愛の戦士たち(第11話)  作・島崎鉄馬

第拾壱話「帝都が燃える日」

 3月に入るや否や、事態は急展開した。冥皇ハーデス率いる冥界神風隊が遂に行動を開始。帝都に大攻勢をかけてきた。
 陸軍が迎撃にあたるが、降魔の前に為す術も無く敗れていく。
 当然、花組、龍組も出動。降魔の迎撃を開始した。
「うおおおおおぉぉぉぉっ!!」
 白の神龍、大神機が降魔を両断した。
 次々と降魔を倒し、群れの中へ突き進む大神機。しかし、一瞬の隙を突かれ、降魔が背後に回りこんだ。
 大神の命運もこれまでかと思われた。
 しかし、逆に降魔が大爆発。さらに他の降魔も爆発していく。
「ありがとう、鉄馬!」
 上空を飛ぶ漆黒の神龍、鉄馬機だ。
『面倒だ、一気にカタを付けるぞ!!All wepon,fire!!』
 全爆弾が投下され、次々と降魔が四散していく。
「狼虎滅却・疾風迅雷!!」
 目にも止まらぬ速さで敵を倒していく。


 1時間後、担当地区の迎撃及び、都民の避難誘導の任務が完了した大神と鉄馬は、帝劇に帰投した。
「お疲れ、大神はんに鉄馬はん。」
 作業着を着た紅蘭が出迎えてくれた。
「紅蘭こそ、お疲れ様。」
 紅蘭は山崎と共に戦闘に加わらず、帝劇に残って作業班を率いる。任務を終えて帰ってきた花組、龍組の機体の修理を行っているのだ。
「ちょっと右腕の動きが鈍くなってきたんだ。治るかな?」
「あいな。まあ、よう見てみんとわからんけど、1時間ぐらいで治るやろ。」
「そうか、頼むよ。」
「任しとき!」
 紅蘭は早速作業に取り掛かった。
 大神たちが戻ろうとした時、さくらと一馬が格納庫に入ってきた。
「やあ、さくらくんに大佐。」
「あ!大神さんに兄さん!!お疲れ様です!」
「大佐、今から出撃ですか?」
「うむ、浅草に逃げ送れた都民がいるらしくてね。ちょっと行ってくる。」
「そうですか、では、お気を付けて。」
「さくら、あまり親父に甘えるんじゃないぞ!」
 さくらは少し怒った口調で言う。
「大丈夫ですよ、あたしはもうそんなに弱くありませんから!」
 急ぎ足で神龍に乗り込むさくらと一馬を2人は黙って見送った。


 作戦指令室に行くと、あやめがスクリーンを見ながら戦況を確認している。
「あやめさん、戦況はどうですか?」
「あ、大神君に鉄馬君。戻ってきたのね。お疲れ様。」
「いえ、任務ですから。」
 大神があやめと話しているのに対し、鉄馬はスクリーンをじっと見ている。
「副指令、今現在確認されている降魔の数はどれくらいですか?」
「え?・・・ええ、その、はっきりした数はわからないけど、現在帝都に現れている降魔の数はおよそ2000。これまでの戦果は、217匹。まだまだ先は長いわね。」
「・・・・あと1783匹か・・・倒しても倒してもキリが無い。」
 鉄馬はあくびをして出て行く。
「ちょっと寝ます。1時間後には再度出撃します。」
 そう言って出て行った。
「大神君も、少し休んだ方がいいんじゃないの?」
「いえ、自分は鉄馬のお陰でほとんど疲れてないんです。」
「そう、鉄馬君がね。・・・あの子も、少し変わったわね。昔はああじゃなかったのに・・・」
「そう言えば、米田司令とかえでさんはどちらに?」
「首相官邸に行ったわ。防衛会議が招集されててね。」


