第三幕
「脇侍工場を爆破せよ!」



 平城11年6月。
 その日、東京は雨が降っていた。
 このところずっと雨が続いていたため、公演中、いささか空席が見られることが多かった。

 公演は「竜馬が行く」。司馬遼太郎の同名小説を基に制作されたもので、主演は大胆にも明日香を起用していた。中岡慎太郎役はキャサリン、寺田屋の女将・登勢役はゆり子。千葉佐那役はメイリン。そして近藤勇役には和馬が出演していた。
 幸い、5日目を過ぎても明日香にNGはなく、ファンたちの明日香に対する見方も徐々に変わりつつあった。

 その日、一基は弥生を作戦指令室に呼び出していた。弥生はこの公演では出番が無く、裏方に回っていた。

「橘弥生、参りました。」

 ピシッと敬礼して入る。一基も敬礼をかえし……

「ご苦労……まぁ、座れ。」

 席に着くと、テーブルの画面に地図を映し出した。
 何かの施設の見取り図のようだ。

「これは……」
「木更津に隠されている、神龍軍団のアジトの見取り図だ。」
「なぜ、所在がわかったのですか?」
「3日前、諜報部員が敵の工作員を捕らえた。そのときの持ち物の中に、この見取り図があった。工作員を締め上げたところ、これが木更津にあるアジトのものだということがわかった。お前さんには、このアジトに潜入して、敵の内情を少しでも探ってきてもらいたい。」
「わかりました。私も元は新聞記者です。情報収集は得意ですから。」

 弥生は入隊前、新聞記者だった。
 勘が鋭く、誰もがあっと驚く特ダネを仕入れてきた。彼女の情報収集能力は東京華撃團の諜報部員でもかなわないと言われている。




 それから5日後……・
 弥生がアジトに潜入してから既に5日たつというのに、連絡はまだない。こちらから呼び出すわけにもいかない。だからと言ってこのままずっと連絡を待っているというわけにもいかなくなってきた。
 一基と和馬は相談した末、大鳥を呼び出した。

「大鳥龍雄、参りました。」
「ご苦労。……・ま、座れ。」

 一基はまず、弥生が敵のアジトに潜入していることを伝え、そして連絡が途絶えていることも併せて伝えた。

「では、弥生が任務に失敗したと?」
「いや……・そうは思えんが……・しかし、このまま待つわけにはいかない。そこでだ……・おぅ、入って来い。」

 米田に呼ばれて入ってきたのは黒田清志という男。
 彼はもと航空自衛隊・築城基地のエース。優秀なパイロットである一方、銃の早撃ちでも有名で、射撃大会で優勝したこともある。福岡市に降魔が出現した折、F−15戦闘機で迎撃した。しかしその際、低空飛行して降魔を振り切ったため、市街地に被害を与えたとして懲戒免職された。
 その後、和馬の誘いで華撃團に入隊。諜報部隊の隊長に任命された。

「お前たち二人に行ってもらいたい。現地にはさつき君が行っている。彼女は彼女独自に調べてみるそうだ。」
「しかし……隊長の代わりは誰が?」
「一応、代役は頼んである。陸上自衛隊の推薦で、浅井竜司という男が来る。前々から副長に就任させようと考えていた男だ。」
「わかりました。……・では、これより、任務に就きます。」
「清志も……いいな?」
「俺があの女を嫌ってるのわかっておっしゃっていますか?」

 清志は軽い性格のため真面目な弥生からは嫌われているし、清志自身も弥生を嫌っている。

「私事を任務に持ち込むな。これは命令だ。」
「・・・わかりましたよ。行けばいいんでしょ、行けば。」

 清志もしぶしぶ承諾。二人はすぐに劇場を発ち、房総半島へ向かった。



 一方、花組の隊士たちは……

「まったく……この私がステージに出てるというのに!」

 今日もローズの愚痴が乱れ飛んでいた。この数日、空席がちらほら見えたことに腹を立てているのだ。

「せやかて、外はどしゃ降りやで。雨の日ぃやったら客が入らんのは当たり前やないか。」
「何言ってるの!この私が……このキャサリン=ローズ様が出ている舞台を見に来ないなんてあり得ないわ!!」
「何言うてんねん、思い切りあり得るやないか。現に、この数日は満席になったことないで。」
「う……」

