愛の戦士たち(最終話)  作・島崎鉄馬

最終話「宿命」

 照和3年 春 帝都東京
 その日も帝都は桜満開の春麗らかな日だった。
 しかし、支配人室では、暗い空気が流れていた。
 そこにいるのは米田、かえで、一馬、鉄馬、そしてさくら。
「・・・・・やってくれるか?」
 米田の問いに一馬は黙ってうなずく。
「・・・・致し方ありますまい。」
 鉄馬もうなずいた。
「・・・・・」
 さくらは反応を示さず、下を向いたまま黙っている。
「さくら。」
 一馬に促され、さくらは黙ってうなずいた。
「出発は明後日の正午。以上だ。」
「はっ、失礼します。」
 一馬以下3人が敬礼して、退出した。

 かえでが米田に茶を出した。
「司令・・・・」
「・・・・・仕方ないんだ。これは、あいつらにしかできねぇ。」
 米田は黙って茶を飲んだ。

 翌日、他の花組メンバーは来るべき春公演の準備に追われていた。
「う〜ん・・・・」
 要項を見ながら、大神が頭をかかえている。
 それを見たマリアが声をかけてきた。
「隊長、どうかなさいましたか?」
「ああ、マリア。いや、どうして、さくらくんの名前が無いのかと思って・・・・」
 全員出演と銘打って発表された春公演のレビューショーのキャストにさくらの名前がなかった。
「鉄馬の名前が無いのはわかるよ。だけど、どうしてさくらくんが・・・・」
 聞いていたすみれが口を挟んできた。
「決まってますわ。さくらさんは踊りや歌が超・ど下手。それゆえに外されただけのことですわ。」
「よく言うぜ、最初に気付いて一番驚いてたのはどこの誰だ?」
 要綱を渡されて真っ先にすみれはさくらの名前が無いのに気付き、誰よりも動揺していたのだ。
「多分、体壊してるんじゃないんですか?さくらさん、前の戦いでかなり無茶をしてましたから。」
 琴音の言うように、さくらはハーデスに霊力を抜かれてしまった。戦闘が終わってからも回復が遅く、ひどく調子が悪かった。
「せやけど、あんなに楽しみにしとったんやで?」
「そーだよ。鼻歌なんか歌ってし。」
「でも、昨日から元気ないでーす。」
「さくらだけじゃない・・・副長も何か隠してる。」
「とにかく、これは支配人に聞いてみるんがよかよ。」
 清志の提案で、一同支配人室へ向った。

 全員でもって支配人室になだれ込み、米田を問い詰めた。
「なんで、さくらを外してるんだよ、支配人!!」
「さくらは今では押しも押されぬスタアの仲間入りを果たした立派な女優です。外す理由を教えて下さい。」
「答えんのやったら、ウチらストを起こすで。」
 流石に隠し切れんとばかりに米田も口を開いた。
「・・・・仕方ない、話そう。」
 米田は隊員たちを落ち着かせ、話し始めた。
「さくらは・・・仙台に戻る。」
「はあ?」
「何ですの? 公演期間中に戻すなんて、いささか勝手すぎませんこと?」
「そうじゃねえ。俺の命令だ。」
 何かしゃべろうとする花組を米田は制する。
「まあ聞け。明日の正午にさくら、鉄馬、一馬の3人は仙台へ向けて出発する。あの3人は陸軍の仙台鎮守府に配属される。お前たちも知っての通り、最近東北方面では不穏な動きがある。それに対応するために、あの3人を送るのだ。」
 カンナが安心したように言う。
「なぁ〜んだ。片付いたら戻ってくるんだろ?」
 米田は何も言わず首を振る。
「どういうことですか、司令?」
 マリアの問いに米田は答える。
「もともと真宮寺家にはこの帝都の鬼門の方角にあたる東北一帯の霊的防衛を司る役目がある。この数年の間、真宮寺の強者の不在を突いて鬼門が開き魑魅魍魎がこの帝都に溢れ出てきた。あげく、ハーデスという冥界の皇まで出てきてしまった。あの3人は、鬼門を守るために帰るのだ。そして2度とここへは戻ってこない。」
「そんな・・・・」
「さくらさんが・・・・」
「嘘や・・・そんなん嘘や!!」
 花組のメンバーたちは動揺している。
「司令・・・どうしてもさくらくんを仙台へ帰すのですか?」
「ああ・・・本人も承諾した。」
「自分は反対です。さくらくんは、花組の主力です。そのさくらくんを外すことは断固賛成できません!」
 米田は立ち上がり、大神の目をじっと見る。
「大神、これは決定事項だ。お前も軍人なら、命令に従え。」
 米田はそう言い、出て行った。