 再度召集された帝国防衛委員会。議題はもちろん、冥界神風隊である。
「帝都は既に多大な被害を被っている。冥界神風隊を撃滅してもらいたい。」
 首相・田中義一は強い声で言う。
「しかし既に陸軍は戦力の大半を失いました。海軍も陸戦隊が追い詰められつつあります。」
 外相・高橋是清が現状報告をする。
 その時、山口和豊が立ち上がった。
「まだ我が海軍には、奥の手があります。空中戦艦『畝傍』です。」
「畝傍だと!?」
 一同ざわつく。山口の発言があまりにも意外なものだったからだ。
 畝傍・・・「うねび」と読む。かつて日本の造船技術がまだ未熟だった頃、日本は戦闘艦の建造を他国に依頼していた。
 畝傍もその一隻で、巡洋艦として建造された。
 しかし、建造した仏蘭西からの回航途中に行方不明になっていたのだった。
「畝傍は我が海軍が改造に改造を重ね、小ミカサ型空中戦艦として生まれ変わりました。主砲は46サンチ。艦首には51サンチ砲を搭載しています。高角砲の数は両舷合わせて80門。飛行時間は2000時間。海軍最後の砦です。」
「その畝傍だが、すぐにでも発進できるのですか?」
 米田の質問に、山口は即座に答えた。
「もちろんです。現在最終調整が行われています。」


 広島 呉軍港
 海底の地中にある極秘施設。そこに空中戦艦畝傍はあった。
 既に最終調整を終え、今まさに発進せんとしていた。
 その栄えある艦長に任命されたのは山本五十六。大神たちの元上官である。
「しかし・・・黒騎士団の攻撃にもよく耐えれたものだ。あの時連中にここをやられていたら、こいつにつぎ込んだ全てが文字通り 水泡に帰していたところだ。」
 通信士が艦橋に入ってきた。
「艦長、東京から緊急電です。」
「読め。」
「はっ、空中戦艦畝傍、ただちに帝都へ向けて出撃せよ。敵は冥界神風隊。」
 遂に出撃する時が来た。山本は出撃の指揮を執るべく、マイクを取った。
『出撃準備!注水開始!!』
 ドドドドドオオオオオオオオ・・・・!!
 バルブが開かれ、ドックに水が流れ込んでくる。
『艦の外に居るものは直ちに艦内へ退避せよ!ガントリーロック、解除用意!!』
 海水が艦橋の高さに達した。
『ガントリーロック解除!!』
 ガチャンッ!
 艦を固定していたロックが外された。
「注水完了しました。」
 全ての準備が整った。
『天井を開け!全速浮上!!』
 ドックの天井がゆっくりと開かれていく。
「全速浮上、メインタンクブロー。浮上します。」
 その巨大な船体が徐々に浮き上がっていく。
 ミカサより一回り小さいとは言え、やはり巨大である。
「間もなく浮上します。」
『メインエンジン、エネルギー充填!』
「エネルギー充填開始。主エンジン接続準備。」
 遂に畝傍が海上にその姿を現した。
 ミカサと違い、全体を白く塗装されている。

 改めて山本はマイクを握りなおした。
『諸君、我々はこれより、帝都で破壊活動を行っている冥界神風隊攻撃に向う。知っての通り、相手は人間ではない。降魔だ。この国の未来を懸けたこの戦いを前に、改めて激励の辞は述べない。ただし、かの日本海海戦において、東郷司令長官が掲げた歴史的信号旗、Z旗を掲げて、これに代える。』
 マストに信号旗が揚がる。その意味は・・・
『興国ノ興廃、コノ一戦ニアリ。各員一層奮励努力セヨ!!空中戦艦畝傍、発進!!』
「主エンジン接続、点火!!」
 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッ!!
 巨大な水柱が上がり、畝傍は空へ飛び立った。
 そして一回り旋回した後、帝都へ向っていった。


 帝都は降魔によって破壊されつづけていた。
 帝撃の奮戦も空しく、既に帝都の大半が降魔の天下となっていた。
 米田は一旦花組、龍組を呼び戻し、作戦会議を開いた。
「状況は極めて悪い。ここまで500近い降魔を撃破したが敵の勢いは留まるところを知らん。そこで、今回我々は敵の本拠地に一気に殴り込みをかけることにした。」
「そうおっしゃられても、敵の本拠地がどこにあるのかもわかっていないのに、不可能です。」
「情報が入った。神宮党の首領、藤原政治が敵の本拠地は恐山と知らせてきた。」
「信じるのですか?」
 相手は犯罪組織。信用できないといえばできない。
「だが、今はそんなことを言ってる場合じゃねぇ。これに賭けるしかねぇんだ。」
 もしかしたら、ワナかもしれない。しかし、他に情報が無い以上、信じるより他は無い。