 そんなことをやりとりしている二人を気にも留めず、明日香とメイリンの二人は……

「トッ!」
「ハッ!」

 劇中の立ち回りを再現するかのようにチャンバラで戯れている。
 それを横目にキャサリンはゆり子と口論しているが……

「むぅ〜……横でドタバタドタバタうるさいわね!チャンチャンバラバラしたかったら外でやんなさいよ!」
「なぁ〜、明日香はんもメイリンも、何とかしてぇな。ウチ一人で相手すんの結構しんどいんやで?」
「どういう意味よ!!」
「いつもやったら、弥生はんがおるさかい、もちっと楽やねんけどなぁ。」

 弥生の消息は彼女たちには一切知らされていない。

「そういえば、弥生って何処行ったの?」
「ウチに聞いたって知るかいな。明日香はんは?」
「私だって知りませんよ。大鳥さんも知らないって言うし、支配人に聞いても教えてくれないし。」
「気に入らないわね、この私に隠し事なんて。」

 するとキャサリンを先頭に支配人室に乗り込み、弥生が何処に行ったのか尋ねてみた。
 はじめは答えなかった一基だったが、とうとう弥生から連絡がなく、大鳥が彼女の救出に向かったことを告げた。

「そんな!だったら私たちも!」

 出て行こうとする明日香だったが、入口にいつの間にか和馬が立ちはだかっていた。

「生憎……お前らまで行かせるわけにはいかないんでね。」
「どうしてですか!」
「お前らには舞台がある。」
「こんな時にお芝居なんかしていられません!!弥生さんが危ないのなら、私も大鳥さんたちと助けに行きます!」

 すると今度は一基が口を開いた。

「お前たち、少しは大鳥を信じなって。俺たちはあいつが必ず弥生を連れ戻してくると信じている。あいつも必ず連れ戻すと言った。だからあいつを行かせた。あいつが要請しない限り、花組は動かさねぇ。」
「でも!」
「でも何だ?お前たちは、大鳥を信じられねぇのかい?」

 そこを突かれると明日香も反論できず、この場は何とか収まった。




 その夜、木更津に来ていたさつきが行動を起こした。
 しかし彼女が向かった先は警察署でも華撃團の支部でもなく、国道127号線近くにある廃ビル。ここは『KNIGHTS(ナイツ)』と呼ばれる暴走族の溜まり場になっている。

「おっと、姉ちゃん。ここは入れねぇぜ?」

 入口に居る見張りの男が制止するが、さつきは聞く耳を持たない。

「待ちなって!入るなって言ってんのが聞こえねぇのか!」

 手をかけようとすると、逆にその手を掴み関節技を決めた。

「イテテテテ!!」
「邪魔よ。」

 男を押し飛ばすと、堂々と中へ入っていく。
 すると、中から一人の男が出てきた。身長190cmはあろうかという大柄な男だ。だが、その男はさつきに一礼する。

「お久しぶりです、さつきさん。」
「久し振りね、トミー。翔は居る?」
「はい。どうぞ……」

 大男に通された部屋には五人の男がいる。暴走族の幹部たちである。しかし、彼らもまた、さつきに一礼する。

「どうもさつき姐さん。」
「松坊にランマに、ユッキー、元気そうね。光も相変わらず可愛いわね。そして……翔。」

 一番奥に居る男が翔と呼ばれているリーダーである。
 さつきは彼の前に進み出て……

「ちょっと頼みたいことがあるの。」
「……」

 翔はニヤッと笑い、立ち上がった。

「断れねぇな、さつきさんの頼みじゃあ。」

 するとさつきもまた、ニコッと笑った。
 しばらくすると、廃ビルの中から凄まじい数の暴走族が飛び出し、方々へ散らばっていった。





 大鳥と清志が向かったのは木更津に程近い森の中。
 数週間前から不審人物が度々目撃されており、警察も動いていたが、この森に入っていった警官は誰一人として帰ってこなかった。

