第五幕
「夢、叶う時・・・」



 平城十一年 8月。
 夏の暑いある日、劇場に一基がニコニコしながら戻ってきた。たまたま売店の掃除を手伝っていた明日香が渚と共に出迎えた。

「お帰りなさいませ、支配人。」
「よぉ、明日香にナギ。精が出るな。」
「どうしたんです、妙に嬉しそうですね?」

 すると一基はさらに嬉しそうな笑顔になる。

「わかるか?」
「ええ。何かいいことあったんですか?」
「まぁな。明日香、悪いがあとで大鳥とゆり子と一緒に支配人室に来てくれ。」

 数分後、3人が支配人室にやってきた。
 中では一基、和馬、さつき、新次郎、そして真木が待っていた。

「どないしたん、勢ぞろいして?」
「ゆり子、おめでとう。」

 さつきがそう言うと、他の4人も続いておめでとうと言うが、ゆり子には何のことかさっぱりわからない。

「なんや?ウチの何が目出度いん?」
「決まったんだよ、打ち上げが。」

 一基がそれだけ言うと、ゆり子は驚きながらも笑顔になった。

「ホンマ!?」
「ああ、来週の木曜日に打ち上げられる。」
「ついては……お前と大鳥、明日香の三人には護衛として種子島へ飛んでもらうことにした。」
「ホンマに!?打ち上げに立ち会えるのん?いやぁ、嬉しいわぁ!おおきに、支配人!!」

 しかし、大鳥と明日香の二人には何がなんだかわからない。

「支配人、自分たちにはさっぱり話の内容がわかりませんが……・」
「J−11ロケットを知っているか?」
「ええ……何でも、エンジントラブルで打ち上げが中止されたっていう……」

 J−11ロケットは国内で開発生産された部品のみで建造された。予定では春に打ち上げされるはずだったが、エンジンに問題があったため、打ち上げが中止されていた。

「そのロケットにウチの設計したエンジンが使われとるんや。」

 エンジンそのものが交換され、ゆり子が設計したエンジンが新たに搭載され、打ち上げが決まったのだ。急遽打ち上げが決まったことには理由がある。積荷は降魔の動向を監視する人工衛星で、こちらは真木教授のチームが制作した。降魔がふたたび出現した今、降魔を監視するということの重要性が明らかになり、政府も打ち上げを承認したのだ。

「降魔を監視する人工衛星が積まれている。神龍軍団が狙ってくると見ていい。だから、護衛のためにお前たちを派遣する。しっかり頼むぞ。」
「了解しました!」

 三人ともビシッと敬礼し、命令を承服した。
 現地へは和馬と真木教授も同行し、留守は一基や竜司と弥生が預かることになる。

 火曜日、打ち上げ二日前に大鳥たちは種子島宇宙センターに到着した。
 既にロケットは発射台にセットされており、整備点検が念入りに行われている。新武3機は発射台近くの格納庫に入り、有事の際にはすぐに発進できるように整備されている。

「打ち上げまで後二日……何事も無い事を。」

 モニターに映っているロケットを見ながら大鳥が呟く。

「そう願いたいがな大鳥……奴らは必ず来る。こんなものを打ち上げられたんじゃ、奴らも動きが取りにくくなる。」
「そうですね。さすがに神龍軍団も宇宙空間に出てからは手が出せないでしょうから。来るなら発射前……」

 和馬や明日香も心配しているが、ゆり子は……

「何言うてんねん。あのロケットはウチの夢の結晶や。どないなことしても、あれはウチが守る!ぶっ壊されてたまるかいな!」

 そう言うゆり子に、大鳥は多少の危険を感じた。確かに、ゆり子の性格からして、ロケットを守るためなら手段を選ばないだろう。しかし、日本を守る華撃團の隊士にはその考え方は許されない。


 その頃、劇場の作戦指令室ではさつきと一基が種子島の様子を見守っている。

「来るでしょうか、敵は?」
「来る。必ず来る……だからこそ、あいつらを行かせたんだが……」

 そこへ、キャサリンが肩を怒らせながら入ってきた。

「どうした、キャサリン?」
「支配人!近頃、ないがしろじゃない?」
「誰が?」

 するとキャサリンは自分を指差した。種子島に自分を派遣しなかったことで、自分が軽んじられているのでは、と思ったのだ。

「そんなことはない。留守を預かるのも立派な任務だ。それに我々の本来の任務は東京の防衛だ。首都防衛には、君の力がぜひ必要なのだ。」
「……・・わかったわよ、今日はそういうことにしといてあげる。」

