第九幕
「先人たちの遺産




 平城12年 2月
 有珠山での戦いで東京華撃團は初めて敗北を味わい、隊士たちは劇場に帰投してからもほとんど口を利かなかった。さらに主力兵器である新武の部品は未だ揃わず。今の東京は無防備状態であった。
 そんな中、一基は隊士たち全員を支配人室に呼び出した。

「休暇!?」

 大河新次郎が隊士全員に休暇を与えるべきだと提案し、一基、和馬、さつきもこれを許可した。だが、明日香たちはとまどい、大鳥と弥生に至っては異を唱えた。

「待ってください、司令。今この状況下で隊士全員に休暇を出すというのは危険すぎます。」
「隊長と同意見です。今劇場を空にするのは得策ではないと思います。」

 しかし、一基は休暇命令を覆そうとしない。

「大鳥と弥生の意見は正しい。だが、今のお前たちには心と体の休暇が必要だ。」
「しかし……」
「それに、当分の間は新武が使えない。劇場の中でボーッと過ごすのも体に良くないから、休暇を取れと言ってるんだ。」

 結局、大鳥たちに1週間の休暇が与えられた。
 隊士たちは翌日になると劇場を次々と発っていった。大鳥は長崎へ、弥生とメイリンは福岡、ゆり子は神戸の大学へ、キャサリンは帰国……というわけにはいかないのでさつきに連れられて京都へ向かった。だが明日香だけは劇場を出ず、毎日のように中庭で和馬と剣の稽古をしていた。

「やああぁぁぁっ!」
「むんっ!」

 和馬は明日香の師匠でもある。有珠山の一件以来、明日香の剣は鈍っている。この日も、明日香は和馬にあっさり負けてしまった。

「まだまだ……もう一度!」

 明日香は何度倒しても向かってくる。しかし、そのたびに和馬に打ち据えられてしまう。

「もう一度!」
「もうよせ、そんな様子では何度やっても同じだ。」
「そんなことはありません!次こそは!」
「いや、ムダだ。今のお前では龍皇はおろか、俺にただの一撃も与えることは出来ない。」
「そんなことは……」

 和馬はフゥッとため息を付いて言う。

「言った筈だぜ、明日香。『剣の道、すなわち心の道。剣は心により、輝き極まる』と。」
「!!」
「今のお前の心は荒れている。それが剣にはっきりとあらわれている。有珠山で龍皇に敗れ、悔しいのはよくわかる。だが肝心なことは、その敗北から何を学ぶか、だ。」
「何を……学ぶ?」
「あの時、お前には……いや、大鳥たち全員には負ける要因があった。」
「……油断……ですか?」
「そうだ。お前たちは一度倒した相手だと思って、龍皇たちの力を甘く見すぎていた。敵を前にしては常に全力であたれ。」

 その頃、長崎に戻った大鳥は両親の墓参りを済ませ、ある店を訪ねていた。そこは馴染の刀屋だった。大鳥は先の第三台場での戦いで壊れた刀・剣魂逸敵の修繕を頼んだのだが……

「久し振りに来て、いきなり何を言い出すかと思えば……」
「ムリか?」
「当たり前じゃ。こんなボロボロにしおって。これを直せる者がこの世に居るものか。」
「なら、代わりを。」
「簡単に言うな。これほどの霊剣が他に置いてあると思ってるのか?」

 剣魂逸敵は使い手の霊力を最大限に引き出すことの出来る霊剣。このような剣は今の日本にはほとんど残っていない。そして国内に残っている霊剣も……

 神龍軍団の龍皇や飛龍たちは各地に眠る霊剣をすべて破壊。
 大鳥と明日香がこのような霊剣を手にし、霊力波対決に持ち込まれることを恐れての行動だった。

「これでいい。」
「フフフ、首領のお力で既に『霊剣荒鷲』と『剣魂逸敵』は粉砕され、日本国内にある霊剣はすべて破壊したことになる。」

 翔龍は安心しきっているが、飛龍は『あるもの』の話を思い出していた。

「いや待て。霊剣には『二剣二刀』というのがあったらしい。」
「そんなものは伝説だ。」

 しかし、翔龍も龍皇も、かつて日本を救ったという二剣二刀の存在は伝説であると考えていた。




 休暇が終わるその日、大鳥が劇場に帰ってきた。
ちょうど帰ってきたばかりの弥生、メイリン、ゆり子が玄関で立ち話をしていた。

「やあ、みんな。」
「あっ、お兄ちゃん!お帰り〜!」
「みんな、いい顔になったね。」

 真っ先に飛びついてきたメイリンはもちろん、弥生もゆり子も何かを超えたような顔をしている。

「隊長は、長崎に戻ってらしたそうですね。」
「ああ、両親の墓参りと、ちょっとヤボ用もあってね。弥生とメイリンは一緒に福岡……だったね。」
「ええ、祖母と……話をしてきました。」
「はい?」

