花組メイド物語(後編)   作・花組メイドプロジェクト

 さて、そんなこんなで、夕食の時間。
 それぞれに夕食でポイントを稼ぐべく厨房に突入したものだから、まさに阿鼻叫喚の図が厨房で繰り広げられることとなったのである。

「今日は帝劇ランチをメインに、焼き魚とおひたしとサラダを作るわよ。紅蘭、さっそく野菜の仕込みをお願い」
「よっしゃ。ほなさっそくこのジャガイモをウチの新発明「皮むきくん」で……」
「自分の手でむきなさい!!!!」

 いきなり紅蘭を怒鳴りつけるマリア。よっぽど紅蘭の発明品(による爆発)に懲りているらしい。

「わ、分かったわマリアはん。せやからもう、そないな風に近くでいきなり大声出さんといてぇな〜」

 その時アイリスが顔と手をべちょべちょにしながら、困った顔でマリアの前にやって来た。

「マリア〜、タマゴがうまく割れな〜い!」
「……………………」

 脱力して言葉も出ないマリア。
 そしてその一方では。

「キャーーッ! 何ですかこれー、すごい蒸気デース!!」

 突然、お米を炊いていた大釜のフタに手を伸ばした織姫が大声を上げた。

「お、織姫さん!まだその釜のフタを開けちゃいけませんってば!」

 まな板で菜っぱを切っていたさくらが、慌てて織姫のところに駆け寄った。

「いいですか!お米を炊く場合は、『始めちょろちょろ中ぱっぱ、赤子泣いてもフタ取るな』。これは絶対守らないと、おいしいご飯が炊けないんですよ!」
「何デスかー? その『赤子泣いたらブタれるなー』というのは?」
「も、もういいです……。それより、そっちのおでんがそろそろ出来てるんじゃないですか?」
「んー、もう十分煮えてますね〜。チェリーさーん、オデンはこんな感じデスかー?」

 さくらは織姫の作ったおでんの味見をしようとしたが、鍋を探っていたおタマの手が止まる。

「こっ……この輪切りの大根…………」
「んー、何デスかー?」
「全然皮を剥いてないじゃないですかっっ!」
「えっ??ダイコンに皮ってあったんデスかー?」

 目を丸くして、素っ頓狂な声を上げる織姫の言葉に、さくらはその場で目眩を覚えていた。
 さらにその一方。

「……すみれ、このスープは塩分が多すぎる。味も舌に刺すような刺激しか感じられない。明らかに、薬味と調味料の使いすぎだと思う」
「何を言うんですの!?醤油とコショウはこれくらい使いませんと、味が全然出ませんのよ!」
「それはすみれ個人の味覚の問題だと……」
「うっっるさいですわねぇ!!……そうやって、人の作る料理の味にいちいち文句言わないで下さりませんこと?!」
「……了解。でもその味じゃ、多分隊長の好みに合わないと思う……」

 またさらにその一方。
 カンナの料理を作っているところの横に来て、また料理を始め出す織姫であったが……。

「カンナさーん、その“チャンコがブルー”って何ですかー?」
「チャンブルーだ、チャンブルー。まあ、沖縄でいう“炒めもの”ってやつなんだけどな。ポークやキャベツ、人参、もやしとか、そのへんにあるものをみんな混ぜて炒めた料理だ」
「ふーん。ゴッタ煮ならぬ「ゴッタ炒め」デスねー」
「織姫こそ、何作ってんだ?」
「んー、これは小麦粉を練って作る「パスタ」という料理デース」
 それを見ていたカンナは呆れた顔で言った。
「織姫……そりゃ片栗粉だ……」

 食堂で待っている大神を著しく不安におとしいれたが、マリア、さくら、カンナの奮闘により、何とか形になった。
 次々と目の前に運ばれてくる料理に大神は密かにホッとしたのである。

「ご主人様。お飲み物はいかがいたしますか?」

 すみれが恭しく大神に聞く。

「そうだね。今日は和風だから、日本酒をもらおうか」
「はい。ご主人様」

 すみれは、すぐに奥から一升瓶を取り出した。

「お口に合いますかどうか」

 それは、八海山純米大吟醸である。
 なかなか手に入らない逸品だ。未成年のすみれが、どこで仕入れたやら。
 ともあれ、うまい酒だ。大事にいただくとしよう。

「じゃあ……」

 自分でつごうとした大神をすみれが制した。

「わたくしがおつぎいたしますわ」

 すみれは大神の脇に座るとよりかかるようにして、お酒をついでいく。
 一瞬、場が緊張するが、他のメンバーは辛うじて踏みとどまっている。
 実は、これ以上の混乱を避けるため、一つの“奉仕”については、早い者勝の一人が最後まで行えるという協定が結ばれていたのである。