 出撃は1時間後とされ、隊員には束の間の休息が与えられた。
 その一方で花やしき支部の者達は帝劇地下に眠る最終兵器、空中戦艦ミカサの最終調整を急いでいた。
 大神は出撃を前にゆっくりと体を休めるべく、ベッドに横になって仮眠をとることにした。
 しかし、なかなか眠れない。
 しばらくして、風にあたろうとテラスに出た。
 涼しい風が体に心地よく感じられた。
(・・・・・ハーデス・・・前回は自爆したからその強さがまるでわからない。一体どれくらいの力を秘めているのか・・・本当に、俺たちは神に勝てるのだろうか?)
 そんな想いが頭を駆け巡っていて離れない。
「大神さん、起きていらっしゃったんですか?」
 いつの間にか後ろにさくらがいた。
「さくらくんか。」
 さくらの顔にはどこか影が差しているように見えた。
「どうしたんだい、眠れないのかい?」
「ええ・・・とても眠れなくて・・・」
 命を懸けた戦いを前にして、ゆっくりと眠れるはずはない。
 現に大神も同じであった。
「大神さん・・・・軍人の方は、こういう時は怖くないんですか?」
「え?」
「あたしはずっと震えが止まらなくて・・・・もしかしたら、死んでしまうんじゃないかって・・・・」
 明らかに死を恐れている。無理も無いのだが・・・
「この戦いで、あたしは死んじゃうような気がしてならないんです・・・」
「・・・・・」
 大神はさくらの肩に手をかけ、じっと目を見つめる。
「さくらくん、米田司令から聞いた話だけどね、かつて司令の部下に同じことを考えていた人がいたんだ。でも、結局その人は死ななかった。今も元気に生きているんだって。」
 さくらはまだ震えている。肩に触れている大神にもよくわかる。
「あまりそういうことは考えるんじゃないよ。君があぶない目に遭っても、必ず俺が守って見せるからね。」
「大神さん・・・」
 ようやくさくらの震えが治まった。
「今回の戦いは確かにこれまでとは比にならないだろう。だけど、俺たちは必ずハーデスを倒して帝劇に戻ってくる。それに、龍組や海軍の畝傍までいるんだ。こっちの戦力も今までの比じゃないよ。大丈夫。必ず生きて帰ってこれる!」
 さくらは大神の目をじっと見詰めていた。
「大神さん、ありがとうございます。」
 さくらは顔を赤らめながら大神に体を寄せてきた。
「・・・・さくらくん。」
 大神もまたさくらを優しく抱き締める。
「必ず・・・必ず、みんな一緒に戻ってきましょう!」
 さくらの声に明るさが戻っていた。
「大神さんとお話していたら、何だか元気が出てきました。」
「それはよかった。俺も役に立てて嬉しいよ。」
 その時、劇場内放送が聞こえてきた。
『大神隊長、大神隊長。米田司令がお呼びです。支配人室までお越しください。』
「それじゃあ、さくらくん。俺は行くよ。」
「はい、あたしはもう少しここにいます。」
 大神が中に入ろうとしたその時、さくらが大神を呼び止めた。
「あの・・・その、米田支配人の部下の方って、どなたなんですか?」
「・・・・・。そうだね、君もよく知っている人だよ。当時帝国陸軍対降魔部隊の準隊士だった、真宮寺鉄馬だよ。」
「え!?兄さんが!?」
「誰だってね、一度は考えたことのある問題なんだよ。」
 大神はそう言い、中へ入っていった。