 弥生の祖母は帝國華撃團・花組隊士のマリア=タチバナだ。当たり前だが既に他界している。

「弥生はん……ちょっと、おかしいんと違うか?」
「ふふ……確かにそう思っただけかもしれないわね。」

 これより弥生の回想……
福岡に戻った弥生はメイリンと別れた後、自宅に戻った。両親は既に他界し、兄弟もいないので家には誰もいない。掃除や荷物の整理をしていると、祖母・マリアの写真が目に入った。

「……お祖母ちゃん……」

 やがて、どこからか声が聞こえてきた。

『何て顔してるの、弥生。』

 その声は弥生にしか聞こえないマリアの声だった。

「初めて……完全な敗北を喫してしまいました。」
『一度敗れたからと言って、次も負けるとは限らないわ。』
「そうでしょうか……」
『皮肉だけど龍皇がそれを実証したわ。あなたたちが次も負けるとは、誰にも言えないわ。』

 ……以上、回想終わり。

「次も負けるとは限らない……か。あのマリア=タチバナさんなら言いそうな言葉だな。それで、メイリンは?お祖父ちゃんには会えたかい?」
「うん、ちょっと怒られちゃったけど。」

メイリンは再び来日した明慶と領事館で会った。その際……
『敵を侮る者に、勝利は無い。ゆめゆめ忘れるでないぞ。』
……といわれた。

「敵を侮ること無かれ……か。さすが明慶さんだ。何もかもお見通しか……。ゆり子くんは、神戸だったね。」
「せや、久々に大学の友達と会うてな。すっかり人気者になってもうてん。」

 考えてみれば一介の大学生がいきなり舞台女優になり、ゆり子は地元ではかなりの有名人になっていた。

「ところで、明日香君とキャサリンは?」
「明日香はどこにも行かずに、副司令と剣術の修行をしていたそうです。さっきも稽古していたとか。」
「副司令は明日香君の師匠でもあるから、ちょうどいいのかも知れないけど。休暇なんだから、少し休んだほうがいいと思うな。それで、キャサリンは?」
「キャサリンは、昨日帰ってきたそうなんですけど、ずっと部屋に閉じ篭ったままだそうです。」
「何かあったのかな?」

 荷物を部屋に置いて、キャサリンの部屋を訪ねてみた。

「キャサリン、いいかい?」
「……Come.」(どうぞ)

 中に入ると電気も付けてない暗い部屋の中央でキャサリンが座禅を組んでいた。

「な、何をしてるんだい?」
「Meditation.」
「?」
「瞑想よ。」
「め、瞑想って何かあったのか?」
「悟ったのよ。京都で過酷な修行メニューをこなしてね。心が大らかになったのよ。」

 キャサリンはさつきに連れられて京都に行っていた。
 さつきはある寺にキャサリンを放り込み、修行をさせたのだった。その結果、こうなってしまったのだ。京都から帰ってきてから瞑想三昧だとか。

「そ、そうですか……じゃあ、ごゆっくり。」
「オォ〜ム・……」

 キャサリンの部屋を出た後、明日香の部屋を訪ねてみた。

「明日香くん。」
「あっ、大鳥さん!お帰りなさい!」
「うん、ただいま……なんか変な感じだね。お帰りなさいって言われると……故郷に帰っていたのに。」
「でも……やっぱり、お帰りなさい。」
「うん……やっぱり、ただいまって言いたくなるね。」

 その後、二人は支配人室を訪ねた。

「そうか、みんな戻ったか。」
「はい、みな……いい顔になってます。」
「ま、ここに残ってひたすら和馬に打ち負かされ続けた奴もいるけどな。」
「む……」
「……そういえば、副司令はどちらに?」
「明日香の相手すんのに疲れて寝てるよ。」

 それから三人はこれからどうするかを話し合った。
 新武の整備はまだ完了していない。もし、降魔が出てくるようなことがあれば、生身で迎撃することになる。また、新武が直っても、第三台場でのように霊力勝負なったときのために・・・・

「そのために、司令。刀が必要です。」
「刀?」
「自分の愛刀・『剣魂逸敵』と、明日香君の『霊剣荒鷲』は第三台場での戦いで破壊されました。刀鍛冶には見せましたが、修復は不可能だと言われました。龍皇と今一度戦うのであれば、俺と明日香君には刀が必要です。」
「……確かに、お前たちの霊力は刀の力によってさらに高まっていた。だがな、大鳥。お前の『剣魂逸敵』も、明日香の『霊剣荒鷲』も、霊力を引き立たせる作用を持った名刀だ。今の日本には、そういう刀はほとんど残っていない。今から打ったとしても、到底間に合わん。」
「……」
「……だがな、大鳥。お前も、明日香も運がいい。」
「は?」
「ちょっと来い。」

