましい警報音が響いた。
「くそっ。悠長なことはいっていられないか!」
伊勢神宮に敵が現れたのだ。
米田の司令をうけ、花組隊員は急いで神武改に乗り込む。
「蒼空の準備も終わってるで!」
「わかった。こっちもぶっつけ本番だが、やるしかないな。みんな頼むぞ!」
「了解!」
各人は神武改を蒼空専用積載台座まで移動させる。いかつい留金が自動的に神武改を固定すると、台座は90度倒れ、神武改を仰向けにして動きはじめた。
そして、そのまま滑るようにして、蒼空の神武改格納庫へ収められる。
この丸型の格納庫は、蒼空一・二号機には二個、三号機には三個装備されており、一号機には大神とさくら、二号機にはマリアとカンナ、三号機には紅蘭、すみれ、そしてアイリスが搭乗することとなっていた。
「格納庫扉閉鎖!」
それ自体、機体の外面を構成している扉が、蒸気圧でしっかりと閉じられ、固定された。
同時に、神武改の霊子機関が蒼空へと接続され、霊子力が蒼空へも伝わっていく。
「昇降機上昇開始!」
「第四扉解放!」
蒼空運用担当である風組が手際よく作業をこなしていく。
そして、蒼空は、専用の大型蒸気式射出台(カタパルト)に据え付けられる。
「射出角調整よし」
「発射口開け!」
神田川の底が割れ、水が落下する。そして、それを突き破るようにして、天に向って射出台の先端が延びていった。
「外部準備全てよし! 機長、どうぞ!」
「こちら一号機大神。機内もすべて異常ない」
「了解! 射出します!」
圧縮された蒸気が一気に解放され、急速なGがかかる。
だが、轟雷号でも鍛えられた花組隊員だ。その中でも冷静に機体をコントロールする。
「霊子噴進発動機始動!」
神武改の霊子機関と、それに直結された機体内の二機の霊子機関とが唸りをあげる。大神とさくらから注がれている霊子は極限まで圧縮されて噴進発動機へと流し込まれる。
ドカンという衝撃音がして、噴流が炎のように尾をひきはじめた。始動成功だ。
「これは、はやい!」
速度計をみつめながら、大神は思わず叫んだ。
原理としては、合体技と一緒で、機械的に圧縮した霊子の爆発力を後方に投げることで、推進力としているのである。今までのレシプロ機とは比べ物にならない加速と最高速だ。
後に大神が『神のみえざる手におされているがごとし』と語ったほどである。
「マリア。紅蘭。機体に異常はないか?」
一号機に続いて射出された二号機、三号機に連絡をとるが、いずれも順調のようである。
「よし。全速で、伊勢神宮に向うぞ!」
「了解!」
花組の中で、航法ができるのは、海軍士官の大神と飛行機を夢としていた紅蘭だけだ。
機体の制御はさくらに任せ、大神は航法に専念する。
(くそ、模擬訓練をしたとはいえ、勝手が違う!)
その大神でも、航空航法はなかなかの難儀であった。基本となる理屈や計算は同じだとはいえ、移動速度が全く違うのだ。
『大神はん』
個人用通信回線に紅蘭が入ってきた。
『ちーとばかし風に流されとるで。三度ばかし右にふったほうがええ』
「わかった。ありがとう」
さすがに紅蘭は慣れたものだ。こと空中においては、大神も形無しである。
『それよりも、大神はん。二号機に気をつけてや。ちょっと反応が遅いよってな』
マリアが機長であり、彼女が操縦を担当している二号機は、どうも編隊を崩しがちだ。
航法のできる人間がいないということを割り引いても、なお、集中力を欠いた行動である。
「マリア! 遅れるな!」
『了解』
やはり、マリアの調子が今一つのようだ。
「マリア。どうした? 何か心配事でもあるのかい?」
『いえ……。ご心配をおかけして申し訳有りません。ですが、今は作戦行動中です。そちらに集中なさって下さい』
言葉も歯切れが悪い。
(過去のことは、ふっきったと思っていたが……)
いずれにせよ、もう原因を究明する時間はない。
『目標地点到達まで、あと5分やで!』
紅蘭の報告に大神の頬がさっと紅潮する。