「さあ。どうぞ」
「ああ。じゃあ、いただきます」

 まずは、日本酒を一口あおる。

「うん、うまい」

 さすがの味だ。
 では、早速おかずをと思って、箸に手をのばそうとすると、今度はさくらがそれを制した。

「ご主人様。私がおとりします!」

 さくらは大神のかわりに箸をとると、器用に骨をよけて魚の身をほぐし、それを大神の口元に運ぶ。

「はい、あーんしてください」
「あーん」

 つられてつい口を開けた大神の口に、さくらが優しく魚を入れる。

「おいしいですか?」
「うん。おいしいよ」

 これではメイドというより新婚夫婦である。
 当然、背後では“ゴゴゴゴゴ……”という音が聞こえんばかりのオーラが放たれているのだが、そこは協定。
 こうなると如何に他のメンバーに先んじて行動を起すかということになってくる。
 他のメンバーは大神の一挙手一投足に注目する。

「次は、これをどうぞ」
「うーん。これもなかなかいけるねぇ」

 鍋底大根を頬張って満足気な大神。

「ささ、お酒も、もっとどうぞ」

 すみれとさくらに左右を寄り添われながら食事する大神の鼻の下は伸びきっている。
 と、その時、さくらと大神のタイミングがあわず、大神の口元が汚れてしまった。

「はい、マスター! お口をおふきしまーす!」

 大神の背後から手がのび、シルクのナフキンで大神の口元をふく。
 欧風スタイルでは、一口食べるごとに口をふくといったも過言ではないくらいだが、薄い布地を通じて織姫の指の感触が唇に伝わってくるのは悪くない。

「ありがとう。織姫くん」
「マスターには当然でース!」

 他のメンバーの誰かが舌打ちする音が聞こえたような気もするが、ともあれ、今度は三人に囲まれての食事が続き、やがて、他に付け入るすきがないまま終わろうとしていく。

「はぁ。食べた食べた」

 最終的にはカンナが『これじゃ足りねぇだろ』とばかりに彼女の基準で量を追加したため、大神には充分過ぎた。

「それじゃあ、下げさせていただいてよろしいですか?」
「ああ。ありがとう」

 さくらはいつもの習慣で、自発的に後片付けを始める。
 となると、席が一つあいたわけだ。チャンスを逃すわけにはいかない。

「お兄ちゃん、サロンにいこうよぉ!」

 確かに食後のくつろぎをするのにも、食堂では味気ない。
 大神は立ちあがり、歩き出そうとするが、アルコールが入っていたためか、ちょっと足がもつれて、よろめいてしまった。

「おっとと……」

 態勢を立て直そうと、何かに捕まろうとした矢先、急に身体が軽くなった――というより宙に浮いた。

「あぶねぇな、ご主人様。オレが連れてってやるぜ」

 カンナは大神を抱え上げ“お姫様だっこ”してしまった。

「あ、ありがとう」

 大神としてはなんともはや、苦笑するしかない。
 が、すぐに自分の顔がカンナの胸に押し付けられるようになっていることに気付いた。 カンナがグラマラスな事は知っていたが、筋肉質な彼女でも――

(女性の胸って……柔らかいんだな)

 などと不埒なことを考えているだけでなく

(もし、さくらくんだったら、もっと柔らかいんだろうか?)

 などと妄想する始末。
 これもアルコールゆえ、と筆者がフォローしておこう。

「さあ、ついたぜ、ご主人様」
「もうかぁ。早いなぁ」
「え?」
「え、いや、なんでもないよ」

 大神はサロンのソファーの真ん中に座った。
 それに間髪を入れず、隣の席を占めたのは、マリアである。

「ご主人様。一つどうぞ」

 マリアは紙巻煙草を大神に差し出した。

「おっ。ありがとう」

 大神が煙草を咥えると、マリアはすかさず、マッチをすった。
 軸についた火が消えないように片手で風をよけながら、大神の口元にそれを近づけて行く。大神も少し首をすくめるようにして下を向いて煙草をかざし、それに火をつけた。