 大鳥と明日香はワケのわからぬまま、一基の後についていく。一基の向かった先は地下1階の倉庫だった。

「なんで倉庫に……」

 すると一基は鍵のかかったロッカーから細長い箱を四つ取り出してきた。
 箱の中から出てきたのは刀だった。四つの箱にそれぞれ一振りずつ。計四振りの刀があった。

「これは!?」
「帝國華撃團の先人たちが遺してくれた、二剣二刀だ。」

 『二剣二刀』。それは日本古来より伝わる伝説の剣と刀。『霊剣荒鷹』『神剣白羽鳥』『神刀滅却』『光刀無形』がそれである。
 この世に魔がはびこる時、これらの剣を受け継ぐ者が集い、力をあわせて魔を討つと伝えられてきた。『二剣二刀』は帝國華撃團の戦士たちに受け継がれた後、一基と和馬が責任を持って保管していたのだ。

「まさか……伝説の二剣二刀が実在するとは……」
「驚くことじゃねぇ。明日香の『霊剣荒鷲』はもともと『霊剣荒鷹』と対になるはずの剣だったんだ。」
「荒鷲と……荒鷹が……」

 『霊剣荒鷹』は仙台の真宮寺家に伝えられてきた霊剣。そして『霊剣荒鷲』もまた、中央の藤堂家に伝わる剣。ともに日本を闇の者達から守護する裏御三家である。
 対になる剣が両家に伝えられていても何ら不思議は無かった。

「この二剣二刀は帝國陸軍対降魔部隊をはじめとする先人たちの想いと共に俺と和馬に伝えられてきたものだ。そして今、これをお前と明日香に託す時が来た。」
「霊剣荒鷹、光刀無形、神剣白羽鳥、そして神刀滅却。二剣二刀はたしかに譲り受けました。司令たちと・・・・そして先人たちの想いと共に……」
「必ず、龍皇を倒し、司令たちと先人たちの想いに答えてみせます。」

 こうして刀の心配はなくなった。だが、神龍軍団と戦うには新武の修復を急がねばならない。



 それから数日たったが、神龍軍団が出現したと言う報告は入っていない。
 鳴りを潜めているかに見えたが、この日、事態は急展開するのである。


 三宅島沖 米海軍原子力潜水艦 タイフーン
 米海軍の誇る最新鋭潜水艦が三宅島付近を潜航していた。しかし、同艦はさきほどから戦闘配置についている。

「Depth: 300 meters. Distance: 4500 meters. Direction: 12 degrees. It's approaching.」 (深度300m、距離4500m、方位12度)
「Enemy claft, attack posture, off the port bow ahead!」 (敵艦は攻撃態勢、左舷前方より接近中)

 正体不明の物体をレーダーに探知。その物体は猛スピードでこちらに向かってきているのだ。

「Sonar confirmation?」(ソナー、確認できるか?)
「Not one of ours.」(味方ではありません)
「Could be a vessel with sonar cloaking.」(スクリュー音なし、ソナーを妨害しています)
「Distance: 3800 meters. Speed: 40 knots.」(距離3800m、速度40ノット)

 ますます危険な状態になりつつある。潜水艦の艦長は判断を迫られている。

「Emitting active sonar.」(敵はアクティブソナーを発信)
「What is it? It isn't a whale.」(何でしょう?・・・鯨ですかね)
「What has active sonar? Arm torpedoes!!」(鯨にアクティブソナーなんかあるか?魚雷戦用意!!)

 艦長は決断した。正体不明の物体を敵と認め、攻撃することにしたのだ。警報が鳴り、ただちに魚雷の発射準備が行われる。

「Go one. Go two. Take her down fast!」(1号発射、2号発射。急速潜航!)

 魚雷を発射し終えるとさらに深く潜って離脱をはかった。やがて爆発音が聞こえてきた。

「Torpedo one, direct hit! Torpedo two, direct hit! No return fire, sir.」(1号魚雷命中!2号魚雷命中!敵は魚雷を撃っていません)

 ホッと胸を撫で下ろす艦長だったが・・・・

「Captain, it's still coming!」(艦長、敵はなおも接近中!)
「100 meters. Right above us!」(距離100m。本艦の真上です!)
「50 meters and still coming. Increesing speed.」(50m、速度を上げて接近中!)

