第5話「天気晴朗風強シ」(その3)

「隊長達が到着するまでに雑魚を掃討するわよ!」

 その頃、泉岳寺ではすでに戦いがはじまっていた。

「さくら、道を!」
「はい!」

 さくらが早くも必殺技を放つ。

「破邪剣聖、百花繚乱!」

 たちまち一筋の道が開く。
 そして、そのさくら機を筆頭に全機がそこに突入していった。

「ほう?  やはり大神がいなくては、その程度のものか?」

 魔霊甲冑「赤穢」に乗り組む『地の陽炎』は低い声でつぶやいた。
 いくらその直線は掃討できたとしてもすべての黄泉兵が掃討されたわけではないのだ。“道”に突入したマリア達を黄泉兵が包み込むように囲んでいく。

「マリア! 前も後ろも完全に塞がれちまったぜ」
「慌てないで、カンナ」

 だが、マリアはおちついている。

「すみれ。頼むわよ」
「任せておきなさい」

 今度はすみれが必殺技の態勢に入った。

「神崎風塵流・鳳凰の舞!」

 神武めがげて黄泉兵が密集したところだ。これ以上の効率はないという感じで、黄泉兵が炎に包まれていく。

「やりましたわ」

 だが、その攻撃による砂塵の中に、黄泉兵ではありえない影が突然、あらわれた。

「なんですって!?」

 砂塵の中から伸びてきた鋼鉄の手がすみれ機を捉える。
 突然の攻撃にたまらずすみれ機は吹き飛ばされるが、それでも踏みとどまった。

「油断は大敵だぞ。帝國華撃團の諸君!」

 それは「赤穢」の姿だった。

「私は例え雑魚でも戦力として大事に扱うのだよ」

 今までの相手は(ミロクの紅蜂隊のような例外はあったが)雑魚は雑魚、自分は自分として戦ってきていた。しかし、まとまって攻撃される方がやっかいなことはいうまでもない。

「すみれ! 大丈夫?」
「当たり前ですわ。これしきの攻撃、蚊に刺されたほどにも感じませんことよ」

 といいながらも、すみれは回復を行なっている。かなり効いているようだ。

「くそ、こいつらよってたかって!」

 カンナも苦戦している。雑魚が数でかかってきて自由度を減じたところに魔霊甲冑による攻撃をしてくるのだ。

「敵も集団戦術を使うとは……軍人の大敵は先入観であるとは、よくいったものだ」

 自嘲気味につぶやきながらもマリアは指揮を続ける。
 表面的には未だ帝撃は優勢であり、倒れていくのは黄泉兵ばかりだ。しかし、神武にも損害は確実に蓄積している。ある一点を超えた段階で、急速に戦力均衡が崩れ、帝撃側が瓦解するだろう。

「あっ!」

 マリア機が黄泉兵にとりつかれた。必死にふりほどこうとするが、元々、近接戦闘に弱いマリア機のこと、うまくいかない。

「マリアさん!」

 さくらが助けにいこうとするが、黄泉兵に阻まれる。他のメンバーも同様に動きがとれない。

「まず一機目だ」

 『赤穢』がマリアに迫る。

「いくぞ。『石龍轟烈火』!」

 陽炎の必殺技の態勢に入ったその時だ。

「させるかぁぁ!」

 その声は空からだった。
 思わず陽炎が見上げれば、彼をめがげて一直線に迫るものがある。

「大神一郎、参上!」

 大神は後席にもついている操縦幹を目一杯に倒し、急降下している。

「お、大神はん。無茶やで。機体強度が、こないなスピードには耐えられまへん!」

 現に機体の構造材があちこちで悲鳴をあげ、補強のためのワイヤーが音をたててちぎれていく。
 やがて、いやな音がして翼がもげた。それでも機体についた勢いはかわらずに突っ込んでいく。

「きゃぁぁぁぁ!」

 スピンする機体の中で紅蘭が悲鳴をあげる。もはや、高度的にも落下傘での奪取も不可能だ。
 しかし、大神はここで死ぬ気はない。

「紅蘭。しっかりしろ。飛び降りるぞ!」
「飛び降りるゆうたかて、下が地面やないか!」
「いいから、いくぞ!」

 紅蘭を無理矢理ひきずりだす。というと、簡単に聞こえるが、回転して横Gがかかる機体での動作は容易ではない。しかし、大神は瞬時にそれをやりとげ、紅蘭を抱えて宙を舞った。
 主を失った紅神号は、しかしなおも、陽炎をめがげて飛行している。