 ふて腐れたような顔を見せると、キャサリンは去っていった。その後、さつきは思わずクスッと笑った。

「おい、笑うヤツがあるか。」
「フフフ……あの子も気にしてたんですね。」
「……・正直、みんな行きたいんだろうよ。」

 キャサリンだけでなく弥生もメイリンも種子島へ行きたいと、既に談判しに来ていた。


 水曜日、打ち上げ前日。
 ゆり子はコントロールルームから発射台にセットされたロケットを見つめている。

「ゆり子くん、またここに来ていたんだね。」
「ウチの夢の結晶やさかい、状態がすぐにわかる所におりたいんや。」
「そうか……・異常は……・なさそうだな。」
「あっても、すぐにウチが直してみせるで。」

 ここに来てから、ゆり子はこのコントロールルームに泊り込みで様子を見守っている。

「言っておくが、ゆり子君。俺たちの任務はあのロケットの防衛だ。体を壊して任務に支障をきたしてもらっては困る。」
「ウチのことは大丈夫や。発射までたったの20時間や。心配することはないで。」

 その後もゆり子はコントロールルームに留まり続けた。

 その頃、神龍軍団も動き出そうとしていた。
 既に蒼龍と紅龍を倒され、幹部は三人に減っていた。だがその内の一人嵐龍はいない。

「既に蒼龍と紅龍が倒され……・今度は厄介な物が打ち上げられようとしている。」

 神龍軍団もロケット打ち上げの日時は知っており、攻撃の準備を整えていた。

「……飛龍……嵐龍はどうした?」

 闇の中から聞こえる声に、飛龍と翔龍はひれ伏して答える。

「嵐龍は、既に任務に就き、情報を集めております。」
「例のロケットは?」
「その任務はわたくしが……・」

 進み出たのは翔龍だ。しかし首領と思われる声は……

「そうだな……・今回は、私も出よう。」
「首領が?」
「そうだ。このロケットが打ち上げられれば、我らも動きが取りにくくなる。それに……東京華撃團とやらの実力を見てみたい。」

 神龍軍団の首領と翔龍がロケット破壊のため、種子島へ出撃した。


 木曜日 午前11時。 発射まで1時間。
 大鳥、明日香、ゆり子の三人は新武に乗り込み、待機している。

『セイバーより各機。異状はないな?』
『イーグル、大丈夫です。』
『リカバリー、いつでも行けるでー!』
『よし、発射まであと1時間だ。警戒を怠るな。』

 コントロールルームでは最終チェックが行われている。
 和馬と真木教授もここからロケットの様子を見守る。

「発射まであと1時間を切った……何事もない事を祈ります。」
「………」

 しかし、和馬は心配そうな表情でモニターを見つめている。

「和馬さん?」
「どうやら……長い1時間になりそうだ。」

 ビーッ!ビーッ!
 その直後、警報が鳴り響いた。敵の出現である。

『緊急警報、国籍不明の航空機が接近中。数は10機。』
「来たぞ……ホーネット、およびオメガ隊出撃せよ!」
『ラジャー!』

 種子島の空港に待機していた清志率いる戦闘機隊が出撃態勢に入る。
 清志の乗る機体は新龍だが、他の機体は自衛隊にも配備されているF−15戦闘機だ。

『国籍不明機の高度は1万m。種子島宇宙センターを基点に方位0−2−0から急速接近中!オメガ隊、離陸せよ!』
『滑走距離は短くとれ、発進開始!』
『30秒間隔で離陸しろ!二番機、行け!!』

 スクランブルがかかり、格納庫から次々と戦闘機が姿を現し、滑走路へ向かう。

『ホーネット、Cleared for Take-Off!幸運を!』(離陸を許可する)
『ラジャー、種子島。世話になったな。Take-Off!!』(発進!!)

 垂直離着陸機能を有する新龍は滑走路を必要としない。真っ直ぐに上がり、先に離陸したオメガ隊と合流し、敵機に向かう。
やがてレーダーが敵の機影を捉えた。数は10。種子島宇宙センターへ一直線に向かっている。

『来たぞ、1時の方向にお客さんだ。敵は降魔、数は9。あとの1機は指揮機と思われる中型の魔操機兵。』

コントロールルームで通信を傍受し、戦闘の指揮を執るのは和馬だ。

「了解、ホーネット。……マスターアームを点火。発砲を許可する。降魔を宇宙センターに近づけるな。」
『ラジャー、マスターアーム点火。ホーネット、交戦!』

戦闘機隊と降魔の空中戦が始まった。
新龍やF−15に搭載されているのは霊力が込められた対降魔専用のミサイル。撃破するには至らないが、ダメージを与えることは出来る。しかし、降魔の一撃を食らうか、至近距離ですれ違っただけでもF−15は撃墜されてしまう。

『オメガ3がやられた!』

次々と味方の損害が増えていく。
そんな中、清志の新龍は味方を援護しつつ、降魔を攻撃する。

『頂きだ!Hornet,FOX2!!』(ホーネット、発射!!)