 魚雷を2発もまともに受けてなおも攻撃するつもりなのか、『敵』は急速接近してくる。そして距離がゼロになった瞬間・・・・
 バキッ!
 どこからかそんな音が聞こえた。次の瞬間、艦橋内に海水が流れ込み、あっという間に水浸しとなった。そして潜水艦は水中で大爆発を起こして沈没してしまった。



 タイフーンからのSOS信号をキャッチした防衛庁はすぐに現地へ海上自衛隊のP-3対潜哨戒機を派遣した。
 P-3は海底を移動する正体不明の物体を捉え、写真を撮って防衛庁に電送してきた。

「これは……バカな!?」

 写真を見た瀬川防衛庁長官は目を疑った。
 そこに映し出された降魔は全長50mはあろうかという巨大降魔であった。

「これほど巨大な降魔が……」

 さらに長官を驚かせる事態が起こった。

『米第七艦隊より緊急連絡!三宅島沖に巨大降魔出現!』
「なにっ!?」
『空母キティー・ホーク、および巡洋艦ヴァージニアと交戦状態に突入しました!』
「降魔相手に通常兵器は無効だ。東京華撃團に出動を要請しろ。」

 出動要請はただちに一基のもとに届いた。
 隊士たちも作戦指令室に集結したが、一基は支配人室を動かず、出動命令も出さない。そしてさつきから全員待機の命令が通達された。

「待機っ!?」
「……そうよ。」
「それでは、米軍を見殺しにしろとおっしゃるのですか!?」
「新武が使えない現状では、あなたたちを出動させるわけにはいかないの。……代わりに、清志くんが部下を連れて出撃するわ。」
「部下?」
「そう……東京華撃團・航空支援部隊。その名も『ドラゴンナイツ』よ。」

 航空支援部隊「ドラゴンナイツ」は大鳥たちを空中から援護する目的で結成された部隊で、隊長の清志をはじめ、メンバーは航空自衛隊から引き抜かれた精鋭パイロットである。機体の開発・整備が遅れて第三台場の戦い、有珠山の戦いには間に合わなかった。



 浅草・花やしき(東京華撃團支部)
 一基の出動命令を受けて、花やしき支部に待機している清志たちはただちに発進準備にかかった。

『緊急!緊急!東京華撃團・航空部隊、出撃っ!』

 花やしき支部に警報とあおいの声が響き渡る。
 同時に、整備士たちが機体の最終点検をはじめる。

「急げっ!3分以内に離陸するぞ!」
『ドラゴンナイツ、発進用意!』
『フォースゲート、オープン!滑走路、展開っ!』

 仲見世通が真ん中から跳ね上がり、大型のカタパルトが競り上がってくる。

『カタパルト圧力上昇。70・・・・80・・・・90。ポイント15、48、32確認。打ち出し準備完了!』

 隊長の清志機が発進位置に付いた。

『滑走シャトル、接続確認!バリアー展開!』
『射出用意よしっ!!』

 管制室にはあおい、渚、みずきの三人と航空自衛隊出身の和馬が居る。

「ドラゴンナイツ、発進せよ!」
『Rojar!! Dragon-1, take-off!!』(了解!ドラゴン−1、発進!)

 バシュウウウウウウウゥゥゥゥッ!!
 カタパルトによって清志の乗る新龍が射出された。それに続いて量産型・新龍も射出位置に向かう。

『1番機発進。次来るぞ、急げ!!』
『こちら射出班、了解!』
『カタパルト圧力上昇、グリーンゾーン。射出用意よし!』
『バリアー上げろ!2番機発進準備完了!』

 11機の量産型・新龍も次々と発進。上空で編隊を組んで横須賀へ向かった。



 巨大降魔がその姿を現したのは横須賀港近くの海上であった。
 レーダーで探知した米軍空母『キティー・ホーク』は艦載機をスクランブル発進させた。F−14、F−18を中心とする降魔攻撃部隊が海上を港へ向けて進行する降魔を発見した。

『Holy God.』(何てこった)
『Lock and Road!』(攻撃準備)
「Clear to Engage. Fire at will!」(全機、交戦を許可する。攻撃せよ!)
『Roger that! Eagle-1, check left! Commence Fire!!』(了解!イーグル1、左に旋回!)

 まずF−14の「イーグル」編隊が攻撃を開始した。

『We are red and free. Eagle-1, FOX2!!』(イーグル1、発射!!)

 イーグル編隊は次々と降魔目掛けてミサイルを発射、ほぼ全弾が命中した。
 しかし、降魔は何事も無かったかのように進行を続けている。

『Command, Eagle-1! Command, Eagle-1! Switchin' to Sidewinders! Moving in!』(イーグル1より全機へ、サイドワインダーに切り替え近距離攻撃をかける!続け!)
『Eagle -2, low 50 knots refrence 1-2-0!』(イーグル2、V字隊形で続きます!)
『Eagle -5, 1-2-0!』(イーグル5、続きます!)
『Eagle -1 sweep lock, let's go. FOX3!!』(イーグル1、発射!)