「ぬぅ」

 陽炎も赤穢の機体を捻ってかわす。紅蘭号は赤穢の至近には落下するが、火薬をつんでいるわけでもなく、大した効果はない。だが、陽炎を怯ませ、マリアを助けるには十分であった。

「大神さん!  紅蘭!」

 だが、大神と紅蘭の危機はまだ去らない。彼らは上空から落下し続けている。

「アイリスにお任せ!」

 アイリスが黄泉兵を振り切った。そして、瞬間移動で、大神達の落下地点へと滑り込む。ほぼ同時といっていタイミングで大神と紅蘭はアイリス機の腕の中へと落下してくる。

「お兄ちゃん、紅蘭。大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ」

 紅蘭はやや呆然としているが、大神は落ち着いている。花組なら、誰かが助けてくれると信じていたのだ。

「で、お兄ちゃん?」

 急にアイリスの声が厳しくなった。

「いつまで、紅蘭とそーしてるの!」

 言われてみれば、大神は紅蘭を抱きしめたままだ。慌てて両手を離す。
 そのオタオタした姿は先程までの自信に満ちた頼もしい大神とは一変している。このあたりが、花組のメンバーに慕われる要因だろう。

「と、ともかく、いくぞ、紅蘭。神武に乗り込むんだ!」
「はいな!」

 すぐに純白の機体と深緑の機体が姿を見せた。

「改めて、大神一郎、参上!」
「李紅蘭、参上!」

 ようやく、花組の揃い踏みだ。

「くっ。『石龍轟烈火』!」

 陽炎も必殺技が神武を襲う。確かに強力な技であり、攻撃をうければ、下がって回復する必要がある。
 だが、一度失ってしまった戦場のモメンタムを取り替えすまでにはいたらない。集団戦術も、黄泉兵がこれだけ掃討されてしまうと、うまく機能しない。陽炎とそれ以外で戦力に差がありすぎたのがいけなかった。

「パールク・ヴィチノイ!」

 マリアの必殺技が炸裂し、赤穢を守っていた黄泉兵は全て倒れた。

「よし、とどめだ。いくぞ、紅蘭!」
「よっしゃ、まかしとき!」

 紅蘭機と大神機が互いの間に霊力を集中させていく。

「疾風にして静水の如く」
「深山にして烈火の如し」
「飛龍上雲!」
「龍駆咆哮!」
「凄絶! 天昇烈界破!!!」

 霊力の奔流が陽炎を襲う。

「さすがだな、帝國華撃團」

 陽炎は息も絶え絶えになりながらも、口を動かす。

「やはり、我が力ではこの程度。だが、ヒルコ様は必ずや我が無念を達成してくださる筈だ。そう、事は為ったのだからな!」

 直後、赤穢は爆発し、陽炎の姿もその中で消えていった。

「今の台詞……一体、どういうこと?」

 マリアが首を捻る。

「なーに。あんなん、ただの負け惜しみや。それより、いくでぇ!」

 紅蘭が場をしきった。

「勝利のポーズ、決めっ!」

 隊員達が勝利の喜びと安堵を噛み締める。

 だが、それは束の間にすぎなかった。

「ご無沙汰だったな。帝國華撃團の諸君」
「貴様は、ヒルコ!」

 突然、虚空にヒルコの姿が現れる。

「おお。覚えてもらっていて光栄だよ。大神一郎くん」
「ふざけるな。貴様の幹部は全て討ち果たしたぞ。次はお前の番だ!」

 いきる大神だが、ヒルコは心から楽しそうに笑った。

「幹部だと!?  やつらなど捨て駒にすぎんよ。そう、彼らはその死に値するだけの仕事はやってくれているのだ」
「なに!」
「見るがいい。大神よ。帝國華撃團よ! わが術が発動するのを!」