蒼空には通常のシルシウス鋼よりも軽いシルシウス鋼302が使用されている。それでも、神武改を複数搭載するのだから、重量は過大だ。それを飛行させるためには翼による揚力だけでは不足であり、機体内にガスを詰め込んで浮力を稼いでいた。形態的には航空機ではあるが、その実は半飛行船半航空機といったところであろう。
必然的に、防御力は非常に弱い。ただの一撃ですら致命傷になりかねないのである。
この蒼空による初の降下作戦が成功するか否かは、ひとえに大神の指揮にかかっている。
「全機、主格納庫固定具解放」
いざという時に格納庫だけでも緊急射出できるように準備を整える。
「全速で降下開始点に向う!」
蒼空は敵も初めて見る機体だ。ここは、下手に小細工をするよりも、一刻も早く降下し、奇襲降下を狙った方がよいと大神は判断したのだ。
「降下開始点まで、あと5、4、3、2、1……降下開始!」
格納庫の扉が開き、神武改が滑り落ちる。
この時点では、全くの自由落下であり、みるみる加速がついていく。
「第一落下傘開傘!」
神武の胸部に貼り付けられた箱から、小振りの落下傘が飛び出た。それはすぐに空気をはらみ、神武改を急速に減速させる。
だが、それも一瞬のことだった。神武改の重みに耐えきれず、落下傘は裂け目が走り、その用をなさなくなってしまったのである。もっとも、これは計算のうちだ。段階的に減速せねば、とても神武改の落下速度を殺すことはできないのである。
「第二落下傘開傘!」
今度はもう少し減速してから落下傘を切り離した。
「主落下傘開傘!」
最後には大きな二つの落下傘によって神武改は降下していく。
それでも、降下計の針は、神武が安全に着地できる以上の落下速度で降下していることを示している。
着地するのは、もう一段階が必要であった。
「噴進機作動」
神武改の腰部にとりつけられていた筒状の火薬式噴進装置が一斉に点火された。
これは使い捨てであるし、燃焼時間も短いが、“逆噴射”として用いるのには充分だ。
「着地!」
神武改は膝で衝撃を吸収しながら大地に立った。
降下中は回避行動ができず、無防備な状態となるため、心配されていたが、初めてのことに敵もとまどい、有効な反撃ができなかったようである。
だが、着地されてまで黙って見ている道理はない。事態が飲み込めた敵は一斉に神武改をめがげて殺到する。
降下中の風の影響で散開している神武改は、各個で対応しなくてはならなかった。
「帝國華撃團・神武改。神崎すみれ専用機・麗武、見参!」
すみれの機体は、霊子機関が小型化されている。そのため、稼動時間と馬力は低下しているが、軽量化された分、馬力対重量比は向上していた。すなわち、身軽な動きが可能ということである。
そして、背部の空いた空間には、“翼”が折りたたまれている。
さらには、機体表面の全面に金が装飾のように張り巡らされ、すみれらしい豪奢な機体になっていた。
「さあ、いらっしゃい!」
すみれが身構えるや、“翼”が、まるで白鳥の羽のような優雅さで広がった。
「神崎風塵流・朱雀の舞!」
薙刀とともに朱雀が舞うようにして霊力が戦場を舐めた。扶桑の兵はたちまち一掃される。
「ふっ。他愛もないわね」
大きく広がった翼と、麗武の機体表面に張り巡らされた金箔はすみれの必殺技の高熱を効率よく逃がすための放熱機構なのだ。これにより、神武改自身を高熱から保護するとともに、必殺技の威力そのものも増させていた。
機体からの放熱による陽炎の中に佇むすみれ機は、華麗ながらも凛としたすみれそのもののようである。
「帝國華撃團・神武改。桐島カンナ専用機・剛武、見参だぜぇ!」
カンナは自ら、敵中に突入していった。
もちろん、攻撃をうけるが、機体に損傷らしい損傷はうけない。
「さすがに強ぇぜ!」
剛武は、他の神武改と機体そのものの形が大きく異なっている。光武系の滑らかな曲線ではなく、板を張りあわせたような角張ったものとなっているのだ。
その理由は、増加装甲である。すなわち、今までの神武の装甲の上に、新型シルシウス鋼から成る装甲板を被せているのだ。
この新型鋼は強固ではあるが、加工がしにくく、そのために“張り合わせ”になっている。