「ふぅ〜」

 大神が大きく息を吸って吐き、白い煙が立ち昇る。
 この一連の動作は、まるでマリアと大神が普段からそうしているかのような自然さだ。まあ、煙草をすったこともない(第一、ほとんどが未成年だ)他のメンバーには真似もできない。

「堂々と煙草を吸うのもひさしぶりではないですか?」
「そうだね」

 大神は海軍時代は毎日のように喫煙していた。
 しかし、帝撃では、煙草のニオイが花組メンバーの髪の毛にうつることを彼自身が気にして、花組の前で煙草を吸うことをやめているのだ。

「ふーっ」

 煙がゆらぐ。

「まだ、飲みはりますやろ」

 今度はすみれに先んじて、紅蘭が 紹興酒をもってきた。

「何でいかはる?」
「そうだね、ロックで」
「ほいな」

 紅蘭はまるでカフェで出るようなグラスと同じ直径の球の氷が入っている。

「へぇ、これは綺麗だね」
「そやろ? うちが開発した三次元削出加工機『けずるくん』でつくったんや」

 といいながら、櫛形に切った檸檬も添えてくるあたり、紅蘭も気遣いを忘れていない。

「ごしゅじんさまー。アイリス、おつまみもってきたよ!」

 他のメンバーも用意していたが、アイリスがテレポートで大神の脇へ入り込んだのである。とはいえ、アイリスの事だ。その中身はチョコやキャンディーなどのお菓子ばかりである。

「ははは。ありがとう」

 苦笑しながらも大神はチョコをつまんだ。
 キャンディーはともかく、これならなんとかつまみとしていけるだろう。

「それにしても、ご主人様はいける口やなぁ」
「いや、米田長官に無理矢理付き合わされているから、慣れただけだよ」
「ほな、どんどんいかな!」

 紅蘭がどんどんと大神に酒をすすめる。美少女に取り囲まれて尽くされている大神もついつい杯を重ねて行く。おまけにつまみが甘いものというのも、余計に酔いをまさせる。

「ふわぁ。なんだか眠くなってきてしまったなぁ」

 いつもならここまでは飲まないのだが。

「ちょっと横になった方がいいですわ、ご主人様」

 というマリアの言葉に大神もうなずいた。

「そうだね。そうするかな」
「じゃあ、どうぞ」
「え!?」

 マリアは大神の肩に手を伸ばすと、スッと抱き寄せるようにして大神の身体を引いた。自然に大神の身体はマリアの膝を枕にするようにして倒れこんでしまう。

「!!」

 周囲に殺気が走る。
 マリア自身、自分がいつもより女らしく、それでいて大胆であることに驚いている。あるいは普段の男装とは違うメイドの衣装がそれを引き出しているのかもしれない。
 しかし、当の大神にしてみればマリアの柔らかい膝枕など、思いもしなかった展開だ。その感触にメロメロ(死語)である。

「ご主人様。ちょっと動かないで下さいね」

 マリアはいつの間に用意していたのか、銀の耳掻で大神の耳掃除まではじめた。

「うーん。上手だね、マリア。気持ちいいよ」
「ありがとうございます。私も気持ちいいです。ご主人様に喜んでもらえるのが私達の喜びでもありますから」

 ……なにかイヤらしく聞こえるのは、筆者に邪心があるせいだろうか。
 ともあれ、ここではマリアが大幅リードといって間違いないだろう。



 こうなると、次の勝負の場は風呂になる。

「よっしゃ。一番風呂わいたぜ!」

 風呂の加減をみていたカンナが威勢良く言う。
 本来なら、帝劇の風呂は帝劇全体のお湯をまかなうコークスボイラーを利用して自動的に温度が調整できるようになっている。
 ところが今日は……

「すまんなぁ、カンナはん。自動湯温調整装置が不調やさかい。そうなると、コークスは火力が強くて、すぐに熱湯になってしまうんや。かといって、帝劇全体のボイラーの火を絞るわけにもいかへんよって、調整が難しくてなぁ」
「まかせとけって。じゃあ、地下にいってくらぁ!」