 支配人室に行くと、米田が一人で椅子に座っていた。
「おう、来たか。」
 あまり元気が無い。
「何か御用ですか?」
「ああ、出撃前にどうしても話しておこうと思ってな。」
 米田は茶を一杯飲み干し、話し始めた。
「鉄馬のことだ。」
「はい?」
 龍組隊長として鉄馬は別行動をとっていた。
「お前、あいつが左手に手袋をしているのに、気付いたか?」
「はい・・・」
 話の意図が見えてこない。
 確かに、ハーデスに捕まって以来、鉄馬は左手に手袋をはめているが、それがどうだというのだろう。
「あいつな。5年前に、黒乃巣会の手で改造人間にされちまったんだ。」
「え・・・・えええぇぇぇっ!?」
「驚くのも無理はないだろう。どこから見ても普通の人間だからな。」
 確かに近づいても機械的な音は聞こえないし、歩き方などを見てもごく自然だ。
「・・・・まさか、さくらくんに正体を隠していた理由って・・・」
 以前、大神が米田に同じ事を尋ねたことがあった。しかし、その時米田は一切語ってくれなかった。
「そうだ。あいつは自分が改造人間にされたことを殊の外悔しがっていた。二度と生身の人間には戻れないのだからな。」
「その事を知っているのは・・・・」
「・・・・俺と、あやめ君にかえで君。さくら、鉄馬を救出した真田、加山、伊達、斯波。そして一馬を含む龍組のメンバーだな。」
「さくらくんも・・・もう知ってしまったのですか・・・・」
「ああ・・・・だが、さくらは気にせず、鉄馬を暖かく迎えてくれたそうだ。」
 さくらの性格を思えば当然の結果だっただろうが・・・
「さてと・・・その話はここまでだ。次の話だ。今回の戦いでは、こちらも全戦力を以って応戦するが、何分、ハーデスの戦闘力が依然不明のままだ。」
「それは、自分も気にしていました。前の戦いでは、自爆してしまいましたから。」
「加えてもう一つまずい話があるんだ。月組の情報によるとこれまでお前らが倒した敵が次々と蘇っているそうだ。」
「そうですか。でも、これ以上何を言われても驚きませんよ。それくらいは予想済みです。これまでの敵のやり口を考えれば、多分そうするだろうと思ってましたので。」
 米田が満足げに微笑んだ。
「ふん、お前も随分成長したな。」
「いえ・・・そんなことは・・・・」
 少し謙遜するのは大神の癖である。
「まあ、いい。出撃まで、ゆっくり休んでろ。」
「はい、失礼します。」
 大神が出て行くのを見届けると、米田は机の上にある写真を手に取った。花組の面々がそこに映っている。
(・・・・・大神、死なせるなよ。あの娘たちを、誰一人として死なせるんじゃねぇぞ。そして、お前も・・・・)


 かくして、出撃の時が来た。全員ミカサ艦橋に集まった。
「これより、我々は冥界神風隊の本拠地、恐山に攻撃を仕掛ける。はっきり言って、今回の戦いはこれまでにない激しさとなる。生還できるかどうかは、わからん。」
 全員の表情は暗い。
「だが、俺は信じている。お前らは必ず帰ってくるってな。」
 米田は明るい笑顔で話している。
「大神、鉄馬。花組と龍組の指揮は任せたぞ。」
 2人ともビシッと敬礼する。
「了解!!」
「よし、ではこれより、恐山へ向けて出撃する。空中戦艦ミカサ、出撃準備!!」
 号令と共に、ミカサの出撃準備が始まった。
『発進口上の市民の避難は全て完了しました。発進口、開きます!!』
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・
 帝劇を中心に巨大な穴が開いた。
『最終安全装置、解除。主機関始動!』
『スタンディングポジション。第1接続、完了!』
 これまでと同じく、逆ダルマ落とし式に出撃する。
『第2接続、完了!』
『ファイナルカウントダウン、スタート。』
 徐々にミカサの船体が姿を現していく。
『第3接続、完了!出撃準備良し!!』
『10・・・9・・・8・・・7・・・6・・・主機関点火!』
 米田が最後の指示を下した。
「空中戦艦ミカサ、発進!!」
『リフトオフ!!』
 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォッ!!
 凄まじい轟音と共に、ミカサは上昇を開始。やがて水平飛行に移った。
 恐山到着までおよそ4時間。畝傍と合流の後、恐山に突入する。