「……まさに『帰らずの森』ってとこか。」

 森の手前で清志がそう呟いた。
 奥は暗く、見通しが利かない。見るからに怪しく、そして危険な臭いがする。

「道はなくとも、俺たちは前にしか進めない。……行くぞ。」

 しばらく進むと、洞窟が見えた。

「いかにも『この下です』って感じだな。」

 洞窟の中はやはり真っ暗だ。
 暗視装置を付け、真の闇の中を二人は進む。すると、奥に明かりが見えた。覗いてみると入り口と見られるゲートがある。見張りも二人立っている。どうやら入口に間違いない。

「……やるか。」
「ああ。」

陰から同時に飛び出し、見張りは反撃する暇もなく倒された。

「さてと……連中の秘密基地とやらを拝ませてもらおうか。」

気絶している見張りから電磁キーを奪い、ゲートを開けて侵入した。
内部はどうやら工場のようで、脇侍が大量生産されている。

「おい……どうやらエレェ所に来ちまったみたいだぞ。」
「ああ、ここを破壊すれば敵の戦力は著しく低下するな。」
「あの女を見つけたら、即行ドカンでさっさとトンズラだな。」

 弥生を探すが、どこにも居ない。
 牢屋の場所もわかり、行っては見たがそこにも居なかった。

「……どこ行ったんだ、あいつは?」
「わからん。……捕まっていないとすれば、まだどこかに居るということだが……」
「しょうがない。ここからは、二手に分かれよう。」

 二人別々の方向を探してみるが、弥生の姿はやはり見つからない。


 これだけ動き回っていて、神龍軍団が勘付いていないはずがない。
 二人の動きは小型の監視カメラで筒抜けになっていた。モニターを見つめるのは蒼龍。

「フン……政府のイヌめ。」

 弥生に結びつく手掛かりがないまま、大鳥は奥へ進む。
 すると、原子炉に行き当たった。

「これは……原子炉か。」

 ふと、人の気配を感じて物陰に隠れた。やって来たのは警備兵のようだ。メットを被っているので顔は見えない。しかし、どうも様子がおかしい。原子炉の周りで何やら不審な動きをしている。

「一体何を……」

 ふと、その警備兵は大鳥の気配に気付いたのか、銃を抜いてこちらを向いた。

「そこに居るのは誰?」

 意外にもその声には聞き覚えがあった。

「その声は……弥生か?」
「……隊長?」

 メットの下から現れた顔は間違いなく弥生であった。
 弥生は潜入してから警備兵になりすまして情報を集めていたのである。

「どうして隊長がここに?」
「まったく連絡してくれないから、俺と清志が君を探しに来たんだ。」
「え?……報告なら既に3回ほどしましたが。」

 劇場には弥生からの連絡は一度も入っていない。しかし弥生は確かに報告したという。

「そんなバカな……一体どういうことだ。」
『知りたければ教えてやるよ。』

 突然聞こえてきた新たな女性の声……
 原子炉の陰からその姿を現した。蒼一色の服に身を包んだ長髪の女性。

「貴様……何者だ?」
「神龍軍団五人衆が一人、蒼龍。」
「五人衆……飛龍と同じ幹部ということか。」
「同じ?……違うわ。私が最強なのよ。……というわけで、二人には死んでもらうわ。」

