第八幕
「ボルケーノ・プロジェクト




 西暦2000年(平城12年) 元日・午前10時。劇場は静まり返っていた。
 1999年から2000年に変わる大晦日の夜は『千年一夜特別公演』と題されたカウントダウン公演が行われ、ほとんどの者は午前2時まで起きていた。しかし元気な明日香たちは起きて初詣に行く仕度を整えている。
 だがここに一人不幸な男が居た。
スタッフとして公演に参加していた大鳥は他の隊士たちよりも遅い午前5時ごろに就寝した。しかし……
ブロロロロロ……
大鳥の部屋は道路に面しているため、道路を走る車の音がよく聞こえる。

(くそ……ちっとも寝付けねぇ……)

 大きなトラックやエンジン音の大きい車が走るとその音で起きてしまうので、なかなか寝付けない。さらに・・・・
バタンッ!

「おっはよぉっ!」

 と、メイリンが勢いよく扉を開けて入ってきた。

「あぁ〜、まだ寝てる!」

 大鳥が布団に潜り込むのを見ると、メイリンは布団の上に乗っかり、顔を覗きこんでくる。

「ほらほら!正月だよ!もうみんな下に集まってるんだよ!」
「……あぁ?なんで?」
「なんでって……忘れちゃったの!?初詣行くって約束したじゃないかぁ!!」
「はつもうでぇ?……そういや、したような……」

 確かに、公演が終わった後、そんな約束をした覚えがある。

「頼むよ、メイリン……俺、5時に寝たんだよ。もう少し寝かしてくれよ……」
「ダ〜メッ!一日に5時間寝れば十分!約束は約束だよ、ちゃんと守らなきゃ、隊長失格だよ?」
「むぅ〜……わかったよ、行くよ。行きゃいいんでしょ。」

 約束した以上、初詣に行かざるを得ない。大鳥はしぶしぶ起き上がり、顔を洗って玄関へ下りて行った。
 ロビーには既に明日香たち隊士全員が集合していた。

「みんな!大鳥のお兄ちゃん連れて来たよぉ!」
「大鳥さん!お早うございますっ!そして明けましておめでとうございますっ!」

 明日香は今日も元気一杯の笑顔で大鳥に挨拶する。
 弥生もゆり子も元気そうだ。ただ一人、キャサリンは顔を膨らましている。

「You late!」(遅い!)
「ご、ゴメン……」
「レディーより遅い男なんて、有り得ないわ!!」
「まぁまぁ、そう言わんと。ほな、行きまひょか!」

 一行が向かった先は明冶神宮。
帝國華撃團・花組の隊士たちも新年は揃ってこの明冶神宮へ初詣に来ていたという。境内には屋台が並び、様々な売り物が並べられている。食べ物には目が無いメイリンはお参りよりもそっちの方に興味を持っているようだ。

「うわぁ〜!トウモロコシに焼き鳥、綿菓子、りんご飴!回転焼もある!」
「メイリン、食べ物は後。先にお参りをすませるわよ。」
「えぇ〜!いいじゃない!放してよ弥生ってばぁっ!」

 屋台のほうへ駆け出しそうなメイリンの手を保護者のような弥生が握ったまま放さない。
 人ごみを掻き分けてようやく賽銭箱の前まで辿り着き、それぞれ願い事をした。

『みんながいつまでも家族のように仲良く居られるように。』(大鳥)
『今年は、もう少しNGが減りますように。それと、大鳥さんと……』(明日香)
『いつまでもこの愉快な仲間たちと過ごせますように。』(弥生)
『ウチの発明がみんなの役に立ちますように。』(ゆり子)
『もっと強くなって、もっと美味しいご飯が食べれて、それからそれから……』(メイリン)
『ハリウッドに戻ってまたアカデミー賞がもらえるように。』(キャサリン)

 お参りを済ませるとそれぞれわかれて行動した。弥生はメイリンを連れ歩いて屋台巡り。ゆり子とキャサリンは猿回しなどの芸を見て回っている。
 睡眠不足の大鳥は待合室に腰を下ろして休憩していた。しばらくすると、りんご飴を舐めながら明日香がやってきた。