 最後までカンナは威勢良く飛び出していった。
 その姿が見えなくなったのを確認すると、紅蘭の眼鏡はキランと光る。

「ふっふっふっ。実はうちが装置をわざと壊したんや。カンナはんには悪いが、これで一人消えてもろうたわ」

 この間、アイリスは疲れて寝てしまったし、マリアは、さすがに後片付けに回っている。すみれは大神のベッドのセッテイングに行っている。

「お風呂わいたんだって?」

 さくらに呼ばれて、少し酔いが覚めてきた大神が地下まで降りてきた。

「はいな。用意できてまっせ」
「じゃあ、入らせてもらうよ」

 一端、さくらと紅蘭は更衣室を出る。
 そして、大神が風呂に入ったのを見計らって、再び二人は更衣室に入った。

「大神は〜ん、湯加減どや〜?」
『ああ、紅蘭。いい湯加減だよ』

 風呂場の奥から気持ちよさそうに答える大神の声がした。
 さくらは大神が出てくるのに備えてタオルやら何やらを用意しだしたが、紅蘭はやおらメイド服を脱ぎ始めた。その下からは、法被の下にサラシを巻き、和装の半ズボンという姿が出てきたのである。

「ウチが今から背中流したるわ。入るで」

 その声を聞いたとたん、さくらはドキッとした。

「こっ、紅蘭! いきなりお風呂に入り込んで何をするつもりですか!? 今大神さんが入ってるところなんですよ!」

 さくらはむんずと紅蘭の腕を掴み、怖い目つきですごんだが、

「な、何って……大神はんの背中流そうと思うたんやけど?」

 さくらの剣幕に驚きながらも、今さら何を、といった調子で答える紅蘭。
 さくらにしてみれば、紅蘭がこれほど大胆な手口で来るとは予想していなかったのである。こうなると期せずして、さくらにも対抗意識がメラメラと燃えてくる。

「あ……あたしも入ります! 大神さん! 入りますよ!」
『いいっ!? 紅蘭!? さ、さくらくん!?』

 風呂場の方からこだまを帯びて聞こえてくる大神の声は、明らかに慌てふためいている様子だった。

「そら構へんけど……そのままやとそのメイド服、びしょびしょになってまうで?」
「うっ……」

 さくらは改めて自分の服装を見下ろした。確かに、この服装のままでは風呂場に入れない。
 しかし、このまま紅蘭をいかすわけにもいかない。
 一歩も引かぬ視殺戦が繰り広げられる。

(……)
(……)

 と、無言でにらみ合ううちに、二人の視界の下のほうに何か肌色の物体が横切った。

「レニ!!」

 同時に二人は彼女の首根っこを抑えた。

「え? なに?」
「なにじゃないでしょう!」
「なんやねん、そのはしたない姿は!」

 レニは長めのタオルを抱えるように持って前こそ隠していたが、他はすっぽんぽんの全裸だったのである。

「ご主人様の背中を流す。服を着ていれば濡れてしまう。何も身につけないのが合理的だ」

 そりゃそうかもしれんが……。

「いい、レニ。そういう問題じゃないのよ」
「そうやで。大神はんは男、レニは女なんや」

 懇々と説くが、どこまでレニが理解してくれたやら。
 しかし、二人の剣幕に圧されたのか、それとも煩わしく思ったのか、レニは大人しく引き返していった。
 さくらがホッとしたその瞬間。

「ほな。いかせてもらうで!」

 その隙をついて、紅蘭は風呂に飛びこんだ。
 こうなると、さくらも黙っているわけにはいかない。
 意を決して、さくらはメイド服を脱ぎ捨てると、地下温水プール用にロッカーに入れていたピンクのワンピース水着を着こんだ。

「あ、あの……背中を流します!」

 意を決して風呂に入ろうとしたが、その途端、大神は風呂場から飛び出してきた。
 背中を流そうとする紅蘭から、大神の方が恥ずかしくて逃げてきたのである。

「あ!? さ、さくらくん!?」

 タオルで前を隠しているだけのところに、水着姿のさくら。
 おまけに、奥には脱ぎ捨てられたメイド服……

(うっ……)