 4時間後 恐山
 ミカサは海軍の畝傍と合流し、恐山上空に留まった。
「あれが恐山か。」
 大神達は窓越しに恐山を見ている。
「・・・・・あまり気分のいいところじゃありませんね。」
「先ほどから、随分と胸がむかつきますわ。」
「アイリス、なんか気分わるい・・・」
 恐山の霊的磁場は富士の樹海に匹敵する。霊力の高い者には当然、人体への影響が出る。
「シルスウス鋼で守られているミカサの中にいてもこれほどの影響が出るのでは、戦いは楽ではありませんね。」
 シルスウス鋼は外部からの霊力波を遮断する役割を持っているが、ハーデスの力で高まった霊的波動を抑えきることはできない。
「初めから、楽な戦いじゃないことぐらいわかってたろ?」
「せや。これくらいのことは予想済みや。」
「問題は敵の戦力・・・」
「確かに、あんまり多いとちょっとキツイでーす。」
「でも、戦うしか・・・・」
 決戦を前に、花組の士気は低い。
「・・・・・・」
 ここで皆を励ますのは大神の役目。しかし・・・
「何ば暗い話ばしよっとか?戦う前から死んどったらつまらんぞ。」
「それだけ気が沈んでたら、勝てる戦にも負けちまうぞ。オイ、大神。お前も何とか言え。」
「・・・・・・」
 大神は何も言えなかった。と言うより、言いたかったことを全部先に言われてしまったのだ。
「じゃあ、一言・・・・。たとえ、どんなに苦しい状況に陥っても、必ず敵を倒してみんな一緒に帝劇に帰ろう!!」
大神の精一杯の言葉だった。
 しかし、花組の隊員たちを励ますには十分な一言だった。
「はい!必ず・・・必ず、みんなで帝劇に帰りましょう!!」
 さくらや他の隊員たちに笑顔が戻った。
「行くぞ!!」
 鉄馬の声と共に花組、龍組は甲冑に搭乗、降下準備に入った。

 ミカサ、畝傍の両艦は艦首主砲を恐山に向けた。
「照準よし!主砲発射準備、完了!!」
『畝傍、51cm砲発射準備完了!いつでもどうぞ!!』
 米田は立ち上がり、命令を下した。
「テエエェェェェッ!!」
 ドゴオオオオオオオオオォォォォッ!!
 ミカサの96cm砲、畝傍の51cm砲が同時に火を噴いた。
 ヒュルルルルル・・・・・ドオオオオオオオオオォォォォッ!!
 恐山山頂部に着弾。それまでカムフラージュされていて見えなかったジュデッカの一部が姿を現した。
「さあ、次はあいつらの番だ。龍組射出用意!!」
 制空権確保のために、一足先に鉄馬を除く龍組が射出される。
 指揮を執るのは真宮寺一馬。
「一馬、準備はいいか?」
『いつでも行けますよ、中将殿。』
 実に落ち着いていて涼しげな一馬の声だった。
「よし、射出!!」
 バシュウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
 カタパルトを使って艦首下方から射出された。