清志の放ったミサイルが降魔に命中。爆発四散した。

『Bulls Eye!!』(命中!!)

しかし、清志の援護もむなしく味方のF-15は降魔にダメージこそ与えるが次々と撃墜されていく。

「さらに2機やられました。」
「くそ……セイバー、敵の数は8に減ったが、そのうち4機が宇宙センターに向かっている。迎撃態勢をとれ!」
『了解!!』

 やがて接近する四匹の降魔が見えてきた。

「来るぞ……みんな、用意はいいな?」
『はいっ!』
『いつでも行けるで!』

 降魔が着地、そしてすぐに新武との戦闘を開始した。
 空の戦いは熾烈を極めた。空中の降魔は新龍がすべて仕留めたが、味方のF−15も撃墜されてしまった。空にあるのは新龍と魔操機兵だけであった。

「くそっ!この野郎、何て機動だ!!」
『くっ……やるわね、こいつ!』

 魔操機兵に乗っているのは翔龍であった。二人とも見事な機動で互いに攻撃の隙を与えない。
 一方、陸上では大鳥たちが着地した降魔をすべて撃破し、空の戦況を見つめている。

「……・頑張れ・・・清志。」

 凄まじいドッグファイトを展開している清志機を見上げながらそう呟いた。

『セイバー、地中より霊力反応。注意しろ!』
「なにっ!」

 ドドオオオオオォォォォッ!
 地底から出現したのは大型の魔操機兵だった。これまでに出現した幹部のものに比べると一回り大きい。

「なんだ、こいつは?」
『何ちゅう大きさや……』
『まさか・・・これが敵の首領?』

 通信を傍受しているらしく目の前の機体が応えた。

『ほぉ、勘の鋭い娘がいるようだ。』
「すると貴様が……・」
『君らが、蒼龍と紅龍を葬った東京華撃團だね。私は神龍軍団の総帥・龍皇だ。君らは多少目障りになってきた。悪いが……一つ死んでもらうよ。そして……・翔龍!』
『はっ!』

 龍皇の合図を受けて清志と交戦中だった翔龍が突然急降下。そして発射台に向けてミサイルを放った。

『させるかっ!!』

 ドゴオオオオオオォォッ!!
 清志機が翔龍の放ったミサイルを機銃掃射。ミサイルは空中で爆発したが、破片が発射台にあたり、一部損傷した。

『ロケットが!』
『セイバー。発射台からの信号がストップ。こちらの指示も受け付けない。今の爆発でどこか損傷したようだ!』
『何やて!?』

 コントロールルームで発射台の制御が出来ない以上、発射は不可能である。

『ウチが何とかする!』
『了解、リカバリー。頼むぞ。」

 ただちにゆり子機が発射台へ急行する。だが、それを龍皇機が追撃しようとする。

『動くな、小娘!』

 しかしその前に大鳥と明日香が立ちはだかった。

『動けないのはお前の方だ!!』
『お前たちのような雑魚が、私の相手になるものか……死にたくなくば、そこをどけ。』
『あいにく、邪魔させるわけにはいかないの。我が剣未熟ながら……しばしお相手願いましょうか。』

 龍皇と大鳥、明日香が戦闘を開始した。
 さすがに首領である龍皇は強く、素早い動きに二人は翻弄される。

『早過ぎる!』
『イーグル、集中しろ!動きを読むんだ!!』
『はいっ!!』

 一方ゆり子も発射台に到着。修理にかかっていた。ゆり子の新武『リカバリー』が他の機体と大きく違う点は、味方機体の応急修理が可能な点にある。マジックハンドをはじめドリルや溶接機能も備わっているので発射台の修理も可能だ。

「ウチの夢……やっと叶うウチの夢なんや。ぶっ壊されてたまるかいな!」
『セイバーよりリカバリー。落ち着いて修理してくれ、時間は稼いでやる!』
「了解や、こっちは任しとき。修理が終わったらすぐに行くさかい!」