 接近して攻撃をしかけたが、やはり降魔は何のダメージも受けていない。
 F−14編隊がさらに攻撃を続行しようとしたその時、降魔は口から火炎を放射。全機が炎に飲み込まれて消滅した。

『SA-YO-NA-RA, "eagle".』(あばよ、イーグル。)

 続いてF−18の「ナイト」編隊が突撃を開始。
 使用するミサイルはハプーン対艦ミサイル。

『Knight-1, FOX2!!』(ナイト1、発射!!)

 しかし、降魔は再び口から火炎を吐き、撃墜しようとする。

『Watch out!!』
『Knights, pull up! Pull up!!』(引き起こせ、上昇しろ!!)
『God damn!!』(畜生!!)

 F-18編隊も炎の中に消え、攻撃機隊は全滅した。
 続いて戦闘海域に巡洋艦『ヴァージニア』が突入してきた。

「Standby to Tomahawk!」(トマホークミサイル用意!)

 ミサイルランチャーと主砲が降魔に向けられる。既に照準は完了している。

「Shoot!!」(撃て!)

 全トマホークミサイルと主砲弾を一斉に発射。
 そのほとんどが命中し、降魔の姿は海上から消えていた。

「Did it?」(やったか?)

 跡形も無く四散したのか、海上には全く見えない。
 だが・・・・・
 ゴオオオオオオオオオォォォォォォォッ!!
 轟音と共に艦が大きく揺れだした。

「Enemy is in the bottom!」(真下にいます!)

 次の瞬間、船体はひっくり返され、巡洋艦は転覆。そして巨大降魔は空母キティー・ホークに迫りつつあった。
 清志率いるドラゴンナイツが戦闘空域に到達したのはちょうどこの時であった。

「D-1より各機。ターゲットを確認した。全機、マスターアーム点火!」
『ドラゴン−1、攻撃を許可する。空母を守れ!』
「Rojar! Dragon-1, engage!」(了解。ドラゴン−1、交戦!)

 新たに組織されたドラゴンナイツは、清志の乗る新龍と量産型・新龍とで構成されている。量産型は火力と防御力でオリジナルには若干劣るものの、その分軽量になり機動性はオリジナルよりも優れている。武装は霊子ミサイルの他、先端が鋭く尖り貫通性のあるニードルショットを搭載している。

「D-1より各機、ニードルショットを使え。突撃っ!」

 清志機を先頭に降魔に向かって急降下。

「ファイアーッ!!」

 全機ニードルショットを斉射。巨大降魔の顔や胸に次々と突き刺さり、降魔は悲鳴をあげる。

「よしっ!全ミサイル発射!」

 反転してさらに攻撃を加える。霊子ミサイルは霊力が込められているので降魔には極めて有効な兵器である。
 ギシャアアアァァァァァァァッ!!
 十数発のミサイルが命中し、降魔の悲鳴が響き渡り、その姿は水中に没した。

「Bulls Eye!!」(目標撃破!!)
『衛星画像でも確認。降魔は海底に逃れた。ドラゴンナイツ、帰還せよ。』
「ラジャー。野郎ども、引き上げるぞ!」

 巨大降魔を撃破したドラゴンナイツは1機も欠けることなく、花やしき支部に帰還した。
 この戦闘の様子は劇場地下の作戦指令室にある大型モニターに映し出され、大鳥たちも見守っていた。

「やってくれたな、清志……しかし、司令。いつの間にあのような部隊を?」
「ああ、あれは和馬やさつきが中心になって結成したものだ。あの航空部隊の他に陸上部隊もいる。」

 一基の話によると、陸上部隊は霊力と剣術を使いこなす者たちで構成されている。小型の降魔なら彼らが出撃し撃破する。

「もともとはお前たちを支援する目的で結成したんだが、まさかこんな形で出撃させることになるとは思わなかった。」
「なんだか……ボクたちはまるでお払い箱みたい。」
「冗談じゃない。メイリン、彼らは飛龍や龍皇と戦えるほどの力を持っていない。あのような強敵を倒すのは、やはりお前たちだ。」

 しかし新武を修復するための部品が揃わなくては、出撃は出来ない。
 だが肝心の部品はなかなか揃わず、また修理のための資金も足りないような有様だった。日本政府は財政難のため、資金援助を渋っている。出撃の目途は立っていない。