「大鳥さん?(ムグ)……どうしたんです?(モグ)……元気ないですねぇ?(ング)……」
「……俺は5時に寝たからね……まだ眠いんだよ。」
「大丈夫……(ムグ)……ですよ。人間、一日(ング)五時間寝れば大丈夫ですから。」
「(メイリンと同じこと言いやがって)……舐めるか喋るかどっちかにしてくれ。」

 ようやくりんご飴を始末した明日香は大鳥の隣に座って外を見る。

「よかった……みんなと無事に正月を迎えることが出来て……」
「……君らのお陰さ。君らが頑張ったから、今の日本は平和なんだ。」
「そんな……私たちが頑張れたのは、大鳥さんのお陰なんですよ。」
「そうかな?……俺は別に何もしてないと思うが……」

 大鳥は龍皇を倒せたのは明日香たちの実力だと思っていた。一方、明日香は大鳥の存在が自分たちの力を最大限に発揮させる触媒になっていたことに、薄々気付いていた。

「ねぇ、大鳥さん。大鳥さんは、神様に、何をお願いしたんですか?」
「俺か?……『君たちがいつまでも家族のように仲良くいられるように』って願った。……俺の願いって、これしかないからね。それで、君は?」
「私は……その……『NGがもう少し減るように』って。」
「それって、自分の努力次第だろ?」
「だからもう一つ……あっ。」

 そこで明日香は慌てて口を塞いだ。二つ目は誰にも・・・特に大鳥には知られたくない願い事なのだ。

「もう一つって?」
「いえ……その……それは秘密ですっ!!」

 急に顔を真っ赤にし、顔をそむけた。

「何だよ、自分で言い出しといて。」
「大鳥さん!女の子には男の人に言えない願い事があるんです!!」
「言えないことって?……あ、わかった!!」

 その瞬間、明日香はビクッとなり、顔をさらに赤くした。

「わ……わかったって……」
「君のもう一つの願い事って……」
「な、な、な、な、な、何です?」

心臓の鼓動が聞こえてくる。おまけに息が苦しくなり、汗までかいている。
だが、大鳥の出した答えは、明日香の予想とはまったくかけ離れたものだった。

「『これ以上太りませんように。』だろ?」
「は?……」

あまりにも間の抜けた答えに、一瞬言葉を失った明日香だが……

「……はぁぁっ!?」
 バッチィィィンッ!!
 頬を叩く乾いた音が周りによく響き渡った。明日香は怒りをあらわにしながら去っていったが、大鳥はワケがわからず、取り合えず後を追いかける。

「ま、待ってくれよ明日香くん!」
「大鳥さんなんて、大っ嫌い!!(ちっとも私の気持ちをわかってくれないんだから!)」
「ゴメンよ、俺が悪かったよ!!(でも、あんだけ怒るってことは、図星かな?)」

 その後、弥生たちと合流し、劇場へ戻っていった。

「あ、さつきさん。」

 劇場の前に着くと、ちょうどさつきが帰ってきた。

「ど、どうしたんですか、その恰好?」

 さつきは黒い革製の上着にGパンという、落ち着いた感じの普段の服装とはまったく違う恰好をしていた。

「え?どう、まだ似合うでしょう?昔はよくこんな恰好で夜のハイウェイを駆け抜けたものよ。」
「……あの、さつきさん。念の為に聞きますけど、どちらへ行かれてたんですか?」
「ちょっと富士山まで初日の出を見に。キレイだったわよ。」
「ちなみに、どなたと?」
「え?翔たち・・・・ほら、あなたと清志君を木更津の脇侍工場から脱出させるのに協力してくれたみんなよ。」(第3話参照)
「(やっぱりあの暴走族と……)今年は規制も厳しいと聞いてましたけど。」

 毎年、暴走族が高速道路のサービスエリアなどに集結して富士山の初日の出を拝むということが起こるため、山梨県警をはじめとする各県の警察が協力して厳しい規制をする。テレビの警察密着番組などでお馴染みの光景である。

「なぁ〜に言ってんのよ。警察の規制を潜り抜けるなんてかぁ〜んたんなものよ。あんな規制に引っ掛かるような若手たちと一緒にしないで。私たちはキャリアが違うの。」
「キャリアって……」