 その日の夜、花組の提案でさくらたちの送別会が行われた。
 龍組、風組などさくらたちに関わった者すべてが参加した。

 その途中で主役の3人が相次いで姿を消した。
 大神はそれに気付き、探しにいった。そしてロビーで鉄馬と一馬を見つけた。
「なぜさくらまで連れて帰るのですか?」
「・・・・・」
「鬼門の抑えなら、一人で十分のはず。なのに、3人揃ってかかるなど、どうかしてる! 肝心の帝都に守りがいなくなるではありませんか!!」
 どうやら口論していたようだ。見たところ、鉄馬はさくらを帰すことには反対の立場らしい。
「さくらは私たちよりも霊力が上だ。だが、その使いかたがわかっていない。それを教えねばならん。そのために連れて帰る。」
「あなたはさくらにまで死ねと言うんですか!」
 鉄馬は顔を真っ赤にして怒っている。しかし、一馬は聞く耳を持とうとしない。
「お前はまだ、真宮寺家の宿命に逆らうつもりか?」
「当たり前です。俺の未来は俺が決めます。誰にも指図はさせません。例えあなたでもです!!」
 鉄馬はこれまで何度も真宮寺家の宿命を拒否するかのような行動をしている。
「お前にはまだ、未来が見えていないようだな?」
「・・・・・これ以上の問答は無意味ですな。私はこれで。」
 鉄馬は階段を駆け上がっていった。一馬は外へ涼みに出た。

 大神は階段を上がり、テラスにいるさくらを見つけた。
「さくらくん。」
「・・・・大神さん。」
 振り向いたさくらの顔は実に悲しい顔をしている。
 大神はさくらの横に立ち、夜の銀座を見下ろす。
「明日だね、仙台へ帰るの。」
「ええ・・・」
「暇が出来たら、会いに行くよ。仙台でもどこでも。」
「・・・・・」
 さくらは話を聞いているのかどうかわからないような顔をしている。
「さくらくん?」
「・・・はい?」
 返事も少し遅い。
「もしかして、本当は帰りたくないんじゃ・・・」
「・・・・・」
 さくらはしばし沈黙したがゆっくりとうなずいた。
「だったらどうして承諾したんだい? 嫌なら嫌だとはっきり言わなきゃ。」
「・・・・あたしには、父の命令に逆らうことは出来ません。それに、鬼門を守るのはあたしたち真宮寺家の義務です。やっぱり戻らないと・・・」
 さくらはどうにかして自分の感情を抑えこもうとしている。
 本心は帝劇にずっといたい。仲間たちと離れたくない。
 そして、大神とも・・・
「・・・・・本心は、違うのだろう?」
「・・・・はい・・・あたしは、この帝劇が好きです。花組のみんなや、ここにいる全ての人たちが大好きです。あたしは・・・みんなや、大切な人と離れたくありません!!」
 大神はさくらの肩に手をかけた。
「さくらくん、今の言葉を大佐に言うんだ。」
「えっ!?」
「きっと大佐はわかってくれる。いいね?」
「・・・・・はい・・・・・」