また、これによる重量増を補うため、剛武の霊子機関には、過給霊機――今日では霊子ターボとよばれる――を装備し、神武改随一の馬力を生み出す。
「いくぜ! 桐島流空手奥義・一拳励魂」
同じく新型シルシウス鋼製の手甲によるカンナの一撃は、一体のみならず、次々と貫通して敵を撃破する。
「帝國華撃團・神武改。李紅蘭専用機・雷武、見参やでぇ!」
雷武の霊子機関は、その取付け方向を九〇度変更している。それは、その両脇に強力な新武装、霊子カノン砲を搭載するためであった。
「仰角5度。弾薬装填!」
迫り出すように砲身が延び、弾薬が自動装填された。
「霊子照準板準備よし」
紅蘭の眼前に半透明の受像装置が降り、数多くの情報が、単純に図式化され表示される。
「目標確認。照準合わせ……良し!」
反動に備えて、雷武が前傾姿勢をとり、肩から突き出たカノン砲はその角度を固定する。
「いっくでぇ! うちの新装備の威力をみぃやぁ!」
轟音とともにカノン砲が火を噴いた。
正式な名称を一五試九糎霊子加農砲という、実測口径八八粍のこの砲は、地上用霊子兵器として実戦投入された砲の中では、当時、世界最大のものである。
しかも、両肩に装備された連装砲だ。
すでに、軍事常識として、連装砲は単装砲の二倍ではなく、三〜四倍の効果があることが立証されている。であるから、当然のように、その威力は絶大であった。
着弾するや否や、敵は文字どおり吹き飛ばされてしまったのだ。
「まるで、翔鯨丸の砲撃みたいだなぁ」
そんな言葉が思わず大神の口をついた。
翔鯨丸の主砲より口径は小さいが、新式であるから、遜色はないようだ。
「俺も負けるわけにはいかん!」
大神機の高起動装置が唸りをあげる。
他の機体からは重量軽減のために取り外されてしまったこの装置を、大神機だけは残し、かつ改良型としていた。
「帝國華撃團・神武改。大神一郎専用機・真武、見参!」
高速で敵の陣列に突入し、それを乱した大神は、剣を振るって敵を打ち倒していく。
真武は、最も改造の少なかった機体の一つであり、全機共通改造である左腕への盾の装着以外には指揮通信機能の強化が行われただけだ。
だが、その振う刀は、現代の名刀匠によって打たれた、シルシウスたたら鋼によるものになっている。単に切れ味だけでいうのであれば、さくらの霊剣『荒鷹』をも凌ぐであろう。
「狼虎滅却・流刀如水!」
双刀の狼。
後にそう評された狼虎流(または大神流)剣術の流れるような攻撃で、敵は完全に算を乱した。
「お兄ちゃん。あとは任せて!」
そこに瞬間移動してきたのは、アイリス機だ。
「帝國華撃團・神武改。イリス・シャトーブリアン専用機・陽武、見参!」
陽武も、改造が少なかった機体であり、外見的には、通常、左腕部にのみ装着されている盾は右碗部にも装着され、防御力が強化されている程度にしか見えない。
しかし、操縦者の霊子を機体に伝達する機関の中核である霊子水晶が大型かつ純度の高いものに換装されており、アイリスの膨大な霊子を、より効率良く伝えることができるようになったのである。
「イリス・エクレール!」
大神の切り込みによりバラバラとなっていた敵が掃討される。
「どう? すごいでしょ?」
得意満面だ。確かに攻撃力も向上している。
これで、アイリスも防御専門ではなく、補助的な攻撃に参加できる筈だ。
そう大神は考えたが、その“ゆとり”は一瞬の油断をもたらした。
「アイリス、後ろだ!」
「えっ!?」
何時の間にか陽武の背後に敵が迫っている。
瞬間移動のための精神集中を行なう暇すらなければ、大神の霊気防御も間に合わない。
だが、間一髪。
銃声とともに敵は倒された。
「アイリス、隊長。しっかりして下さい」
マリアだ。
「帝國華撃團・神武改。マリア・タチバナ専用機・烈武、見参!」
烈武の右腕から延びる多銃身速射砲は、その面目を一新していた。
最も大きく変わったのは、その銃身長だ。肘を軽く曲げねば銃口が地面に触れてしまう程に長くなっているのである。