 思うに、さつき達はその辺にいる暴走族とは格が違うのだろう。脇侍工場の時も、神龍軍団の防衛網を突破して大鳥たちを救出し、全員無事に脱出できるほどの腕だ。

「ん〜・・・・眠いわ。私は寝るから……」
「俺も・・・・ふあ〜・・・・眠い。」

 二人ともあくびをしながら自室に戻り、それぞれ布団に潜り込んだ。




1月26日 北海道 有珠山
有珠山の近くに立っている測候所に職員が集合。地震が続いているため、職員が交代で火山活動を監視しているのだ。その朝、夜勤だった二人の職員が麓の町へ降りる途中、一人が竹藪から真っ白な花を採ってきた。

「おい、何の花だそりゃ?」
「あそこの竹に咲いていた。」
「竹の花?……竹に花って咲くのか?」
「さあ……でも何か綺麗じゃないか。」
「……よせやい、何か縁起悪いぜ。」

 昔から『その花が咲けば災いの徴。』つまりとんでもない悪い大事件が起きるという言い伝えのあるさざめ竹に、真っ白な花が咲いた。そして、これからそのとんでもない悪い大事件が起こることを、誰も知らない。

その頃、一基のところに清志が訪ねてきていた。

「有珠山に?」
「はい。」
「確かに火山活動が活発になりつつあると聞いているが、それが奴らの仕業だと?……その情報は角度の高いものだろうな?」
「竜司が仕入れた情報です。間違いはないと思います。」
「……わかった。お前たちは引き続き情報を集めてくれ。」

 清志が去った後、一基は大鳥と明日香を呼び出した。

「すぐに全隊士を連れて有珠山へ向かってくれ。」
「有珠山……北海道、ですか?」
「そうだ。火山活動が活発になりつつあり、危険な状況だ。」
「任務は避難活動の手助けですか?」
「いや……神龍軍団の襲撃に備えろ。」
「バカな!神龍軍団は既に滅んだはずでは!?」

 龍皇を倒した後、東京には降魔の一匹たりと出現していない。大鳥は既に神龍軍団は壊滅したと思っていた。

「奴らは滅んではいない。飛龍と翔龍が生き残っている。」
「でも……どうして火山活動と神龍軍団が関係しているんですか?」
「火山活動を促進させているのは神龍軍団だ。『ボルケーノ・プロジェクト』とか言う計画が80年代から進められていて、既に何度か実験的に噴火させてきたそうだ。三原山や三宅島の噴火、雲仙普賢岳の大火砕流も奴らの仕業だ。いずれは全国の火山を噴火させるつもりだろう。すべての火山が一斉に噴火したら、日本は滅ぶ。」
「そんなことはさせません。」

 大鳥の声が変わった。明日香は異常を感じて大鳥の顔を見た。すると、いつもの凛々しい顔と違い、まるで何かを憎むような顔になっていた。

「大鳥……これだけは言っておくが、私情は持ち込むな。」
「心得ています。」

 その後、部屋を出た大鳥はテラスから外の景色を眺めている。
 大鳥の様子がおかしいことに気付いた明日香は声をかけずにはいられなかった。

「大鳥さん?……どうかなさったんですか?」
「何が?」

 質問に答える大鳥の声もいつもとは違う。やや低く、怒っているように聞こえる。

「なんか……怒っているような、憎んでいるような……」
「……俺はな。火山噴火って奴が大嫌いでね。あれが……人工的に起こした噴火だってんなら尚更だ。」
「『あれが』?・・・・どういうことなんですか?」
「……雲仙普賢岳が噴火したのを、覚えているか?」
「……ええ。」
「あのとき、俺と、俺の両親と妹はな……深江町に居たんだ。」

 それだけで、明日香は大鳥の過去、そしてこれまで謎とされてきた大鳥の家族のことについて悟ることができた。
 かつて雲仙普賢岳が噴火した時、深江町は土石流と大火砕流に見舞われ、もっとも大きな被害を受けた町だ。土石流で家を失い、そして火砕流で家族を失った大鳥は、誰とも口を利かず、家のあった場所に座り込んだ。