 思わず前屈みになるのは男の悲しい性といえよう。

「さ、さ、さくらくんに、こ、こ、紅蘭。着替えるから、ちょとね!」
「は、はい」
「なんや、つまらんなぁ」

 ここは全員痛み分けというところか。



 さて、いよいよ夜も更けた。

「ご主人様。今日の巡回は任せておけよ!」

 カンナは大神に何も言わせず、メイド服のまま力コブを見せて帝劇に見まわりに出てしまった。

「はぁ。ありがたいな。こんな早く寝れるなんて……」

 部屋ではすみれがすっかりベッドメイクを終えている。

「さあ、ご主人様。用意はできてますわ」
「ああ。ありがとう、すみれくん」

 大神がベッドにもぐりこむ。

「それでは、失礼します」

 当然、すみれが電気を消して部屋を出て行くものだとばかり思っていたのだが……

「す、すみれくん!?」

 すみれは、大神の布団のハシを捲り上げてきた。

「ご主人様。添い寝させていただきますわ」

 顔を赤らめながらすみれは言うではないか。

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょと待った。それはいくらなんでも!」
「ご主人様のためですわ」

 うろたえる大神をよそにすみれは、いそいそとベッドに入り込もうとする。
 しかし、そんなことが許されるわけもなかった。

「何をやってるんですか、すみれさん!」

 さくらを筆頭に、見巡りに出たカンナ以外の全員がなだれ込んできた。
 すみれは、しまった、とでもいいたげな表情を一瞬、つくったが、すぐに反撃を開始する。

「メイドがご主人様のために尽くすのは当然のことですわ」
「これはメイドの範囲を超えてます!」
「あら、さくらさん。ご自分ができないものだから、ひがんでらっしゃるんじゃなくて?」
「ひがんでなんかいません!」

 こうなると売り言葉に買い言葉。

「私も添い寝させていただきます!」

 さくらもベッドに入ろうとしはじめる。

「なんや、さくらはん。そんな話があるかいな。なら、ウチも添い寝させてもらうで!」
「アイリス、前にご主人様に添い寝してもらったことがあるから、お返しするよ!」
「わたくしも、ソーネしまーす!」
「ボクも……」

 紅蘭、織姫、レニまで参加してくる。
 一人、残ったのはマリアだ。
 いつも冷静な彼女なら、この場をなんとかしてくれる筈。
 そう思ってマリアに視線を向ける。

「……ご主人様。私もよろしいでしょうか……」

 もう収拾がつかない。
 大神に寄り添おうと、彼を中心にて場所争いだ。
 大神自身もひっぱられたり、押されたり。

(これじゃあ、寝るに寝られないじゃないか!)

 しかし、ちょっと考えを変えてみれば、美少女達が自分を巡って争っているのだから悪くない。彼女達の柔らかな身体が自分の身体に押し付けられ、そして、メイド服自体も争う仲で乱れてきている。

(もしかして、ハーレム状態?)

 もしかしなくてもだ。

(“据え膳”食わぬは男の恥ともいうし……)

 大神は決意を固めた。

「みんな……」

 と、その時。
 大神の部屋が蹴破られるように開けられた。

「このエロバカ! 何してやがる!!」

 それは、息をはずまし、血管が切れんばかりに憤怒の表情を浮かべた米田であった。
 横にはカンナもいる。

「ちょ、長官!? お帰りはまだの筈じゃ!?」
「馬鹿野郎。早く片付いたから夜行で帰ってくれば、このザマだ!」

 帝劇に帰ってきたところで、メイド服で巡回していたカンナと鉢合わせ。
 仰天した米田がカンナから事情を聞き出したというわけである。

「大体な、おめーらも、おめーらだ……」

 米田の説明で花組メンバーも、ようやく誤解していたことが理解できた。

「じゃあ、大神はんは最初から間違いだったゆーことに気付いたということかいな?」
「い、いや、それはその……」

 全員のジト目が大神に向かう。

「大神はん!」「大神さん!」「おにーちゃぁん!」「日本のオトコ、最低でーす!」「隊長!」「少尉!」
「ま、待ってくれ。話せばわかる!」
「……目標補足。攻撃開始」

 レニの言葉を合図に、全員からタコ殴り。
 とどめはこの一言であった。

「あなたは隊長、いえ、人間失格です!」



 翌日以降。
 大神の雑用はさらに増大し、花組メンバーにもより以上に頭があがらなくなったことはいうまでもない。




〜終劇〜





“花組メイドプロジェクト”とは?
 この花組メイド小説の作成にあたり、チャットで意気投合したメンバーによって結成された。
 メンバーからは文章やイラストなどを寄せていただき、それを米田が一本にまとめてこの作品はできあがっている。
 なおメンバーは、よしくん、堂前達彦さん、ragyさんと米田であった。


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