内部的構造的にも、薬室等が変更されてより大きな内圧に耐えられるようになった。
すなわち、口径こそ同じだが、より高初速の弾が撃て、威力も格段に増しているということだ。
「生きていたければ、近づくな!」
右腕と一体化した速射砲を左腕で補助しながら、マリアは敵を薙射する。
敵も一端、距離を開けて、態勢の立て直しをはかろうとしているが、こうなれば、それを許す花組ではない。
「帝國華撃團・神武改。真宮寺さくら専用機・翔武、見参!」
麗武と同じ概要で翔武は改造されている。すみれよりは必殺技の温度が低いために機体表面の“金細工”こそないが、同じように霊子機関を換装し、“翼”を装着していた。
もっとも、細かな違いはいくらでもある。それは、必殺技の態勢に入ると、誰の目にもわかるようになった。
「はぁぁぁぁ!」
さくらの気合とともに広がった”翼”は、麗武のものとは形が異なっていた。
麗武が優雅な白鳥のような翼とするなら、翔武の翼は、鋭い鷹のようだといえるだろう。
いずれも、それぞれにとって最適の放熱効果を追求した結果だ。
「破邪剣征・千花乱撃!!」
力強くなった、さくらの新必殺技は、炎の奔流などという生易しい形容ができるものでなかった。強いていうならば、炎の濁流と表現すべきだろう。それは、全ての敵を呑み込み、消滅させてしまったほどである。
「隊長。これで敵は片付いたようだぜ」
結果として波状攻撃になったためだ。
だが、大神は警戒を怠らない。
「カンナ。まだだ。まだ、親玉が出てきていない!」
花組は、大神を中心に輪形陣をとり、周囲を警戒する。
すると、程無くして、空間の一部が歪むように陽炎が立ち、人影が現れてくる。
「さすがは帝國華撃團。見事な戦いぶりだな」
大禍津日神だ。
先の戦闘の傷もすっかり癒えた様子で、強い霊力が感じられる。
「いや。見事なのはこれからだ」
大神は挑発的な敵の態度にも動ぜずに切り返す。
「ほう。虚勢をはるのも仕事のうちかな。隊長さん」
「いや。根拠があってのことだ」
「面白い。聞かせてもらおうか」
「簡単なことだ。お前達の行動は、収集した情報によって細かに設定されている。だが、俺達が武装強化し、空挺降下することは情報に入っていなかい。つまり、予測不能ということだ。その証拠に、簡単に掃討されたではないか!」
大神の指摘は的を射っている。
情報戦に長けている分、それに依存しているところがあるのだ。
「なるほど。だが、今の戦闘で、既に貴様等の戦力は分析できた。おそるるに足らん」
「笑止! あれが全力だと思っているのか!」
叫ぶや、大神は全機を展開させ、戦闘態勢をとった。
なかなか見事な指揮ぶりだ。
「いくぞ!」
「よかろう。こい!」
神武改が次々に攻撃をしかける。
大禍はその連続攻撃を巧みにかわし、あるいは防御しながら、花組に反撃した。
しかし、さすがに散発的な攻撃になり、有効打を繰り出すことはできない。
「なるほど、考えたな!」
徹底した一撃離脱戦術である。
「だが、それでは我に致命傷を与えることはできないぞ」
一撃離脱戦術は、常に動きつつけるために損害をうけにくいが、攻撃機会も一瞬となってしまう。
それでも、花組は執拗なまでに攻撃を繰り返した。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
そのうちに息があがったのは、大禍だ。
連続攻撃とはいえ、瞬間的づつにしか敵前にない花組に対し、大禍は常に攻撃にさらされるのだから、疲労も早い。
おまけに致命傷ではないといえ、多数の傷は、徐々にではあるが確実に彼を弱らせていた。
「確かに、予想以上の攻撃力の向上だよ」
先の戦いでは、必殺技をもってしても、鎧の上から傷を負わせることはできなかったのだ。
(奴等の足を止めなくては……)
大禍は、ある程度の攻撃を受けることを覚悟の上で、剣を振りかぶ
っり、霊力を注いだ。
「くらえ! 大真驚陣!」
地面が持ち上げられた。神武改の足元から霊力が吹き上げ、空中高くへ跳ね上げられる。
だが、攻撃を受けた、まさにその瞬間。大神は勝利を確信し、命令を下した。