「そんな俺を見つけて保護してくれたのが……当時自衛官だった大神司令だ。」

大鳥の潜在能力を見抜いた一基は、身柄を引き取り彼を海上自衛隊に配属させた。

「私情は持ち込むなと、司令に言われたが……あれが神龍軍団の起こした噴火なら……俺は神龍軍団を許せない。」
「でも……大鳥さん、復讐からは……」
「わかってる。」

 明日香が『復讐からは何も生まれない』と言いかけたが、言い終わらないうちに大鳥が先に口を開いた。

「復讐は何も生まない。それは俺がメイリンにも言った台詞だ。その俺が復讐のために勝手に動いたのでは、メイリンにあわせる顔が無い。」

 各隊士たちへの説明はその後、サロンにて行われた。

「神龍軍団の残党ですか。まだ居たんですね。」
「連中も案外、しぶといなぁ。」
「チャッチャとやっつけて、次の舞台の稽古にかからなきゃね!」
「メイリンの言う通り、残党狩りなんて趣味じゃないから、さっさと片付けましょ。」

 どうにも、隊士たちの気合は今ひとつ入っていないようだ。
 みな相手の力量を見誤っていた。それは大鳥や明日香とて同じことだった。




 翌日一行は北海道へ発ち、有珠山に近い洞爺湖畔の温泉街に到着した。

「あれが有珠山と照和新山か……」

 旅館の客室からは有珠山と照和新山がよく見える。
 有珠山は過去に何度も噴火を繰り返している。中でも有名なのは南側の山麓が爆発した時で、その威力は地面が大きく盛り上がって一つの山になるほどであった。このとき出来た山が照和新山である。

「……なるほど、噴煙の量が多いように見えますね。」

 大鳥は隊士たちを一室に集め、作戦会議を開いた。
 卓袱台の上に有珠山とその周辺地域の地図を広げた。地図のあちこちには赤や青色の点が見える。

「いいか、これが有珠山の全体図だ。赤の点は地盤の緩みなどから噴火・爆発の可能性がある地点だ。また噴火後も地滑りなどの二次災害が起こる危険もある。そして、問題なのは青の点だ。」

 青の点が打たれている場所の地下には降魔が潜んでいる。
 先に打ち上げられたJ−11ロケットに搭載されていた降魔を監視する人工衛星が探知したポイントであり、この地下では降魔が何らかの活動を行っていると考えられている。

「何らかの活動って、何をしているんですか?」
「詳しいことはよくわからんが、降魔の行動を追っていると奇妙なことにマグマの中へ消えていくそうだ。」
「マグマの中へ?」
「真木教授の話だと、神龍軍団に操られた降魔は自らマグマに飛び込み、その悪しき魂を以ってマグマを活性化させているのではないか、ということだ。」
「っちゅうことは、やっぱ有珠山の火山活動が活発になったんは神龍軍団の手によるものっちゅうことかいな……」
「断定はできない……が、その可能性が高い、ということだ。」

 ゴゴゴゴゴゴ…………
 そのとき、激しい揺れが起き、旅館の窓ガラスが割れた。

「地震か!?」
「いや……これは違うっ!」

 窓の外を見ると、有珠山火口の西側で大爆発が起こり、黒煙が噴出していた。

「噴火!?」
「よし……全機出動!市民を指定された避難場所へ誘導しろ。ただし、敵が出現した場合は任務を中断し、迎撃せよ!」

 すぐに新武が出動。住民の避難の援護を始めた。
 噴火した地点からは真っ黒な煙が噴き出し、時折中規模な爆発を繰り返している。そのたびに地面が大きく揺れる。


 住民の避難がほぼ完了しかけた頃、緊急連絡が入った。

『各機に告ぐ!洞爺湖温泉街に降魔出現!避難誘導を中断し、ただちに降魔を迎撃せよ!』
「こちらセイバー、了解。各機、聞こえたか?」
『イーグル、了解しました。』
『スワン、ただちに現地に向かいます。』
『フェニックス、聞こえたよ!』
『リカバリー、了解や!』
『Roger that, Lightning.』(ライトニング、了解。)

