愛の戦士たち(第9話)  作・島崎鉄馬

第九話「蘇る恐怖」

 冥界神風隊との初戦闘から1週間。神宮党の藤原政治からは何の連絡も無い。
「まだか・・・・」
 米田は支配人室を動かず、ただじっと連絡を待っていた。
「司令、少しはお休みになりませんと、お体に障ります。」
「・・・・・」
 ジリリリリリリリ・・・・・!!
 電話のベルが鳴る。米田は急いで受話器をとった。
「はい・・・何だ、鉄馬か。どうした?」
『奴らのアジトがわかりました。どうします、突入しますか?』
「待て、幹部が居るとも限らん。大神、さくら、清志の3人を応援にやる。それまで待て。」
『了解。』
 電話を切った。
「かえで君、聞いての通りだ。あの3人を深川へやってくれ。」
「はい、わかりました。」
 敬礼し、大神たちを探しに行った。


 その頃、花組の面々はサロンで雑談していた。
「アイタァ・・・気分悪い・・・」
 カンナが頭を抱え込んでいる。
 映画「バトルライダー」の撮影が無事終了し、昨日その打ち上げを行っていた。
「まだ治ってないの?二日酔い。」
 マリアが酔い覚ましの珈琲を飲ませるがまだカンナは頭が上がらない。
「まったく、そんなになるまで飲むなんて、自業自得ですわ。」
 カンナに喧嘩する余力が無いのをいいことに、すみれはここぞとばかりに悪口を連発している。
「へえ、そういうすみれはんは記憶が飛ぶぐらいに飲んではったけどなぁ・・・」
「何かおっしゃいまして?」
「いんや、な〜んも言うてへんよ。」
 言うことだけは言って後はすっと身を引くヒットアンドアウェイ。紅蘭の戦い方にもよく似ている。
 そうこうしているうちにかえでが来た。
「みんなここに居たのね。大神君、さくら、それと清志君。司令がお呼びよ。」
「司令が?」
 支配人ではなく、司令と言う時は帝國華撃團としての任務を与えられる時だ。


 3人はすぐに作戦指令室へ。米田が先ほどの鉄馬の連絡を伝えた。
「突入するのはお前達3人と鉄馬だ。万一敵の幹部が現れた場合、龍組が援護してくれる。」
「はい。わかりました。」
 大神たち3人は米田に敬礼。米田もそれを返す。
「大神、真宮寺、佐伯。これより深川の敵基地に突入します。」
「気を付けて行けよ。」
 3人は神龍に乗って出動した。
『あの・・大神さん。』
 さくらが通信してきた。
「どうした、さくらくん。」
『いえ、あのちょっと気になったんですけど・・・どうして突入するメンバーがあたしたちだけなんですか?』
 すると清志が通信に割り込んできた。
『そりゃあ、帝劇を空けるわけにはいかんやろーが。なら、二手に分けて、少数精鋭で突入したほうがよかろーもん。』
『あ、そうだったんですか?』
「そういうこと。さあ、もうすぐ目的地だ。気を引き締めて。」
『はい!』


 深川に着くと鉄馬がそこにいた。
「兄さん、敵のアジトはどこに?」
「こいつだ。」
 鉄馬が指差した先には人一人入れるぐらいの小さな穴があった。
「まさか、これが入口?」
「そうだ。今、龍組の隊員が周りを調べている。さて、俺たちも行くぞ。」
 大神たちは一人ずつその穴に入っていった。