 翌日、J-11が再び巨大降魔を捉えた。
 場所は三宅島の沖、動かずに潜水艦の沈没地点に留まっている。

「どう思う?」

 モニターを見つめるのは和馬と大鳥。

「力を蓄えているか、傷が癒えるのを待っているか……いずれにせよ、早急に叩くべきだと思います。」
「そうしたい所だが……場所が場所だからな。」
「……三宅島……雄山のことですか?」

 三宅島の中央に位置している雄山は現在、噴火の兆候を見せている。ここで派手にドンパチやったのでは、火山活動を促進させてしまう可能性がある。

「しかし、何もしないというわけには。」
「新武が使えれば……。」

 しかしそこへ、救世主が現れた。年末からアメリカに帰っていた大河新次郎である。

「霊子甲冑のことなら心配ありません。」
「大河さん!?いつ日本に?」
「2時間ほど前に。それと紐育から宅配便ですよ。」
「宅配便?」
「ま、格納庫へ。」

 大河と共に格納庫へ行って見ると、そこではゆり子をはじめとする整備班が作業をしている。

「これは!?」
「いつの間に部品が……」
「大神司令の要請でね。ちょっと『セントラル・インテリジェンス・エージェンシー』に手配を頼みまして。」
「『Central - Inteligense - Agency』……CIA!?」

 一基の連絡を受けて、大河はCIAに部品の手配を頼んでいたのだ。

「修理に必要な部品だけでなく、電磁シールド、それから各々のパワーアップ用のパーツも持ってきました。」
「よくそれほどの部品をそろえられましたね。」
「なに、半分は来るべき米国華撃團復活の時のために仕入れておいたものだ。遠慮なく使ってくれ。ただ……明日香の新武だが、あれはもう使いものにはならないようだ。」
「そっちは心配ありません。既に手配は済んでいます。」
「……大河社長、いつか訊こうと思っていましたが……もし米国でも華撃團が復活したら、そのときはキャサリンもそちらへ?」
「そうなるだろうが……だが、その件については本人に一任してある。戻るも残るも彼女が決める。」

 それから3時間後、新武の整備が完了し、隊士たちが格納庫に集合した。修理だけでなくシールドジェネレーターとジェットパックを装着しパワーアップも施されたので外観もかなり変化した。

「うわぁ……何かカッコよくなってるね。」
「一回り大きくなったわね。」
「せやけど、速力・耐久力・機動力・攻撃力・防御力もすべて大幅にアップしとるで。おまけにあの電撃にも耐えられる電磁シールドを装備して対策はバッチリや。」
「それから、明日香の新武は大破して修理不能だ。だが心配はいらない。大鳥と明日香にはこっちの奴に乗ってもらう。」

 和馬が見せたのは新武よりもさらに一回り大きい霊子甲冑。

「これは?」
「二人乗りの霊子甲冑・双武だ。」
「双武?」
「太正期に建造されたものだが、整備は万全だ。お前たちにはこれに乗ってもらう。」

 大型霊子甲冑・双武は二人乗りで、操縦者(前席)と調整者(後席)がそれぞれ乗り込んで動かす。かつて一基と和馬の祖父母・大神一郎と真宮寺さくらがこれに乗り込み大久保長安との最終決戦で見事勝利をおさめた。帝國華撃團の数ある霊子甲冑の中で、現存しているのはこの機体のみで、明日香の新武が大破したことを受けて整備が行われていた。

「では任務の説明をする。」

 一基は不在なので和馬が作戦の説明をする。
 今回の標的は三宅島沖に潜む巨大降魔。すでにドラゴンナイツの攻撃で傷を負わせてはいるが、脅威であることに変わりはない。まず海上自衛隊の対潜哨戒機が爆雷を投下して降魔を海上へおびき出す。海上に出たらドラゴンナイツと共同でこれを集中攻撃。そして揚陸艦「おおすみ」艦上で待機している双武が新装備のメガ・バスターで止めを刺す。
 メガ・バスターは言うなれば霊子砲で、乗り手の霊力を光の弾にして放つ最強の兵器である。

 大鳥は前席に、明日香は後席に乗り込みまずは起動する。

「霊力、起動レベルに達しました。」
「イグニッション!」

 ゴオオォォォォォォォォォォッ!!
 無事に起動。双武は大型機ゆえにパワーも出力も新武の倍はある。よって振動が物凄い。

「うおっ!凄い振動だ!」
「帝國華撃團の人達も……これに乗って戦ったんですね。」
「先人たちの想いが込められているこの機体・・・・彼らのためにも、この戦いに勝利しなくては。」
「はいっ!」