 蒼龍が銃を構えたそのとき……
 ガアァァァァァァンッ!!
 何者かが狙撃し、蒼龍の銃を破壊した。

「何!?」
「銃に頼るようなヤツのどこが最強だ?」

狙撃したのは清志だった。

「二人とも行きな。こいつは俺が始末する。」
「しかし、清志!」
「行け!こいつにはちっと借りがある。」
「……わかった、死ぬなよ。」

 この場を清志に任せ、大鳥と弥生は脱出する。
 蒼龍の前に出た清志はいったん銃を下ろした。

「私に借りがあるとは?」
「貴様は俺の部下を……四人も殺した。」

 蒼龍はこれまで、神龍軍団のことを調べようとしていた清志の部下、つまり諜報部員を既に四人惨殺していた。

「それが借りだというの?」
「ああ……大借りだ。」

 銃を納める清志。そして……

「抜きな!」
「フフフ……いいのかい?私に抜かせて?」

 不気味に笑ったかと思うと……
 ガガアァァァァァァァンッ!
 蒼龍、清志、ほぼ同時に銃を抜き、発砲したが……

 蒼龍の弾丸は清志の頬をかすめ、清志の弾丸は蒼龍の銃を破壊した。

「……」
「さっきの余裕の笑みは何かな?銃のことで俺に勝てると思うな?」
「ホントにそう思うか?周りを見ろ、それでもそう思うか?」

 前後に敵の兵士が展開していた。銃を構えて清志を狙っている。しかし、清志は動じない。

「フン……言った筈だぜ?銃のことで俺に勝てると思うなってな。」
「ほざけっ!」

 蒼龍が発砲を命じようとしたその瞬間、清志は煙幕弾を地面に叩きつけた。

「なっ!?」

 ガアァァァンッ!ガアァァァンッ!!
 銃声が数発鳴り響き、同時に兵士の何人かが倒れた。

 煙が晴れるとそこに清志の姿はなかった。煙幕に紛れて兵士の何人かを射殺し、その隙に脱出したのだ。

「まぁ、いいわ。勝負はまだ1回の表。楽しみは次にとっておくわ。」

 ピピィッ!ピピィッ!
 蒼龍の持つ小型通信機が作動した。

『蒼龍様、残りの二人を工場で発見しました。現在第二中隊が追跡しています!』
「絶対に逃がすんじゃないよ。」

 通信を終えると蒼龍もまた脇侍工場へと向かった。
 その頃、弥生と大鳥の二人は脇侍工場に爆薬を仕掛け、脱出しようとしていたが、警備隊に見つかってしまい、追い詰められていた。

「まずいな。」
「……どうします、隊長。」
「……よし、俺が出て敵の注意を引く。その隙に脱出しろ。」
「しかし、それでは……」

 心配する弥生だったが、大鳥は微笑を浮かべている。

「心配するな。俺は死なない。」
「その自信のワケは?」
「俺を必要とする者が居る限り、俺は死なない。」
「……フフッ……『死ねない』って言った方が適切だと思いますよ。……・でも、隊長のおっしゃる通り、こんな所で死ぬわけにはいきませんね。わかりました、先に脱出して、隊長をお待ちします。」
「……無事に脱出しろよ!」

銃を乱射しながら飛び出し、警備隊が怯んだその隙に出入り口と反対方向に走り出した。

「逃がすな、追え!!」

 大鳥の作戦に引っ掛かり、警備隊は弥生のことを忘れて大鳥を追跡する。その隙に、弥生は出口を目指して走り出した。やがて脱出に成功した弥生は劇場へ通信を送る。

「こちらスワン!本部応答願います!」
『はい、こちら本部。』
「木更津のアジトは脇侍の製造工場と判明。至急応援願います。」
『スワン、司令だ。セイバーとホーネット(清志)はどうした?』
「途中で別れたので、隊長たちはまだ中に。幹部の蒼龍率いる警備隊が追撃しているものと思われます。」
『……わかった、霊子甲冑を送る。ただし、花組は公演の最中だ。増援はできない。お前たちだけで、そこを破壊できるか?』
「はい、私と隊長で、完全に破壊します!」