 ただちに降魔が出現した場所へ急行。
 現場にいち早く到着したのは大鳥と明日香だったが、そこには何も居なかった。

『ここ……ですか?』
『座標はピッタリ、地図とも一致している。ここが指定された地点だ。』

 場所は温泉街のど真ん中。しかし地震によって建物に被害が出ている他は何ら異常が無く、降魔も居ない。

『本部へ、こちらセイバー。指示された地点に到着したが降魔を発見できない。』

 レーダーにも反応は無い。だが、本部のモニターには反応がある。

「そんなハズは無い。お前たちの周りに降魔の反応が……まさか……セイバー!降魔は下だ!!」
『下!?』

 ドドドオオオォォォォッ!!
 次の瞬間、地面から降魔が次々と飛び出し、大鳥と明日香に襲い掛かった。

「イーグル!!」
「はいっ!!」

 戦闘を開始するも、前後左右、時には上からも攻撃してくる降魔の猛攻に大鳥と明日香は徐々に追い詰められる。だが……

『走れ稲妻!エレクトロ・ファイア!』

 ドオオオオオオオオオォォォッ!
 キャサリンを先頭に、弥生、ゆり子、メイリンが駆けつけ、形勢は逆転し、降魔の群れは全滅した。

「まったく、何やってんのよ。結局はこの私に頼るっきゃないのね。」
「隊長、遅れまして申し訳ありません。」
「いや、みんな良いタイミングで来てくれた。包囲網の外から攻撃してくれたから助かったんだ。」

 大鳥たちは敵を殲滅し、とりあえず安心していたが、本部では……

「レーダーに反応!大型の未確認飛行物体3機が高度1万、セイバーを基点に方位2−8−0から急速接近中!」
「目標の識別は?」
「反応は赤!神龍軍団です!」
「セイバー!新たな敵影をレーダーが捉えた。方位2−8−0、高度1万から大型の敵が3機飛来する!警戒しろ!」
『こちらセイバー、了解!』

 すかさず和馬はあおいに命じて増援要請を出す。

「あおい、『ホーネット』を出撃させろ。それから、空自に増援要請を。」

 この命令を受けて、千歳基地に待機していた清志機がスクランブル発進し、ただちに有珠山へ向かった。それに続いてF-15戦闘機が次々と飛び立っていった。



 その頃、大鳥たちは飛来した3機の敵と相対していた。だが、その3機は……

「お前……・お前がなぜ生きている!」

 3機のうち、2機は飛龍と翔龍であった。そしてもう1機は死んだはずの龍皇だった。

「フフフ……私が君のような青二才にやられるものか。あの時は君たちの実力をはかったまで。相手の真の実力とは負けてみないとわからぬものだからな。」
「なら、今度こそお前を倒す!」
「フフフ……熱いな、大鳥龍雄。雲仙での実験の折に、誰か死んだのかな?」
「貴様ぁぁぁっ!!」

 頭に血が上った大鳥は挑発に乗り、単独で龍皇機に突撃した。しかし……

「愚かな……大波ぁっ!」

 龍皇の発した気合で地面が爆発。その爆風に大鳥機は押し戻されてしまった。

「君らの手数は知り尽くした。もはや君らに勝ち目は無い。」
「なんだと!?」
「さぁ、覚悟したまえ!」

 3機が一斉に襲い掛かってきた。龍皇もさることながら、翔龍、飛龍の攻撃力はそれまでの比ではなく、誰一人としてロクな抵抗も出来なかった。
 しかし新武の装甲に助けられ、乗っている大鳥たちは軽傷だった。

「フフフ、頑丈なものだ。だが……雷波!!」

 ドオオオオオオオォォォォォンッ!
 雷が新武に次々と連続して落ち、電気系統が完全にイカれて機能が停止してしまった。

「新武が!?」
「モニターに何も映らないっ!」
「電気系統がイカれてしもうたんや!」
「このままじゃ、やられちゃうよ!!」
「このぉっ!動けって言ってるでしょ!私の言う事聞いてよ!!」