 翌日 正午 東京駅
 駅のホームで汽車を待つ3人。その後ろには花組の面々が見送りに来ている。
「・・・・・さくら、お前はこれでいいのか?」
 一馬の問いにさくらは黙ってうなずく。
「・・・・本当だな?もう花組の隊員や、大神大尉に会えないかも知れんのだぞ?」
 今度は答えなかった。
 2人とも黙ったまま時間が過ぎていく。
 ボオオオオオオォォォォッ!!
 汽車が入ってきた。一馬たちの前のドアが開いた。
「・・・・・」
 一馬は黙って乗り込む。鉄馬も続こうとするがふと振り返った。
 さくらがその場にボーッと立ち尽くしている。
「さくら、どうした?」
「・・・・・」
 聞こえていないのか、ピクリとも動かない。
「さくら・・・・本心を言ってみなさい。」
 さくらは一馬の顔を見た。
 優しい笑みを浮かべてさくらを見ている。
「・・・・お父様!ごめんなさい!!」
 さくらは深々と頭を下げた。
「さくらは・・・さくらは帝都に残ります!!」
「・・・・・・」
 一馬は何も言わない。ただ優しく微笑んでいる。
「父上。」
 鉄馬が返答を求めると一馬はゆっくり口を開いた。
「いいだろう。お前たちは残りなさい。鬼門は、私が封じる。」
「お父様!」
 さくらの顔に満面の笑みが浮かぶ。
「さくら、鉄馬の言うことをしっかり聞くんだぞ?鉄馬、さくらを頼む。」
「わかってます、父上。」
 ボオオオオオオオォォォォォォッ!!
 発車を報せる汽笛が鳴り響き、汽車はゆっくりと動き始めた。
「さくら、鉄馬、元気でな!!」
「お父様ぁっ!!」
 さくらは汽車を追いかけて走り出した。
 ホームの端まで追いかけた後、そこから遠ざかっていく汽車に向って手を振る。
「・・・行ってしまったな。」
 鉄馬や大神達が追いかけてきていた。
「さくらくん。」
「大神さん、あたし、ずっと一緒にいます!この町も、みんなも、大神さんもだぁ〜い好きです!!」
 さくらは満面の笑みを浮かべて大神に飛びついた。

 季節は、春。
 帝都の桜はまさに満開の時であった。

 語り残したことは多い。だが、ここでひとまず物語を終わることにしよう。
 この先、大神とさくらにどんな試練が待っているか。
 それはまた、別の機会に・・・・

THE END


オールキャスト

大神一郎
  陶 山 章 央


真宮寺さくら
  横 山 智 佐

神崎すみれ          マリア=タチバナ
  富 沢 美智恵        高 乃   麗
アイリス            李紅蘭
  西 原 久美子        渕 崎 ゆり子
桐嶋カンナ          ソレッタ=織姫
  田 中 真 弓         岡 本 麻 弥
レニ=ミルヒシュトラーセ  佐伯清志
  伊 倉 一 恵         鈴 置 洋 孝
黒田琴音
  久 川   綾

エリカ=フォンティーヌ
  日 高 のり子

グリシーヌ=ブルーメール ロベリア=カルリーニ
  島 津 冴 子         井 上 喜久子
コクリコ            北大路花火
  小 桜 エツ子         鷹 森 淑 乃

星野隆            松平元忠
  古 谷   徹         納 谷 六 郎
真田俊樹           真宮寺一馬      
  小 林 清 志         野 沢 那 智


加山雄一
  子 安 武 人


藤枝あやめ
藤枝かえで
  折 笠   愛


ハーデス
  難 波 圭 一

アトラス           イオ
  水 島   裕        古 川 登志夫
ジャガー          不知火
  玄 田 哲 章        中 尾 隆 聖
時雨             陽炎
  若 本 規 夫        三ツ矢 雄 二

南光坊天海     サタン(山崎真之介)  紅のミロク
  宝 亀 克 寿    家 中   宏       引 田 有 美
蒼き刹那・蝶    白銀の羅刹       金剛
  石 田   彰    小 野 英 昭       立 木 文 彦
水狐         土蜘蛛          木喰
  佐久間 レ イ    渡 辺 美 佐       八奈見 乗 児
火車         猪             鹿
  関   俊 彦    大 川   透        辻   親 八


山本五十六     山口和豊      吉田善吾
  納 谷 悟 朗    羽佐間 道 夫    宝 田   明
田中義一      高橋是清      神崎重樹
  青 野   武    田 中 信 夫    江 原 正 士
星野和義      花小路頼恒
  増 岡   弘    北 村 弘 一

米田一基
  池 田   勝


真宮寺鉄馬
  堀   秀 行


新作予告

動き出した謎の軍団が
仙台を破壊し、帝都に迫る!
帝都の平和を守るため、
帝國華撃團は再び出動する!!
サクラ大戦
『蘇る魔人』
照和桜に浪漫の嵐!!
ご期待ください!!

−新作へ−


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