 すぐさま、翔鯨丸・改が浅草から出撃。2機の霊子甲冑を搭載し木更津へ向かった。


 一方、途中で清志と合流できた大鳥だったが、追撃をなかなかかわせず、脱出できずにいた。

「くそぅ、弱い奴ほど群れを成して来るってのはホントだな。」
「撃っても撃ってもキリがねぇぜ。このままじゃヤバイな。」

 清志の銃弾も残り少なく、大鳥の刀も刃毀れだらけになっている。

「龍雄……そろそろ覚悟を決めるべきか?」
「かも知れんな。」

 ブロロロロロロロロロ・・・・・・!!
 二人が最後の突撃を敢行しようとしたそのとき、バイクの爆音が聞こえてきた。

「何だ!?」

 すると、二人を追い詰めていた警備隊が突然大混乱に陥った。
 10台近いバイクが警備隊を追い回している。それと別に2台のバイクが大鳥たちの前に出てきた。

「さつきさん!?」

 運転していたのはさつきと、暴走族のリーダー・翔であった。

「早く乗って!」

 二人はそれぞれ後ろに乗り、脱出を図る。

「野郎ども、引き上げだ!!」
「おおぉっ!!」

 翔の合図で暴走族たちは一糸乱れぬ動きで翔とさつきのバイクに続く。
 この様子をモニターしていた蒼龍は……

「………役立たずめ!」

 すると蒼龍はモニタールームを出て格納庫に入り、大型の魔操機兵に乗り込み、脱出した。
 その直後、脇侍工場に仕掛けてあった爆弾が爆発し、蒼龍党のアジトは大爆発を起こした。



 脱出した大鳥たちは弥生と合流。翔鯨丸の到着地点にて待機した。
 暴走族は既に戦場を離脱している。やがて数分後に翔鯨丸が到着、大鳥、弥生の二人は新武に、清志は垂直離着陸機能を備えた戦闘機タイプの霊子甲冑・新龍に乗り込んだ。

「ホーネット、援護を頼む!」
『ラジャー、任せとけ。』

 地上に脱出してきた脇侍は大鳥、弥生、清志、そして翔鯨丸の援護射撃によりことごとく破壊され、残るは蒼龍機ただ1機となった。

「この私が………たった三人に出し抜かれるとは!」
「俺たちを甘く見たのが運の尽きだったな。さて、もう勝負は9回の裏だ。行くぞっ!!」

 上空から清志機が急降下し、攻撃態勢に入る。

「Target rock on! Hornet1, FOX2!!」(目標・捕捉!ホーネット1、発射!!)

 蒼龍に向けてミサイルを発射したが、ミサイルは機体を突き抜けて爆発。蒼龍には傷一つ無い。

「何だ?どうなっている!?」
「ならば、俺が!!」

 清志機に代わって攻撃するのはセイバー(大鳥機)。

『龍飛鳳翼・三段刺突!!』

 大鳥必殺の一撃も、まったく効果なし。剣が突き抜けてしまう。

「バカな!?」
「フフフ……私は水を司る龍。水には剣も、ミサイルも、銃も効かぬ。さぁ、今度は私の番よ!落ちよ、水柱!水龍降臨!!」

 ドシャアアアアアアアァァァッ!
 水の竜巻が空から落下し、清志機を叩き落とし、大鳥機を吹っ飛ばした。しかし……

「蒼龍……敗れたり!」

 そう言い放ったのは弥生だ。かろうじて直撃を避けたが、多少のダメージを負っている。

「フハハハ……・!どうすると言うのだ?すべての攻撃を受け付けぬ、私を倒す手があるというのか?」
「ある。」

 弥生は目を閉じ、霊力を集中し始めた。
 すると気のせいか、少しずつ気温が下がっているような気がした。

「む?」
「……すべてが凍結する絶対零度の輝き……」
「まさか!?」

 蒼龍が弥生のやろうとしていることに気付いた時は、もう手遅れだった。

「Diamond Dust!!」(ダイヤモンド・ダスト!!)