 やがてミカサはジュデッカの真上に到達。先ほどの攻撃で生じた大穴から花組を降下させた。

 全機無事降下し、大神を先頭にした花組全12名は奥に進んでいった。
 中は不気味なほどに静まり返っている。
 外では苦しいほどに感じていた霊的波動も、中に入るとなぜかあまり感じなくなっていた。
「静かですわね・・・・」
「物音一つせえへんな・・・・」
「みんな油断するな、ワナが仕掛けてあるかも知れん。」
 鉄馬がその後を付け加えた。
「いや・・・もうワナの真っ只中だ。」
 周りをよく見てみると壁の中に降魔が埋め込まれている。壁だけではない、天井にも。
「これは・・・・」
「キモチ悪い・・・・」
「ま、まさか・・・動いたりしねぇだろうな?」
 その言葉に合わせたかのように、埋め込まれていた降魔が動き始めた。あっという間に100匹近い降魔に包囲されてしまった。
「くそぅ、こういうことだったのか!こっちも攻撃するぞ!!」
「陣形を組め!バラバラになるな!!」
 大神と鉄馬の指揮により、花組は乱れることなく陣を組んだ。
『ウワーッハッハッハッハ!!かかったな、華撃團!!』
 現れたのは天海だった。鉄馬に斬られた傷も回復し、戦線に復帰していたのだ。
「出たな、くそ坊主!」
「鉄馬よ、貴様に斬られたこの傷の代償は高くつくぞ!かかれぇっ!!」
 降魔たちが一斉に飛びかかろうとした瞬間・・・・
『待てぇぃっ!!』
 何者かの声が響き、降魔が突撃をやめた。
「だ、誰だ!?姿を見せろ!!」
 現れたのは白い光武F-R。
「巴里華撃團隊長、加山雄一!!」
「加山!?お前、どうしてここへ!?」
「万一のことを考え、ここに潜入していたんだ。こいつの相手は俺たちが引き受ける!!」
 加山の後ろからエリカ、グリシーヌ、ロベリア、コクリコ、花火が現れた。
「大神さん!ここは私たちが何とかします。ハーデスの所へ!!」
「このような雑魚相手に、貴公の手を煩わせるまでもない。」
「ここは貸しにしといてやるよ!」
「イチロー!ボクたちが突破口を開くから!!」
「それでは・・・行きます!!」
 巴里花組の一斉攻撃で、降魔の一群が消滅した。
「よし、全員全速突入!!」
 大神の合図と共に帝撃花組は奥へ進んでいった。


 その頃、上空のミカサ、畝傍、龍組は飛来する降魔と凄まじい空中戦を繰り広げていた。
「元忠、1時に2匹いる!!」
『了解!!』
 龍組は一馬の指揮で次々と降魔を落としていく。
「4時下方より3匹、ミカサの下に潜り込みます!!」
「ミカサ上昇せよ!」
 山本がミカサに連絡。
「よし、わかった!」
 ミカサの急上昇により、降魔3匹は逃げ場を失った。
「今だ!撃てぇっ!!」
 畝傍の拡散砲弾が命中し、撃墜。
 しかし、接近する降魔の数は一向に減らない。