 中は複雑に入り組み、何本も分かれ道があった。
 4人はそれぞれ単独で奥に進んでいった。
 やがて、さくらがある部屋に辿り着いた。
「ここは・・・・指令室?」
 様々な機械が並べられているが、敵の姿はどこにもない。
「どうして誰もいないの?」
 ウィィィィン
 反対側のドアが開き、鉄馬が入ってきた。
「兄さん。」
「さくらか。やはり放棄した後だったか。」
「ええ・・・そのようですね。」
 しかし、どこからか声がした。
『よく来た、真宮寺鉄馬にさくら。』
「なっ!?その声はまさか!?」
 聞き覚えのある声だった。
『ハハハ・・・久しぶりだな、鉄馬。』
「冥皇ハーデス!!」
「生きていたの!?」
『お前達の見たものは、余の仮の姿。余は新たに神風隊と手を組み、暗黒組織・冥界神風隊を結成した。宿敵、帝國華撃團など全滅させてくれる。その手始めに、お前達2人には死んでもらう。』
「いかん、さくら。脱出だ!」
 2人が逃げようとすると、ドアが全て閉まった。
「こんなもの・・・くらえっ!」
 鉄馬は刀を抜いてドアを斬ろうとした。しかし・・・
 バキイイイイィィィィィィッ!!
 刀は真っ二つに折れてしまった。
『無駄だ、刀などでは壊せん。お前達はここで死ぬのだ!』
 さくらに機械のコードが絡みついてきた。
「きゃっ!?な、何、これは・・・・」
「さくら、動くな!俺が・・・」
 突然、鉄馬に光が当てられた。
「なっ!?何だこれは!?」
 鉄馬の左半身から煙が出始めた。
『その光は、我が科学陣が開発した改造人間分解光線だ。』
「か、改造人間?・・・兄さんが?」
「だ、黙れ!!貴様というやつは・・・・」
 鉄馬はもう一本の刀を抜くが、倒れてしまった。
「兄さん!!」
 助けに行こうとするが全身にコードが絡み付いて動けない。
「あたしをどうするつもりなの!?」
『貴様の霊力をすべてもらう。』
「な、何っ!?」
 絡み付いていたコードの何本かが変形し、吸収口となり、さくらの戦闘服の霊力伝達孔に接続された。
『フフフ・・・破邪の力を持った剣士の霊力だ。さぞかし素晴らしい力だろう。吸収開始!』
 接続されたコードが急速にさくらの霊力を奪い取っていく。
「ああっ!?・・・・ち、力が・・・」
 さくらに強い痛みが走る。
 霊子甲冑に乗り手の霊力を伝達しやすくするために開発された霊力伝達孔の性能の良さがここで裏目に出た。
『ははは・・・素晴らしい力だ!これが破邪の剣士の霊力か!!』
「くぅ・・・助けて・・・大神さん・・・・」
『フッ、寂しい想いはさせん。お前達と一緒に外の2人も後を追う!!』
 外の2人・・・・即ち大神と清志だ。


 どこまで行っても中枢に辿り着けない2人は途中でばったり会った。
「あれ?清志?」
「何で、隊長が?」
 2人は別々の通路を進んだはずだった。
「これは・・・ワナか!?」
「あの2人があぶない!」
 さくら達を助けに行こうとするがその前に降魔が立ちはだかった。
「降魔!?」
「くそ・・・どうあっても行かせないつもりか。」
 大神は二刀を抜く。しかし、清志は全く戦おうとしない。
「どうした、清志?」
「・・・・・逃げよう。」
「何?」
 清志の顔にはまったく戦意が無い。
「生身の人間が、こんだけ大勢の降魔と戦って勝てるわけなかろ?自殺行為タイ。ここは一旦退いて、外の神龍に乗って再突入するのが得策タイ。」
「・・・・・」
「オイはそげな無茶なことはせん。」
 大神は何も言わず、降魔に向けて刀を構えた。
「俺はそうは思わんよ。全ての確率は零じゃないんだ。できるかできないかは、やらなきゃわからないんだ!!」
 ザシュウウウゥゥゥゥッ!!
 あっという間に降魔2匹を斬って捨てた。
「清志。お前も帝都を守る花組の一員だ。その花組の唯一にして絶対のタブー。それは仲間を見捨てることだ。」
 大神は降魔と戦いながら清志を説得している。
「今ここで引き返せば、さくらくんや鉄馬を見捨てることと同じだ!!俺達花組は誰が欠けてもダメなんだ!全員が揃って花組になるんだ!!」
 大神は次々と降魔を斬って行く。しかし、数に物を言わせて降魔はどんどん襲い掛かってくる。
 大神の攻撃の隙を見つけた1匹の降魔が鋭い爪を振り下ろしてきた。
 ドゴオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォッ!!
 降魔は跡形も無く砕け散った。
 後ろを振り向くとバズーカ砲を持った清志がいた。
「やっぱり・・・わからんとよ。アンタが、そこまで命をかけて敵と戦う理由が・・・」
「・・・・俺はな、帝都の人々はもちろん、花組のみんなを守るために命を懸けるんだ。」
「そんなに無茶して、もし敵にやられたら・・・誰が花組を元気付けてやれるとや!?アンタしかおらんやろうが!!」
 しかし、大神は涼しげな顔で清志を見る。
「・・・・俺は死なんよ。この帝都に悪がある限り、俺は絶対に死なん!!」
「・・・・・大した自信だ。ばってん過信でもなかみたいやな。」
 清志は全銃砲を構えた。
 先ほどまでと変わって、戦意が漲っている。
「さあ、化け物相手に花火を上げたるか!!」
 全ての銃砲を一斉に撃つ。凄まじい爆発が起こり、降魔は次々と消滅していく。