「紅蘭! マリア! 頼む!」
「まかしとき!」
「了解」
空中にありながらも、態勢を整えた二機の神武改の砲口が大禍に向けられる。
「もろたで! 雷虎激龍弾!」
「パールクヴィチノイ!」
大禍の“鎧”は、いわゆる上代の一般的な形式である。そのため、後世の鎧のような肩当てなどがついておらず、上方大角度からの攻撃には弱い。
それを狙った必殺の霊力をのせた霊子水晶弾は、狙いあやまたず、大禍の“非装甲部分”を貫いた。
「うわぁぁぁぁぁ!」
大禍が悲鳴をあげ、その場に崩れ落ちる。
「わーい。やったぁ!」
思わずアイリスが喚声をあげたが、それは少しばかり早計だった。
「まだ……まだだ!」
剣を杖として大禍は傷ついた体を起き上がらせた。
「んな馬鹿な! 計算では、さっきの攻撃で倒れてるはずや!」
紅蘭が慌てて、分析する。
「あかん! さっきの攻撃、マリアはんの霊力が予想値よりも大分低いで!」
マリアの不調を癒すことができなかったツケがここにきてあらわれた。
しかし、大神は落ち着いた指揮をとる。
「それでも奴は、かなりの損害をうけている。休まず攻撃し続けるぞ!」
というと、先頭を切って大禍に切りかかっていく。
「狼虎滅却・快刀乱麻!」
案の定、防御の態勢すらとれなかった大禍は、今度は仰向けに倒された。
だが、その巨体はまたも起き上がってくる。
「なんて奴だ!」
敵ながら天晴れだ。
もちろん、それを口には出さず、再度の攻撃態勢に入る。
「とどめだ! 狼虎滅却・無双天威!」
今度も防御態勢はとれない。
そう思った次の瞬間だ。
「なに!?」
大禍の剣が、大神の攻撃を受け止めた。
お互いの剣が火花を散らしながら押し合う。
「まだだ。まだ、私は戦う!」
そのすさまじいまでの気迫に、大神は圧倒されそうになる。
この粘りは、今までの敵にはなかった。
「なぜだ。なぜ、貴様はそこまで戦うんだ!」
「笑止。お前も軍人ならば、わかる筈だ。いや、軍人である以上、お前と俺は同じ役回りなのだ!」
一端、弾かれるようにして互いの機体が離れた。
「隊長! 大丈夫か?」
カンナが援護に出ようとするが、大神はそれを制止した。
「俺が決着をつける! 手出しは無用だ!」
再び、大禍へ切り付けていく。そしてまた、大禍も受けてたった。
剣が交錯し、両者が睨み合うようにして近接する。
「さっき、俺と貴様が同じだといったな」
「そうだ」
「一体、どこが同じだというんだ!」
大禍は薄笑いを浮かべた。
「そんなこともわからんのか。ならば逆に問おう。お前の正義とは何だ?」
「そ、それは……」
大神は言葉に詰る。
軍人としての自己の存在意義を、こともあろうに戦闘中の敵から突きつけられるとは。
「即答できないのなら、質問を変えてやろう。お前らの正義の戦いで、何が導かれた?」
「それは……帝都の、帝國の民を守りぬいたことだ」
「そうだろう。だから、俺と同じだというのだよ」
「なに?」
「俺は、俺の正義のために戦っている。滅ぼうとする扶桑の民を守るために戦っている。そう、お前と俺は、生まれたところが違うだけで、同じ役回りということだ」
「馬鹿な!」
大神が否定しようと声をあげるが、大禍はそれを遮ってなおも続ける。
「軍人たるお前は知っている筈だ。攻撃か防御かという違いは軍事行動という表面上の違いにすぎない。戦争に勝利するための作戦行動という意味で、その本質には何ら相違がないということを!」
「黙れ!」
こうなると大神も若い。
反論できぬため、攻撃の手を一層強める。
「狼虎滅却・天衣無縫!」
大神の新たなる必殺技が、大禍を剣ごと切り裂いた。
「見事だ。大神一郎。貴様の様な好敵手に出会えたこと、我が生涯の快事であったぞ!」
あくまで一点の邪心なく、ただ扶桑の国家と民の為に殉じて大禍津日神は倒れたのである。
「やりましたね、大神さん!」
さくらをはじめとして隊員達が集まってくる。
「それじゃあ、ひさびさにいきましょう! 勝利のポーズ!」
「決めっ!」
だが、大神の表情は、冴えなかった。