 双武を加えた花組はドラゴンナイツと合流し、三宅島へ向かった。



 その頃、一基とさつきは賢人機関の定例会議に出席していた。
 議題はもちろん、有珠山での戦闘のことに関してだ。

「有珠山では散々な結果だったな。」
「確かに、こちらの新武は全滅した。だが、市民の守護が我々の本分。有珠山の噴火による市民や隊士の人的被害はゼロ。作戦目的は達成されています。市民の命を守るためなら、新武など安い犠牲です。」
「君は1機20億円もの高い買い物を『安い犠牲』と言うのかね?」
「人間の命は、金では買えません。その代価が20億円なら、安いものです。」

 次に議題は新武の修理の経緯についてになった。

「CIAなどの手を借りよって……我々がそんなに信用できないのかね、大神司令?」
「……私はもっとも迅速に応戦準備を整えるための選択をしたまでです。そのことに罪有りというのなら、私は今日限りでアンタたちとは手を切る。」
「我々の援助なくして東京華撃團を維持できると思っているのかね、君は?・・・・この場に出る者を替えた方がいいのではないかね?」
「お言葉を返すようだが、交渉相手を替えるのは私の方かも知れませんな。・・・・・あなた方が思っているよりも出してくれる人はたくさん居る。政府、防衛庁、CIA、アメリカ国防省、EU、NATO。アンタたちと決裂したら、即契約することになっている。もっとも、欧州や米国でも華撃團復活の動きがありますから、その方が都合がいいのですが。」

 既に賢人機関の規模は太正時代に比べると大幅に衰退し、かつて世界各国にあった機関も、今残っているのは日本だけになっていた。

「わ、わかった……賢人機関は今後も東京華撃團を支援する。」
「援助を感謝します。」

 一基は華撃團史上、初めて賢人機関よりも優位に立ったことを彼らに認めさせたのだ。



 ドラゴンナイツは上空待機。花組は揚陸艦「おおすみ」の艦上で待機。降魔が浮上すればジェットアシストを使って離艦。ドラゴンナイツと共同で攻撃を仕掛ける。
作戦開始時刻はもう間もなくだ。既に護衛艦隊は配置に付いている。

「みんな、発進準備は出来ているな?」
『スワン、いつでも行けます。』
『リカバリー、オッケーや。』
『フェニックス、準備出来てるよ!』
『Lightning, stand by.』(ライトニング、スタンバイ)

 しばらく間を置いて……

「……イーグル?」
『あの……後ろです。』
「は……そうだった。」

 イーグルこと明日香は後席に乗っているので連絡が無いのは当たり前だった。

「作戦開始時刻まで後1分だ。気を抜くなよ。……D-1、聞こえるか?」
『聞こえてるぜ、セイバー。こっちも全機異常なし。降魔が出てくれば即、集中攻撃だ。』
「よし、しっかり頼むぞ。」

 作戦開始時刻になった。ただちに護衛艦隊が爆雷や対潜ミサイルを発射。いくつもの水柱が上がる。そして水中レーダーが浮上してくる巨大な影を捉えた。

「降魔が浮上する!200……100……50……浮上!!」

 グオオオオオオオオオオォォォッ!!
 雄叫びを上げながら巨大降魔は海上にその姿を現した。

「出た!全機、発艦せよ!」
『了解!』

 バシュウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥッ!!
 ジェットアシストにより、双武を除く機体が上昇を開始。戦闘態勢に入った。既にドラゴンナイツは攻撃を開始している。

「Dragon-1, FOX2!!」

 ニードルショットを連続発射。鋭い弾丸が降魔の皮膚に突き刺さる。

「よし!続けよ、花組のお嬢さん方!!」

 降魔が苦しんでいるその隙を突いて、空高く上昇して攻撃態勢に入っていた花組各機が一斉に新技を放つ。

「何者をも凍らせる雪女の吐息……スネグー・ラティカー!!」

 かつて祖母のマリアが得意とした遠距離の敵を攻撃できる氷の技だ。

「ウチもやる時ゃ、やるんやで!シュート・ブラスター!!」

 回復や修理に務めてきたゆり子だが、リカバリーには高エネルギー弾を発射する機能が追加された。

「間合いの外からだってオッケー!行っくよぉ、流星鎚!!」

 いつも装備しているトンファーではなく間合いの外から攻撃できる流星鎚を使って攻撃。

「ただで済むと思わないことね!炎の電撃、バーニング・プラズマ!!デェェェイッ!!」

 ただの電撃ではなく、炎を帯びた電撃を放つ。
 新必殺技の連続攻撃をまともに喰らった巨大降魔は苦しさのあまり暴れている。

「よし、止めを刺すぞ!メガ・バスター用意!!」
「はいっ!エネルギーチャージ完了!バレル展開!」
「ターゲット、ロックオン!」
「イグニッション!いつでも行けます!」
「よし、衝撃に備えろ!メガ・バスター、発射ぁっ!」