 しかし、今度は紅蘭がニヤリと笑った。

「甘いで、ヒルコ。お前らが埋めた『楔』を、うちたちがそのままほっといてただけだと思ってんのんか?」

 紅蘭がなにやら釦を押す。すると泉岳寺に埋められた『楔』が唸りをあげはじめた。それは次第に大きくなっていき、やがて、バリッという断末魔の声をあげてとまった。

「『楔』を共鳴させて、限界以上の振動をあたえてやったんや。『楔』は粉々やで。それに、今ごろ、他のところのやつも同じよーになってるさかい。何しても無駄やで!」

 『楔』は通常攻撃では傷一つつかない。紅蘭と風組、夢組の共同研究により、ようやく開発された『楔』の破壊方法だ。

「ほう。そんなものもあったかな」

 だが、ヒルコはおちついている。

「虚勢をはってても駄目やで。帝國華撃團に同じ手は二度と通用せーへん」
「はっはっはっはっはっはっ!」

 ヒルコは堪えきれなくなったとでも言いたげに笑う。

「これだから人間と言うものは単純だ。前と同じ物をおいておくだけで、同じ事をしていると勝手に勘違いしてくれる!」
「なんやて?」
「『楔』など目くらましにすぎんよ。本気で君たちはこれに気づいてなかったのかね?」

 パチンとヒルコが指を鳴らすと、地中から異形の物体が姿をあらわした。

「これこそ、わが術をなすための祭器、『鐸』だ」

 それは『楔』に比べると圧倒的に小さい。
 『楔』を見つけたことで、その対処にやっきになっていた帝國華撃團は、『鐸』を発見することすらできていなかった。

「今こそ、数千年の恨みを果たさん!」

 ヒルコが祝詞を唱える。

「やらせないぞ!」

 大神以下、七機の神武はそれを阻もうと攻撃するが、全てヒルコを素通りしてしまう。

「隊長! あれは幻です!  実体は別のところに!」

 マリアが気づいた時には遅かった。

「今こそ、我が力を見るがいい!  『征邪破正陣』!」

 不気味な地鳴りが響く。
 太陽は光りを失い、空は闇にとざされる。
 そして、禍々しい妖気が地を覆う。

「黄泉平泉坂は開いた!  今より、常世も我々のものだ!」

 常世、すなわち現世と黄泉との道は神社仏閣によって封印されていた。しかし、ヒルコはそれを破壊すると同時に、法陣によって新たな道を開いたのである。

「なんでこんなことをするんだ!」

 思わず大神が叫ぶ。

「なぜだと? 大神一郎。貴様は父母から子として認められなかった哀しみがわかるか?  弟妹達はは神として崇められながら、姿形が醜いというだけで捨てられた私の気持ちがわかるか!」

 それは、先程までの自信に満ちた声とは違う。

「だから決めたのだ。私の父母が、弟妹が全勢力を傾けた常世を支配してやるう。高天原に君臨する我が妹、アマテラスの子供を貶めてやると!」
「それで、陛下のおわす帝都へ黄泉平泉坂を……」
「そうだ。生まれながらにして現人神である睦仁に、生まれながらに神を失格とされた私が鉄槌を与えるのだ!  どうだ、愉快な話であろう」

 ヒルコは高笑いする。いかにも憎々しい。だが、さくらはポツリと呟いた。

「……そんなのって、悲しい」
「なんだと?」
「だって、それじゃあ、復讐のためにずっと生きてたというの?  そして、復讐が終わったら、どうするの?  それこそ、生まれた意味がないじゃない!」
「黙れ!」

 突然、さくら機の目の前で爆発がおきた。その勢いでさくら機がよろめく。

「さくらくん。大丈夫か?」
「え、ええ……」

 だが、さくら機はかなりの損傷をうけたらしい。

「くそ。いずれにしても、このままではまずい。ヒルコを倒すぞ!」
「了解!」

 さくら機を除く各機が戦闘態勢をとる。

『やめるんだ、大神!』  通信回線に米田大将が割って入ってきた。

『皆の神武は損傷しているし、さくらは戦えねぇ。まして、こっちは準備不足。これでは勝てん!』 「くっ」

 米田のいう通りだ。

『一旦、下がるんだ!  急げ!』  ぐずぐずしていては撤退もできなくなってしまう。

「……帝國華撃團・花組は戦場を急速離脱、本部へ帰投せよ!」


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