 やがて損傷箇所の修理が終わった。コントロールルームに再び情報が入ってくる。

『回線が復活しました。打ち上げシークエンス再開!打ち上げまであと1分!すべての信号はすべて青!ロケットに異常なし!上空はクリアー!』
『よくやった、リカバリー!後はこっちに任せて戦線に復帰せよ!急いでその場を離れろ!!』
『了解や、副司令!』

 発射台からゆり子が離れる。既に発射の最終秒読みがスタートしている。

『ファイナルカウントダウン。10……9……8……7……ブースター点火!』
 ドオオオオオオオオオオォォォォッ!!
『5……4……3……2……1……イグニッション!!J-11、リフトオフ!!』
 ゴオオオオオオオオオオオォォォォォッ!!
 ロケットは凄まじい轟音と光を放ちながら天へと上っていく。翔龍も龍皇も作戦の失敗を悟った。

『フン……手遅れか……』
『覚悟しろ、龍皇!』

しかし大鳥も明日香も既に相当のダメージをこうむっている。

『フン、そのザマでまだ私に歯向かうか。愚かな……』
『まだウチがおるで!!』

 大鳥、明日香と合流したのはゆり子機であった。

『リカバリー……よかったな、夢がかなって。』
『おおきに、いま回復さしたるで!これがウチの力や!レインボーシャワー!!』

 ゆり子機から発射された虹色の霧が大鳥・明日香機を包み込む。そして二人の力が回復していく。

『これが……ゆり子さんの力……』
『……さぁ行くぞ、イーグル!!』
『はいっ!』

 回復した二機は合流したゆり子の援護射撃を受けながら龍皇に接近。そしてまず明日香が一撃を放ち、龍皇機に命中した。

『セイバー、今です!!』
『よしっ!龍飛鳳翼・三段刺突!!』

 ドドドッ!ドガアアァァァッ!
 三つの刺突がすべて命中し、龍皇機は小規模な爆発を起こした。

「フ……フフフ……大鳥龍雄、吉野明日香……そういうことか。前言撤回だ、お前たちは雑魚ではない。お前たちは私が直接手を下すに値する者たちだ。いずれまた相見えよう。そのとき貴様らは死ぬ。二人まとめてな!」

 すると龍皇は煙のごとく消えてしまった。そして翔龍も超高高度へ上昇し、離脱した。

「くそ……追尾できない。」

 清志は雲を引いて去って行く翔龍機の追尾をあきらめ、飛行場へ帰還した。
 その後、コントロールルームから連絡が入った。ロケットは無事に大気圏を脱出し、人工衛星も無事に起動した。これにより降魔の動向が宇宙空間から監視され、神龍軍団はその動きを制限されることになった。

 東京へ戻る機内、ゆり子は機に乗り込んでからずっと眠りっぱなしだ。

「よく眠ってますね。」
「まったく……徹夜なんかするからだ。」
「それだけロケットのことが大事だったんですね……まるで宝物を一生懸命守っている子供みたいですね。」
「フフ……違いない。」

 そんな会話をしているとは知らず、ゆり子は眠り続けている。
 東京に帰還した大鳥たちは定期公演を終え、昨年降魔の襲撃を受けた福岡市へ飛ぶことになる。


次 回 予 告

わたしはハリウッドの大スター。
そして超エリートの隊士。
わたしのプライドを傷つける奴は
誰であろうと容赦しない。
そう、誰であろうと……

次回 サクラ大戦F
『プライド』
平城櫻に浪漫の嵐!

私のプライドは私だけのもの。

 

 

キャラクター紹介

江戸川 ゆり子(Yuriko Edogawa) C,V:笠原 留美
身長:157cm  体重:48kg  生年月日:1977年9月11日  年齢:22歳  出身:神戸  血液型:AB
特技:機械修理  階級:花組隊士・霊子甲冑整備担当  コールサイン:リカバリー
 隊士兼技師。つまり李紅蘭と同じ役回り。おまけに関西弁で神戸出身。決定的に違うのは納豆が大好きということ。SF作家でもあり、『降魔誕生』という本を数年前に書いたが発売前に政府から発禁処分を受けた。その後大学に進学していたが一基にスカウトされて入隊。手先の器用さと機械工学に長けているため、技師兼任ということになった。戦闘では前線に出ず、味方の回復などバックアップに専念する。またリカバリーにはマジックハンドなどが装備されていて、応急修理が可能。
 名前は「ウルトラQ」の江戸川ゆり子(演:桜井浩子。通称ゆりちゃん)をそのまま引用しただけ。そのこと自体に意味はありません。


第六幕へつづく……

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