 みなコックピットの中でパニックに陥っている。動かない新武はただの鉄屑にすぎなかった。
 だが、1機の新武が龍皇機に突っ込んできた。

「はああぁぁぁぁっ!!」

 明日香の乗る機体だ。剣を抜いて斬りかかったが、見えない防御壁にはばまれてしまった。

「ほぉ……さすが裏御三家の末裔。私の電撃を避けきったか。」
「龍皇、今度こそお前を倒す!破邪剣征・桜花放神!!」

 ドオオオオオオオォォォォッ!
 霊力の塊が龍皇に向かっていく。

「笑止っ!!」

 パアアァァァンッ!
 桜花放神は片手で弾かれてしまった。

「なっ!」
「フフフ……荒鷲も無いのにこの私に霊力勝負を挑むとは愚かな。手本を見せてやろう、円波!!」

 ドドドオオオオオオオオォォォォッ!!
 明日香機の周りで連続して爆発が起こった。360度からの爆風と衝撃で新武が大破した。

「あ、明日香君……」

 新武の右腕と左足は引きちぎられ、装甲は大きく歪み、黒煙が上がっている。

「まだ……戦えます……この命ある限り……」

 しかしどうすることも出来ない。新武が動かない以上、魔操機兵に立ち向かう術はない。

「さて、止めを刺すとするか。既に霊剣荒鷲と剣魂逸敵は破壊され、第三台場でのような芸当は出来まい。」
「……首領、そういうわけにもいかんようですぞ。」

 飛龍が上空を見上げながらそう言った。翔龍も上を見ている。

「む?……なるほど、厄介な蜂どものお出ましか。」

 千歳基地から発進した清志率いる戦闘機隊が突撃してくるのが見える。

「フ……キミたちは運がいい。この場は預けておこう。」

 それだけ言い残すと、龍皇たちは姿を消した。
 一方的な敗北を味わった大鳥たちは、動かなくなった新武の操縦席で怒りに震えている。

「……龍皇……許さん……絶対に許さん!」
「こんなことって……」
「認めないっ!私は認めないっ!!」
「新武が……機能停止やなんて……」
「ボクの……ボクの技は……通用しないの?」
「この私が……私が負けた……」

 その後、機体は回収され、隊士たちも本部へ帰還したが、誰も口を利かず、自室に戻っていった。今回の噴火では数名の軽傷者は出たものの、死者・重傷者はなく、建物への被害も最小限に抑えられた。作戦は成功したと言える。
 しかし、新武は全滅。すぐに科学技術班が修理にかかったが、電気系統が完全に破壊され、全ての部品を交換せねばならなかった。だが取り替える部品は揃っておらず、それまで新武は凍結されることになった。


次 回 予 告

有珠山の戦いで
確かに私たちは負けたわ。
しかし、今度は負けない。
私たちには、先人たちが遺してくれた、
切り札が遺されているわ。

次回 サクラ大戦F
『先人たちの遺産』
平城櫻に浪漫の嵐!

大鳥くん、勝負はこれからよ!

 

 

キャラクター紹介

黒田 清志(Kiyoshi Kuroda) C,V:小林清志
身長:188cm  体重:89kg  生年月日:1975年2月11日  年齢:24歳  出身:福岡  血液型:B
特技:射撃・航空機操縦  階級:諜報部隊長→ドラゴンナイツ隊長  コールサイン:ホーネット(雀蜂)
航空自衛隊築城基地のエースパイロットで'98年に降魔が福岡に出現した折、F-15で迎撃。ただ1機生還するも自ら退官。その後、和馬にスカウトされて入隊。諜報部隊の隊長に任命され、東京華撃團の目となり、耳となる。飛行可能な霊子甲冑・新龍を操り戦闘に参加することもあった。
ドラゴンナイツが結成されると即その隊長に任命され、コールサインをドラゴン1に改める。米海軍をも打ち破った巨大降魔と戦闘しこれを見事撃破する。さらに最終決戦では翔龍機をも撃墜する戦果を挙げた。
名前自体に意味は無く、単に思いつきで名前を決めました。

大神 一基(Ikki Ohgami) C,V:池田秀一
身長:179cm  体重:65kg  生年月日:1957年2月3日  年齢:42歳  出身:栃木  血液型:A
特技:二天一流剣術  階級:東京華撃團総司令  コールサイン:シルバーウルフ(銀狼)
大神一郎と真宮寺さくらの孫で、和馬の従兄弟。二刀流の使い手。陸上自衛隊の二等陸佐だったが故あって自衛官をやめた。栃木に戻って和馬やさつき、大河らに声をかけ、東京華撃團設立に奔走。さらに大鳥など優秀な人材をスカウト。来るべき日に備えていた。華撃團設立後は総司令に就任し、多忙な日々を送る。
政財界の要人たちとの交流が深く、海外にも多くの友人がいる。華撃團復活が成り、巴里・紐育両華撃團復活も現実味をおびてきた現在、世界の要人たちから注目される存在になっている。
ネーミングは特に迷うことも無く、大神一郎と米田一基の名前をくっつけただけです。

第九幕へつづく……

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