 一方、さくらは既に霊力が吸い尽くされて意識を失っていた。
『フフフ・・・吸い尽くされたか。破邪の剣士の力がこれほどとはな。タンクも満タンになってしまったか。当分、霊力不足の心配は無いか・・・』
 鉄馬の方は左腕が煙を噴きながらも、まだ耐えている。
『なるほど、予想以上にしぶといな。本来ならとっくに息絶えているはずなのだが・・・』
「・・・俺を甘く見るな・・・貴様の思い通りになんか・・・なるものか・・・・・」
『フフフ・・・・その強がりも今のうちだ。後10秒で全身が分解する。さようなら、鉄馬。』
 バチイィィッ!
 霊力貯蓄タンクが火花を散らし、煙を噴き始めた。
『な、何だ!?』
 見るとさくらの体からまだ霊力が吸い取られている。
『何!?まだ残っているというのか!?』
 さくらは苦痛に耐えながらもハーデスを睨みつけた。
「は・・・ハーデス!・・・お前の好きにはさせない!!」
『き、貴様・・・死ぬ気か!?』
 吸収孔が離れようとするが、さくらはそれを掴んで放さない。
 何とさくらは自ら霊力を放出していたのだ。
「お、お前の野望を打ち砕けるなら・・・この・・・帝都を守ることができるなら・・・」
 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッ!!
 遂にタンクが大爆発を起こした。
『バカな。全ての霊力を吸い取ったはずの貴様のどこに、これほどの力が・・・』
「・・・誰かを守ろうとする・・・人の心ってのはね・・・例え零からでも・・・力を出せるのよ・・・ハーデス・・・」
 さくらは力尽き、倒れた。
既に大ダメージを被っている鉄馬もまた意識を失っている。
『フフフ・・・破邪の剣士。お前たち2人の力も大したものだ。今回はこれで退くが、次は、貴様らを八つ裂きにしてくれる。』
 それっきり、ハーデスの声はしなくなった。


 それから、指令室に辿り着いた大神と清志によってさくらと鉄馬は救出された。2人とも何度呼びかけても返事をしなかった。
 そして、そのまま帝劇へ戻され、医療ポットに入れられた。
 2人が目を覚ますのは3日後のことだった。

To be continued・・・


キャスト

大神一郎
  陶 山 章 央


真宮寺さくら
  横 山 智 佐

佐伯清志
  鈴 置 洋 孝

神崎すみれ       マリア=タチバナ
  富 沢 美智恵      高 乃   麗
アイリス          李紅蘭
  西 原 久美子      渕 崎 ゆり子
桐嶋カンナ        ソレッタ=織姫
  田 中 真 弓       岡 本 麻 弥
レニ=ミルヒシュトラーセ 黒田琴音
  伊 倉 一 恵       久 川   綾

藤枝かえで
  折 笠   愛

ハーデス
  難 波 圭 一


米田一基
  池 田   勝


真宮寺鉄馬
  堀    秀 行


次回予告

わたしの中には鬼が居る・・
決して消えることなく、
ただ戦うだけの鬼が・・・
忘れたい過去と共に・・・
次回 愛の戦士たち
『小さな戦士』
照和桜に浪漫の嵐!!

わたしは戦いたくないんです。


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