 玉座の間に後少しと迫った大神達は時雨と対峙していた。
「待ったぜ、大神一郎。」
「待たせたな、どれぐらい待った?1時間か2時間か?」
「・・・30分ぐらいってとこか。まさかここまで来るとは思ってなかったのでね。」
 時雨も魔操機兵に乗り込み、戦闘態勢に入った。
「さあ、来い!!」
 時雨は旋風を起こして敵を蹴散らす攻撃を得意としている。
「行くぞ!!」
 大神の声と共に花組は突撃。時雨に一斉攻撃をかけた。
 しかし、時雨はまったくダメージを受けない。しかもこちらの攻撃がまったく届いていないのだ。
「これは一体・・・」
 何度攻撃してもまるで時雨が見えない壁で覆われているかのように攻撃は一切届かない。
「ククク・・・さあ、今度はこちらから行くぞ!」
 時雨の両腕が頭上で交差すると、巨大な竜巻が巻き起こった。
「ビッグトルネード!!」
 ビュゴオオオオオオオオオオオォォォォォォォォッ!!
「うわあああぁぁぁぁっ!?」
 大神達は竜巻に巻き上げられ、壁や天井、床などに激しく叩きつけられた。
「フハハハハ・・・・どうだ?この時雨の実力を思い知ったか!」
 いずれの神龍もあちこちに損傷が見られる。
「・・・・・」
 大神がゆっくりと立ち上がった。
「ふふふ・・・・」
「?・・・・何がおかしい?」
「読めたぜ。お前の防御の秘密がな。お前に得意技は風を使った攻撃。それを防御にも活かしているんだ。攻撃を受ける前に自分の周りを激しい風の壁で覆う。そうすれば俺たちの攻撃はお前に当たることなくその壁で止まってしまうっていうわけだ!」
 時雨は笑い出した。
「ははは・・・・さすが大神一郎。僅かな攻防でよくぞ俺の技を見破った。だが、それだけでは俺は倒せんぞ?」
「確かにお前の防御壁が敗れない。だが時雨。お前を倒すことはできる。」
「・・・・・」
 時雨は大神をじっと見ている。
「ハッタリ・・・・などお前は言う奴ではないな。よかろう、そこまで言うなら俺を倒してみよ!!」
 花組全員起き上がり、構える。
「さあ、行くぞ!!」
「オオォッ!!」
 一斉攻撃を加えるがやはり攻撃は届かない。
「フハハハ・・・・!!無駄だ!行くぞ!!」
 時雨は猛然と突進してきた。
「今だ!!」
 大神は時雨に向けて刀を突き出した。
「むっ!?」
 ズンッ!!
「ぐおぉっ!?」
 刀は時雨の魔操機兵を貫通していた。
「お前の弱点は、攻撃に移るその瞬間に生じる。その瞬間は、防御壁が消えている!」
 時雨は致命傷を負い、倒れた。
「負けだ・・・華撃團・・・・俺の負けだ・・・・だが・・・・これぐらいで、いい気になるな・・・・・不知火や・・・ハーデス様は・・・とてつもなく、強いぞ・・・・・お前達が、どこまでいけるか・・・俺は、地獄で見ているぜ・・・・・」
 時雨は息絶えた。
「時雨・・・・・」
「奴らの幹部は皆勇敢だった。残るは、不知火とハーデスだ。」
「これからが、本当の戦いですね。」
「役者は揃ってますわ。いよいよクライマックスですわ。」
「ハーデスと不知火は、恐らくこれまでの敵とは比べ物にならないでしょう・・・・」
「でも、アイリスは必ず勝つもーん!!」
「せや、ウチらは負けへん。絶対帝劇に戻るんや!!」
「おうよ!アタイらに勝てる奴はいやしねーぜ!!」
「その通りでーす!花組は無敵でーす!!」
「みんなで協力すれば、必ず勝てるよ。」
「そうタイ。オイたちが本気出したら、誰も勝てんとよ!」
「必ず、必ず勝って、みんな一緒に、帰りましょう!」
 決戦を前にして、花組の士気は最高潮に達した。
「よし、みんな。その意気だ!前進するぞ!玉座の間はもうすぐだ!!」
「オォーーッ!!」
 花組は玉座の間向け、前進していった。

To be continued・・・


キャスト

大神一郎
  陶 山 章 央

真宮寺さくら
  横 山 智 佐

神崎すみれ     マリア=タチバナ
  富 沢 美智恵     高 乃   麗
アイリス       李紅蘭
  西 原 久美子     渕 崎 ゆり子
桐嶋カンナ      レニ=ミルヒシュトラーセ
  田 中 真 弓     伊 倉 一 恵
ソレッタ=織姫    佐伯清志
  岡 本 麻 弥     鈴 置 洋 孝
黒田琴音
  久 川   綾

藤枝あやめ
藤枝かえで(二役)
  折 笠   愛

時雨
  中 村 大 樹
南光坊天海
  宝 亀 克 寿

山本五十六     田中義一
  納 谷 悟 朗     青 野   武
山口和豊       高橋是清
  羽佐間 道 夫     田 中 信 夫

真宮寺一馬     山崎真之介
  野 沢 那 智     家 中   宏
星野隆         松平元忠
  古 谷   徹     納 谷 六 郎
藤井かすみ     榊原由里
  岡 村 明 美     増 田 ゆ き
高村椿
  氷 上 恭 子

加山雄一
 子 安 武 人

グリシーヌ=ブルーメール  コクリコ
  島 津 冴 子         小 桜 エツ子
ロベリア=カルリーニ      北大路花火
  井 上 喜久子         鷹 森 淑 乃

エリカ=フォンティーヌ
  日 のり子

米田一基
  池 田   勝

真宮寺鉄馬
  堀   秀 行


次回予告

いよいよ最後の戦いね、大神くん。
約束よ。必ず帰ってきて。
みんな、誰一人欠けることなく
生きて帰ってきてね。
次回 愛の戦士たち
「正義を示せ!」
照和桜に浪漫の嵐!
神は、必ずあなたたちを守ってくださるわ。


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