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォッ!!!
 凄まじい轟音と眩い閃光と共にエネルギーの塊が発射された。そしてそれは降魔のどてっ腹に見事命中した。

「行っけぇぇぇっ!!」

 ギシャアアアアアアアァァァァァッ!!
 降魔の断末魔が響き渡り、そしてその姿は完全に消滅した。

「こちらセイバー。降魔を撃破しました!」
『こちら本部。衛星画像でも確認。降魔は完全に消滅した。作戦は終了だ。』

 霊子甲冑の整備も終わり、新たな戦力、新たな武器、新たな技を得た東京華撃團。
 だが、既に神龍軍団は次の手を打っていた。それは・・・・

一基が賢人機関の会議から本部に戻ってきてすぐに、電話が入った。ただし緊急回線である。

「はい、華撃團本部。……少々お待ち下さい。司令、瀬川長官からです。」
「防衛庁長官が?……はい、代わりました、大神です。……はい……いつの事ですか?……わかりました。すぐに部隊を呼び戻します。」

 電話を切った一基は明らかに狼狽している。

「どうした、一基?」
「……総理が亡くなった。」
「総理が?……死因は?」
「脳溢血に似た症状だそうだが、原因は不明だ。」

 時の内閣総理大臣・尾渕平三が急死した。
 あまりに突然の死に、和馬は神龍軍団による暗殺ではないかと思った。

「謀殺では……」
「長官も同じ考えだ。……あおい。すぐに花組とドラゴンナイツを呼び戻せ。ナギ。整備班を待機させろ。花組が戻り次第、整備を開始する。みずき。真木教授に連絡をとり、すぐに来てもらう。迎えの手配を。」
「了解!」

 三人はすぐに行動を開始。連絡を受けて花組とドラゴンナイツは直ちに帰投準備にかかる。整備班も花やしき支部で待機状態に入った。そして真木教授も東京へ向かう準備を始めた。

「藤枝副司令、賢人機関の緊急会議に出席する。同席してくれ。」
「喜んで。」
「和馬、俺が戻るまで、ここを頼む。判断はお前に任せる。」
「わかった。」

 慌しく東京華撃團が動き始めた。
 平城12年の2月末、神龍軍団と雌雄を決する時が近付きつつあった。

 

次 回 予 告

ついに神龍軍団と
雌雄を決する時がきた。
俺たちの力と
倒れた者達の無念を
全てをこの剣に込める!

次回 サクラ大戦F
『Night the Knight』
平城櫻に浪漫の嵐!

東京華撃團、参上!!

 

 

キャラクター紹介

草薙 あおい(Aoi Kusanagi) C,V:山崎和佳奈
身長:168cm  体重:50kg  生年月日:1976年5月11日  年齢:23歳  出身:東京  血液型:O
特技:通信士  階級:輸送部隊長並
劇場の事務を取り仕切る一方で輸送部隊の隊長格にある。また通信も主に彼女が担当している。三人娘の中で元自衛官なのは彼女だけで航空自衛隊の管制官だった。空自とパイプを持っていた和馬の誘いに応じて入隊した。

大村 渚(Nagisa Ohmura) C,V:池澤春奈
身長:163cm  体重:48kg  生年月日:1980年6月5日  年齢:19歳  出身:奈良  血液型:B
特技:操縦士  階級:輸送部隊隊士
明日香と幼馴染みで高校卒業後は大学の機械工学を専攻していたが、さつきの誘いに応じて入隊。輸送部隊隊士であると同時に整備士も兼任している。陽気な性格で誰とでもすぐに仲良くなる。

片山 みずき(Mizuki Katayama) C,V:川澄綾子
身長:155cm  体重:46kg  生年月日:1983年7月18日  年齢:16歳  出身:千葉  血液型:A
特技:通信士  階級:輸送部隊長並
三人娘のなかで最も若いが翔鯨丸などの操縦を任されるほどの優秀な操縦士。しかしまだまだ子供っぽいところがあり、時折メイリンと一緒に遊んでいたり、勝手に抜け出して遊園地で遊んでいたりする。

真木 五郎(Goroh Maki) C,V:相沢正輝
身長:171cm  体重:62kg  生年月日:1961年11月13日  年齢:38歳  出身:福岡  血液型:O
特技:生物学者
九州大学の教授で生物学の権威として広く知られている。98年に相次いで起きた船の遭難事故が降魔の仕業であるといち早く見抜いた。華撃團結成後もJ-11の開発に携わったり、助言を与えたりと華撃團を支援し続けている。

最終幕へつづく……

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