弥生の霊力が集中して放った氷の波動が蒼龍に命中。
攻撃をもろに受けた蒼龍機はその直後、凍結してしまった。

「き……貴様ぁ……」
「確かにあなたの言うとおり、水には剣も銃も効かないわ。だけどね……凍らせてしまえば、それで終わりよ。」
「お……おのれぇっ!!」

 何とかして動こうとすると、機体全体に亀裂が走り、腕や足が落ちていく。

「よっしゃ!借りは返させてもらうぜ!ファイヤーッ!!」

 清志機がありったけのミサイルを発射した。もはや蒼龍は避けることができない。

「くそおぉぉっ!!」

 ガシャアアアァァァァンッ!!
 爆発と同時に蒼龍機は木っ端微塵に砕け散った。


 それから間もなく、本部の要請を受けて陸上自衛隊の部隊が爆発しなかったアジトの残存施設を完全に破壊。脇侍工場も爆破したため、敵の戦力は大いに落ちたはずだ。
 翔鯨丸に乗って帰還する途中、大鳥にはどうしてもは気になることがあった。

「さつきさんが何で暴走族を仕切ってたんですか?」
「あら?言ってなかったかしら?私だってね、初めから自衛官だったわけじゃないのよ?」
「それってつまり……・さつきさん、昔……暴走族だったんですか?」

 さつきは終始笑顔で大鳥の質問に答える。

「そうねぇ、あの頃は楽しかったわね。みんなと一緒に夜に校舎の窓ガラス壊して回ったり……盗んだバイクで走り回ったり……」
「あの、さつきさん……それ、どっかで聞いたようなフレーズですけど……」

 しかし、さつきは聞いていない。外を見ながら回想にふけっている。

「あの道を走った夜……昨日のことのように思い出すわ………どこまでも続く赤いテールランプがキレイで……私たちは真っ白な稲妻になって……」
「それもどっかで聞いたことある。」

 だがやっぱりさつきは聞いていない。ブツブツ言いながら艦橋を立ち去っていった。
 その様子を大鳥たち三人は呆けたような顔をして見送った。

「さつきさんて、元・暴走族だったんですね。」
「でも怪しいな。前半は明らかに尾崎 豊の歌じゃないか。」
「うん……怪しい。」
「ホントのところ………どうなんでしょうね?」
「なぁ、オメェ情報収集はお手のものだろ?ホントかどうか、確かめてみてくれよ。」

だが、弥生は清志の依頼をきっぱりと断る。

「お断りよ。それはさつきさんのプライバシーに関わるわ。」
「しかしよぉ……」
「ま、あなたみたいな軽い人にはわからないでしょうけど。」
「んだとぉっ!」
「やれやれ……・また始まったよ……」

 清志が弥生を嫌っているのは、弥生が固すぎるからだと言う。だが弥生も清志を嫌っていて、その理由が軽すぎるからだとか。
 もともと花組副長に任命するはずだった清志を諜報部に回したのは、この二人が一緒に居ると喧嘩が絶えなくなるということを考慮してのものだとか。

 ともあれ、神龍軍団のアジトを一つ潰し、幹部の蒼龍を撃破できたこの戦いは、東京華撃團の大勝利に終わった。

 


次 回 予 告

ボクの父さんと母さん、
兄さんたちは降魔に殺された・・・・
ボクは降魔を許さない。
降魔を使ってみんなを苦しめるヤツを、
ボクは許さない。

次回 サクラ大戦F
『過去を乗り越えて』
平城櫻に浪漫の嵐!

降魔なんて、大っ嫌い!

 

キャラクター紹介

橘 弥生(yayoi Tachibana) C,V:久川 綾
身長:178cm  体重:59kg  生年月日:1979年3月3日  年齢:21歳  出身:福岡県福岡市  血液型:A
特技:霊力波  階級:花組副隊長挌  コールサイン:スワン
 1998年に大鳥、ゆり子らと共に配属された。元新聞記者で、入隊前に降魔を目視した唯一の隊士。しかもその姿を写真におさめることに成功している。帝撃花組のマリア=タチバナの孫にあたる。背が高くて見事な金髪と青い眼が特徴。真面目でお堅い人物のように思われがちだが、祖母との違いは稀にドジを踏んだり、ズッコケたりすること。また、ダイエーホークスのことになると一転して熱狂的なファンに早変わりする。
 戦闘では中距離から霊力波による攻撃を行う。必殺技のダイヤモンド・ダストは一瞬で敵を凍結させてしまう。
 マリアの孫とわかるように苗字はあえて『橘』と設定。3月生まれという設定から『弥生』と名づけました。


第四幕へつづく……

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